神殺し、墓場より還りしもの   作:ちじさん

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第八章
十夜の森に、銃声が残る


 

第百三十一話 十夜の森に、銃声が残る

 

 冬休みが終わると、城の廊下へ生徒の声が戻った。

 

 図書館の席が埋まり、大広間の卓も長く賑わう。

 

 授業を再開した子供たちの外で、まだ終わっていない仕事があった。

 

 サーシェスは、ダンブルドアからの呼び出しを受けた。

 

 校長室へ入ると、大きな身体を椅子へ窮屈そうに収めたハグリッドがいた。

 

 挨拶を終える前に、その顔へ目が向く。

 

 沈んだ顔だった。

 

「森の話だってな」

 

 サーシェスが言うと、ダンブルドアは頷いた。

 

「ユニコーンが殺されておる。原因を調べ、襲っているものを止めてほしいのじゃ」

 

「ユニコーン?」

 

 サーシェスが椅子へ座る。

 

 ハグリッドは膝の上で、太い指を組んでいた。

 

「十一月に、一頭見つけた。冬休み明けにも、また被害があった。あんなやつらを殺すなんて……」

 

 最後の方は、喉の奥で低くなった。

 

「普通の獣じゃ、そう簡単にやれん。逃げるのも速いし、森のこともよう知っとる」

 

「狩られてたってことか」

 

「俺には、そう見えた。けど、誰が何のためにやったのか、分からん」

 

 ハグリッドは、机へ置いていた紙を広げた。

 

 森の外縁と、小道の一部が描かれている。

 

 死骸を見つけた場所には、印があった。

 

 サーシェスは紙を引き寄せた。

 

「角を取られてたか?」

 

 ハグリッドが首を振る。

 

「そのままだった。毛もだ。売るために殺したんなら、残さんはずだ」

 

 サーシェスの指が、印の間を動いた。

 

「じゃあ、いつもの密猟とは違うな」

 

     ◆

 

「闇の生物が関わっている可能性もある」

 

 ダンブルドアが言った。

 

 サーシェスは顔を上げた。

 

「どんなやつだ?」

 

「まだ、分からぬ。普通の獣を探すつもりだけで入らぬよう、先に伝えておきたい」

 

「森の中は、ほかにも危ないものがいる」

 

 ハグリッドが続ける。

 

「跡を見つけても、何でも追えばいいってもんじゃない。ユニコーンの居場所は教える。けど、あいつらまで驚かせんでくれ」

 

 サーシェスは笑った。

 

「探す相手が逃げちまうんじゃ、仕事にならねえよ」

 

 ダンブルドアが、依頼の条件を説明した。

 

 調査の報酬と、必要な経費。

 

 何か分かれば報告すること。

 

 森に暮らすものを、無関係に撃たないこと。

 

 サーシェスは幾つか尋ね、答えを聞いてから椅子へ背を預けた。

 

「面白え」

 

 紙の上の森を見る。

 

「獣か、それ以外か。まずは歩いてみるか」

 

「引き受けてもらえるかの」

 

「ああ。条件は、それでいい」

 

 サーシェスは立ち上がった。

 

「でかいの。最初は案内を頼むぜ」

 

 ハグリッドも立つ。

 

「ハグリッドでいい。日があるうちに、一度見といた方がいい場所がある」

 

     ◆

 

 持参したのは、いつもの銃だけではなかった。

 

 外套の下には、グレネードとスタングレネードも収めてある。普通の獣とは限らないと聞いて、使い慣れた投擲物も揃えてきた。

 

 一日目は、ほとんど銃へ触れなかった。

 

 ハグリッドの後を歩き、被害のあった場所を見る。

 

 そこに死骸はもうなかった。

 

 雪と湿った土の間へ、古い跡が残っている。

 

 サーシェスは屈み、ハグリッドへ質問した。

 

 見つけたとき、身体はどちらを向いていたか。

 

 周りに、ほかの足跡はあったか。

 

 血は、どこまで続いていたか。

 

