登校班から宇宙戦士へ   作:匿名希望

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【Day 4:侵食率 48%】――崩れゆく日常と、反転し始める言葉

防衛区画の薄暗い待機室。

脳内に刻み込まれ続ける軍事データと戦闘プロトコルが、地球での記憶とついに五分五分の均衡を迎えようとしていた。

「登校班の子供たち」としての語彙や感情が辛うじて残っているものの、口をつく言葉はすでに兵器としての冷酷な思考に侵食され始め、激しい矛盾と軋みを立てていた。

 

「……ねえ、班長。ランドセルのチェストベルト、固くて外れないよ……」

 

175cmを超える圧倒的な長身を丸め、軍服の袖で顔を覆いながら泣いているのは、1年生だった男の子(指揮官)だった。

声は低く凛とした美しい大人の女性のものだが、その中身は泣き虫な1年生のままだ。

 

「僕、チェストベルト留めるの、お母さんに手伝ってもらってたから……っ。一人じゃ外せないよぉ……っ」

 

「……チェストベルトじゃないわ、指揮官」

 

小柄な少女兵の姿へ作り変えられた元5年生(狙撃手)が、無機質な声で訂正した。

身の丈を超える長距離対物質ビームライフルを抱え、動体予測UIが青く発光する瞳で指揮官を見つめる。

 

「それは軍服の、戦術ハーネス。……外しちゃダメ。外すと……胸部装甲が脱落して、生存率が32%低下する」

 

「な、なんでそんな計算すんのさ……っ! 5年生のお姉ちゃん、いつも優しく手伝ってくれたじゃん……っ!」

 

「あたしは……っ」

 

狙撃手の手が、激しく震えた。ライフルの金属的な冷たさにしがみつくように指を握りしめる。

 

「あたしは……お姉ちゃんで……ううん、狙撃手で……! ターゲット距離、800……ちがう、あたしは弟の面倒を……っ! 頭が、割れそう……!」

 

「うじうじうるさいんだよ! どいつもこいつも!!」

 

耐Gスーツの胸元をかきむしりながら、元6年生(パイロット)が叫んだ。

華奢な少女の体躯へと圧縮された身体を震わせ、今にも暴れ出しそうな鋭い眼光を放つ。

 

「アタシが班長だろ!? 俺が班長なんだから、俺の指示に従えよ!

 アタシが一番前に立って、襲ってくる敵の戦闘機を全部撃ち落とせば、みんな安全に学校に行けるんだよ!

 ……学校? ちがう、基地……? アタシは……アタシはどこに行こうとしてるんだ!?」

 

元6年生は頭を抱え、壁に後頭部を激しく打ち付けた。

 

「……落ち着いて、班長。心拍数が140を超えているわ」

 

ぶかぶかの戦術ローブを着た元3年生(ハッカー)が、光の消えた瞳のまま無感情に言い放った。

後頭部のデータポートから這うコードがカタカタと揺れる。

 

「感情の上昇は、脳内データの定着を遅延させる。……ねえ、みんな。私、もうすぐ『ドッジボール』って言葉の意味が分からなくなる。

 ……代わりに『広域電子戦テロル』の実行手順が、脳内に上書きされていく」

 

「……ドッジボール、楽しかったよね」

 

白衣風アーマーを着た元4年生(衛生兵)が、ほんわかとした笑みを浮かべながら近づいてきた。

おっとりとした大人の女性の姿を揺らし、その手には医療用ナノマシン注射器が握られている。

 

「ボールをぶつけられて痛いの、嫌だったでしょう?

 でもね、大丈夫だよ。ボクがみんなの痛覚神経をブロックしてあげる。……そうすれば、どんなに撃たれても、切られても、もう痛くないよ?

 ふふ、私、すっごく優しい衛生兵さんでしょ……?」

 

「来ないで……ッ!!」

 

漆黒のステルススーツを着た元2年生(工作員)が、悲鳴のような声を上げて壁の隅へ飛び退いた。

大人の女工作員へと引き伸ばされた身体を硬直させ、暗視バイザーの下から怯えた視線を向ける。

 

「触らないでよ! 痛みを消すなんて嘘ばっかり! あんたたち、あたしのこと笑ってるんでしょ!? 『2年生のくせに泣き虫だ』って……!

 いいよ、誰も助けてくれないなら、あたし一人で逃げる! みんななんて……みんななんて大嫌い!!」

 

「逃がさない……!」

 

長身の元1年生(指揮官)が、突如として低い重厚な声を響かせ、工作員の腕を掴んだ。

その瞳からは涙が流れていたが、その立ち姿と圧力は、完璧な軍事指揮官のそれだった。

 

「部隊からの脱走は許さない……! 我々は……我々は6人で一列になって歩かなきゃいけないんだ! 一人でも欠けたら……登校班じゃなくなっちゃうだろぉぉッ!!」

 

「離して……! 痛い、離してよ……っ!」

 

「全機、整列……っ! 泣くな……泣くなよ!!」

 

指揮官は子供のように大泣きしながら、それでも圧倒的な筋力で工作員を拘束し、全員を自分のもとへ引き寄せた。

 

地球の子供としての「絆」と、コロニーが植え付けた「部隊としての強制力」。

その2つがグチャグチャに混ざり合い、崩壊寸前の境界線(48%)で、6人はお互いを傷つけ合いながら必死にしがみついていた。

 

 

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