おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
前世であまり恵まれず死んだ私は、気がつけば異世界でうすほそになっていた。
名をクリスという。
もともと私は、前世で死ぬまで労働してしまった反動で、とにかくだらけて生きたかった。
最低限生きるのに困らない程度に稼げればそれでよく、幸いにも私には才能があったので問題ないだろうと考えていたのだ。
”生歌”という所持者がほとんどいないレアスキルを生まれた時から有していたのだ。
歌っている間は使用している他のスキルや魔術の効果をアップさせるこのスキル、何かうまく使えないかと考えた結果、私はとある魔術に行き着いた。
これを使えば魔力量を増やすことができ、その効率は他と比べて圧倒的。
この魔術は治癒魔術に分類され、それを習熟するうちに成長した魔力量とあわせて、ヒーラーとしての才能を開花させたのである。
で、今でこそほとんど冒険をしていない私だが、昔はそうではなかった。
というか、今でも全くしていないわけじゃないよ? 気が向けばするけど、気が向かなかったら絶対に冒険しないだけだ。
ただ昔は、割と普通に冒険者として生きていきたいというモチベーションがあった。
理由は父が有名な冒険者だったからだ。
母親はいない、幼い頃に亡くなったという。
で、そんな父が私へ熱心に冒険者の素晴らしさを教え込んだのである。
正直、かなり楽しそうだった。
未知の探求、強敵への挑戦、仲間との絆。
あまりにも父がそれらを魅力的に語るものだから、だらけて生きたい私ですら”ちょっとやってみてもいいかな”なんて思ってしまったのだ。
無論、あくまで私はほどほどに生きれればそれでいい。
だけど、ちょっとくらいなら父を手伝って、冒険を楽しんでもいいかなと思っていたのだ。
休日の趣味を親子で満喫するとか、そんなイメージで。
──父が冒険の最中に亡くなり、物言わぬ骸となって帰ってくるまでは。
あまりにもあっさりとした死だった。
ちょっと冒険に出かけて来ると言って、父は死んだ。
決して無謀だったわけではない、ごくごく普通の護衛依頼だった。
しかしそこにたまたま父一人では手を焼く魔物が現れて、護衛相手を守って死んだのだという。
最後まで依頼を達成するべく全力だった、父らしい最期だったそうだ。
そのことは、立派だったと思う。
だけど、だけど──だ。
──もしその場に私がいれば、父は死ななくてすんだのではないか?
私のヒーラーとしての実力は既にこの時開花しており、父も目を見張るほどだった。
もともと、依頼は護衛依頼だから荷物が一つ増えたところで問題はない。
だからあの時、父が私を一緒に連れて行ってくれていれば──なんて。
そんな事を今でも思ってしまう。
そしてそこからは大変だった。
当時の私はまだ十歳にもなっていない。
父には冒険者として得た蓄えがあったから、生きていく分には困らなかった。
私自身も転生者で歳の割には分別がついている。
その点は、なんら苦労する要素はない。
しかし父の遺産を狙ってくる奴らはいるし、私に父のような冒険者となることを期待するものも多い。
稼いでいく上では冒険者が都合がいいから冒険者にはなったけど、私は父のような大冒険を繰り広げるつもりはないよ?
だというのにヒーラーとしての腕がいいものだから、気がつけばAランク冒険者になっている始末。
だらけて生きたいという私の当初の構想は、完全にどこかへ行ってしまっていた。
そもそも、こっちはあまり冒険するつもりもないのに、いつの間にか事件に巻き込まれていることが多いんだよね。
この間なんて、逃げてる王女様を拾って大騒動になったりしたし。
とにかく、そういう状況に陥るたび、私は強く思うようになったのだ。
生きているだけで偉い。
確かに、偉大な冒険者である父はすごい人だろう。
何かを成し遂げる人物は、周囲から褒め称えられるべきだろう。
だけど、生きているということはそれだけですごいことなのだ。
特にこの世界は、前世のそれと比べて命が軽い。
だからこそ、私は生きていることそのものを偉い、尊いと思う。
──死んでしまったら、そこまでなのだから。
そうして何年もかけて、色々と四苦八苦しながら、かれこれこの世界に生をうけて二十年弱。
今の私は、そこそこ落ち着いた人生を送っていると思う。
生歌の魔女だなんて呼ばれることはあるし、他にも色々と秘密はある。
なんとか事件が起きていないときは、転生当初の理想的な生活を送れているんじゃないかなあ?
