おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
基本的に冒険なんてほとんどしない私だけど、時折自分から依頼を受けて冒険に出かけることがある。
例えば珍しい食材が手に入る依頼。
例えばなんとなくピンと来た依頼。
基本的な理由はこの二つ。
まあ気まぐれってことだね。
ただそれ以外にも例外的にギルドの方から積極的に、私を指名して出される依頼がある。
意外だって? まあ、私もそう思う。
でもこの依頼だけは、私がやらなきゃダメなんだ。
「三人は、人間にとって一番危険な魔物ってなんだと思いますかー?」
「えーと……ゴブリンとかです? もし襲われると、こっちを嬲り殺しにしたりひどいことをしたりする残虐さがあるです」
「それもまた一つの正解ですねぇ、リリナちゃん」
「あ、ありがと、です」
――その日、私はリリナちゃん達三人と食事をしながら話をしていた。
これは私がよくやっていることで、私に食事を奢ってくれたら食事の間は相談に乗るよ、のコーナーだ。
基本的に私は冒険者としてそこそこ知識がある。
教師をしているのだから当然だ。
だから、新人たちの相談に乗ってあげることが可能。
とはいえ、何でもかんでも聞いてたらキリがない。
そこで新人達が私に料理を一食奢ることで、代わりにアドバイスを送るというのが慣習になっている。
奢る料理はなんでもいいので、どっちかというと相談の機会を制限するのが目的だ。
流石に全部聞いてたら、いくら時間があってもたりないからね。
「んじゃ次、ジョンくん」
「はい! 俺はやっぱドラゴンだとおもうぜ! なんといっても魔物における最強の代名詞! ドラゴンを倒してこそ冒険者の誉! これが一番危険じゃなかったら何だって言うんだ!」
「いいね、上昇志向を感じますよぉ」
今回のテーマは、危険な魔物とは何か。
正確に言うと、危険な魔物の対処法について教えて。
コレに対して私は、まず危険な魔物がどうして危険なのか、という話をすることにしたのだ。
なお、シェリアちゃんはイヤホン型の魔道具を聞きながらうへうへしている。
この子は頭脳労働担当ではないらしい。
「ただまー、どっちも正解ではあるんですけど、私としては
「っていうと……なんだ?」
「まずゴブリンですけど、ゴブリンはとにかく飽きっぽい生き物です。人を嬲っていても、人の反応が薄ければ飽きてどこかに行きます。痛みを我慢しながら耐えて、向こうが飽きを見せたところでこっそり石を遠くに投げて音を出させたりすると、逃走は容易ですね」
おー、と二人してリリナちゃんとジョンくんは感心した様子だ。
「そしてドラゴンは……そもそも遭遇することが非常に稀ですし、とても目立ちます。向こうが最初からこちらを狙っているとか、そういうことでもない限り目撃されたらその場から逃げれば襲われることはありません」
「そもそも、こっちから会いに行きたいです。……よね? ジョン」
「そうだなぁ」
危険な魔物、非常に強い力を持つ魔物は色々いる。
しかし、それらは対処法さえ覚えておけば、案外どうしたって助からない相手というわけではない。
無論、対処法を覚えていなければそこまでだが。
「ただ中には――そういった対処法が
「一つしか……です!?」
「
「あ……今までのは、自分より強い相手への対処法です?」
「そういうことですよぉ」
当然、油断は禁物である。
とはいえ、だとしたら一体どんな魔物が、倒す以外に助かる選択肢がないのか。
「答えは――
「……それって、俺達がケアラの街に来る時出くわした」
「ええ」
狼系の魔物は、いろいろな種類がいる。
比較的オーソドックスな魔物で、だからこそ厄介なのだ。
「狼の一番厄介な魔物は、連中が人を食料にするため狙っていることです。そのせいで、どれだけ逃げても彼らの目的は人なのです」
