おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
私には別に隠しているわけではないけれど、積極的に吹聴しているわけではない称号がある。
魔導博士というもので、ようは魔術において一定以上の研究成果を発表した者に送られる称号だ。
この研究成果には特許というか年金というか、要するに定期収入がある。
それ目当てに研究を発表したんだよね。
私の基本的な収入は、実は冒険者よりこっちのほうが大きい。
色々あって父の遺産もそろそろ底をつきそうなので、持っている資産としてもこれが一番デカイかな。
じゃあ具体的に、何の研究を発表したかというと──
「すぴー」
私はその日、ギルドで惰眠を貪っていた。
基本的に私は喧騒のある場所の方が眠れるので、ギルドだったり屋台広場だったりで眠ることが多い。
別に無音でも眠れるけどね、気分の問題だ。
後はまぁ、ギルドにいることが多いのは急患対策だね。
ベッドで寝てる時に急患の連絡が入るのと、ギルドで寝てる時に急患の連絡が入るとじゃ、その時の機嫌がダンチだよ!
「はひー、クリスさんいらっしゃるかしらー、ちょっと手伝ってほしいのだわー」
「クリスさんならそこで寝てらっしゃいますよ」
「げっ」
んで、今は眠りを浅くしてるので周囲の声が聞こえてくる。
こちとら睡眠に関してはプロを自認しておりますゆえ、そういう芸当もできるのですわよ。
一人旅の最中に、襲われてもいいようにするため頑張ったのだ。
で、話の内容的にこれは……ローラかな?
「ク、クリスさーん、起きてほしいのだわー、できればそっと起きてほしいのだわー」
「むにゃー」
「く、聞こえてないのだわ!? まずいのだわ、軽寝ならいいけど深寝なら起こすと後が怖いのだわ……」
「すぴー」
ごめんね聞こえているよローラ、ちょっとからかってるだけです。
ローラというのは、この街で活動する冒険者の一人。
三人しかいないAランク冒険者のひとりでもある。
三勇、なんて時折よばれることもあるな、私とゴドリックをあわせて。
それ絶対、私はふさわしくないよー。
などと思いつつ、私はガバっと起き上がった。
「むはっ!」
「きゃ────ー! 起きたのだわ! 怒髪天しないでほしいのだわー!」
「ふああ、おはよーございますローラ、今日も騒がしいですねぇ」
「あ、これからかってるのだわ!? ひ、人を玩具にしないでほし……あだだだだ」
起き上がって視線を向けると、そこには金髪の如何にもって感じなお嬢様が立っていた。
髪には大量のドリルが取り付けられ、衣服はピンクの派手派手なドレス。
その上に豪奢なプラチナの鎧。
そして背中にクソデカイ大剣。
うん、いつものローラだね。
「で、どーしたんですか、また二日酔い?」
「昨日は呑みすぎたのだわ! まーだ頭が痛いのだわ……」
いたたたーと頭を抱えるローラ。
今の時間は十時くらい。
いかに酒飲みが多く、時間にルーズな冒険者といえど流石に重役出勤がすぎる時間だ。
「そんなに二日酔いが嫌なら、お酒を控えればいいとおもうんですけどねぇ」
「それだけは嫌なのだわ! 酒! ギャンブル! 女! ぜーんぶ楽しむのだわ! 人生楽しんだもの勝ちなのだわ!」
「人生楽しんだもの勝ちっていうのは、私も同意しますけどー」
──で、このローラ。
見た目に反して非常に冒険者らしい冒険者である。
背中の大剣の方が彼女の本性というかなんというか。
酒とギャンブルが大好きで、女にチヤホヤされるのが好き。
昨日もこの世界におけるキャバクラみたいなところで、好き放題豪遊してきたのだろう。
ちなみに、ヘタレなので手を出す勇気はない。
「というわけでクリスさん、“いつもの”頼むのだわ!」
「はいはい、いつも通り一品奢りね。んじゃいくよー……“睡蓮”!」
「だわー」
私が手をかざすと、ローラが光りに包まれる。
ついでになんか……浮いた。
これはローラのリアクション芸で、幸福な気分になると何か……浮く。
決して私の魔術の効果ではない。
睡蓮の効果は、もっと別のところにある。
「はい、おしまいでーす」
「だわー」
着地するローラ、そしてその顔には普段から浮かべている自信満々な笑みがばっちり。
