翌日から、友人は今までの振る舞いは何だったのか、と言いたくなるほどに真面目に執筆を始めた。
まあ何でも良いよ、俺もこの期間にしっかり書きたい所だったからな。もっとも、晩飯を食った後に俺のゲームを眺める時間は譲らなかったが……。
友人はダイニングテーブルに陣取り、ノートパソコンに向かってカタカタと音を立てている。俺は向かいに座って自分の原稿用紙を広げた。リモートでやりとりしている編集から先週催促が来ていた短編の続きを片付けなければならない。
しばらくの間、部屋には2人分のキーボードの音と、ペンが紙を走る音だけが響いた。
無人の世界に2人きり。静寂を苦にしないで済む相手というのは、案外貴重かもしれない。
「ねえ」
「なんだ」
「君って執筆中、何か飲む?」
「コーヒーあるなら貰う」
「了解」
友人は立ち上がり、キッチンでコーヒーを2人分淹れて戻ってきた。俺の前にマグカップを置いて、自分の席に戻る。また、キーボードの音が再開する。
悪くない時間だ、と思う。認めたくはないが。
昼飯は俺が作り、食い終わったらまた2人で向き合って書いた。夕方になると友人が煮詰まったらしく、うーうー唸り始める。
「どうした」
「展開が上手く転がらない」
「声に出してみろ、話聞いてやる」
「良いの?」
「原稿から逃げたい気分だし、丁度いい」
友人はぱっと顔を上げ、現在書いている話の粗筋を語り始めた。俺は相槌を打ちながら聞く。こうやって友人の話を聞いていると、コイツが何故売れているのかは素直に理解できる。話の構造を直感で掴む力が昔から異様に高いのだ。
足りないのは、現実の解像度だ。
「その場面、主人公が何を失うのかがまだ曖昧だろ。読者が痛みを感じるのは喪失の輪郭がはっきりした時だからな」
「……あ」
友人の目が変わった。
「なるほど……ちょっと待って、書いてくる」
バタバタとパソコンに戻る友人を見送りながら、俺は自分の原稿に目を落とした。
晩飯を食った後は、約束通り友人が俺の後ろに陣取ってゲームを眺める時間になる。コイツは執筆中とは打って変わって喋り倒すし、茶々も入れてくるが……まあ、悪くはない。
そんな日が、3日続いた。
5日目。俺が短編の佳境でヒイヒイ言ってる間にコイツは1冊分の原稿を書き上げてしまったらしい。筆が早い。
「……凄いなお前」
「まぁーねー。これでも売れっ子作家様ですから」
ドヤ顔で友人が腕を組む。
そのまま提出出来るかはともかく、筆がノれば仕事が早いのはコイツの明確な強みだと思う。俺も鍛えねば。
「そっちはどんな感じ?」
「佳境を乗り越えたらエピローグ入ってオチを付ける段階」
「じゃあもうすぐだね、完成したら僕に見せてよ。僕の原稿も見せてあげるからさ」
「完成したらな」
それからさらに数時間。俺は唸りながら、削りながら、付け足しながら、ようやくエピローグの最後の一文を書き終えた。
ペンを置いて、大きく息を吐く。
「……終わった」
「お、マジで?!」
向かいでぼんやりしていた友人が身を乗り出してきた。
「見せて見せて!」
「待て、自分でもう一回読む」
「えーー」
友人の抗議を無視して、俺は最初から原稿を読み返した。佳境の緊張感、エピローグの余韻。悪くない。自分で言うのもなんだが、この経費期間で一番集中して書けた気がする。
「……よし」
原稿を友人の前に滑らせた。友人は前のめりになって読み始める。
部屋が静かになった。友人が原稿を読む時は本当に静かになる。ゲームを見ている時の賑やかさが嘘みたいだ。
数分後、友人はゆっくりと顔を上げた。
「……良いじゃん」
「そうか」
「良いじゃん、じゃないか。すごく良い。このオチ、読者刺さると思う」
友人の目が真剣だった。お世辞を言う時のコイツとは明らかに違う目だ。これが売れっ子作家としての目なのだろう。新たな一面を見た気がする。
「……ありがとな」
「素直に受け取れるようになったじゃん」
「うるせえ。そっちも見せろ」
「はいはい」
友人はパソコンを俺の方に向けた。俺は画面を覗き込んで、読み始める。
成る程。あの日、展開について話し合った場面が、ちゃんと形になっていた。主人公の喪失の輪郭が、くっきりと描かれている。
