登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
侵食率100%を経て、要塞宇宙船アルゴで無数の異世界を駆け巡る6人。
幾度となく死線を潜り抜け、宇宙の存亡を賭けた凄絶なバトルを制してきた彼女たちだったが、時に「絶対にすっきり解決しない、モヤッとした小学生時代の青くさい記憶」が脳裏をよぎり、ブリッジが不穏な静けさに包まれることがあった。
人はそれを、戦場(PTSD)ならぬ『青春残尿感』と呼ぶ。
01. 175cm司令官の「あの日のモヤモヤ」
「……はぁ……」
メインコンソールの前で、175cmの圧倒的スタイルを誇る総司令官ルージュが、Fカップの胸元を肘で圧迫しながら、深々とした溜息をついた。
「どうしたのルージュ? 敵の増援でも検知したの?」
パイロットスーツを着たブランが操縦桿から顔を上げる。
「いや……違うのだ、ブラン……。ふと、思い出してしまったんだ……」
ルージュはアイスブルーの澄んだ瞳を曇らせ、遠い目をした。
「1年生の時……図工の時間に、先生から『自分の好きなものの絵』を描きなさいと言われて……私は大好きだった『消防車』の絵を一生懸命描いたんだ」
「ほう、いいじゃない。1年生らしくて」
「でも……赤色のクレヨンが短くなりすぎて上手く塗れなくて、となりの席の男の子に『赤クレヨン貸して』って頼んだら……『やーい、クレヨンも持ってないんだー!』ってクラス全体に大きな声でからかわれたんだ……っ」
「……それで?」
「悔しくて泣きそうになりながら、結局オレンジ色のクレヨンで消防車を塗って提出した……。
……あの時の、真っ赤に塗りたかったのにオレンジ色になってしまった消防車の絵と……からかわれて何も言い返せなかったあの惨めな感覚が……今でも胸の奥に……モヤッと……『残尿感』のように残っているのだぁぁっ……!」
「どうでもよすぎるわよ!!」
ブランが頭を抱えて叫んだ。
「175cmの凛々しい女司令官が、1年生の時のクレヨンの貸し借りの恨みを宇宙戦艦のブリッジで反芻しないで!!」
02. 爆乳衛生兵と、暗殺者の不完全燃焼
「あはは……私もね、すごくモヤモヤする記憶があるよ~」
Kカップの超弩級ボディを揺らしながら、衛生兵ヴェールがナノスプレーの手入れを止めて遠くを見つめた。
「4年生の時、掃除の時間に『ほうき』で野球のスイングの真似をしてたら、うっかりほうきが手からすっぽ抜けて、教室のうしろの掲示板のガラスを割っちゃったんだよね~」
「あー……あるわね、そういうドジ」
漆黒のステルススーツを着た工作員ノワールが頷く。
「でね、私怖くなって……ちょうど掃除休んでたとなりのクラスのせいにしちゃったんだよ~……。『あいつが外から石投げた』って……。
結局誰も怒られなかったんだけど、あの時の先生の『本当か~?』っていう疑いの目と、自分の不誠実さが、今でも胃のあたりにズーンと重く残ってるんだよ~……」
「ただの罪悪感じゃないのよ!! 今すぐそのクラスメイトに謝りに行きなさいよ!!」
「あたしも! あたしも残尿感あるわよ!!」
ノワールが、仕込みナイフを手に前に躍り出た。
「2年生の時! 運動会のダンスの練習で、隣の男子と手をつなぐフォーメーションがあったのよ!
あたし嫌だったから、袖を引っ張って手に触れないようにガードしてたら、その男子に『バイキンついてそうだから触りたくない』って先に言われたのよぉぉっ!!」
「うわぁ……2年生男子の容赦ない口撃……」ブランが引く。
「あたしの方が先に嫌がってたのに! 先にバイキン扱いされたのが悔しくて悔しくて!!