「気分! 爽快! なの! だわ!」
「それはよかったですねぇ」
「微妙に残ってた眠気も、ばーっちり消えたのだわ! 三時間しか寝てないからもー、ばちこり眠かったのだわ!」
「それはよかったー。というか、
睡蓮は、眠気覚ましの魔術だ。
それもただ覚ますのではなく、対象の睡眠時に不足しているものを補い、健康に目覚めさせるというもの。
寝不足であれば寝不足を解消し、寝過ぎであれば寝過ぎを解消する。
他にも二日酔いみたいな副産物も綺麗さっぱり。
ギルドで腕を突っ伏して寝た際の体のギシギシなんかも、これで取り除くことが可能。
リリナちゃんの時に使わなかったのは、私が寝起きのまどろみを貪りたかったから。
あの、よく寝たはずなのに眠い感覚、好きなんだよねぇ。
「さっすがは魔導博士、今日も絶好調なのだわ!」
「うーん、その呼ばれ方は少し恥ずかしいんですけどねえ。ま、とりあえず一品奢ってください」
「どんとこいなのだわ! 何を頼んでもいいのだわ!」
「ならこのステーキを……」
「躊躇無く一番高いの行ったのだわ!」
で、私が魔導博士の称号を得たのも、この“睡蓮”が理由。
なんというかこの魔術、非常に画期的だったんだよね。
前世感覚でも非常に便利だと思うけど、この世界だとさらに便利なのだ。
主に冒険者の間で、睡蓮を使えるのと使えないのとじゃ、実力が一段違うとすら言われている。
そりゃあ寝込みを襲っても、気づかれてこいつを使われるだけで不意打ちのアドバンテージが半分消えるからね。
時には時間との勝負になりがちな冒険者の世界で、ちょっと寝るだけで体力をほぼ全快にできる魔術が弱いわけ無い。
たとえ十分でもいいから、寝て起きないと効果を発揮しないっていう弱点こそあるものの。
それがないと、魔術としての習得難易度が跳ね上がるから仕方ない。
この世界の魔術は、制限をつけることで魔術の効果が跳ね上がる様になる。
そこら辺のバランスがよかったのも、魔導博士を与えられた要因だという。
「だわーっはっはっは! 私もステーキにするのだわー!」
「相変わらず、その笑い方はなんなんですかー?」
で、まぁ、この女はそれを使えないわけだが。
あまりにも生き方が雑すぎるせいで、時間をかけて修練すれば誰でも使えるようになるはずの魔術を一切使えない。
特に生活魔術を使えないのは致命的で、水も出せないし火も起こせない。
野垂れ死にかけるのはよくあること、これでよくAランクになるまで生きてこれたなって雑っぷり。
いやホント、なんていうか豪快な人である。
ゴドリックとは正反対なんだよなぁ。
昔は楚々としたお嬢様って感じだったんだけどね。
「それにしてもクリスさんって、せっかくえらい称号持ってるのにどうしてそれをひけらかさないのだわ」
「単純に私のキャラじゃないですよー、こうやって一人でぼんやりすやすやが一番いいんです」
「まあクリスさんはそう言うのはわかるのだわけどぉ」
「だわけど」
んで、ローラがそんな話をしてくる。
まぁそれはそうなんだけどね。
魔導博士ってのは魔術師にとって最も栄誉な称号といっていいし、明かせば周りはチヤホヤしてくれるだろう。
私にだってそこそこ承認欲求はある。
「でもねえ、昔ここに来る前、博士号のことをいろんな人が知ってる場所で活動してたことがあるんですけどぉ」
「おお……それはさぞかしちやほやされたのだわ? うらやましいのだわ!」
「ええまあされましたよぉ? それはもう、睡眠のプロかってくらい。実際すごく尊敬されてましたし、わたしの一挙手一投足に皆が釘付けでした」
「すごいのだわ!」
「でもですねー、一つ問題があったんです」
私はそそっとローラに顔を近づける。
あんまり人に聞かれたくないというのと、話のオチなのでもったいぶりたかったのだ。
で、何が問題かと言うと。
「私が寝るだけで、周囲がざわついたんです」
「あ、ああ〜……だわ」
私の信条風に言うなら、寝てるだけで偉い。
……いや、うん。
だらけて楽していきたい私でも、それはさすがに……恥ずかしかったんだ。
ごめんね、当時の人達。
というわけで私の睡眠博士の称号は、積極的に喧伝しない称号となったのだった。
こういう魔術欲しすぎるの回。