「……上手いな、やっぱり」
「でしょ?あそこのアドバイスが効いたんだよね」
「お前の実力だろ」
「2人の合作だよ」
友人はにこにこしながらそう言った。俺はそれには答えずに、パソコンを友人に返した。
残り2日。この経費期間も、あと少しで終わる。
6日目。お互い持ち込んだ仕事を終わらせたのだが、友人が「一応今回の経費の名目が共同制作なんだからそれっぽい事しよーよ」と言い出した。
まあ……初日の様にゲームしているよりはよっぽど生産的なので俺も付き合うことにした。
とはいえ、学生がノートに書き散らすような妄想をお互いに見せながら、まとまり無く広げる……その程度の遊びの様な物だが。
「じゃあ俺から。異世界に転移した主人公が現地の魔術を体系化して産業革命を起こすやつ」
「あー、それ系ね。でも産業革命って結局何が面白いの?」
「力学的なエネルギーの置き換えが起きる瞬間だろ。人間や馬がやってた事を蒸気がやり始める。その転換点に立ち会う話が書きたい」
「ふーん……じゃあ魔術で蒸気を作るんじゃなくて、蒸気で魔術を動かす方向にしたら?逆転させるの」
「……あ、それ面白いな」
「でしょ?はい次、僕の番。幽霊が主人公なんだけど自分が幽霊だと気づいてない系」
「ありきたりだろ」
「最後まで聞いてよ。気づいてないんじゃなくて、気づきたくないの。薄々分かってるけど認めたら消えちゃう気がして、必死に生きてるふりをしてる話」
俺はしばらく考えた。
「……それ、ホラーじゃなくて純文学になるな」
「そう!そうなの!分かる?!」
「オチをどこに持っていくかで全然変わる話だな。消えることを受け入れるのか、生き続けることを選ぶのか」
「どっちが良いと思う?」
「お前はどっちが書きたいんだ」
「うーん……」
友人は天井を見上げてしばらく黙り込んだ。こういう顔をしている時のコイツは本当に作家の顔をしている。
「消えない方かな。誰かに気づいてもらって、それでも此処に居て良いって言われる話が書きたい」
「そうか」
「……なんで君って、そういう時に何も言わないの」
「お前が書きたい話だから、口出す必要が無い」
「ふーん」
友人は少し照れたように視線を逸らして、またノートに何かを書き始めた。
こういう時間が、俺は嫌いじゃない。お互いの頭の中を覗き合うような、学生時代の放課後みたいな時間。あの頃は2人ともまだ何者でもなかったが、今も本質的にはあまり変わっていない気がした。
「ねえ、さっきの産業革命の話さ」
「なんだ」
「2人で書いてみる?本当の意味での共同制作」
俺は手を止めた。
「……経費の名目と合致するな」
「そういう事!」
「まあ、アイデア出しだけならな」
「やったー!」
友人はノートを俺の方に向けた。そこには既に、さっきの会話の要点がびっしりと書き込まれていた。
「……お前、最初からそのつもりだったろ」
「ふふふ」
「答えろ」
「ふふふふふ」
カスがよ、と思いながら、俺も自分のノートを開いた。
そうやってとりとめのない話をしながら話のアイディアや世界観を広げてはノートに書き残していると、異変が起きた。
玄関のインターホンが、鳴ったのである。
「……誰だ?お前心当たりあるか?」
俺は友人の顔を見る。が、友人は何も心当たりが無いらしく、青い顔を横に振るばかり。
もう一度インターホンが鳴った。
「ひうっ」
友人は心霊現象に遭遇したかのようにすっかり縮み上がってしまった。
「お前なあ……真っ昼間だぞ」
「だって経費時間中だよ!?誰が僕らを訪ねに来るのさっ」
「知らねえけど。訪問販売はあり得ないんだから居留守は駄目だろ」
「無理!君が出てくれ!」
「しょーがねー家主だなぁ」
俺は腰を上げて玄関へと向かう。
俺の賃貸マンションと違って、随分と進んでいるのがコイツの家である。わざわざドアの覗き窓を覗かなくてもカメラで確認出来るのだ。
どうも玄関口に立っているのは公務員の様な背広の男である。訪問販売ではなさそうだ。
「どちら様でしょうか?」
『私は時務局の者です』
時務局と言えば、確か友人が経費時間の申請をしてきた組織ではないだろうか。友人の奴、まさか睨まれてるんじゃないだろうな……?