今でも夢に出るのよ! あのバカ男子をナイフで蜂の巣にしてやりたいくらいの『青春残尿感』よぉぉっ!!」
「逆恨みのスケールが怖いわよ!!」
03. クール組の不完全燃焼
「……検出」
ハッカーのジョーヌが、ぶかぶかのローブから光のない瞳を向けた。
「……3年生の時。……図書室で借りた『世界のふしぎ図鑑』。……返却期限の日に持っていくのを忘れて、図書委員にちょっと怒られた。
……翌日提出したが、図書カードの返却印がそこだけ赤ペンで二重線にされた。……あの二重線の不格好さ。
……私の読書履歴に対する永久的な汚点(バグ)。……未だに脳内メモリを圧迫中」
「地味! 記憶の傷が地味すぎるわよジョーヌ!!」
「……私は、これ」
狙撃手のシアン(元5年生女子・杏奈)が、無感情のままポッケから「干からびたみかんの皮」を取り出し(なぜ持っているのかは不明)、じっと見つめた。
「……5年生の時……給食で余ったみかんをかけて『ジャンケン大会』があった。
……私、最後のふたりまで残ったのに……チョキを出してパーに負けた」
「逆よ!! チョキはパーに勝つのよ!!」
ブランが即座に突っ込む。
「……そう。……あの時……相手がチョキを出したと思って、パニックになってグーを出そうとして半端な形になって……自分でパーを出したと思い込んで諦めた。
……後から振り返ったら、絶対に勝ててた。……あのみかんの甘酸っぱい香り……私、勝ててたはずなのに……」
「ジャンケンの出し間違いで一生モヤモヤしないで!!」
04. 班長の「最大の青春残尿感」
全員のくだらない「青春残尿感」を聞かされ、頭を抱えるブラン(元6年生男子・明)。
「はぁ……はぁ……どいつもこいつも、そんな昔のくだらない小事に囚われて……! アタシたちは『アルゴ』の乗組員なのよ!? 過去のモヤモヤなんて、スッキリ射出して前を見なさいよ!」
可憐なCカップの胸を張り、元・班長として堂々と宣言するブラン。
その時、狙撃手シアンが、トボトボとブランの隣に歩み寄ってきた。
「……ブラン」
「な、なに言いたいのよシアン? アタシにはそんなくだらない残尿感なんて――」
シアンは昔の優しい、少しだけ意地悪な瞳でブランを見つめ、ポツリと囁いた。
「……6年生の時の……移動教室の夜。
……男子部屋と女子部屋の間の廊下で……ブランちゃんが私に何か言いかけて……先生が巡回に来てパニックになって……『なんでもない!』って逃げて行った時のこと……覚えてる?」
ピクッ……。
ブランの顔面から、一瞬で全ての血の気が引いた。
「……あ」
「……あの時、ブランちゃん……私に何言おうとしてたの……? ……私、ずっと……気になってる」
「~~~~~~~~~~っっ!!!!(無言の爆発)」
ブランの脳内に怒涛のごとく蘇る、あの甘酸っぱくも不格好な6年生の夜の記憶。
本当は「杏奈、これからもずっと仲良くしてくれ」と言いたかったのに、告白一歩手前で体育教師の足音が聞こえてパニックになり、鼻血が出そうな顔で逃走したあの最悪の黒歴史。
そして何より――「それを言えなかったまま、ヴァルハラに拉致されて女の子(ブラン)になってしまった」という、宇宙で一番巨大で未解決な【青春残尿感】。
「やめてぇぇぇぇっ!! それだけは……それだけは思い出させないでぇぇぇぇっ(血吐)!!!」
床に突っ伏して慟哭するブラン。
「あはは~、ブランちゃんが一番モヤモヤを抱えてたんだね~」
「可哀想に……ブランお兄ちゃん、よしよし……」(175cmのルージュが包み込む)
「……ブラン。……いつか、教えてね」
大人になっても、戦術兵器になっても、性別が変わっても。
彼女(彼)たちの胸の奥には、いつまでも消えない「小学生時代の甘酸っぱくてマヌケな青春の残尿感」が、今日も賑やかに渦巻いているのだった。
昔読んだ漫画に出てきたフレーズを思い出して入力してみたら出力されたブツ