 ハグリッドは覚えていることを、一つずつ答えた。

 

「こっちは、よく通る」

 

 太い指が、木の間を示す。

 

「奥に水場がある。いつも同じところにいるわけじゃないが、見つけるなら、その辺りも見とけ」

 

 サーシェスは、教えられた方向へ歩いた。

 

 大きな身体で通るハグリッドと、自分が通る道は同じではない。

 

 枝の高さを見る。

 

 土の柔らかい場所を避け、戻るときの目印を覚えた。

 

 日が落ちる前、一頭のユニコーンが木の向こうへ現れた。

 

 白い身体が止まる。

 

 こちらを見ている。

 

「動くな」

 

 ハグリッドが低く言った。

 

 サーシェスは止まった。

 

 ユニコーンはしばらく二人を見た後、木の間へ姿を消した。

 

 追わなかった。

 

 どちらへ抜けたかを、覚えた。

 

     ◆

 

 二日目からは、自分で歩いた。

 

 昼間に道を確かめ、夜に同じ場所へ戻る。

 

 水場へ続く跡を見つけても、そこだけを見張ることはしなかった。

 

 近くの斜面にも、別の通り道があった。

 

 三日目、前日にいた場所には、何も現れなかった。

 

 四日目には、遠くで白い身体が見えた。

 

 その後ろを追うものは、いない。

 

 ハグリッドへ話すと、別の場所で見たという答えが返ってきた。

 

「雪が深いときは、あっちへ寄ることもある」

 

「なるほどな」

 

 サーシェスは紙へ線を足した。

 

 被害のあった場所だけでは、活動範囲の一部しか分からない。

 

 五日目には、水場へ来る前に立ち止まる場所が分かった。

 

 六日目、風が変わると、夜に使う道も変わった。

 

 その夜、サーシェスは待つ場所を変えた。

 

 何も起きなかった。

 

 銃を抜かないまま、夜が終わった。

 

     ◆

 

「見つかったか?」

 

 七日目の昼、ハグリッドが尋ねた。

 

 サーシェスは、小屋の前で手を温めていた。

 

「まだだ」

 

 差し出された熱い飲み物を受け取る。

 

「毎晩出てくる相手じゃねえ。殺されるたびに、決まった場所へ来るとも限らねえしな」

 

「また殺される前に、見つけたいんだが」

 

「俺も、その方がいい」

 

 サーシェスは飲み物へ口を付けた。

 

「けど、いねえもんは撃てねえ」

 

 ハグリッドは黙った。

 

 サーシェスが紙を見せる。

 

 初日に比べ、線が増えていた。

 

「こいつらの動く範囲は分かってきた。今度は、ここに混ざるやつを探す」

 

 ハグリッドは紙を覗き込んだ。

 

 一つの線へ指を置く。

 

「その先は、足元に気をつけろ。雨が降ると、土が崩れる」

 

「覚えとく」

 

 サーシェスは紙を畳んだ。

 

 八日目にも、新しい死骸は見つからなかった。

 

 九日目は、冷たい雨が降った。

 

 足跡が崩れ、夜の音が変わる。

 

 それでも、サーシェスは森へ入った。

 

 濡れた枝を押さえ、静かに抜ける。

 

 待った先には、獣の気配しかなかった。

 

     ◆

 

 クィレルは、鏡に映る自分の顔を見ていた。

 

 目の下が暗い。

 

 頬は、以前より薄くなっている。

 

 眠れば戻る疲れではなかった。

 

 魔導書は、使う者から対価を取る。

 

 呼び出した悪魔が消えても、差し出したものは返らない。

 

 命を支える力。

 

 これから生きるはずだった時間。

 

 クィレルは、自分の寿命を削っていた。

 

 あの夜に呼んだものたちは、確かに学校を混乱させた。

 

 しかし、そのために失ったものは、食事でも休息でも埋まらなかった。

 

 さらに、身体には主人がいる。

 

 自分一人のために使うはずの力を、一人だけで保っているのではない。

 

 机へ手をつくと、指が震えた。

 

