神殺し、墓場より還りしもの   作:ちじさん

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食卓の端に、望みが座る

 

第九十八話 食卓の端に、望みが座る

 

 ダンブルドアが立ち上がった。

 

 ハリーは、教師のテーブルへ顔を向けた。

 

 帽子は、もう見えない。

 

 近くの生徒たちはまだ小声で話していたが、校長が両手を広げると、その声も少しずつ収まった。

 

 新しい一年を迎える言葉が、大広間へ響く。

 

 歓迎の挨拶は短かった。最後に、意味のよく分からない言葉がいくつか続き、ハリーは隣のロンを見た。

 

 ロンも眉を上げている。

 

 ダンブルドアが座ると、空だった大皿に料理が現れた。

 

 ハリーは口を開けた。

 

 焼いた肉。山盛りのジャガイモ。湯気の立つ野菜。

 

 ついさっきまで銀色の底が見えていた場所に、料理が載っている。

 

 肉汁の匂いが鼻へ届いた。

 

「ほら、言っただろ」

 

 ロンが皿を寄せた。

 

 舟の中で聞いた食事の話を、ハリーは思い出した。

 

 こんな量だとは思っていなかった。

 

 向かいのキーノが、近くの大皿を見ている。

 

「本当に、急に出てきた」

 

 目の前へ手を出しかけ、それから取り分け用の匙を見つけた。

 

 鬼太郎はその隣で、料理とテーブルを見比べていた。

 

「どこかで作ったものを、こちらへ運んでいるのでしょうか」

 

「後にしろ。冷める」

 

 キーノが言う。

 

「そうですね」

 

 鬼太郎は微笑んで、肉を一切れ取った。

 

 ハリーも皿へ料理を載せた。

 

 一つ選ぶと、隣にも食べたいものがある。

 

 ジャガイモを取った後で、ソーセージを足した。

 

 誰も、皿から減らせとは言わなかった。

 

     ◆

 

 キーノは、切り分けた肉を口へ運んだ。

 

 表面に香ばしさがあり、噛むと肉汁が出る。

 

 隣の鬼太郎が、野菜の皿を彼女の手の届くところへ寄せた。

 

 キーノは頷き、そちらからも少し取った。

 

 大広間には、食器の音が増えていた。

 

 料理の皿が回る。杯が持ち上がる。知り合い同士が、夏に何をしたか話している。

 

 自分たちの近くでは、別の話が続いていた。

 

「ポッターが、こっちに来たんだぞ」

 

「帽子、随分考えてたよな」

 

「最後の子のときは、煙が出てた」

 

 キーノは、声のする方へ目を向けた。

 

 少年が一人、鬼太郎を見ていた。

 

 こちらと目が合うと、すぐ皿へ顔を戻す。

 

 別の生徒も、その先から覗いていた。

 

 本人へ聞けばよいのに、誰も近づかなかった。

 

 ハリーには、声が掛かる。

 

 同じ寮になってよかったという言葉と、帽子に何を言われたのかという質問があった。

 

 ハリーは一つずつ返事をしていたが、組分けの話では少し口ごもった。

 

 鬼太郎は食事を続けていた。

 

 視線には、気づいているだろう。

 

 見られたときに顔を上げることはあっても、自分から遠くの生徒へ説明に行こうとはしなかった。

 

「気になるらしいぞ」

 

 キーノが小声で言った。

 

「そうでしょうね」

 

 鬼太郎は肉を切った。

 

「尋ねられたら、お答えしますよ」

 

「尋ねに来ないが」

 

「今は、それも分かります」

 

 キーノは彼の顔を見た。

 

 怒っている声ではない。

 

 気を遣って話しかけないのか、怖がっているのか、それぞれ違うのだろう。

 

 隣の席を空けるつもりはなかった。

 

 キーノは皿へ目を戻し、ジャガイモを切った。

 

     ◆

 

 ハリーは、組分けのときに何を言われたか、ロンへ少し話した。

 

「スリザリンでも、やっていけるって」

 

 ロンの手が止まる。

 

「でも、嫌だったんだ。だから、そう思ってた」

 

「帽子に言ったの?」

 

「頭の中で。でも、分かったみたい」

 

 ハリーは鬼太郎を見た。

 

 彼も、話を聞いていた。

 

「僕には、行きたいところを聞いてくれたんだ。君のときも、そうしてくれればよかったのに」

 

「そうですね。お話だけで決めていただければ、助かりました」

 

 鬼太郎は答えた。

 

 ロンが、口の中のものを飲み込む。

 

「本当に、キーノと同じでって頼んだだけなのか?」

 

