ポケットモンスターEMOTIONAL   作:月兎タンク

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作者がイメージしているピカさんの体型はアニメやゲーム基準ではなく、ポケセンのイラストや自販機とかに採用されている、手足の輪郭がハッキリとしたスポーティースタイルです。
加えて、普段はちょっと目つきが悪い黒目ですが、戦闘時になるとガッシュベルのような白目+シアン色の瞳に変化するという裏設定があります。


再会

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CHARACTER SELECT

 SAKURAGI ARUKA

▶︎SIAN

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《No side》

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「さあ!初っ端からスーパーヒーロータイムだよっ!!!」

 

「罪もねェ人間とポケモンにゃあ、指一本触れさせねェぜ!!!」

 

 山頂にぽっかりと開いた大穴へと躍り出たヒーローコンビは、重力に身を任せて一気に急降下する。

 その視界の先、暗がりで紅蓮の光を放つのは『リリス・ボルガ』と呼ばれた大怪獣。

 

 見下ろす形で接近していくその全長は、甘く見積もっても10m近く……。加えてーーー

 

『ウ”ァルガァァァァァ!!!!!』

 

「嘘でしょ!?いきなりブレスを放ってきたんですけど〜!!?」

 

「オイラの手を取れッ!相棒ッ!!!」

 

「任せたっ!ピカさんっ!!!」

 

「ピッピカチュウーーー!!!」

 

ーーブロロロッ!!!

 

 落下中という無防備なヒーローに向け、怪獣の口から無慈悲にも放たれた灼熱のブレス……。

 

 絶体絶命の危機かと思われたその瞬間、ピカさんが自身の尻尾をプロペラのように高速回転させ、空中での機動力を確保。

 相棒の助けを得たピカチュウ仮面は間一髪でブレスを回避し、勢いよく地上へと両足を着けた。

 

「危っぶな……!ちょっとでも回避が遅れてたら、ヒーローが“ピカチュウの丸焼き〜フレッシュな人肉ローストを添えて〜”に早変わりするところだったじゃん……!」

 

 これこそがアーク・ポケモンの厄介極まりない要素。強靭な肉体に加え、視界に入ったもの全てに襲いかかる苛烈な獰猛さを併せ持つ……。

 彼らはたった一人と一匹という少ない軍勢のみで、この凶悪極まりない怪獣に立ち向かわなければならないのだ。

 

「・・・ってか!スゴイじゃん!ピカさんっ!!!キミってそんなことできたんだねー!!」

 

「ピカカカッ!!!ぶっつけ本番だったけどなッ!!なんとなく、出来る予感ってのが、ビリビリに頭の中を駆け巡ったのよッ!」

 

 ……それでも、どんなに圧倒的な怪物を前にしようとも、ヒーローコンビの顔に“恐怖”の二文字は存在しない。

 

 今、彼らの胸にあるのはーーー

 

「待っててね、ツバキちゃん……!絶対に……ボクたちがキミを助けるからっ!!!」

 

 姿を変えられた無垢な少女を“悪意(リリス)”から救い出す……ただその一心のみだ。

 

 

 

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第10話『再会』

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「ピカカカッ!!!気合い入れてるとこ悪ィが、先陣はオイラが切らせてもらうぜッ!!!ピッ、ピカチュウっと!!!」

 

「あっ!ちょっと待ってピカさーーー」

 

 即断即決がセオリーであるピカさんは全身から黄色いバチバチとした電流を撒き散らしながら地を蹴る。

 彼の跳躍は、空中に鮮烈な光の軌跡を描き、弾丸の如く怪獣の懐へと躍り出た。

 

 だが………

 

『ウ”ァルルルルル!!!!!』

 

 ピカさんの拳が灰色の体に届く直前、怪獣の全身から放たれたのは、全てを焼き尽くさんばかりの“超高熱”。

 

「熱っつ!!??」

 

 如何に強靭な肉体を持つピカさんでも、そのあまりの熱気に、彼は思わず鉄拳を引っ込めてしまう。

 

『ウ”ァルッシャァァァァァ!!!!!』

 

「マズいッ!?」

 

 致命的な隙を見せたピカさんへ向けて、怪獣は彼の全身を容易く覆い尽くす巨大な腕を鞭のようにしならせ、容赦なく振り下ろす。

 

 初速・タイミング共に完璧な一撃。流石のピカさんのスピードを以てしても、回避不能の絶体絶命。がーーー

 

「《焔雷重砲(レールガン)》!!!」

 

ーーズドォォォォォン!!!!!

