おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
――ここ最近、ジョンくんの様子がおかしい。
なーんかずいぶんとぽーっとしている時があるし、講義の最中もちょっと上の空になっていることもある。
まぁ、その状態でも話はちゃんと聞いているので、こっちとしてもそこまで咎めはしないのだけど。
なんかあったなぁ、と察するには十分なものだ。
というわけで、ギルドで食事をしているジョンくんに声をかけてみた。
「――――ジョンくん、好きな人できましたー?」
「ぶふうううううっ!」
すると、その時呑んでいた水を盛大に吹き出すジョンくん。
おお、派手だなぁ。
こういうリアクション、嫌いじゃないよ!
「図星ですねー? ふふふ、わかるんですよー、お姉さんには解るんです。なぜなら、初恋センサー搭載型お姉さんですからぁ」
「……い、今すぐそのセンサー取り替えたほうがいいと思います」
「そんなー」
なんて言いながら、ニヤニヤしつつジョンくんへ肩組をする。
なんだってそんな冷静にディスってくるのかは知らないが、顔をそらして恥ずかしそうなのは変わらない。
私はそのまま踏み込むことにした。
「私の類まれなる初恋センサーが、貴方の初恋を言い当ててみせましょー。ふふふ……その初恋の相手は……」
「うっ……」
さらに視線を逸らすジョンくん。
本気で拒否しているわけではない。
というわけで、つっこめー。
「――ずばり、リリナちゃんですねぇ?」
「違います」
即答!?
めっっっちゃ即答された!?
え、そんな即答されることある!?
だってだって、幼馴染だよ? ずっと一緒だった二人だよ?
そりゃまぁ、多少羨望やら何やらの感情があるとは思うけど、そこはこう……いい感じにさ!
ともあれ、ジョンくんはどうやら私が間違えるだろうと最初から察していたらしく、ほっと胸をなでおろしてからまた水を口に含んだ。
それから、ぽつりぽつりと語りだす。
「俺とリリナは……なんかこう、そういう親密な感じにはなれないんだよ。俺は……あいつのことをずっと目標として見てるからさ」
「あ、あー……そういうことですかー……!」
なるほど、誤解があった。
ジョンくんとリリナちゃんの関係は、いわゆるライバル関係なのだ。
リリナちゃんが女の子だから誤解しがちだけど、どっちかというと関係は男同士のライバルに近い。
こう……リリナちゃんがサ○ケ枠的な感じがあるんだろうな。
ともかく。
「じゃあちなみに……シェリアちゃんは……」
「いやぁ……あいつは水晶姫しか眼中にないし……」
「はい……」
ですよね……
というわけで、初恋センサーはだいぶ的外れだったらしい。
そもそもケアラの街に彼らがやってきてそろそろ一ヶ月だというのに、今更色恋に目覚めたりしないよね……そうですよね……
「――でも、初恋自体はしてるんですよねぇ?」
「……この話、もうやめません?」
「どんな子なんですか? 素敵な子なんですか? お姉さんがお聞きしますよー」
そうして私は、ジョンくんの反対側に座ると机に突っ伏しつつ、見上げるようにジョンくんへ問いかけた。
このまま眠くなったら寝てしまおうという算段。
ふふふ、ほーら子守唄代わりに聞かせてみんしゃいって。
ほーらほーら。
「え、ええと……包容力があって……やさしくて……ちょっと意地悪なところもあって……なんかこう……清楚な感じで……」
「――――素敵な子を好きになったんですねぇ」
「…………はい」
あ、なんかジョンくんも突っ伏した。
食べてすぐ寝ると健康に悪いよ、”睡蓮”使おうか? え、いらない?
こほん。
「であれば、そうですねー」
「……えっと、遠慮しておきます」
「何か言う前から拒否されました?」
なんだ、別に取ってくおうとかそういうわけじゃないんだよ。
ただここは一人のお姉さんとして、一肌脱いであげようというか。
ジョンくん見てて楽しいからからかいたいとか、そういう事情があるだけで……
よし、こうしよう。
「であれば練習として、私と一緒に遊びに行きますかー? 見たところ一人でギルドにいるってことは、今日はおやすみなんですよねー?」
「えっ!?」
というわけで、デートの練習だ!