「不正はしてませんが」
『ああ、そう警戒しないで下さい。どちらかと言えば、組織に"不正は無かった"と報告するための形式的な調査の様なものです』
形式的な調査、ね。
どう考えても形式的な調査をわざわざ経費時間の中に割り込んできてやる組織というのは、形式的とは程遠い気がしてならないのだが。
「……少々お待ちください」
俺はインターホンから離れてリビングに戻った。友人はテーブルの陰に半分隠れるようにしてこちらを見ている。
「時務局だってよ」
「やっぱりぃぃぃぃ」
「形式的な調査らしいが」
「ぜったい嘘だそれ」
「俺もそう思う」
2人でしばらく顔を見合わせた。
「どうする」
「どうするって……逃げられないよね、経費時間中だし」
「うちの担当編集みたいなもんかもしれないだろ。腹を括れ」
「うぅ……分かった」
友人はのろのろと立ち上がり、服の裾を整えた。それから深呼吸を一つ。こういう時だけ妙に様になるんだよなコイツ。
「じゃあ、開けよう」
「ああ」
俺はドアを開けた。
俺達はリビングのテーブルを挟んで時務局の者に向かい合っていた。
「あ、あのー……前回僕が経費時間を申請した時はこんな事無かったんですけど」
友人がおずおずと尋ねる。
「ええ、普段はこの様に経費時間の最中に訪ねることは有りません。が、今回はそちらの方が貴方の推薦という形で参加しているので……」
そう言いながら時務局の人間は俺の方をチラリとみた。悪かったな実績の無い作家で。
「そう言う訳で経費時間の悪用がされてないか、名目と離れた実態になっていないか、形式的な確認をしに来た訳です」
時務局の男は鞄から書類を取り出してテーブルに広げた。申請書のコピーらしい。
「えー……申請内容は『新作として共同制作を考えていて、その打ち合わせの時間を作りたい』とありますが」
「はい」
友人が緊張した面持ちで答える。
「実際に共同制作の作業は行われていますか?」
「あ、はい!今日も2人でアイデア出しをしてて……」
友人が慌ててノートを差し出そうとする。時務局の男はそれを軽く手で制した。
「結構です。詳しく拝見する必要はありません。ただ、念のため確認させてください。お二人の関係性は?」
「えっ」
「学生時代からの友人です」
俺が素早く答えると、男はメモを取った。
「なるほど。では、この1週間の過ごし方について簡単に教えてください」
「1週間……ですか」
「ええ。起床から就寝まで、どのように時間を使われましたか」
友人と俺は顔を見合わせた。これは……どこまで正直に答えるべきなのか。
「朝は俺が朝食を作って、それから午前中は2人で執筆作業をして……」
「お昼も彼が作って」
「昼食後もまた執筆。夕方ぐらいに煮詰まったら話し合いをして……」
「夜は晩御飯食べて、ゲームしたり」
「ゲーム、ですか」
男がペンを止めた。
「は、はい……息抜きというか」
「なるほど。では、そのゲームも作品制作に関連するものですか?」
「え、あ、えーっと……」
友人が言葉に詰まる。俺は少し考えてから口を開いた。
「物語の構造を学ぶためにゲームを遊んで、それを友人が観察する形でした」
「……ほう」
男は俺をじっと見た。その視線には、何か探るような色があった。
「ああ、私の事を敵のように思わないでください。ただ、経費時間はその性質上、警察や救急の手が届かない事態になりやすい。そういった事が起こらないかどうかを確かめているだけです」
「ああ……、成る程な。タダでさえ前回コイツは1人で申請してメンタル崩してますからね」
そうして連れてきた俺に悪意があった場合、何かしらの犯罪の起点になる訳だ。そういう想像はしていたが、行政の方でも対応しようとはしているのだろう。
「……まあ、そういう事です」
時務局の男はそう言って引き下がった。
「どういう事?」