 

『ウ”ァルッ!!?』

 

 ピカさんが地面へ叩き付けられる直前、空(シアン)色の閃光が拳へ割り込む。完全に不意を突かれた怪獣は大きく怯み、僅かに体勢を崩した。

 

「しめたッ!!」

 

 すかさず、ピカさんは持ち前の空中感覚で素早く身を翻す。

 

 不発のまま宙で硬直した怪獣の巨大な拳、その表面を足場として力強く蹴り飛ばすと、反動を利用して一気に後方へ飛躍。

 綺麗な弧を描きながら、地上で構えを取るピカチュウ仮面の隣へと見事着地してみせた。

 

「フー……!久々にほっぺたの電気袋が冷えたぜ……」

 

「あ〜あ……だから止めたのに……。てか、ピカさんには電気袋ないし。まったく、相変わらずアナログだねぇ、ピカさんは」

 

「あ〜ン!? だったら、相棒が突っ込んでみやがれってんだッ!!!」

 

「フッフ〜ン♪ こーゆー正攻法で物理が効かない時は……ほいっと!!!」

 

 半分くらいは自業自得の危機とはいえ、仮にも相棒であるピカさんをクスクスと煽るピカチュウ仮面。

 シアンは自信満々に洒落た動作で右手を掲げると、空中で“ナニカ”を掴み取るような構えを見せる。がーーー

 

「 ・・・ん?アレ、出(・)な(・)い(・)? もっかい……ほいっと!!!」

 

「……オイ相棒……。オイラたちに遊んでる暇はねェんだぞ……」

 

 どれだけ何度も右手を振り上げようとも、シアンの自信の源である“ナニカ”が出現する気配は一向にない。

 

「アレぇ……?おっかしいなー……」

 

「ってか、さっきから何をしてんだよ?」

 

「何って……そりゃあ、決まっーーー・・・何だったっけ?」

 

「オマエさんが知らないなら、オイラだって知らねェよ!!!」

 

 呆れたことに、シアンはこの逆境を覆す切り札である“ナニカ”の名前どころか、形すら綺麗さっぱり忘れてしまっていた。

 一刻を争う緊急事態の中、一番やってはいけない不毛な言い争いを始める一人と一匹。するとーーー

 

ーーズシンッ!!ズシンッ!!

 

「「・・・ん??」」

 

 ズシリと響く地鳴りとともに、全長10mはあろう巨大な影が、言い争うヒーローコンビの全身を覆い尽くしていく。

 

『ウ”ァウ”ァリュゥゥゥゥゥ!!!!!』

 

「「もぎゃぁぁぁぁぁ!?!?!?」」

 

 目の前で不毛な大喧嘩を繰り広げる二人に、ガン無視されたのが相当気に食わなかったのだろう。

 灰色の体表にピキピキと青筋を浮かべた怪獣は、怒り狂ったように紅蓮のブレスを焼き払う。爆風とともに大地が激しく爆ぜた。

 

 間一髪のところで横飛びに回避したヒーローコンビは、黒煙を撒き散らすクレーターの破片を背に受けながら、辛うじて壊滅的なダメージだけは免れていた。

 

「チッ……!オイ、相棒ッ!!!こうなったら一か八かだッ!!“1000万ボルト”をぶっ放すぞッ!!!流石のデカブツもアレを喰らえばひとたまりもない筈だッ!!!」

 

「ダメに決まってるでしょ!?まだ、中にツバキちゃんが囚われてるんだよっ!!?」

 

