十夜の森に、銃声が残る
第百三十一話 十夜の森に、銃声が残る
冬休みが終わると、城の廊下へ生徒の声が戻った。
図書館の席が埋まり、大広間の卓も長く賑わう。
授業を再開した子供たちの外で、まだ終わっていない仕事があった。
サーシェスは、ダンブルドアからの呼び出しを受けた。
校長室へ入ると、大きな身体を椅子へ窮屈そうに収めたハグリッドがいた。
挨拶を終える前に、その顔へ目が向く。
沈んだ顔だった。
「森の話だってな」
サーシェスが言うと、ダンブルドアは頷いた。
「ユニコーンが殺されておる。原因を調べ、襲っているものを止めてほしいのじゃ」
「ユニコーン?」
サーシェスが椅子へ座る。
ハグリッドは膝の上で、太い指を組んでいた。
「十一月に、一頭見つけた。冬休み明けにも、また被害があった。あんなやつらを殺すなんて……」
最後の方は、喉の奥で低くなった。
「普通の獣じゃ、そう簡単にやれん。逃げるのも速いし、森のこともよう知っとる」
「狩られてたってことか」
「俺には、そう見えた。けど、誰が何のためにやったのか、分からん」
ハグリッドは、机へ置いていた紙を広げた。
森の外縁と、小道の一部が描かれている。
死骸を見つけた場所には、印があった。
サーシェスは紙を引き寄せた。
「角を取られてたか?」
ハグリッドが首を振る。
「そのままだった。毛もだ。売るために殺したんなら、残さんはずだ」
サーシェスの指が、印の間を動いた。
「じゃあ、いつもの密猟とは違うな」
◆
「闇の生物が関わっている可能性もある」
ダンブルドアが言った。
サーシェスは顔を上げた。
「どんなやつだ?」
「まだ、分からぬ。普通の獣を探すつもりだけで入らぬよう、先に伝えておきたい」
「森の中は、ほかにも危ないものがいる」
ハグリッドが続ける。
「跡を見つけても、何でも追えばいいってもんじゃない。ユニコーンの居場所は教える。けど、あいつらまで驚かせんでくれ」
サーシェスは笑った。
「探す相手が逃げちまうんじゃ、仕事にならねえよ」
ダンブルドアが、依頼の条件を説明した。
調査の報酬と、必要な経費。
何か分かれば報告すること。
森に暮らすものを、無関係に撃たないこと。
サーシェスは幾つか尋ね、答えを聞いてから椅子へ背を預けた。
「面白え」
紙の上の森を見る。
「獣か、それ以外か。まずは歩いてみるか」
「引き受けてもらえるかの」
「ああ。条件は、それでいい」
サーシェスは立ち上がった。
「でかいの。最初は案内を頼むぜ」
ハグリッドも立つ。
「ハグリッドでいい。日があるうちに、一度見といた方がいい場所がある」
◆
持参したのは、いつもの銃だけではなかった。
外套の下には、グレネードとスタングレネードも収めてある。普通の獣とは限らないと聞いて、使い慣れた投擲物も揃えてきた。
一日目は、ほとんど銃へ触れなかった。
ハグリッドの後を歩き、被害のあった場所を見る。
そこに死骸はもうなかった。
雪と湿った土の間へ、古い跡が残っている。
サーシェスは屈み、ハグリッドへ質問した。
見つけたとき、身体はどちらを向いていたか。
周りに、ほかの足跡はあったか。
血は、どこまで続いていたか。
ハグリッドは覚えていることを、一つずつ答えた。
「こっちは、よく通る」
太い指が、木の間を示す。
「奥に水場がある。いつも同じところにいるわけじゃないが、見つけるなら、その辺りも見とけ」
サーシェスは、教えられた方向へ歩いた。
大きな身体で通るハグリッドと、自分が通る道は同じではない。
枝の高さを見る。
土の柔らかい場所を避け、戻るときの目印を覚えた。
日が落ちる前、一頭のユニコーンが木の向こうへ現れた。
白い身体が止まる。
こちらを見ている。
「動くな」
ハグリッドが低く言った。
サーシェスは止まった。