「……ゴブリンなんかは、目的を”逸らす”ことができるです?」
「そういうことですよぉ。でも、狼はできません。あくまで人そのものを狙っていて、そして執念深いですから。とはいえこれは動物系の魔物全般に言えることですが、大抵の動物系魔物は知性が低く逃走が容易なのです」
――でも、狼だけは違う。
あらゆる動物系魔物の中で、とりわけ知性が高くごまかしが効かない。
まるで、この世界の狼は最初からそう作られたかのように、執拗に人を狙うのだ。
多分神話に出てくる太陽を食らう狼がこの世界の狼の”原型”だからだと思うんだけど。
まぁ、そこは話が長くなるから置いておこう。
「その中でも特に厄介なのが、リリナちゃんも出くわした――」
――と、その時である。
「――クリスさん、少しいいですか?」
ギルド職員のフローラさんが、私にそう声をかけてきた。
話を止めて、一つ深呼吸。
瞳を閉じてから、目を開けて視線をフローラさんに向ける。
「……どうぞ」
なんとなく、空気が変わったのをリリナちゃんたちも感じたのだろう。
リリナちゃんとジョンくんがつばを飲み、シェリアちゃんはイヤホンを外した。
「
「ん、りょーかいしました。場所はどちらになりますか?」
「ケアラの街から北の方に向かった森の中とのことです。詳しくはこちらの地図を……」
「ありがとーございます。ええと北って言うと……リリナちゃんたちの故郷があるほうですかぁ。わかりましたー」
――そう、私が請け負う依頼は行方不明者の捜索だ。
この世界は現代と比べてまだまだ殺伐としているから、行方不明者や命を落とす冒険者は多い。
ただ、森の中とかで消息を絶たれると、普通ではどうやっても捜索が困難だ。
場所を知らせる魔道具とか携帯してくれてると助かるんだけど、高価なので全員が身につけることは不可能である。
まぁ、そのうち技術革新が起きて誰でも持てるようになるだろう。
私の歌声を起動したスピーカー魔道具だって、最初は似たようなものだった。
「あの……クリスさん、大丈夫……です?」
「ん? あーうん、まったく問題ないですよ。それに、村の方向って言っても間違いなく村とはかすらない場所ですから」
「……わかった、です」
ああ、そっか。
リリナちゃんには以前、リリナちゃんの人生相談をした時に私が父を失った経緯について少しだけ話したんだっけ。
だからか、その顔には明らかな不安と心配が刻まれている。
「――森の中で消息を絶った人は、実に八割がそのまま息絶えるといいます。ゴブリンが、オークが、狼が――複数の魔物種族がその人を狙っているわけですから」
「……それは」
「それでも、誰かが迎えに行かないといけないんですよ。だってそうしないと――その人が、帰ってこれないじゃないですか」
「……!」
そして、故にこそ私はこの依頼を受けないわけにはいかない。
あの時父が帰ってきたのは、誰かが迎えに行ってくれたから。
そして私は、それすらも出来なかったのだ。
あの時、父のそばに私がいたら。
せめて私が迎えに行けてあげてたら。
そういう感情は、行方不明者の捜索をする時、ずっと私の意識の底にある。
「私のことなら、心配なさらないでください。でも、ごめんなさいリリナちゃん、ジョンくん、シェリアちゃん。お話の続きは……また今度になっちゃいますねぇ」
「い、いえ、むしろお時間取らせちゃって申し訳ない、です」
「そうだよ! 俺達のことはいいからさ!」
「うんうん」
「ありがとうございます。今度はこっちから、美味しい屋台の料理をごちそうしますね!」
そうして私は立ち上がると、ギルド職員のフローラさんから諸々の資料を受け取る。
こうして行方不明者捜索に出るのも、既に慣れたもの。
ギルド職員も、私が必要としている資料は把握している。
まぁ――本当は慣れない方が、ずっといいに決まってるんだけどね。