おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
冒険者が冒険に出かけずできることって、何があるだろう。
街の掃除とか、土木作業の手伝いとか、そういう仕事ならいっぱいあるはずだ。
だけど、私が受けるってなると少し問題がある。
こういう仕事って、主に新人が受ける仕事だからね。
あと、単純に働きたくない、過酷な労働したくない。
やるならせめて、あんまり動かない仕事がいいのだ。
でもそんな仕事そうそうあるわけ──ありました。
あるのだ、具体的には──教師である。
「というわけでぇ、新人の皆に冒険者としての心得を教えることになりました、クリスっていいまーす。さっそくなんだけど、今回の講義は自習じゃダメですかぁ?」
「ダメでーす」
「はぁーい、ちぇ」
ギルドには冒険者たちが体を動かす修練場スペースがあって、ここ最近入ってきた新人が山のように詰めかけている。
その中央に立つのが今回の講義を担当する私、クリスなのであった。
うーん、サボりたいから毎回自習じゃダメかって聞いてるのだけど、毎回ダメって言われる。
完全にお約束と化しているな。
先輩冒険者から、私が自習にしてもいいかって言ったらダメだって言うよう教えられているの、こっちも知ってるんだぞ?
まぁ、
「君たちはこの春から冒険者になった新人くんなわけですけど、皆はどういう理由で冒険者になったんですかー?」
「──はい!」
「お、元気がいいですねぇ。君はジョンくんだったかな? よーし、ちょっと答えてみましょうかぁ」
冒険者になった理由、私が年の最初に新人向け講義をする際、かならずする質問。
今回は、リリナちゃんといっしょに冒険者となったジョンくんが、一番に手を上げた。
うん、この子はリリナちゃんを運び込んできた時もそうだったけど、やっぱり才能があるね。
本人は気付いてないみたいだけど。
ともかく。
「俺はでけぇ冒険者パーティを作りたいんだ! それで色んなところを回って、そいつらと冒険を成し遂げたい!」
「いいですねぇ、パーティを作るって今の段階で決まってるのが特にいいよー。こういうのは、どうしたいかって事前に決めるのが大事なんですから」
「そ、そうか? へへへ……なんか、うれしいな」
冒険者になる人間は、大抵の場合具体的にどうやって冒険者として成り上がっていくかなんて考えてない。
パーティを作る、というのも結構漠然としてるけど、それすら定まってない冒険者の方が多いんだ。
やっぱりジョンくんも結構優秀みたいだね。
ただ褒められ慣れてないのか、少し恥ずかしそうにしている。
リリナちゃんとシェリアちゃんが嬉しそうに小さく拍手をしているのが印象的だ。
私? 私にイメージなんてあるわけないでしょー。
「じゃ、冒険者をするうえで何が大切か、って話をしていきましょー。コレを聞いとくと、きっと皆も有名冒険者……?」
さて、ここからが本題だ。
みんながごくり、と唾を飲む。
冒険者をしていくうえで大切なこと。
それは、それはぁ?
「生きること!」
皆がずこー、とすっ転んだ。
リリナちゃん達三人だけが、既に私のことを知っているからかずっこけない。
それから起き上がった子たちは、口々に「そんなの当たり前じゃんかよー」と文句を言う。
だからこそ、私は続けて言う。
「──冒険者になった若い子の十人に一人が、一年のうちに死ぬって言われてます」
しん、と新人たちが静まり返る。
思ってもみなかったのだろう。
この場には三十人くらいの冒険者がいて、ようするにこの中から三人は命を落としてしまうということになる。
リリナちゃんを実質そのうちの一人だと計算しても、あと二人。
「生きるってさぁ、そもそも皆が思ってるより大変なのかもなんですよ。そのためには、身を守るための力を付けなくてはならないんですねぇ」
「……」
「逆に考えてみましょう。冒険者っていうのは危険な職業ですけれど、その分魔物と戦ったりする機会は多いです。ですから──”身を守る力をつける”という目的を持つのも、冒険者をする上では大事かもしれません」
すくなくとも、父親が死んでからすぐの私は、ヒーラーとしての能力以外のものを求めていた。
ヒーラーとしては当時から一級品というか、天才レベルの実力を持っていたけれど、それ以外はからっきしだったからね。
まぁ、何とか戦う手段を手に入れて今に至るんだけど。
「さっき、ジョンくんにも目的があって偉いって言ったけど、同じことなんですよ? ただ漠然と冒険者をするよりも、やりたいことがあった方がいいんです」
