おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
人は生きているだけで偉いと思う。
死んでしまったらそれまでで、生きているからこそ何かを為せるのだ。
過労死して異世界に転生した今だからこそ、なおのことそう感じる。
私は幸運だ、恵まれている。
一度死んでしまったとは言え、生きていることが偉いと実感できたのだから。
私が転生したのは、よくある普通の異世界だ。
ギルドと冒険者があって、スキルがある。
その中で、私が手にした
いわゆるヒーラーというやつ。
冒険者としては必須とも言える
何だったら冒険者でなくとも、就職先は引く手あまた。
けれども私は、冒険者であることを選んだ。
これには二つ理由があって、一つは父の影響。
そしてもう一つが、時間に自由が効くから。
特に後者は非常に大事で、前世でさんざん労働に苦しめられて最後には命まで失ってしまった私は、仕事をできるだけしないと決めたのだ。
その点、冒険者は好きな依頼だけを受けれるし、ヒーラーは仕事に困らない。
悠々自適な生活を送れるのである。
――まぁ、ここ最近はそもそも”冒険”にすらそんなに出ないんだけど。
それでも、仕事には困っていないし問題はないと思う。
なにせ、私たちは――生きているだけで偉いんだから。
+
ギルドの喧騒も、私にとってはちょっとしたBGMのようなもの。
多くの冒険者がそれぞれ自分の依頼を手に、冒険へと旅立っていく。
あるものは護衛や採取の依頼を受けるため街の外へ、あるものはダンジョンに潜るためギルドに敷設された転移魔法陣へ。
そして一部の少数が、冒険に出かけることなく飲んだくれている。
言うまでもなく、私の所属は最後の飲んだくれだ。
いや、お酒は入れてないけどね。
もともとそんなに好きじゃないというのもあるけれど、他にも色々と事情があるのだ。
「ふぃー、今日も賑やかですねぇ、お姉さん人酔いしちゃうそうですよぉ」
「もー、またそうやってだらけてる。クリスさん、一応うちの看板冒険者の一人なんですから、もっと堂々と構えてたらいいのに」
「あはぁー、そういうのは私じゃなくてローラやゴドリックに言ってくださいねぇ。……あ、お茶ありがとうですよ」
机に突っ伏しながら、ギルド職員が届けてくれたお茶をちびちび飲む。
猫舌なので熱いお茶は苦手なんだけど、少しずつ冷まして飲むのは嫌いじゃない。
なお、クリスというのは私の名前。
一応、このケアラの街では三人しかいないAランク冒険者の一人。
仕事はあんまりしてないのに、ヒーラーとしての能力が高すぎていつの間にかこうなっていた。
責任とか押し付けられるなら困るけど、そういうことはあまりないので別に貰って困る称号でもないので受け入れている。
残り二人は、現在既に冒険へと出かけていて、ここにいない。
「あ、なんか眠くなってきました。……寝ますかぁ」
お茶がなくなった辺りで、うつらうつらとしてきたのでそのまま身を委ねることに。
朝の冒険者が多い時間帯、喧騒がなんだかんだ子守唄になってくれてすやぁ……
――で、気がついたらアレだけいた冒険者はほとんどいなくなっていた。
すっかり静かになったギルドで目を覚ます。
ぐぐっと伸びをしてから、枕にしていた腕がしびれているので何度かプラプラする。
変な態勢で長時間寝ていたからか、体も結構ギシギシだ。
そういう時こそ、ヒーラーの本領発揮。
私は体内の魔力を活性化させると、体のいたんだ部分に治癒を発動する。
「――”再生”」
すると、途端に痛みは引いて体が軽くなっていく。
私が起きたのを見計らって、お茶を持ってきてくれたギルド職員の子が「また才能の無駄遣いを……」みたいな目でこっちを見ている。
ふふふ、最高に有効活用しているんだよ、これは。
まぁとはいえ――
「た、助けてくれ!」
起きたのは、外から”急患”がやってくることに気づいたからなんだけど。
――それは幼い少年と少女だった。
年齢は十代前半、量産品の剣と安物の革鎧からして、おそらく新人冒険者か冒険者志望。
新人の顔は諸事情からだいたい覚えている私に見覚えがないので、後者だろう。
田舎から冒険者になるべくはるばるやってきた、といったところかな。
今は春なので、時期的にもそういう新人が多いのだ。
で、問題はこの二人ではない。
少年の方が背負ってる人物だ。
「リリナが! リリナが死んじゃいそうなんだ!」
明らかに致命傷だった。
体中が傷だらけで、腕は半分くらいちぎれかかっている。
他にも、見えないところも大変なことになっているだろう。
とてもじゃないが、普通なら助からない。
そもそも、生きているだけでも奇跡とすら言える。
――こういう急患が、冒険者ギルドへは時たま運ばれてくる。