「寮については、そうです」

 

 鬼太郎はキーノへ目を向けた。

 

「知っている方がいる場所なら、過ごしやすそうですから」

 

「なら、僕たちもいるよ」

 

 ロンが言った。

 

 ハリーも頷いた。

 

 鬼太郎は二人を見て、微笑んだ。

 

「ええ。同じになりましたね」

 

 その返事の途中で、赤毛の頭が二つ近づいてきた。

 

「ここ、少し詰めてくれないか」

 

「今夜の主役が二人もいるのに、遠くから見てるだけじゃつまらない」

 

 ロンが顔を上げた。

 

「兄貴たち」

 

 フレッドとジョージだった。

 

     ◆

 

 双子は近くの生徒へ声を掛け、少しずつ場所を動かしてきた。

 

 一人がロンの横に、もう一人が通路側へ腰を下ろす。

 

 ハリーは二人の顔を見比べた。

 

 ホームでトランクを持ち上げてくれたときと同じように、似ていた。

 

「まず、ハリー。よくこっちへ来てくれた」

 

 片方が言った。

 

「スリザリンへ行ってたら、ロンが晩飯を食えなくなるところだった」

 

「食べるよ」

 

 ロンが言い返す。

 

「たぶん食べるな」

 

 もう一人が、彼の皿を見た。

 

「悲しみながら、おかわりもする」

 

 ハリーは笑った。

 

 ロンは皿を自分の方へ引いた。

 

 双子の目が、鬼太郎へ向く。

 

「それから君。キタロウでいい?」

 

「ええ。墓場鬼太郎です」

 

「僕はフレッド」

 

「僕がジョージ。あいつが変なことを言ったら、僕のせいにしないでくれ」

 

「その逆もね」

 

 鬼太郎は順に顔を見た。

 

「よろしくお願いします。フレッドさん、ジョージさん」

 

「で、帽子には何をしたんだ?」

 

 フレッドが、すぐ本題へ入った。

 

「あんな組分け、初めて見たよ」

 

「火を出したわけじゃないよな。杖も使ってなかったし」

 

 ジョージは鬼太郎の手元を見た。

 

 怖がって近づけない様子は、二人ともなかった。

 

 鬼太郎は食事の手を止めた。

 

「心の中を見せてほしいと言われたので、お断りしました。それでも入ってきたんです」

 

 双子の笑みが、少し変わった。

 

「帽子が?」

 

「ええ」

 

「それで、煙が出た」

 

 ジョージが腰掛けのあった方へ目を向けた。

 

 鬼太郎は頷いた。

 

「僕は、何かをしようとしたわけではありません。何を見てああなったかは、帽子に聞いていただかないと」

 

「心を読む方が、負けたのか」

 

 フレッドが言った。

 

 ジョージが兄弟へ目を戻す。

 

「来年から、『被るだけです』って説明にも注意が要るな」

 

「場合によっては、帽子が先に助けを求める」

 

 ロンが呆れた顔をした。

 

「笑い事じゃないだろ」

 

「本人が嫌だったなら、そこは別だよ」

 

 フレッドは鬼太郎を見た。

 

「勝手に覗かれたんだろ?」

 

「それは、不快でした」

 

 鬼太郎は素直に答えた。

 

「でも、どう入ってくるかを知れたのは、役に立ちます。初めてでしたから」

 

 フレッドとジョージが、顔を見合わせる。

 

「収穫があったって顔だ」

 

「さっきからそうだ」

 

 キーノが言った。

 

 鬼太郎は彼女へ目を向け、穏やかに笑った。

 

 フレッドがテーブルへ肘を置く。

 

「面白い一年になりそうだな」

 

「帽子には災難だったけど」

 

 ジョージが続けた。

 

 近くで小さな笑い声が起きた。

 

 それでも、鬼太郎へ直接質問を重ねる者は、ほかにはいなかった。

 

 遠くから聞き耳を立てていた生徒が、料理を取り分けるふりをしていた。

 

 鬼太郎はその手を一度見て、食事へ戻った。

 

 双子も大皿から肉を取る。

 

 話が終わったからといって、すぐ席を離れるつもりはないらしかった。

 

     ◆

 

 ハリーの皿が、ようやく半分ほどになった頃だった。

 

 半透明の顔が、テーブルの近くへ現れた。

 

 襞の多い襟と、古風な服を着ている。

 

 幽霊は料理を見て、小さく息をついた。

 

「よい香りなのだろうね」

 

 ハリーはフォークを下ろした。

 

「食べられないんですか?」

 

「残念ながら。眺める楽しみだけは、残っているが」

 