「お前がそんなんだから時務局側から心配されてるって事だよ」
「は?疑われるなら君が先だろ?キレそう」
食って掛かりだした友人を尻目に、時務局の人間は用紙に情報をまとめていく。
「精神面肉体面の体調共に良好……人間関係良好……何らかの暴行の形跡無し……」
怖いねえ、経費時間の監査は。忌憚のない意見って奴だ。
時務局の男は友人の様子を観察しながら、淡々とチェック項目に印を付けていく。友人は居心地悪そうに身体をもじもじさせている。
「では、最後に。お二人が共同で制作している作品について、もう少し詳しく教えていただけますか」
「えっと、異世界転移物で……産業革命をテーマにした話です」
友人が先ほどのノートを指差す。
「なるほど。こちらの方も執筆に参加されていますか?」
「アイデア出しと世界観の構築を一緒にやってます。実際の執筆は友人が担当する予定ですが」
俺がそう答えると、男は頷いた。
「分かりました。では、申請内容と実態に大きな乖離は見られないと判断します」
男は書類をまとめ始めた。ようやく終わりか、と思ったその時。
「あ、一つだけ」
「何でしょう」
「この共同制作ですが、完成した際にはどのような形で発表される予定ですか?」
友人と俺は顔を見合わせた。そこまで考えていなかった。
「え、えっと……」
「まだ決まっていないなら、それで構いません。ただ、経費として計上した時間で制作したものですから、何らかの形で成果物として残すことをお勧めします」
「……はい」
友人が小さく返事をした。
男は立ち上がり、書類を鞄にしまった。
「それでは、引き続き有意義な時間をお過ごしください。失礼します」
そう言って、男は玄関へと向かった。俺は立ち上がって見送る。
ドアが閉まると、友人が大きくため息をついた。
「疲れたぁ……」
「お前が怪しまれるような申請するからだろ」
「だって君と一緒に過ごしたかったんだもん」
「……はあ」
俺も椅子に座り直した。
「でもさ」
友人がノートを見つめながら呟いた。
「成果物として残す、か。本当に書いてみる?この話」
「……まあ、悪くないアイデアだとは思うけどな」
「じゃあ書こうよ。2人で」
友人の目が輝いている。こういう顔をされると、断りづらい。
「……考えとく」
「やったー!」
友人は嬉しそうに笑った。
そうして共同制作のアイディアを膨らませながら経費時間は過ぎたのだが、その後の顛末を少し語ろう。
経費時間の最終日。俺たちは朝から共同制作の話を詰めていた。世界観、キャラクター、プロット。ノートは既に何冊にも渡っていた。
「じゃあ主人公の動機はこれで確定で良い?」
「ああ。異世界に来たことを後悔してるけど、だからこそ此処で何かを成し遂げたいって葛藤が重要だからな」
「うんうん。で、ヒロインとの関係性なんだけど……」
そんな会話を交わしていると、ふいに部屋の空気が変わった。
「……あれ?」
友人が窓の外を見た。俺も視線を向ける。
街に、人が戻ってきていた。
車が動き、信号機が点滅し、コンビニの看板が光っている。鳥の鳴き声が聞こえる。
「終わったんだ、経費時間」
「……みたいだな」
友人は立ち上がって窓辺に立った。俺もそれに続く。
7日間、2人きりだった世界に、日常が帰ってきた。
「なんか……寂しいね」
「そうか?」
「うん。この1週間、すごく楽しかった」
友人は振り返って俺を見た。
「また、やろうね。経費申請」
「お前1人でやれよ」
「えー、絶対君も誘うもん」
「……考えとく」
「やったー」
友人はいつもの調子で笑った。
その日の夜、俺は自分の賃貸マンションに帰った。友人は名残惜しそうに何度も手を振っていた。
部屋に戻ると、妙に静かだった。たった1週間なのに、随分と長い時間を友人と過ごしていた気がする。