「今夜も、行け」

 

 声がした。

 

 クィレルは目を閉じる。

 

「はい……」

 

 ユニコーンの血は、衰えた身体を繋ぎ止める。

 

 失った歳月を、何もなかったことにして返すわけではない。

 

 それでも、今を生きるためには必要だった。

 

 クィレルは外套を取り、フードを深く被った。

 

     ◆

 

 依頼を受けてから、十日目だった。

 

 雨は止んでいる。

 

 木の葉や枝から、まだ滴が落ちていた。

 

 サーシェスは、二つの通り道が近づくところで待っていた。

 

 その夜、先に聞こえたのは、白い獣の足音ではなかった。

 

 枝が折れる。

 

 遠くで、一度だけだった。

 

 サーシェスは動かなかった。

 

 次の音を待つ。

 

 何かが、斜面を下りている。

 

 ユニコーンなら通るところとは、少し違っていた。

 

 彼は木の陰から離れ、音のした方へ進んだ。

 

 先日ハグリッドへ聞いた斜面を避け、横から回る。

 

 湿った土に、跡があった。

 

 その先で、銀色のものが光った。

 

 血だった。

 

 サーシェスの口元から、笑いが消える。

 

 腰の銃へ手を掛けた。

 

     ◆

 

 白い身体が、木々の間へ倒れていた。

 

 そのそばに、黒いものがいる。

 

 フードを被った人型だった。

 

 屈み、ユニコーンへ顔を寄せている。

 

 サーシェスは、木の陰で足を止めた。

 

 闇の生物。

 

 校長の言葉が頭へ戻る。

 

 だが、腕の動きは人間に見えた。

 

 服も着ている。

 

 何をしているのか、もう少し見ようとしたとき、その頭が上がった。

 

 フードの奥が、こちらへ向く。

 

 サーシェスは銃を抜いた。

 

     ◆

 

 クィレルは、木の間に立つ男を見た。

 

 赤みのある髪。

 

 外套の下へ隠した武器。

 

 知っている。

 

 ダンブルドアが、森の警護に雇った男だった。

 

 スクイブ。

 

 杖は持っていない。

 

 クィレルは、口元の血を袖で拭った。

 

 厄介なものを見られた。

 

 だが、相手は魔法を使えない。

 

 杖を抜けば済む。

 

 そう思った時間が、あった。

 

 銃声がした。

 

 脚へ衝撃が来る。

 

 クィレルは、声を上げた。

 

     ◆

 

「人間なら、話は早えな」

 

 サーシェスが言った。

 

 撃たれた相手が、膝を折っている。

 

 その腕が外套へ入った。

 

 サーシェスは、もう一発撃つ。

 

 今度は、光へ当たった。

 

 弾が逸れる。

 

 杖だった。

 

 フードの下から伸びた手が、細い棒を握っている。

 

「魔法使いかよ」

 

 サーシェスは笑い、横へ動いた。

 

 光が来る。

 

 先ほどいた場所の枝が弾けた。

 

 彼は木の陰へ入る。

 

 そのまま撃てる相手ではなかった。

 

 しかし、先に脚を傷つけた。

 

 相手の動きは鈍っている。

 

 こちらを向く杖先から離れ、次の隙を取ればいい。

 

 サーシェスは、銃を構え直した。

 

 次の射撃も、光の盾へ弾かれる。

 

「そいつで、何でも止まるつもりか」

 

 彼はグレネードを取り出し、木の陰から投げた。

 

 クィレルが、飛んでくるものへ目を向ける。

 

 爆発が、夜の森を揺らした。

 

 土と枝が散る。

 

 フードの人物は、光の盾に包まれていた。

 

 爆発の直撃は、その防護に遮られた。

 

 だが、衝撃までは消えなかった。

 

 身体が浮く。

 

 クィレルは後方へ吹き飛ばされ、背中から地面へ落ちた。

 

 撃たれた脚を引きずり、湿った土の上を転がる。

 

「防いでも、そっちは残るか」

 