 幽霊は、皿の向こうへ少し身体を下げた。

 

 食器に触れることなく、その輪郭が銀色の縁を通り抜ける。

 

 それから姿勢を戻し、一年生を見渡した。

 

「さて、新しい仲間たちに挨拶をしよう。私はサー・ニコラス。この寮の幽霊だ。困ったことがあれば、声を掛けてくれたまえ」

 

「ほとんど首なしニックだよ」

 

 ロンがハリーへ小声で言った。

 

 幽霊が、そちらを向いた。

 

「その呼び名を使う者も、いる」

 

 言い方に、少しだけ不満があった。

 

「ほとんどって、どういうこと?」

 

 ハーマイオニーが尋ねた。

 

 ニックは彼女を見た。

 

「こういうことだ」

 

 頭へ手を添え、横へ倒した。

 

 首のところが開く。

 

 頭が肩の方へ傾き、僅かにつながった部分だけが残っていた。

 

 ハリーは息を呑んだ。

 

 キーノも手を止める。

 

 近くの生徒が顔を背け、別の生徒は声を漏らして笑った。

 

 ニックは慣れた手つきで頭を戻した。

 

「まったく、斧の切れ味が悪かったばかりに」

 

 襟を直すように、指を動かす。

 

 鬼太郎は、その首を見ていた。

 

     ◆

 

 壁を通り抜ける身体が、そこだけつながっている。

 

 鬼太郎は、ニックの頭が元の位置へ戻るところまで見た。

 

 見える形と、ものに触れる働きは、同じではないらしい。

 

 布であれば、糸を切ればよい。

 

 だが、目の前にいるものは、皿も椅子も通り抜ける。刃物を持ってきて、同じように当てられるのか。

 

 死んだときの姿が残っているなら、その形を変えるものは何だろう。

 

 分からなかった。

 

 分からないことが、面白かった。

 

「ニックさん」

 

 呼ぶと、幽霊がこちらを向いた。

 

「今度、その首の状態を、詳しく調べさせていただいてもよろしいですか」

 

 ニックの動きが止まった。

 

「この首を?」

 

「ええ。お皿を通り抜ける身体なのに、首は一部がつながったままなので。どのような仕組みなのか、気になります」

 

 鬼太郎は、自分の首の後ろへ指を添えた。

 

「ここを完全に切り離せるのかも、知りたいですね。何を使えば触れられるのか、今はそれも分かりませんが」

 

 ハリーが鬼太郎を見た。

 

 ロンは、フォークを皿へ置いた。

 

「君、今度は幽霊の首を切るつもりなのか?」

 

「切れるかどうかを、調べたいんです。今ここで、何かをするつもりはありませんよ」

 

 鬼太郎は答え、ニックへ顔を戻した。

 

「もちろん、嫌でしたらお断りください。どうやって調べるかも、先にお話しします」

 

 帽子とは、違う順番にする。

 

 相手の返事を聞く。

 

 それから、何をするか決めればよかった。

 

 ニックは黙っていた。

 

 驚いているのは分かる。

 

 だが、嫌悪する顔ではなかった。

 

     ◆

 

 ニックは少年を見た。

 

 先ほど、帽子を被っていた子供だ。

 

 あの異常は、自分も見ていた。

 

 だからこそ、話しかけられたときには、少し身構えた。

 

 今の申し出には、さらに戸惑った。

 

 この首を、詳しく調べたい。

 

 首を、完全に切り離せるか。

 

 その言葉を、もう一度頭の中で並べた。

 

 新入生の前で首を倒すと、笑われることが多かった。

 

 怖がる者も、気味悪そうに目を逸らす者もいる。

 

 長く暮らせば顔見知りも増えたが、この首の話になると、冗談や、どうにもならないものとして流されてしまいがちだった。

 

 この少年は、どうなっているのかを見ていた。

 

 嫌だとも、笑えるとも言わなかった。

 

 変えられるのかと尋ねた。

 

 そして、こちらの許可を待っている。

 

「君は……本当に、調べるつもりなのかね」

 

「お許しいただければ。幽霊については、まだ知らないことばかりですから、すぐ答えが出るとは思いません」

 

 少年の返事は、落ち着いていた。

 

 できると請け合って、後で笑う調子ではない。

 

 ニックは、自分の襟へ触れた。

 

「この僅かなつながりのせいで、できないことがあるのだよ」

 

「どのようなことですか」

 

 また、真面目に尋ねられた。

 

 ニックは少し姿勢を正した。

 

「完全に首が離れた幽霊たちの集まりがある。首なし狩りというのだがね。頭を外して行う競技もあるのだ」

 