治癒魔術を得意とするヒーラーがいるかもしれないからだ。
大抵は治療院に運ばれるんだけど、治療院が開いてなかったり、治療院でもどうにもならない場合は冒険者ギルドに運ばれることがある。
まぁでも、その場合大抵その人物は助からない。
致命傷を治癒できるヒーラーが在籍していても、運ばれてきたタイミングでギルドにいるかは微妙なところだ。
ただし、ここケアラの街だけは例外。
理由は単純、私がいるからね。
「――はい、失礼しますねぇ」
私は彼らが飛び込んできた時には既に立ち上がっており、歩み寄っていた。
そうして少年が焦ったように叫んだのを聞いてから、声をかける。
私の見た目は、白を基調にした聖女っぽいローブであり、ヒーラーとしてはごくごくありふれた装いである。
少年と少女も、私が来てくれたことで少しだけ安堵したのだろう。
こちらが背負っている少女を床に下ろすよう言うと、慎重にそうしてくれた。
で、案の定ひどい怪我。
生きているのは――
「……リリナは、天才なんだ。村では一番剣が上手くて……スキルもいっぱいもってて……俺達と一緒に冒険者になるって言ってくれて……」
――純粋にこの子の実力が、素人にしてはずば抜けて高いからか。
少年が、不安を吐露するように色々話してくれた。
三人で故郷の村からケアラの街に移動中、魔物に襲われたのだとか。
リリナが何とか撃退してくれたけど、本人は致命傷。
急いで少年たちはここまでやってきたわけだが――
「……俺達みたいな普通のやつじゃなくて、リリナみたいなすごいやつが冒険者として有名にならなきゃだめなんだ。なのに……こんなのってないだろ! 頼むよお姉さん……リリナを、リリナを助けてくれ!」
「お願い、します!」
「大丈夫、大丈夫ですからねぇ」
少年達は悔しそうにボロボロのリリナちゃんを見ている。
それは辛かったろうなぁ、きっと、何もできなかったんだろう。
気持ちは少しだけ、私にも解る。
けど――リリナちゃんはまだ死んでない。
「――まかせてください」
少年たちと、ギルド職員、それからギルドに残っているのんだくれが見守る中。
私は一つ息を吸ってから――
――歌を、歌い出した。
それは、正確に言うと歌というよりは詩を吟じるかのような感じだ。
スキル、”
歌いながら魔術を行使することで、その効果を増幅させる。
私が持つ、最大級のチートスキル。
これを使いながら行使する治癒は――
やがてリリナちゃんの傷はみるみるうちに塞がっていき、ちぎれかけの腕すら元通りになっていく。
少年と少女が、思わず感嘆した様子で息をこぼした。
そして――
「けほっ」
リリナちゃんが、咳をこぼす。
生きているという、確かな証を刻んだのだ。
焦点のあっていない瞳が、やがてゆっくりと周囲を認識し始める。
少年少女の嬉しそうな顔、未だ歌い続ける私の姿。
それらを眺めて、ぽつりと彼女は――
「――そっか、生きてるんだ」
そう、こぼした。
……私には、なんとなくこの子の気持ちがわかる。
少し聞いているだけで、彼女の境遇が自分と似ていると気付いてしまったからだ。
彼女はきっと、こう思っていたことだろう。
ああでも、お願いだからそんなこと言わないでほしい。
私はリリナちゃんに行った治癒の状態を確かめるためにも、リリナちゃんを抱き上げる。
うん、問題はなさそうだ。
「安心してください」
そして、歌を歌い終えると一言。
きっと、リリナちゃんにしか聞こえていない声で、彼女を抱きしめながら言うのだ。
「――貴方は、生きているだけでも偉いんですよ」
その言葉に、リリナちゃんが涙を浮かべているのにふと気付く。
きっと、自分でもどうしてないているのかわからないんだろうなぁ。
でも、今はいいんだ。
ただ、生きているだけで――それだけで、誰もが貴方を祝福するんだから。
+
ケアラの街のAランク冒険者。
ヒーラーのクリスはこう呼ばれている。
”生歌の魔女”。
あらゆる傷を、歌いながら直すその姿は本人の容姿も相まって神秘的だ。
透き通るような白い髪、触れれば折れてしまいそうな手足。
顔立ちは愛らしく、それでいて楚々としている。
それでいて、同時にどこか危うい雰囲気もあった。
故に普段の怠惰な振る舞いも相まって、聖女ではなく魔女と呼ばれているのだ。
とはいえ本人はそれを気にした様子もない。
今日も今日とて、生きているだけで偉いと思いながら生きている。
その様子に、多くの人々は性癖を破壊されたり、初恋を奪われたりしているわけだが――当人は、そんなこと一切気にする様子もなく。
今日も今日とて、おせいそうすほそ系ヒーラーは、ただただ日々を気ままに生きていた。
昼行灯うすほそおせいそヒーラーが性癖破壊しながら人を癒したりするお話です。