 サーシェスは口元を歪めた。

 

 盾が消えなくても、相手の身体は飛んだ。

 

 彼はその隙に位置を変え、煙の向こうへ銃を向ける。

 

 しかし、倒れた相手の手には、まだ杖があった。

 

 次の銃弾が届く前に、光の盾が張り直される。

 

 サーシェスは足を止めず、次の動きを探した。

 

     ◆

 

「何をしている」

 

 クィレルの内側へ、声が落ちた。

 

 冷たかった。

 

 脚が痛む。

 

 血を飲んだばかりの口へ、苦いものが込み上げる。

 

「申し訳、ありません……」

 

「スクイブごときに、何を手間取っている」

 

 クィレルは息を吸った。

 

 動かなければ、また撃たれる。

 

 けれど、脚へ体重を掛けると、身体が崩れそうになった。

 

「杖を使え。逃がすな」

 

 ヴォルデモートの声が命じた。

 

 クィレルは、歯を食いしばった。

 

 木の陰へ向けた杖が、止まる。

 

 見えている男だけを狙うのを、やめた。

 

 次の魔法が、周囲へ走った。

 

     ◆

 

 サーシェスが隠れた木の根元で、土が跳ねた。

 

 外套へ、小石が当たる。

 

 後ろへ退くと、頭の上で枝が落ちた。

 

 見えていないはずだった。

 

 だが、身を寄せた場所そのものへ、攻撃が来ている。

 

 サーシェスは横へ転がった。

 

 地面へ手をつく。

 

 起き上がる前に、次の光が通った。

 

 頬が熱くなる。

 

 切れていた。

 

「やってくれるじゃねえか」

 

 口元を歪める。

 

 相手は、倒れたユニコーンのそばから大きく動いていない。

 

 それでも、サーシェスが出られる場所へ、先に杖を向けていた。

 

 銃を撃つ。

 

 光に防がれた。

 

 次の一発を撃つ前に、枝の束が目の前を横切る。

 

 狙いが切れる。

 

 そこへ、別の呪文が来た。

 

 サーシェスは身体を捻った。

 

 肩へ衝撃が走る。

 

 背中から地面へ落ちた。

 

     ◆

 

 息が、出なかった。

 

 サーシェスは歯を食いしばり、腕を引いた。

 

 銃は、まだ手にある。

 

 泥を払う暇はなかった。

 

 木の陰へ這う。

 

 頭を出せば、そこへ来る。

 

 今度は、こちらが場所を選ばされていた。

 

 スクイブを侮った相手の間は、もう残っていない。

 

 戦い慣れている。

 

 遮るものへ働きかけ、次に動く先へ呪文を置く。

 

 サーシェスは、短く息を吐いた。

 

 今度は、スタングレネードを取り出した。

 

 木の向こうへ投げる。

 

 先ほどの爆発とは違う、眩しい閃光と激しい音が夜の森を破った。

 

 そこで初めて、呪文が途切れた。

 

 サーシェスは立った。

 

 走る。

 

 だが、背後から来た光が、足元を崩した。

 

 よろめき、別の木へ肩をぶつける。

 

 先ほどの一瞬だけでは、逃げ切れない。

 

 相手の姿を見た。

 

 フードは、まだ深く被られている。

 

 脚の辺りが濡れていた。

 

 血だ。

 

 それを見ても、今は笑えなかった。

 

 杖が、こちらへ向いている。

 

     ◆

 

 クィレルの息は、速くなっていた。

 

 地面へ、血が落ちる。

 

 脚を庇っているだけでは止まらない。

 

 ユニコーンの血を口にしたばかりでも、身体から流れ出るものを、そのまま補えるわけではなかった。

 

 目の前の男は、まだ銃を持っている。

 

 追い詰めた。

 

 あと少しだった。

 

 けれど、男は最後までこちらを見ていた。

 

 仕留めるために近づけば、また撃つつもりだ。

 

 クィレルは、震える脚へ力を入れた。

 

 身体が沈んだ。

 