 少年は頷いた。

 

 ニックは続けた。

 

「私は、それへ参加したい。ところが、これがついているばかりに、資格がないと言われる」

 

 そう話すときは、つい語気が強くなる。

 

 あと少しではないか。

 

 そのあと少しが、いつまでも残っている。

 

 少年は首のあたりを見てから、ニックの目へ視線を戻した。

 

「では、切り離せるかどうかは、ニックさんにとっても大事なことなのですね」

 

「そうなのだ」

 

 ニックの声が、少し大きくなった。

 

 近くの生徒が振り返る。

 

 彼は一度、声を落とした。

 

「そうなのだよ」

 

 今度は、ゆっくり言った。

 

 自分の長い不満が、笑い話にならずに届いていた。

 

 少年がなぜ調べたいのかは、先ほど聞いた。

 

 仕組みが気になるのだと言う。

 

 それでも、この悩みへ真っ直ぐ目を向けてくれたことが、ニックには嬉しかった。

 

「よろしい。観察し、話を聞くところからなら、ぜひ頼みたい」

 

 ニックは胸を張った。

 

「その先で何かを試すときには、先に説明してくれたまえ」

 

「承知しました。今日はお話を伺うだけにしますね」

 

「ああ。君たちは、今夜は食事を楽しむとよい」

 

 言ってから、まだ名を尋ねていないことに気づいた。

 

「君の名前を、もう一度教えてもらえるかね」

 

「墓場鬼太郎です」

 

 ニックはその名を繰り返した。

 

 外国の名だったが、忘れないと思った。

 

「ありがとう、鬼太郎。私はこの城にいる。時間ができたら、呼んでくれたまえ」

 

 声には、さっきまでとは違う張りがあった。

 

 襟を整える必要などないのに、もう一度整えた。

 

 首は、まだ同じままだった。

 

 それでも、今夜は、いつものように笑われて終わらなかった。

 

     ◆

 

 ニックがほかの生徒へ挨拶するため離れると、キーノは鬼太郎を見た。

 

「嬉しそうだったな」

 

「切り離したかったのですね。お互いに、調べる理由がありました」

 

 鬼太郎は食事へ戻った。

 

 キーノはニックの姿を追った。

 

 少し先で、別の一年生へ話しかけている。

 

 先ほどより、動きが弾んで見えた。

 

「帽子がああなった後に、よく別のものを調べる気になるな」

 

「同じ仕組みではないかもしれません。実際に確かめられる相手がいるのは、ありがたいですよ」

 

「お前は、食事の途中でもそれか」

 

 鬼太郎が、皿を見た。

 

「そうでした。冷めますね」

 

 キーノは呆れて、小さく息をついた。

 

 フレッドとジョージが、向こうから身を寄せる。

 

「ニックがあんな顔をするの、初めて見た」

 

 フレッドが言った。

 

「首の話で、機嫌がよくなったぞ」

 

 ジョージも、幽霊の方を見ている。

 

「君にとっては、首を切れるか確かめたいっていうのが、普通の質問なんだな」

 

「相手によりますよ。ご本人が望まないなら、調べません」

 

 鬼太郎は答えた。

 

 双子はまた顔を見合わせ、笑った。

 

 ロンは鬼太郎と、離れていくニックを交互に見た。

 

 何か言いたそうだったが、結局、大皿へ手を伸ばした。

 

 その手がキーノの前で止まる。

 

「これ、もう取った?」

 

「まだだ」

 

「食べる?」

 

「ああ。少し」

 

 ロンは皿を寄せた。

 

 キーノが取り分けて戻すと、彼は頷いてから、自分にも同じものを取った。

 

 鬼太郎は二人の手元を見て、少し微笑んだ。

 

 キーノは気づき、目を細める。

 

「何だ」

 

「いえ。こちらの料理も、よさそうですね」

 

「欲しいなら取れ」

 

 彼女が大皿を寄せた。

 

 鬼太郎は礼を言って、匙を取った。

 

     ◆

 

 ハリーは、満腹になるまで食べた。

 

 それでも料理が片づき、代わりに甘いものが現れると、もう少しなら入る気がした。

 

 パイを切り、皿へ載せる。

 

 キーノは、いくつもの菓子を見比べていた。

 

「全部は無理だ」

 

 独り言のように言う。

 

「明日も、食事はあるよ」

 

 ハリーが言った。

 

 キーノは彼を見た。

 

「同じものも、出るだろうか」

 

「それは分からないけど」

 

 ハリーは笑った。

 