ユニコーンはしばらく二人を見た後、木の間へ姿を消した。
追わなかった。
どちらへ抜けたかを、覚えた。
◆
二日目からは、自分で歩いた。
昼間に道を確かめ、夜に同じ場所へ戻る。
水場へ続く跡を見つけても、そこだけを見張ることはしなかった。
近くの斜面にも、別の通り道があった。
三日目、前日にいた場所には、何も現れなかった。
四日目には、遠くで白い身体が見えた。
その後ろを追うものは、いない。
ハグリッドへ話すと、別の場所で見たという答えが返ってきた。
「雪が深いときは、あっちへ寄ることもある」
「なるほどな」
サーシェスは紙へ線を足した。
被害のあった場所だけでは、活動範囲の一部しか分からない。
五日目には、水場へ来る前に立ち止まる場所が分かった。
六日目、風が変わると、夜に使う道も変わった。
その夜、サーシェスは待つ場所を変えた。
何も起きなかった。
銃を抜かないまま、夜が終わった。
◆
「見つかったか?」
七日目の昼、ハグリッドが尋ねた。
サーシェスは、小屋の前で手を温めていた。
「まだだ」
差し出された熱い飲み物を受け取る。
「毎晩出てくる相手じゃねえ。殺されるたびに、決まった場所へ来るとも限らねえしな」
「また殺される前に、見つけたいんだが」
「俺も、その方がいい」
サーシェスは飲み物へ口を付けた。
「けど、いねえもんは撃てねえ」
ハグリッドは黙った。
サーシェスが紙を見せる。
初日に比べ、線が増えていた。
「こいつらの動く範囲は分かってきた。今度は、ここに混ざるやつを探す」
ハグリッドは紙を覗き込んだ。
一つの線へ指を置く。
「その先は、足元に気をつけろ。雨が降ると、土が崩れる」
「覚えとく」
サーシェスは紙を畳んだ。
八日目にも、新しい死骸は見つからなかった。
九日目は、冷たい雨が降った。
足跡が崩れ、夜の音が変わる。
それでも、サーシェスは森へ入った。
濡れた枝を押さえ、静かに抜ける。
待った先には、獣の気配しかなかった。
◆
クィレルは、鏡に映る自分の顔を見ていた。
目の下が暗い。
頬は、以前より薄くなっている。
眠れば戻る疲れではなかった。
魔導書は、使う者から対価を取る。
呼び出した悪魔が消えても、差し出したものは返らない。
命を支える力。
これから生きるはずだった時間。
クィレルは、自分の寿命を削っていた。
あの夜に呼んだものたちは、確かに学校を混乱させた。
しかし、そのために失ったものは、食事でも休息でも埋まらなかった。
さらに、身体には主人がいる。
自分一人のために使うはずの力を、一人だけで保っているのではない。
机へ手をつくと、指が震えた。
「今夜も、行け」
声がした。
クィレルは目を閉じる。
「はい……」
ユニコーンの血は、衰えた身体を繋ぎ止める。
失った歳月を、何もなかったことにして返すわけではない。
それでも、今を生きるためには必要だった。
クィレルは外套を取り、フードを深く被った。
◆
依頼を受けてから、十日目だった。
雨は止んでいる。
木の葉や枝から、まだ滴が落ちていた。
サーシェスは、二つの通り道が近づくところで待っていた。
その夜、先に聞こえたのは、白い獣の足音ではなかった。
枝が折れる。
遠くで、一度だけだった。
サーシェスは動かなかった。
次の音を待つ。
何かが、斜面を下りている。
ユニコーンなら通るところとは、少し違っていた。
彼は木の陰から離れ、音のした方へ進んだ。
先日ハグリッドへ聞いた斜面を避け、横から回る。
湿った土に、跡があった。
その先で、銀色のものが光った。
血だった。
サーシェスの口元から、笑いが消える。
腰の銃へ手を掛けた。
◆
白い身体が、木々の間へ倒れていた。
そのそばに、黒いものがいる。
フードを被った人型だった。
屈み、ユニコーンへ顔を寄せている。
