登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
作戦展開区域:コロニー「ヴァルハラ」第三外郭区画・廃重力ブロック。
侵食率40%。
肉体の女性化は半数を通り過ぎ、骨格や筋肉の再構成が不可逆な領域へと足を踏み入れ始めていた。
同時に、かつての「小学生としての生活記憶」と「戦術兵器としての行動プロトコル」が脳内で激しく衝突し、日常の何気ない会話すらも奇妙な摩擦を生み出していた。
01. 質量と骨格の再構築(元1年生男子・元4年生男子)
「……っく……痛い……」
壁に背を預け、冷や汗を流しているのは元1年生(指揮官)だった。
侵食率40%に達した彼の身体は、骨格の急激な伸長と再構築を起こしていた。1年生までは登校班の最後尾でランドセルに背負われていたような小さく華奢な体躯が、いまや165cmを超え、手足がしなやかに伸びていく。
「指揮官! 大丈夫か!?」
元6年生(パイロット)が駆け寄り、肩を支えようとする。
しかし、元1年生(指揮官)の胸元――急速に膨らみを増す胸部(Cカップ過渡期)が、金糸の刺繍が施された指揮官用アーマーの胸甲を内側から圧迫し、ギチギチと悲鳴を上げていた。
「胸が……痛くて、息が……上手く吸えない……。お母さん……じゃなくて、衛生兵……助けて……っ」
「はぁい、今いくよ~」
のそりと歩み寄ってきた元4年生(衛生兵)もまた、悲惨な状況だった。
彼の肉体改変は「部隊最大の回復拠点」としての仕様に向かって一直線に加速しており、この段階ですでに膨大な質量(Gカップ相当)が胸元に集中していた。
「ふぅ……ボクも胸が重くて、前屈みになると腰が砕けそうだよ~」
「な……なんで元4年生のあんたが一番重装甲になってるのよっ!?」
物陰から射撃姿勢をとっていた元2年生(工作員)が、思わず仕込みナイフを握り締めながら叫んだ。
「あたしは! 元々女の子なのに! なんでまだ控えめなAカップのままなのよ!? 物理法則がおかしいでしょ!!」
「……工作員の胸部質量増加は、密密性の阻害要因」
元3年生(ハッカー)がぶかぶかのローブの中から、光のない瞳で冷却スプレーを元1年生(指揮官)の胸元へ吹き付ける。
「……元1年生(指揮官)の骨格急長に伴う成長痛および胸部圧迫。……冷却処置完了。戦術指揮に支障なし」
「うぅ……ありがとう、ハッカー……」
元1年生(指揮官)は長くなり始めた自分の脚を見つめ、戸惑うように膝を抱えた。
02. 意識の摩擦(元6年生男子・元5年生女子)
「全員、無駄口を叩くな! 敵の哨戒ドローンが巡回シークエンスに入った!」
元6年生(パイロット)は、班長としての威厳を保とうと声を張り上げた。
引き締まった少年的な骨格から、キュッとウエストのくびれた美少女型(B~Cカップ)へと移り変わる身体。だが、その中身は今なお「下級生を守らなければならない登校班の班長」そのものだった。
「狙撃手、あそこの高台からスコープで照準を固定しろ。アタシが突入の合図を出したら――」
「……パイロットちゃん」
ぽつりと、元5年生(狙撃手)がその名を呼んだ。
ピクッ。
元6年生(パイロット)の身体が跳ねる。
元5年生(狙撃手)は無表情のまま、小さな首を傾げた。
「……パイロットちゃん。……さっきから、耐Gスーツのファスナー……半開きのまま。……見えそう」
「~~~~~~っっ!??!?」
元6年生(パイロット)は顔を真っ赤にして、大慌てで胸元のファスナーを一番上まで引っ張り上げた。
「い、言い間違えるな言ったでしょーが!! アタシはパイロットよ! それに、この服キツくてファスナーが上がりにくいのよ!!」
「……狙撃手です」
元5年生(狙撃手)は静かに巨大なライフルを構えた。
その小柄な身体には、不釣合いなほどしっかりとした胸の膨らみ(Dカップ過渡期)がすでに形成されていた。
「……パイロット。……指示を。……私は、撃てる」
かつて図書室で静かに本を読んでいた清楚な5年生の少女。
その面影を残しながらも、彼女の瞳には暗い戦術用光学デバイスの光が宿っていた。
03. 残像としての日常
「作戦開始まで、あと3分」
元1年生(指揮官)が、まだ慣れない長身を折り曲げ、作戦マップを床に投影した。
「……よし。工作員は右側のダクトから潜入。ハッカーは隔壁のセキュリティを解除。私と衛生兵が中央で交戦ラインを維持し、パイロットが上空から強襲するのだ」
「了解!」
見事な作戦指示。だが、その直後――
「……あ」
元4年生(衛生兵)が、自分のハーネスのポケットをガサゴソと漁り始めた。
「どうしたの、衛生兵?」
「……ううん。作戦が終わったら、みんなで食べる『黄色い甘い玉(※キャンディ)』がポケットに入ってたはずなんだけど……ナノマシン分解されちゃったみたいで、無くなってるよ?……」
「……っ」
その言葉に、全員の動きが一瞬だけ止まった。
かつて、登校班の帰りに衛生兵(元4年生)がポケットに忍ばせては、下級生たちにこっそり分けていた安物のイチゴキャンディ。
兵器への肉体改変プロトコルは、そんな「どうでもいいお菓子」すらも異物として体内から除去し、戦術補給物質へと置換していた。
「……そんなもの、最初から要らないでしょ」
元2年生(工作員)がナイフの柄を強く握り締め、吐き捨てるように言った。
「あたしたちは兵器なのよ。お菓子なんて食べてる暇があったら、目の前のドローンを全部切り刻んで……コロニーの奥へ進むのよ」
「……同感」
元3年生(ハッカー)が淡々とキーボードを叩く。
「……余分な糖分、戦術行動に不要。……ただし、作戦成功確率……92%へ上昇。……行く」
元6年生(パイロット)は、自分の手を見つめた。
華奢になり、すべすべとした皮膚に覆われた、女の子の手。
だけど、この手で握る操縦桿の重さは、かつて握っていた班旗の重さよりも遥かに重い。
「……全員、行くわよ!」
元6年生(パイロット)の凛とした叫びが、冷たい廃重力ブロックに響き渡る。
侵食率40%。
残像のように消えていく小学生時代の記憶と、摩擦を起こしながら加速度的に馴染んでいく兵器としての肉体。
6人は悲鳴と理不尽を抱えたまま、更なる深層へと足を踏み入れていくのだった。