登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
要塞宇宙船「アルゴ」の居住ブロックの一角、共用洗面所の大きな鏡の前に、マルチバースを駆ける6人の戦術ユニットたちが集まっていた。
人体改変プロトコルによって肉体を再設計された彼女たちにとって、毎朝の身だしなみ、とりわけ「髪型」は、かつての人間時代の記憶と、現在の圧倒的な異形ボディとの折り合いをつけるための小さな戦場だった。
鏡に映る姿は、全員がスレンダーグラマラスから超弩級爆乳までの凶悪な戦闘美少女。
しかし、その内面でうごめくこだわりや不満は、小学生時代から一歩も進んでいない。
『ルージュの「固定されたアイデンティティ」』
鏡の最前列、中央陣取っているのは、身長175cm、部隊一の長身とFカップを誇る総司令官・ルージュだ。
彼女はプラチナシルバーのロングヘアを、低い位置でハーフアップに結ぼうと悪戦苦闘していた。
「うう……これ以外のまとめ方が、どうしてもわからない……」
不器用な手つきで銀色の絹糸のような髪を引っ張り、八の字眉を限界までひそめるルージュ。
元・小学1年生男子にとって、髪型のアレンジなどという高度な女子力スキルは未踏の領域である。
初期設定されたこの「低い位置のハーフアップ」が唯一自力で再現できる限界なのだ。
少しでも崩れようものなら、そのままパニックを起こして艦内の隅で膝を抱えることになりかねない。
「ルージュ、そこ代わりなさいよ。そんな引っ張ったらちぎれるわよ」
「ノワール……! 助けてくれ、なんだか左側の束が変な方向にハネるんだ……!」
半泣きになりながら助けを求める総司令官の姿に、ノワールは深い溜息をついた。
『ノワールの執念とおさげの呪い」
そのノワールは、漆黒のツインテールを荒々しく結び直していた。
身長152cm、Bカップのスレンダーな体躯に光学迷彩のステルススーツを纏った彼女の冷徹な赤眼がわずかに吊り上がっている。
「ちっ……なんで切っても切っても、あっという間に元の長さに戻ってやがんのよ、このナノマシン!」
ノワールには小学生時代からの深いトラウマがあった。
かつてかつて伸ばした髪をおさげにしていた頃、同じクラスの男子にしつこくおさげを引っ張られて以来、彼女は「いつか絶対ショートカットにしてやる」と密かに誓い続けていたのだ。
しかし、改造で戦術ユニットとなった今、髪は戦闘でダメージを受けても数時間で元の長さに再生してしまう。
せめてもの抵抗として毎回縛ってツインテールに仕立ててはいるものの、潜入任務の際に髪の毛が障害物に引っかかるたびに、ノワールの中で殺意の数値が跳ね上がっていた。
「切っても無駄、ノワール。私のストレートボブだって、毎朝オートで完璧な前髪パッツンに初期化される」
そう淡々と語るのは、シアンだ。
148cmの小柄な体躯にEカップ、シスター風ヴェールを被った彼女は、艶やかな黒髪ストレートをブラシで一撫でし、寸分の狂いもない仕上がりを確認していた。
小学生時代ヘアアレンジに凝っており、その日の気分でハーフアップやポニーテール等の様々な髪形を使い分けていたシアンだが、現在は感情抑制システムの影響か、髪型変更の「気まぐれスイッチ」すら永久凍結され、毎日同じ完璧なボブへと強制出力されている。
『日替わりガチャとボーイッシュの矜持』
「あはは~、みんな朝から真剣だねぇ。私は毎日、AI任せの日替わりガチャだからワクワクしちゃうな~」
呑気な声を上げたのは、波打つライトブラウンのロングボブを揺らすヴェールだ。
身長168cm、Kカップの超弩級爆乳を前開きの戦術ナースアーマーからあふれさせながら、彼女は鏡の前にどっかりと腰掛けている。
髪型にこだわりなど皆無の元・やんちゃ男子であるヴェールは、毎朝起動するAIのランダム生成機能に髪のセットを全投げしていた。
この日はやけにボリューミーなエアリーボブだったが、本人は「お、今日はなんかフワフワしてて可愛いじゃん」と羞恥心ゼロでケラケラ笑っている。
その隣で、じっと自分の金髪ショートカットを整えていたブランが、ピクリと眉をひそめた。
「ヴェール……もう少し女子としての自覚を持ちなさいよ。髪型が日替わりって、落ち着かないでしょ?」
「え~? 私はこれでいいの。それよりブランちゃんだって、ボーイッシュだからってずっとその金髪ショート一筋じゃん」
「うるさい! 元男子としての最低限のプライドなんだよ! これまでショートを貫いてきた男の意地ってやつがだな……!」
145cmの美少女型ボディ、引き締まったCカップにオレンジの耐Gスーツを纏ったブランは、元・班長としての威厳を保つべく、ショートカットの分け目をキリッと整える。
しかし、その直後、背後から不意打ちが飛んできた。
「……ブラン、その髪型……よく似合っている、と思う。……ほら、お茶」
無感情系クール美少女のシアンが、いつの間にか背後に回り込み、冷えた麦茶のボトルをブランの頬にぴたっと押し当てた。
「ひゃあッ!?」という情けない悲鳴とともに、ブランの顔面は一瞬で沸点に達し、頭から湯気を噴き出して崩れ落ちる。
『ダウナーハッカーの静かなマイペース』
「……ログ、正常。……髪型、問題なし」
喧騒の真ん中で、ジョーヌは一人、淡々と自分のくせ毛の淡いベリーショートを整えていた。
サイドに突き出たデータ端子がピコピコと青く点滅している。
そもそも改造関係なく、生身の小学生だった頃から既に「髪の毛なんて遊ぶ邪魔にならなきゃそれでいい」精神で通してきた彼女は、周囲のドタバタには一切関心がない。
ただ、ふと洗面台の端に転がっていた未知の配線コードを見つけると、ハイライトのないゴールドの瞳をわずかに輝かせ、無感情のままそれをスルスルと分解し始めた。
マルチバースを股にかける最強の戦術ユニットたち。
しかし、鏡の前に並ぶ彼女たちの姿は、かつての登校班の延長線上にある、どこか愛おしい青春の残り香そのものだった。