登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
要塞宇宙船「アルゴ」の作戦ブリーフィングルーム。
長大なホログラムテーブルを囲んで、戦術ユニットの面々が次のマルチバース跳躍に向けた最終確認を行っていた。
「――というわけで、敵防衛網の突破口を開くのはルージュの戦術指揮刀による一点突破、その後方はノワールのステルス工作で完全に沈黙させる。異論は……ないわね?」
パイロットの席で、ブランはオレンジと白の耐Gスーツに身を包み、腕を組んでビシッと指示を出した。
金髪のショートカットを揺らし、サファイアブルーの瞳を鋭く光らせるその姿は、かつての「登校班の班長」としての威厳に満ち溢れている、はずだった。
「アタシたちの完璧な連携を見せつけてやるわよ! いいわね、みんな!」
「……」
部屋に流れる、妙な沈黙。
誰も作戦の成否について口を開かない。
ルージュはFカップの胸元で腕を組みながらじっと天井を見つめ、ヴェールはKカップをぷるんと揺らしながら「あ~、お茶の在庫が切れちゃったなぁ」と現実逃避し、ジョーヌは「……パケットロス。……無駄な通信」と冷ややかにタブレットを叩いている。
そして、ノワールは――ジト目でブランを睨みつけ、はぁっと大きなため息をついた。
「ねえ、ちょっと待ってよブラン」
「な、なんだよノワール! アタシは今、最高にカッコいい作戦説明をしてるんだけど!」
「いや、作戦の中身はいいのよ。問題はそこじゃないわ。……アンタ、さっきから自分で自分のハードルを上げすぎて自爆の予感しかしないんだけど」
「自爆ってなによ! 失礼ね! アタシは至って真面目に――」
「ねえ、シアン」
ノワールはパッと視線を隣に移した。
そこには、防弾ポンチョを羽織り、膝の上に超長距離ビームライフルを置いたシアンが、無感情なダークパープルの瞳で静かに座っていた。
「……ん?」
「出番よ。ほら、いつものやつ、頼むわ」
「……了解」
シアンは無言でこくりと頷いた。
「は……? はあ!? ちょっと待ちなさいよ、ノワール! なによ勝手にシアンにパス出して――」
ブランが青ざめて叫んだ瞬間、シアンはスッと立ち上がり、ブランの真横へと音もなく歩み寄った。
その小さな身体からは想像もつかないプレッシャーを感じ取り、ブランの背筋に冷たいものが走る。
「ま、待てシアン! アタシは今、班長としての威厳をだな――!」
シアンは止まらない。
無表情のままブランの目の前まで歩み寄ると、すっと手を伸ばし、ブランの頭をぽふっと包み込んだ。
そして、ダークパープルの瞳で、じっとブランのサファイアブルーの瞳を見つめ返す。
「……シアン……?」
「……ブラン」
シアンの唇が、ゆっくりと動いた。
「……今日のブランも……すごく……かっこいいよ。……男の子だった頃の明ちゃんよりも……なんか、こう……胸がキュッってなるくらい……可愛い」
ゴウンッ…………!!
室内の重力が一気に歪んだ。
ブランの脳内で、理性のタゲ(ターゲット)が完全崩壊し、警戒アラートが鳴り響く。
元6年生男子のプライド、ボーイッシュ美少女としての威厳、そしてかつて密かに想いを寄せていた相手からの「殺人的な直球デレ」のトリプルコンボが、ブランの内部で激しい核融合反応を引き起こした。
「あ……がっ……! き、きさまぁぁぁぁっ! な、なんでそんな平然とトドメみたいなこと言うのよぉぉぉっ!!
アタシの……アタシのメンタルはガラスの十代なんだからね!! あ、頭が沸騰する……! 炉心溶融が……オーバーヒートするぅぅぅっ!!」
「キャー! ブランちゃんが真っ赤になって湯気出してる~!」
「うわ、見事に一発レッドカードね。安定の出力不足だわ」
「……臨界超過。……熱量測定、規定値オーバー」
「……ふふ。……明ちゃん、やっぱり顔を赤くしたところも……かわいい」
「やめろシアン! それ以上トドメを刺すな! アタシの魂が宇宙の彼方に飛んでいっちゃうでしょーがぁぁぁっ!!」
頭からシュウウウと白い蒸気を噴き出し、パニックのあまり床にへたり込んでジタバタと手足をバタつかせ始めるブラン。
そのあまりの定番すぎる悶絶っぷりに、レクリエーションルームの全員が冷ややかな、しかしどこか満足そうな視線を向けた。
ノワールがフンと鼻を鳴らし、腕を組んで言い放つ。
「よし、今月の『ブランが炉心溶融した回数』の記録更新ね。相変わらず、こいつを沈黙させるのに複雑な戦術なんていらないわ」
「ほんとだねぇ~。シアンちゃんの一言で一撃必殺だもんねぇ」
「……ワンパン。……最強の特効薬」
「……」
シアンは、床でバタバタとショートしているブランを上から見下ろしたまま、ふっと小さく微笑んだ。
「……みんな、納得してるみたいだから……これで、今日のミーティングは終了、でいいよね?」
「異議なし!!」
「解散解散!」
「……承認」
「だ、誰が解散よぉぉっ!! まだ作戦の細部が――って、頭がグラグラして視界がピンク色に染まるぅぅぅっ!! シアンのバカーーーッ!!」
こうして、要塞宇宙船アルゴの平和(?)な日常は、今日もシアンの一撃によって完璧なオチを迎えるのであった。