って感じだ。
+
「んふふ、高収入、高収入ですよ~」
リリナちゃんの治療が無事に終わって、私は帰路についていた。
基本的に、ギルドでのんびりしているのは特にやることがない時だけだ。
現在はやることが”できた”のでギルドを後にしている。
もし仮に急患が来た場合は、ギルドから通信用の魔道具を用いて連絡が来るから問題ない。
夜中に叩き起こされると面倒だけど、そんなことは年に一回あるかどうか。
それに、私がサボったせいで助けられる命を見捨てるのだけはごめんなので、許容している。
変わりに、私が治療を行うとギルドから結構な報酬が出るのだ。
助けた人からは徴収しないよ。
そっちからお金を取るのを、ギルドが代行する感じ。
冒険者なら依頼料が少しずつ差っ引かれるし、普通の人なら後払いで払うことになる。
まぁそこまで法外な値段でもないので、問題はない。
命が助かったことと比べたら、あまりにも安すぎる値段だ。
で、それはそれとして。
「美味しい料理、美味しい料理を食べるんですよぉ」
私はウッキウキで食事に向かっていた。
時刻は昼……を少し過ぎた頃。
お腹が空いてくるタイミング。
ケアラの街は、料理が美味しいことで有名だ。
もともとそれが理由で、この街で活動を始めた私だが、気づけばさらに料理の美味しさに拍車がかかっている。
向かうのは屋台広場、いろんな屋台が目白押しで、食べるものには困らない。
「すいませーん、焼き鳥一本お願いしますー」
「あ、クリスちゃんいらっしゃい。待っててねすぐ用意するから」
で、早速手近な屋台に突撃。
店主の人とは顔見知りなので、言わずとも料理を用意してくれた。
代金を支払い、塩の焼き鳥を受け取る。
あつあつの鳥に、塩がよく効いていて大変美味。
それからどんどん、私は食べ歩きをしていく。
「クリスちゃん、このサンドイッチもどう?」
「クリス、すまんがこっちの肉巻きもたべてってくれねぇか」
「はいはい、お任せくださいー」
こうやって私が屋台を練り歩くんのは日常の風景なので、屋台の店主さん達も対応は手慣れている。
道行くありとあらゆる屋台に私は突撃し、その料理を平らげるのだ。
食べすぎではないかって? 実際、このうすほそボディはそこまで料理が入らない。
ある程度食べると、腹が膨れてしまう。
──ので。
「──”循環”」
吸収された食べ物は魔力となり、魔術を使ったのに私は魔力を回復するのだ。
本来であれば吸収を助ける程度でしかないこの魔術、私が歌うとそこまでの効果を発揮するのである。
うおおん、永久機関だぁ。
「もっと食べましょう、どんどん行きますよぉ」
──この吸収魔術のいいところは、食べすぎるとよくない栄養もいい感じに吸収してくれるところ。
前世ではブラック労働のストレスから過食がひどく、最後の方は胃腸も大変なことになっていたけど、この世界ならそんな心配はいらない。
さらには魔力は吸収しまくると最大魔力量が増加していく。
これこそまさに、私がヒーラーとしての才能を開花させた要因。
食べて、魔力を増やして、さらに食べる。
お金がかかるという欠点こそあるけれど、食べている瞬間は幸せなので実質タダだ。
この世界の料理、現代と比べても非常に美味しいのがいいね。
調味料が充実しているのだ。
おかげさまで食道楽生活を満喫できている。
生歌を発動させる条件は鼻歌でもいいので、上機嫌に鼻歌混じりで食事を堪能しているというわけ。
「いやぁ、相変わらずいい食べっぷりだなぁ、クリスちゃん」
「ああやって食べてくれると、こっちも腕がなるってもんだ」
──まぁ、そのせいで私が腹ペコキャラ扱いになっているのは、致し方ないと受け入れよう。
ところで、ケアラの街はもともと料理が美味しい街として有名だったんだけど、ここ数年でさらに磨きがかかっている。
屋台の料理人に限らず、レストランもギルドの食堂も、こぞって美味しい料理の開発に熱心なのだ。
こっちとしては非常にありがたい話であるが、一体何が彼らをそこまで駆り立てるんだろうねぇ?
ま、私は食べて応援することしかできないけどさ。
はー、次の料理は何にしようかな。