登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
異世界に順応し、王都の路地裏で潜伏活動を繰り広げていた6人。
だが、この平和な日常(?)の中で、パイロット・ブランだけが、致命的な精神的危機に直面していた。
――「暇。暇すぎる。アタシの仕事がどこにも存在しない!!」
【01. 撃墜王の失業宣言】
「ちょっとルージュ!! どうにかしなさいよこれ!!」
大聖堂の地下倉庫。耐Gスーツを着たブランが、操縦桿に見立てた木の枝をぶんぶん振り回しながら絶叫した。
「この世界、空を見上げても飛んでるのは鳥とドラゴンだけじゃない! 艦載機がない! 戦闘機もない! 宇宙要塞どころか、プロペラ機すら1機も飛んでないのよ!!」
「うむ……」
175cmの長身指揮官ルージュが、パツパツの軍服の襟元を気にしながら腕を組んだ。
「まあ、中世ファンタジー風の文明レベルだからな。飛行機械が存在しない以上、パイロットとしての『出撃シークエンス』が発生しないのは構造上、仕方がない」
「仕方ないで済まされるかぁぁっ!!」
ブランは床に倒れ込み、華奢な身体をバタバタと震わせて暴れた。
「アタシはコロニー『ヴァルハラ』を破壊した時の撃墜王よ!? 360度全方位立体スラスター制御のプロなのよ!? 地上を自分の足でトボトボ歩くだけなんて、アタシのパイロットとしての霊魂が腐っちゃうわよぉぉっ!!」
「あはは、ブランちゃん、足がバタバタしてて可愛いねぇ~」
衛生兵ヴェールがおっとりとお茶を差し出す。
「私はね、異世界の薬草とナノマシンを組み合わせるお仕事があるから、毎日すっごく楽しいよ??」
「衛生兵はいいわよね! 治す怪我人はどこにでもいるんだから!!」
【02. 他のメンバーの順応ぶり】
ブラン以外の5人は、この異世界において驚くほどスムーズに「自分の専門職」を発揮していた。
ルージュ: 圧倒的な175cmの長身とカリスマ性で、異世界の騎士団や冒険者ギルドの作戦会議に自然と混ざり、いつの間にか「謎の女将軍」として指揮を執っている。
ヴェール: 豊満な母性とナノ治療術で、街の怪我人を片っ端から治療。「聖女様」と崇められてお供え物(果物)を大量に貰っている。
ノワール: ステルススーツの光学迷彩とナイフ術を駆使し、王都の裏社会や盗賊ギルドをたった一晩で裏から壊滅・支配下に置いた。
シアン: ビームライフルに消音用魔法陣を組み合わせ、超遠距離からモンスターの核だけを正確に撃ち抜く「姿なき神撃」として伝説になりつつある。
ジョーヌ: この世界の「古代遺跡の魔法陣」をただのバイナリコードと見抜き、数分でハッキングしてダンジョンの扉を片っ端から解錠している。
――そして、パイロット・ブランだけが。
「操縦桿がない」というただ一点において、完全に無職(ニート)と化していたのである。
【03. 迷走するパイロット:再就職の模索】
「……アタシだって、何か『操縦』したいのよ!!」
限界を迎えたブランは、王都の広場で代わりの「乗り物」を探し始めた。
【案1:馬車】
「ハッ! 馬なんて手綱を2本引くだけでしょ? 楽勝よ!」
ブランは意気揚々と王国の大型馬車の御者席に飛び乗った。
しかし、戦闘OSの過剰な反射神経により、馬が少し首を振っただけで「回避運動!!」と叫んで手綱を極限まで引き絞ってしまい、馬がウヒヒーンと暴走。
馬車を納屋に突っ込ませて即日クビになった。
【案2:ワイバーン(飛竜)】
「ドラゴン!? 空を飛ぶ生き物!? これよ! アタシの新しい愛機はこれよ!!」
討伐ギルドからキャプチャした野生のワイバーンに飛び乗ったブラン。
「スラスター全開! 旋回Gに耐えなさい!!」とワイバーンの首を強引に捻って急降下&ロール回転を敢行。
結果、ワイバーン側が強烈なGと三半身の限界を迎えて空中で吐き気を催し、泣きながら地上に不時着。
二度とブランを乗せようとしなくなった。
【04. 最後の手段:人間機甲兵器】
「……もうダメだわ。アタシのパイロット人生は、この世界で終わったのよ……」
大聖堂の隅で、膝を抱えて魂が抜けた顔をしているブラン。
そこへ、ぶかぶかの戦術ローブを着たハッカー・ジョーヌが、トボトボと近づいてきた。
「……ブラン。……パイロットの代替プロトコル、提案」
「ジョーヌ……? 代替って、乗り物なんてどこにも……」
ジョーヌは無感情に、後ろを振り返った。
そこには――175cmの長身と圧倒的な筋力を誇る、指揮官ルージュが堂々と立っていた。
「……ルージュの背中に手綱を装着。……『人間操縦モード』」
「「……は?」」
ブランとルージュの声が重なった。
「……ルージュの機動力、馬を凌駕。……ブランが背中に乗り、肩を叩いて進行方向を指示。……操作感、艦載機と78%一致」
「ふざけるなジョーヌ!!」
175cmの指揮官ルージュが真っ赤になって叫んだ。
「私は1年生の男の子だぞ!? いや、今は175cmの部隊指揮官だぞ!? なぜ私がブランの『乗り物(戦闘機)』にならねばならんのだ!!」
「いいじゃないルージュ!!」
ブランの目が、かつて宇宙空間で敵機を捉えた時のようにギラリと輝いた。
「ルージュの背中なら旋回Gにも耐えられるし、アタシの指示通りに走れるわ! よし、操縦シークエンス開始よ!!」
「乗るな! 肩を掴むな! 旋回指示を出すなーっ!!」
王都の路地裏を、175cmの美しき長身司令官が、背中に乗った華奢なブランに「右ロール! 左旋回!」と叫ばれながら爆走していく。
異世界に飛行機械が誕生するその日まで、撃墜王ブランの「パイロットとしての戦い」は、全く予期せぬ形で続いていくのだった。