サーシェスは、木の陰で足を止めた。
闇の生物。
校長の言葉が頭へ戻る。
だが、腕の動きは人間に見えた。
服も着ている。
何をしているのか、もう少し見ようとしたとき、その頭が上がった。
フードの奥が、こちらへ向く。
サーシェスは銃を抜いた。
◆
クィレルは、木の間に立つ男を見た。
赤みのある髪。
外套の下へ隠した武器。
知っている。
ダンブルドアが、森の警護に雇った男だった。
スクイブ。
杖は持っていない。
クィレルは、口元の血を袖で拭った。
厄介なものを見られた。
だが、相手は魔法を使えない。
杖を抜けば済む。
そう思った時間が、あった。
銃声がした。
脚へ衝撃が来る。
クィレルは、声を上げた。
◆
「人間なら、話は早えな」
サーシェスが言った。
撃たれた相手が、膝を折っている。
その腕が外套へ入った。
サーシェスは、もう一発撃つ。
今度は、光へ当たった。
弾が逸れる。
杖だった。
フードの下から伸びた手が、細い棒を握っている。
「魔法使いかよ」
サーシェスは笑い、横へ動いた。
光が来る。
先ほどいた場所の枝が弾けた。
彼は木の陰へ入る。
そのまま撃てる相手ではなかった。
しかし、先に脚を傷つけた。
相手の動きは鈍っている。
こちらを向く杖先から離れ、次の隙を取ればいい。
サーシェスは、銃を構え直した。
次の射撃も、光の盾へ弾かれる。
「そいつで、何でも止まるつもりか」
彼はグレネードを取り出し、木の陰から投げた。
クィレルが、飛んでくるものへ目を向ける。
爆発が、夜の森を揺らした。
土と枝が散る。
フードの人物は、光の盾に包まれていた。
爆発の直撃は、その防護に遮られた。
だが、衝撃までは消えなかった。
身体が浮く。
クィレルは後方へ吹き飛ばされ、背中から地面へ落ちた。
撃たれた脚を引きずり、湿った土の上を転がる。
「防いでも、そっちは残るか」
サーシェスは口元を歪めた。
盾が消えなくても、相手の身体は飛んだ。
彼はその隙に位置を変え、煙の向こうへ銃を向ける。
しかし、倒れた相手の手には、まだ杖があった。
次の銃弾が届く前に、光の盾が張り直される。
サーシェスは足を止めず、次の動きを探した。
◆
「何をしている」
クィレルの内側へ、声が落ちた。
冷たかった。
脚が痛む。
血を飲んだばかりの口へ、苦いものが込み上げる。
「申し訳、ありません……」
「スクイブごときに、何を手間取っている」
クィレルは息を吸った。
動かなければ、また撃たれる。
けれど、脚へ体重を掛けると、身体が崩れそうになった。
「杖を使え。逃がすな」
ヴォルデモートの声が命じた。
クィレルは、歯を食いしばった。
木の陰へ向けた杖が、止まる。
見えている男だけを狙うのを、やめた。
次の魔法が、周囲へ走った。
◆
サーシェスが隠れた木の根元で、土が跳ねた。
外套へ、小石が当たる。
後ろへ退くと、頭の上で枝が落ちた。
見えていないはずだった。
だが、身を寄せた場所そのものへ、攻撃が来ている。
サーシェスは横へ転がった。
地面へ手をつく。
起き上がる前に、次の光が通った。
頬が熱くなる。
切れていた。
「やってくれるじゃねえか」
口元を歪める。
相手は、倒れたユニコーンのそばから大きく動いていない。
それでも、サーシェスが出られる場所へ、先に杖を向けていた。
銃を撃つ。
光に防がれた。
次の一発を撃つ前に、枝の束が目の前を横切る。
狙いが切れる。
そこへ、別の呪文が来た。
サーシェスは身体を捻った。
肩へ衝撃が走る。
背中から地面へ落ちた。
◆
息が、出なかった。
サーシェスは歯を食いしばり、腕を引いた。
銃は、まだ手にある。
泥を払う暇はなかった。
木の陰へ這う。
頭を出せば、そこへ来る。
今度は、こちらが場所を選ばされていた。
スクイブを侮った相手の間は、もう残っていない。