 視界の端が暗くなる。

 

「退け」

 

 主人が言った。

 

 クィレルは、息を止めた。

 

「しかし……」

 

「この身体を失う方が、厄介だ。今は退け」

 

 生かして帰すことになる。

 

 見られた。

 

 撃たれた。

 

 それでも、今夜は終わらせなければならなかった。

 

 クィレルは杖を振った。

 

     ◆

 

 土と枯葉が、サーシェスの目の前へ吹き上がった。

 

 銃を向ける。

 

 何も見えない。

 

 彼はその場からずれ、次の攻撃を待った。

 

 来なかった。

 

 木々の間で、枝が揺れる。

 

 遠ざかっていく音だった。

 

 サーシェスは木へ手をつき、立ち上がった。

 

 追おうとして、肩に痛みが走る。

 

 息も、まだ十分に戻っていない。

 

 相手が通った場所には、点々と血があった。

 

 その先は暗い。

 

 追えば、また杖の届くところへ入る。

 

 サーシェスは、一歩で止まった。

 

 銃口を下ろさず、しばらく待つ。

 

 敵は戻らなかった。

 

「……見逃したつもりかよ」

 

 低く言った。

 

 顔に付いた血を、手の甲で拭う。

 

 取ったのは、最初の一発だった。

 

 その後は、押し返された。

 

 最後に自分が立っているのは、相手が退くことを選んだからだ。

 

 サーシェスは、暗い森を見た。

 

「次は、殺す」

 

 笑ってはいなかった。

 

     ◆

 

 森を出たとき、肩は重くなっていた。

 

 サーシェスはハグリッドの小屋へ寄らず、依頼を受けたときに教えられた連絡先へ向かった。

 

 まず、依頼主へ話す。

 

 しばらくして、ダンブルドアが現れた。

 

 外套に付いた泥と血を見る。

 

「話せるかの」

 

「ああ。二人だけで頼む」

 

 ダンブルドアは頷いた。

 

 サーシェスを連れ、城へ戻る。

 

     ◆

 

 校長室には、二人しかいなかった。

 

 ダンブルドアは、報告を途中で遮らなかった。

 

 椅子へ座ったサーシェスが、順に話す。

 

 十日間で確かめた活動範囲。

 

 今夜、そこへ混ざった足跡。

 

 倒れたユニコーンと、そのそばにいた人物。

 

 ダンブルドアが問いかけたのは、そこまで聞いてからだった。

 

「人型だったのじゃな」

 

「ああ。フードを被ってた。顔は見えねえ」

 

「声は?」

 

「何か言ってたが、まともに聞き取れなかった。木の向こうだったし、こっちもそれどころじゃなかったからな」

 

 サーシェスは、肩の位置を少し変えた。

 

「杖を使ってた。獣じゃねえ。魔法使いだ」

 

 ダンブルドアは続けた。

 

「戦いは、どう始まった」

 

「向こうが俺に気づいた。だが、動きが遅かった。こっちに杖がねえから、楽に片づくと思ったんじゃねえか」

 

 サーシェスは自分の銃を見た。

 

「脚を撃った。最初は、そのまま押せると思った」

 

「その後は?」

 

「押せなかった」

 

 はっきり言った。

 

「グレネードも使った。盾で直撃は防いだが、衝撃までは止められねえ。後ろへ吹っ飛んだ」

 

「その後も、反撃してきたのじゃな」

 

「ああ。倒れても杖を離さなかった。盾を張り直して、その後は隠れた場所ごと叩いてきた。次に出る方へ呪文を置く。こっちを見失っても、周りを使って動かしてくる」

 

 サーシェスは顔の傷へ指をやった。

 

「スタングレネードで、一度は攻撃が止まった。だが、それだけじゃ逃げ切れなかった」

 

 ダンブルドアの目が、肩の傷へ落ちた。

 

「追い詰められたのじゃな」

 

「ああ」

 

 サーシェスは、その目を見返した。

 