その事は、なんとなく解ってくれたのだろう。
多くの新人くんたちが頷いている。
漠然と生きていたら、一年で死んじゃう十人のうち一人になってしまうかもしれない、と理解したからだろうね。
とはいえ、いきなり具体的な目的を持てというのも難しい話。
その方法の一つとして、私はこれからあることをしようと言うわけだ。
これを見せるのが、私の新人講習第一回の定番でね。
「ですから、まぁ。ここは少し、冒険者としての目標になりそうな”指標”を一つお見せしましょうかぁ」
「指標?」
誰かがポツリと問いかけてくる。
私はコホン、と咳払いをしてから笑みを浮かべてうなずき──
「ちょっと私が、少しだけ全力を出してみようと思います」
そう、皆に告げた。
すると、新人くんたちは少しだけ騒がしくなる。
私がAランク冒険者であるということは、既に彼らも知っているのだ。
中には、ゆるい雰囲気の私の実力を疑う者もいるだろう。
なのでこの場で、私の実力を少しだけ示してみようというわけ。
「──といっても、そんなに派手じゃないんですけどね?」
言いながら、一歩後ろに下がりつつ呼吸を整える。
それから私は構えを取った。
いわゆるそれは、徒手空拳の構え。
私の戦い方は武器を伴わない。
理由は単純──武器は重くて持ち運ぶのが面倒だからだ。
そして──
「Ah────」
”生歌”を発動したのだ。
こいつは歌っている間、スキルと魔術の効果を大幅に増幅させる。
たとえば──身体強化スキルとか。
要するに私の戦い方とは、至ってシンプル。
「ふっ──!」
歌いながら、拳を振るう!
そこから私は、演舞のようにケリキックやらパンチやらを放つ。
一つ一つの動きは洗練されていて、鋭い。
しかし同時に、見るものが見ればこれが私独自の動きであることが解るだろう。
この戦い方を身に着けた方法は至って単純。
独学だ。
あるいは、実践と言い換えてもいい。
なんといっても、歌によって強化された身体強化は、非常に効果が高い。
治癒魔術もあって、ちょっとやそっとじゃ怪我を負わないんだよね、私は。
生きてるだけでも偉い系ヒーラーがそんな無茶を……って思うかも知れないけど、当時は父の死で色々大変だったからな。
若かったのである。
ま、それはそれとして──
「──すげぇ、これがAランクの動きなんだ」
「……これ、水晶姫様の曲だー」
「ところで……です。えっと……です」
新人たちは、私の動きに見とれているようだ。
リリナちゃんたち三人組も、それぞれに反応を見せている。
水晶姫云々って行ってるのは……シェリアちゃんだな。
結構ぼんやりした話し方の子なんだなぁ。
水晶姫というのは最近話題の歌姫様、偶像の聖女とか言われてる。
これがまぁ偉い人気なんだけど、どうして私がそれを歌ってるのかは……今は置いとこうね、うん。
んで、私はそれからしばらく演舞を披露して、そして終える。
ぱちぱちと、拍手が聞こえて来た。
ふふん、うれしい。
こういうちょっとしたことで承認欲求を満たすのが、有意義に生きるコツなのですよ。
ちなみにこの戦い方を私は生歌体術と呼んでいる。
ルビをつけるならシンフォギ……ソングマギアとかどうかな!
「とまぁ、これがAランクの実力なわけですが──」
で、最後に話のまとめ。
「──
「えっ」
じゃあさっきのは何だったんだ、という当然の疑問が新人くんたちの方から出てくる。
「だって目指すべき場所は人それぞれですし、私のこれはレアスキルによるところが大きいですからねー」
「た、確かに……」
「でも、なんとなく強さに対するイメージは湧きましたよね? なかなか強い冒険者の戦いって眼の前で見る機会ありませんからー、こういうのは貴重だと思うんです」
ようするに、私の演舞は選択肢でしかない。
皆が皆、自分にあった目的を選ぶのが大事なのだよー。
というか、もっと言えば──
「結局のところ、生きてればそれだけで偉いですから、頑張って生きるのですよー」
──というわけで、私は講義をそんな感じでしめるのでした。
ところで疑問なんだけど、さっきから一部の生徒が顔を伏せて反応がなくなってしまってるんだけど、なんでだろうね?
ジョンくんとか口をあんぐり開けてるし、シェリアちゃんに至っては口からなんか漏れてる。
私が新人に演舞を披露すると、だいたい毎回こういう子が出てくるんだ。
不思議だねぇ。
え、私の格好?
スリットが空いてるシスター服っぽいお清楚な格好ですけど……
新人にとりあえず性癖破壊テロをしていく女!
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