携帯端末を確認すると、編集からメッセージが何通か来ていた。それと、友人からも。
『お疲れ様!また遊ぼうね!』
俺は小さく笑って、返信した。
『ああ、またな』
それから数週間後。
俺は編集との打ち合わせを終えて、カフェでコーヒーを飲んでいた。携帯端末にSMSの通知が来る。友人からだ。
『ねえ、ちょっと相談があるんだけど』
『何だ』
『時務局から連絡来た』
俺は背筋が伸びた。
『何があった』
『いや、悪い話じゃないんだけど……電話して良い?』
数分後、友人から電話が掛かってきた。
『もしもし』
「おう、どうした」
『あのね、時務局から手紙が来たんだけど』
友人の声は緊張しているようだった。
『あの時の調査官の人からなんだけどね。"申請内容の建前通りに、共同制作の成果物を提出してください"って』
「……は?」
『私も最初意味分かんなかったんだけど、要するに私たちが申請した"新作として共同制作の打ち合わせ"っていう名目、あれを本当に実行しろって』
「いや待て、あれはただの建前で……」
『そう!建前だったの!でもね、あの調査の時に私たち、共同制作のアイデア出しをしてたって言っちゃったじゃん?ノートも見せちゃったじゃん?』
「……まさか」
『そう。"形式的な確認"って言ってたけど、あれ全部記録されてたみたい。で、"申請内容と実態が一致していることを証明するため、成果物の提出を求めます"だって』
俺は頭を抱えた。
「つまり、あの産業革命の話を本当に書けってことか」
『うん……。期限は3ヶ月後。共著で1冊分の原稿を提出しろって』
「おい待て、俺にはそんな時間……」
『私もだよ!でもね、これ拒否すると"経費時間の不正使用"として処分されるんだって』
「処分って何だよ」
『罰金と、今後の経費申請が一定期間できなくなるらしい。あと……』
友人が言葉を詰まらせた。
『私の場合、君を推薦した責任もあるから、処分が重くなるかもって』
「……クソが」
俺はコーヒーカップを置いた。
完全にハメられた。いや、ハメられたというより、俺たちが自分で罠に飛び込んだというべきか。
「で、お前はどうしたいんだ」
『……書きたい、かな』
「は?」
『だってさ、あの1週間ですごく良いアイデア出たと思うんだよ。それを形にしないのは勿体ないし』
「お前なあ……」
『でも1人じゃ無理だ。君と一緒じゃないと、あの話は書けない』
友人の声が真剣だった。
『お願い。一緒に書いてほしい』
俺はしばらく黙っていた。3ヶ月で1冊。自分の仕事もある。時間的には相当厳しい。
が。だがしかし。
あの1週間で作ったアイデアは、確かに悪くなかった。いや、悪くないどころか、かなり良かった。
対外的にやらなければならず、やれる材料は揃っている。であればやりきってしまおうではないか。問題はどうやってお互いに時間を捻出するかだが……。
「……条件がある」
『何?』
「これから泊まり込みでお前の家で作業する。食材はお前が用意しろ。家事全般は俺がやる。あと、執筆中はゲーム禁止」
『えー!』
「嫌なら断れ」
『……分かった。でも週に1回はゲームさせて』
「……週に1日だけだぞ」
『やったー!』
友人の声が弾んだ。俺はため息をついた。
(……本当に、お前には振り回されっぱなしだな)
『ありがとう。君がいてくれて、本当に良かった』
その言葉に、俺は何も返せなかった。電話を切って、俺は空を見上げる。
まあ、悪くないか。
そう思いながら、俺は立ち上がった。やるなら、ちゃんと良いものを作ろう。
時務局の奴らを見返してやるような、傑作を。
……結果として、この作品が俺の(そして友人にとっても)代表作になってしまい、非常に不本意ながら公私にわたるコンビとして扱われてしまうことになるのだが……それは別の話である。
皆も経費の申請には気をつけよう!
─終わり─