「慣れてるやつだ。杖を持ってるだけの素人じゃねえ。熟練の魔法使いだと見ていい」

 

     ◆

 

「ユニコーンの血を、飲んでいたように見えたかの」

 

 ダンブルドアが尋ねた。

 

「顔を寄せてた。口元を拭うところも見た。そう見えたぜ」

 

 ダンブルドアは、しばらく黙った。

 

 血を必要とする人型。

 

 杖を使い、実戦に慣れている。

 

 サーシェスを知っていた可能性もある。

 

 しかし、今の報告だけで、特定の人物へ結びつけることはできない。

 

 顔も、声も、確かめられていなかった。

 

 ダンブルドアは、サーシェスへ向き直った。

 

「相手が去ったのは、なぜだと思う」

 

「脚の血だろ。こっちが逃げたんじゃねえ。あっちが止めを刺さずに退いた」

 

 サーシェスの声が低くなる。

 

「俺も無傷じゃねえ。追える状態じゃなかった。だから、ここまでだ」

 

「それでよい。今夜分かったことは、十分に重要じゃ」

 

 ダンブルドアは頷いた。

 

「まずは治療を受けてもらおう。傷を残したまま、次を考えることはない」

 

 サーシェスは鼻で笑った。

 

「治すさ。次に撃つとき、腕が上がらねえんじゃ困る」

 

 サーシェスは暖炉へ目を向ける。

 

 火の向こうへ、フードの影が浮かぶ。

 

 名前は分からない。

 

 顔も分からない。

 

 だが、杖がこちらへ向く速さは覚えた。

 

 自分を追い込んだ手も、覚えている。

 

「今度は、先に退かせねえ」

 

 サーシェスは、銃を収めた腰へ目を落とした。

 

 あの盾は直撃を防いでも、爆発の衝撃までは消せなかった。相手が後方へ飛んだ姿を、サーシェスは覚えている。

 

 次は、その弱点を意識して装備を変える。

 

 片手で扱え、爆発の衝撃で、盾に守られた相手の姿勢も崩せる武器。次は、それを用意する。

 

 今夜、持参したものだけでは相手を崩し切れなかった。次も同じ装備で、同じように止められるつもりはない。

 

 手配するものを頭の中で決めてから、サーシェスは顔を上げた。

 

 ダンブルドアは立ち上がった。

 

「今夜の報告は、わしのところへ留めておいてほしい」

 

 サーシェスが顔を向ける。

 

「ハグリッドにもか?」

 

「うむ。彼には、まだ相手が分からぬと伝えておく」

 

 サーシェスは、しばらく校長を見た。

 

 それから、口の端を上げた。

 

「依頼主がそう言うなら、俺から話すことはねえよ」

 

「頼む」

 

 治療の手配を済ませ、ダンブルドアは窓へ目を向けた。

 

 森は暗かった。

 

 そこにいるものが、杖を使う熟練の魔法使いだと、今は知っている。

 

 ハグリッドは、知らない。

 

 ハグリッドは、信頼できる男だった。だが、秘密を守ろうとする気持ちと、話の途中で口を滑らせないことは、別だった。

 

 案じるあまり誰かへ話し、尋ねられてつい答えることもある。相手の顔も名前も分からぬ今、断片だけが広まれば、憶測も一緒に広がってしまう。

 

 調査で何が分かったか、敵の耳へ届くことも避けたい。

 

 そのために、今夜の詳しい報告は知らせない。

 

 サーシェスが持ち帰った情報を、ダンブルドアは自分の中へ収めた。

 

     ◆

 

 翌日、ハグリッドは調査の進み具合を尋ねた。

 

 ダンブルドアは、いつもの穏やかな顔で答えた。

 

「まだ、何が襲っておるのか分からなんだ。調査は続けてもらう」

 

「そうか……。早く分かればいいんだが」

 

 ハグリッドは、森の方を見た。

 

 サーシェスが人型の魔法使いと戦い、追い詰められたことは、知らされなかった。

 

 その報告を受け取ったのは、ダンブルドア一人だった。

 

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