 鬼太郎は、彼女の皿へまだ何も載っていないのを見た。

 

「少しずつ取れば、二つくらいは試せそうですね」

 

「三つだ」

 

「では、三つ」

 

 鬼太郎が答えた。

 

 キーノは小さく切り分け、皿へ並べた。

 

 周囲では、家族や、前の学校の話が始まっていた。

 

 ネビルが、家族から魔法の才能を心配されていた話をする。ハリーは聞きながら、学校へ来るまでにも、人によって違う苦労があるのだと思った。

 

 ハーマイオニーは、上級生から授業について聞いていた。

 

 鬼太郎へ直接話しかける者は、双子を除けば、相変わらず自分たちだけだった。

 

 食べ物が回ってきても、皿を渡す手だけが伸びる。

 

 ハリーは、鬼太郎の前を空けておくようにしている生徒を見た。

 

 あの煙を見たのだから、気になるのは分かる。

 

 自分も、何が起きたか分かってはいなかった。

 

 だが、汽車で話した相手が、席へ着いた途端に知らない者へ変わったとは思えなかった。

 

「キタロウ、このパイもおいしいよ」

 

 ハリーは大皿を示した。

 

 鬼太郎が顔を向ける。

 

「ありがとうございます。少し、いただきますね」

 

 それだけの会話を、近くの生徒が聞いていた。

 

 ハリーは自分の皿へ戻った。

 

 甘いものを食べながら、教師のテーブルを見上げる。

 

 ダンブルドアが、隣の魔女と話している。

 

 ハグリッドも席に着いていた。

 

 その少し先に、ターバンを巻いたクィレルが見えた。

 

 別の教師へ、背中の方を向けている。

 

 黒い髪の教師が、こちらを見た。

 

 その瞬間、ハリーの額に痛みが走った。

 

 鋭かった。

 

 持っていたフォークを下ろし、額を押さえる。

 

「ハリー?」

 

 ロンが顔を向けた。

 

 ハリーは教師の方を見た。

 

 痛みは、もう引いていた。

 

「傷が、痛くなった」

 

「今?」

 

「うん。でも、もう大丈夫」

 

 鬼太郎も彼を見ていた。

 

「続くようなら、先生に伝えた方がよさそうですね」

 

 ハリーは頷いた。

 

 その先で、黒髪の教師は視線を外していた。

 

 なぜ痛んだのかは、分からない。

 

 ハリーは、近くにいた監督生へ尋ねた。

 

「あの先生は、誰ですか?」

 

 パーシーが顔を上げる。

 

 指した先を見て、スネイプ先生だと教えた。魔法薬学を担当しているという。

 

 ハリーは名前を覚えた。

 

 鬼太郎も、その教師へ一度目を向けた。

 

 それからハリーの額を見る。

 

 傷に変化は見えなかった。

 

 今の席から、それ以上のことは分からない。

 

 ハリーは手を下ろし、皿へ目を戻した。

 

     ◆

 

 甘い料理も、少しずつ減っていった。

 

 キーノは三つ目の菓子を食べ終え、杯へ手を伸ばした。

 

 もう、お腹はいっぱいだった。

 

 湖の上で不安になっていたときには、今夜、こんなに食べることになるとは思っていなかった。

 

 鬼太郎が隣にいる。

 

 ハリーとロンも、向かいに座っている。

 

 話しかけてきた双子の名前も、覚えた。

 

 ハーマイオニーは近くで、本に載っていなかった授業の話を聞いている。ネビルは、ヒキガエルを逃がさないようポケットのあたりを確かめていた。

 

 誰もが同じように自分を見るわけではない。

 

 鬼太郎を見る目も、それぞれ違う。

 

 それでも、自分はこの席で食事をした。

 

 明日会ったら声を掛けると言ってくれた相手が、今夜も同じところにいる。

 

 キーノは杯を置いた。

 

「おいしかったな」

 

 鬼太郎へ言う。

 

「ええ。明日も、楽しみですね」

 

 彼が答えた。

 

 遠くで、ニックがこちらを見ていた。

 

 目が合うと、幽霊は胸へ手を添え、きちんと会釈した。

 

 鬼太郎も返す。

 

 キーノは二人を見て、少し笑った。

 

 教師のテーブルで、椅子が動いた。

 

 ダンブルドアが立つ。

 

 食器の音が、少しずつ静まっていった。

 

「さて。休む前に、いくつか伝えておこう」

 

 キーノは顔を上げた。

 

 まだ行ったことのない寮の部屋が、この城のどこかで待っている。

 

 食事の終わった席から、今度はそこで過ごすための話を聞いた。

 

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