 以前倒したアーク・ポケモン『ユベル・リズガ』とは異なり、今回の『リリス・ボルガ』は人間を媒介にして復活を遂げている。……その一点こそが、ヒーローコンビを苦戦させる最大の要因であった。

 

 確かに“1000万ボルト”を放てば、怪獣の討伐自体は容易だろう。……だが、その必殺技は純粋な破壊の力であり、媒介となった人間だけを安全に分離するような都合の良い機能など存在しない。

 

 すなわち現時点において、『怪獣の撃破』は『ツバキの死』を意味していた。

 

「んじゃあ、どうすんだよ!?このまま、怪獣が命を燃やし尽くすのをただ、黙って見てろって言うのか!?」

 

「そこまで言ってないっ!!!けど……!多分、ツバキちゃんは怪獣の胸にある“宝石”の中に居るっ!!!何とかして、アレを引き離せればワンチャンある……かも!!!」

 

 なぜ自分がそんなアーク・ポケモンの詳細な構造を知っているのか、シアン本人にも理由は分かっていない。

 だが、頭の奥底から湧き上がる明確な直感が、それが唯一の正解であると確信させていた。

 

「クソッ!接近がムリなら、遠距離からチマチマ削るしかねェ!!!」

 

「そーゆーことっ!!それじゃあ、先にボクがっ!!!」

 

 方針を固めた瞬間、ヒーローコンビの立ち回りが一変する。

 先ほどまでの回避一専の動きから打って変わり、シアンが勢いよく踏み込んで怪獣との距離を詰めていく。

 

「ヤッホー!“倒せ火を吹く大怪獣”くん!!キミはゲージは好き?自由はないって意味だけどっ!!!」

 

 シアンの掲げた両手から、次々と無数の蒼炎の玉が解き放たれる。

 宙を舞う青い火の玉は直接着弾する事なく、怪獣の周囲で静止。直後、玉と玉の間に縄のような光の線が伸びて一気に連結していく。

 

 瞬く間に形成されたのは、巨体をすっぽりと覆い尽くす蒼炎の鳥籠であった。

 

『ハルルル……!!!』

 

「喰らいやがれェェェェェ!!!!!《電気玉》ァァァァァ!!!!!」

 

 すかさずピカさんは稲妻状の尻尾へ極大の電流を集中させ、眩い黄金の真球を錬成。

 そのまま全身を独楽の如く高速回転させると、遠心力を乗せて怪獣を閉じ込めた蒼炎の鳥籠へ向けて弾丸のように投げつける。

 

「「《焔雷着火(エレキボム)》!!!!」」

 

ーーチュドォォォォォン!!!!!

 

 蒼き鳥籠へ黄金の真球が接触した瞬間、大気を震わせる轟音と共に天地を揺るがす大爆発が巻き起こった。

 

 これぞ、シアンとピカさんが誇る連携技《焔雷着火(エレキボム)》。

 蒼炎と稲妻が交錯する連鎖爆発は、数十メートル級の巨大な鉄鉱石すら一瞬で微粒子へと破砕する威力を秘めていたのだがーーー

 

『バァ……!ルガァァァァァ!!!!!』

 

「うっそーーん……!?」

 

 爆煙が晴れた先、そこには依然として仁王立ちする大怪獣の姿があった。

 

 現実はそう甘くはない。確かに《焔雷着火(エレキボム)》の威力が無効化された訳ではないものの、目的である胸元の宝石を引き剥がすには、あまりにダメージが不足していた。

 

「ピカショウめ!!!相棒の炎はまだしも、オイラの雷はコイツとは相性が致命的に悪ィ!!!」

 

『ルゥガァァァァァ!!!!!』

 

ーージュヴァァァァァァッ!!!!!