戦い慣れている。
遮るものへ働きかけ、次に動く先へ呪文を置く。
サーシェスは、短く息を吐いた。
今度は、スタングレネードを取り出した。
木の向こうへ投げる。
先ほどの爆発とは違う、眩しい閃光と激しい音が夜の森を破った。
そこで初めて、呪文が途切れた。
サーシェスは立った。
走る。
だが、背後から来た光が、足元を崩した。
よろめき、別の木へ肩をぶつける。
先ほどの一瞬だけでは、逃げ切れない。
相手の姿を見た。
フードは、まだ深く被られている。
脚の辺りが濡れていた。
血だ。
それを見ても、今は笑えなかった。
杖が、こちらへ向いている。
◆
クィレルの息は、速くなっていた。
地面へ、血が落ちる。
脚を庇っているだけでは止まらない。
ユニコーンの血を口にしたばかりでも、身体から流れ出るものを、そのまま補えるわけではなかった。
目の前の男は、まだ銃を持っている。
追い詰めた。
あと少しだった。
けれど、男は最後までこちらを見ていた。
仕留めるために近づけば、また撃つつもりだ。
クィレルは、震える脚へ力を入れた。
身体が沈んだ。
視界の端が暗くなる。
「退け」
主人が言った。
クィレルは、息を止めた。
「しかし……」
「この身体を失う方が、厄介だ。今は退け」
生かして帰すことになる。
見られた。
撃たれた。
それでも、今夜は終わらせなければならなかった。
クィレルは杖を振った。
◆
土と枯葉が、サーシェスの目の前へ吹き上がった。
銃を向ける。
何も見えない。
彼はその場からずれ、次の攻撃を待った。
来なかった。
木々の間で、枝が揺れる。
遠ざかっていく音だった。
サーシェスは木へ手をつき、立ち上がった。
追おうとして、肩に痛みが走る。
息も、まだ十分に戻っていない。
相手が通った場所には、点々と血があった。
その先は暗い。
追えば、また杖の届くところへ入る。
サーシェスは、一歩で止まった。
銃口を下ろさず、しばらく待つ。
敵は戻らなかった。
「……見逃したつもりかよ」
低く言った。
顔に付いた血を、手の甲で拭う。
取ったのは、最初の一発だった。
その後は、押し返された。
最後に自分が立っているのは、相手が退くことを選んだからだ。
サーシェスは、暗い森を見た。
「次は、殺す」
笑ってはいなかった。
◆
森を出たとき、肩は重くなっていた。
サーシェスはハグリッドの小屋へ寄らず、依頼を受けたときに教えられた連絡先へ向かった。
まず、依頼主へ話す。
しばらくして、ダンブルドアが現れた。
外套に付いた泥と血を見る。
「話せるかの」
「ああ。二人だけで頼む」
ダンブルドアは頷いた。
サーシェスを連れ、城へ戻る。
◆
校長室には、二人しかいなかった。
ダンブルドアは、報告を途中で遮らなかった。
椅子へ座ったサーシェスが、順に話す。
十日間で確かめた活動範囲。
今夜、そこへ混ざった足跡。
倒れたユニコーンと、そのそばにいた人物。
ダンブルドアが問いかけたのは、そこまで聞いてからだった。
「人型だったのじゃな」
「ああ。フードを被ってた。顔は見えねえ」
「声は?」
「何か言ってたが、まともに聞き取れなかった。木の向こうだったし、こっちもそれどころじゃなかったからな」
サーシェスは、肩の位置を少し変えた。
「杖を使ってた。獣じゃねえ。魔法使いだ」
ダンブルドアは続けた。
「戦いは、どう始まった」
「向こうが俺に気づいた。だが、動きが遅かった。こっちに杖がねえから、楽に片づくと思ったんじゃねえか」
サーシェスは自分の銃を見た。
「脚を撃った。最初は、そのまま押せると思った」
「その後は?」
「押せなかった」
はっきり言った。
「グレネードも使った。盾で直撃は防いだが、衝撃までは止められねえ。後ろへ吹っ飛んだ」
「その後も、反撃してきたのじゃな」