+
「聞いたところによると、冒険者女性とのデートは案外冒険者向けのお店に寄るのがいいらしいですよー」
「そ、そうなのか……?」
なんて話をしながら、二人で武器屋に入る。
ここはケアラの街でも一番の工房で、ドワーフの人達が丹精込めて作った武器防具や、各地から仕入れた魔道具系アクセサリを販売している。
ジョンくん達も、この街に来てすぐにここで剣を新調したらしい。
死灰狼がね……灰にしちゃったからね……
「冒険者向けの装備って、どうしても普段から身につけることが多いですからね。防具を少しでもおしゃれにしたい女の子や、ちょっとした小物のアクセサリでおしゃれしたい人は多いと聞きます」
「なんで全部伝聞……」
「もちろん、私がデートした経験がほぼ無いからですよー。色恋にあんまり興味ないですからねぇ」
「そ、そっか……」
何やらしゅんとしているジョンくんと二人で、色々と見て回る。
ともかく、とりあえず冒険者同士で行くなら武器屋は安牌なんだとか。
ローラがよく、ここで冒険者女性に貢物をしようとして失敗してたなぁ。
感性がおっさんだからあの子……
「人によるんですが、こういう時にささっと消耗品の補充も済ませると、仕事ができるように見えていいそうです。女の子の消耗品も一緒に買ってあげましょうね」
「どっちかというと、消耗品を奢ってくれるいい財布って思われてるんじゃ……」
「言い方!」
まぁ、私もそうじゃないかなー、と思わなくはないけども。
実際にデート中に言っちゃダメですからね、それは。
「あ、じゃ、じゃあ……俺もクリスさんの消耗品、そろえようか?」
「いやー、残念ながら、私って消耗品は持たないんですよねえ。徒手空拳と治癒魔術オンリーでやってると、なかなか消耗品を使う機会がなく……」
「そ、そっか……」
「去年補充した消耗品が、一度も使われること無くそのまま放置されています」
「そっかぁ……」
あ、残念そうな反応をしてから、残念そうな人を見る目で見られた。
いいじゃないですか、ほぼ外に出ないし、行方不明者捜索もほぼ日帰りだし。
くっ……毎度この話をすると、大体の人からお前本当に冒険者か? みたいな視線を向けられる……!
ぶっちゃけ……収入は八割が”睡蓮”の特許です……!
水晶姫の方はわかんないです……睡蓮特許の十倍とか軽くアリそうでこわいよね。
「というか、ジョンくんはまだまだ新人なんだから、むしろここは奢られるほうですよぉ?」
「えっ!?」
「年上女性冒険者に連れ回されたら、それはそれはいい感じに貢がれると理解してくださーい」
「えっえっ!?」
そんな新人が、見栄なんてはっちゃいけません。
こればっかりは、たとえ私じゃなくてもからかわれながら、逆に奢られることになるだろう。
とはいえ私はそこそこ良識のあるガール……ガール?
なので、こういう時に送るのはそこまで負担にならないものと決めている。
「んじゃ、私からはこれをわたしましょー。汎用品のナイフです。刃を鞘の中に収められる持ち運びに便利なナイフとなってまして、日常生活でも使えますよ?」
「あ、えっと……ありがとう……ございます?」
「なんで疑問形なんですか。だいじょーぶです、その使い方であってます」
「……敬語なんて、初めて使ったよ」
新人に対して武器屋で奢る時の鉄板は、やはりこういうナイフだ。
安く、消耗品で、それでいてどんな場所でも使える。
冒険者の必需品だね。
なお、これが弓使い相手なら矢を送るのが無難になる。
あれマジでいくらあっても足りないからね……スキルで魔力を矢にできると違うんだけど。
「大きなパーティを作ってリーダーになるなら、敬語を覚えたほうがいいですよ」
「……えと、はい、です」
「あはは、その調子、その調子です」
いいながら、ポンと私は頭を撫でて――
「――私は、そうやって頑張るジョンくんの方が良いと思います」
なんて言いながら、ナイフを手にカウンターへ向かうのだった。
え、その時のジョンくんの顔? 見てないけどどうかした?
――なお翌日、ギルドに行ったらそこかしこから冷たい視線が向けられた。
なんで!?
2話連続でボコられてかわうそ……