「ああ。倒れても杖を離さなかった。盾を張り直して、その後は隠れた場所ごと叩いてきた。次に出る方へ呪文を置く。こっちを見失っても、周りを使って動かしてくる」
サーシェスは顔の傷へ指をやった。
「スタングレネードで、一度は攻撃が止まった。だが、それだけじゃ逃げ切れなかった」
ダンブルドアの目が、肩の傷へ落ちた。
「追い詰められたのじゃな」
「ああ」
サーシェスは、その目を見返した。
「慣れてるやつだ。杖を持ってるだけの素人じゃねえ。熟練の魔法使いだと見ていい」
◆
「ユニコーンの血を、飲んでいたように見えたかの」
ダンブルドアが尋ねた。
「顔を寄せてた。口元を拭うところも見た。そう見えたぜ」
ダンブルドアは、しばらく黙った。
血を必要とする人型。
杖を使い、実戦に慣れている。
サーシェスを知っていた可能性もある。
しかし、今の報告だけで、特定の人物へ結びつけることはできない。
顔も、声も、確かめられていなかった。
ダンブルドアは、サーシェスへ向き直った。
「相手が去ったのは、なぜだと思う」
「脚の血だろ。こっちが逃げたんじゃねえ。あっちが止めを刺さずに退いた」
サーシェスの声が低くなる。
「俺も無傷じゃねえ。追える状態じゃなかった。だから、ここまでだ」
「それでよい。今夜分かったことは、十分に重要じゃ」
ダンブルドアは頷いた。
「まずは治療を受けてもらおう。傷を残したまま、次を考えることはない」
サーシェスは鼻で笑った。
「治すさ。次に撃つとき、腕が上がらねえんじゃ困る」
サーシェスは暖炉へ目を向ける。
火の向こうへ、フードの影が浮かぶ。
名前は分からない。
顔も分からない。
だが、杖がこちらへ向く速さは覚えた。
自分を追い込んだ手も、覚えている。
「今度は、先に退かせねえ」
サーシェスは、銃を収めた腰へ目を落とした。
あの盾は直撃を防いでも、爆発の衝撃までは消せなかった。相手が後方へ飛んだ姿を、サーシェスは覚えている。
次は、その弱点を意識して装備を変える。
片手で扱え、爆発の衝撃で、盾に守られた相手の姿勢も崩せる武器。次は、それを用意する。
今夜、持参したものだけでは相手を崩し切れなかった。次も同じ装備で、同じように止められるつもりはない。
手配するものを頭の中で決めてから、サーシェスは顔を上げた。
ダンブルドアは立ち上がった。
「今夜の報告は、わしのところへ留めておいてほしい」
サーシェスが顔を向ける。
「ハグリッドにもか?」
「うむ。彼には、まだ相手が分からぬと伝えておく」
サーシェスは、しばらく校長を見た。
それから、口の端を上げた。
「依頼主がそう言うなら、俺から話すことはねえよ」
「頼む」
治療の手配を済ませ、ダンブルドアは窓へ目を向けた。
森は暗かった。
そこにいるものが、杖を使う熟練の魔法使いだと、今は知っている。
ハグリッドは、知らない。
ハグリッドは、信頼できる男だった。だが、秘密を守ろうとする気持ちと、話の途中で口を滑らせないことは、別だった。
案じるあまり誰かへ話し、尋ねられてつい答えることもある。相手の顔も名前も分からぬ今、断片だけが広まれば、憶測も一緒に広がってしまう。
調査で何が分かったか、敵の耳へ届くことも避けたい。
そのために、今夜の詳しい報告は知らせない。
サーシェスが持ち帰った情報を、ダンブルドアは自分の中へ収めた。
◆
翌日、ハグリッドは調査の進み具合を尋ねた。
ダンブルドアは、いつもの穏やかな顔で答えた。
「まだ、何が襲っておるのか分からなんだ。調査は続けてもらう」
「そうか……。早く分かればいいんだが」
ハグリッドは、森の方を見た。
サーシェスが人型の魔法使いと戦い、追い詰められたことは、知らされなかった。
その報告を受け取ったのは、ダンブルドア一人だった。