 

 中途半端なダメージは、かえって怪獣の怒りのツボを刺激させてしまった。

 狂乱した巨体から無差別に解き放たれる極太の熱線。直撃を受けた周囲の森林は、燃え上がる暇すら与えられず、ドロドロの液体となって無惨に溶解していく。

 

「くそ……っ!早くコイツを何とかしないと、ココら辺に住んでるポケモンたちにも被害が……!」

 

「安心しなッ! こんな化け物を前にしちゃあ、あのぐーたらなケッキングでさえ血相を変えて尻尾を巻いて逃げ出してるはずだッ!!!」

 

「だといいけど……っ!!!」

 

 アーク・ポケモンさえ倒せば、破壊された環境自体は元通りに再生される。……だが、そこで途絶えた命はその限りではない。

 

(……自覚しろ、シアン……。ヒーローは“目の前の命だけを守る”なんて中途半端な覚悟で戦っちゃダメだ……。ボクは……ボクたちは……! “絶対に全ての命を守り切る”覚悟で戦うんだ……っ!!!)

 

 他人が聞けば、理想論ばかりの青臭い夢物語だと笑うかもしれない。

 そんなことは痛いほど理解していた。……むしろ現実は厳しく、思い通りに守れなかった過去の方が圧倒的に多いのだから。

 

 それでも……夢物語だからといって、最初から諦めて妥協する理由にはならない。

 例え不可能だと分かっていても、彼らはその信念を貫き通さなければならないのだ。……そうでなければ、ピカチュウ仮面ーーシアンがヒーローとして立ち続ける意味がないのだから

 

『ウ”ァルゥ……!!!』

 

「へー?散々、ゲロを吐いてスッキリした?そのまま、そのマグマのような怒りを収めてくれると助かるんだけどナー?」

 

「もし、ツバキ嬢を返す気がねェってんならよォ。コッから先は……!」

 

「「命を懸けてかかってこいっ!!!!!」」

 

『ウ”ァルッシャァァァァァ!!!!!』

 

 轟音と共に放たれた灼熱の束が、大気を激しく歪めながら大地を爆砕する。

 飛び散る赤熱した岩片と、黒煙を伴う熱風の嵐。理性を吹き飛ばした大怪獣の猛攻は、留まるどころか周囲の全てを飲み込むかのように勢いを増していく。

 

「おっと!まだ吐き足りないでございやしたか……!」

 

「ピカカカッ!!!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜェェェェェ!!!!!」

 

 迫り来る熱線を紙一重で回避し、ヒーローコンビはツバキを救うべく猛然と攻め上がる。……しかし。

 

「ヒノォ……」

 

 その直後の事だった。

 狂乱する怪獣が撒き散らす熱線の閃光の中、シアンの視線は瓦礫の影に縮こまる小さな影を捉えた。

 

「嘘……!マ、マズい……!!」

 

 倒木と黒煙の合間ーーそこには、恐怖のあまり腰を抜かして動けなくなっている一匹のヒノアラシの姿があった。

 

「ヒノォ……!」

 

 不幸な事に、無差別に放たれた熱線の爆風と余波が、灼熱の牙となって幼い影へ容赦なく迫り寄る。

 

「危ないっ!!!」

 

 思考よりも早く、体が動いていた。

 シアンは猛然と地面を蹴りつけ、熱線の軌道上へと全身で躍り出る。

 間一髪でヒノアラシを胸の中に抱き抱えると、そのまま自らの背中で迫り来る爆風を受け止めた。

 

ーーズドォォォォォンッ!!!!!

 

「ぐ……っ!!!」

 

 背後を襲う猛烈な熱量と圧倒的な激震。

 直撃こそ免れたものの、至近距離で炸裂した熱線の爆風がシアンの背中を酷く焼き焦がし、その体は容赦なく地面へと叩きつけられた。

 

「相棒ッ!!?」

 

 抱きしめたポケモンを激突の衝撃から守り切り、何とか逃げ道へ押し出すのが限界だった。

 

「ゲホッ!ゴホッ!ま、間に合って……よかっ、た……!」

 

「ヒノ……!ヒノ……ッ!!」

 

「あ〜……大丈夫大丈夫……!ボクは全っ然平気だから……。キミも早く、逃げ、な……☆」

 

「……ヒノッ!!!」

 

ーータッ!タッ!タッ!

 

「ハァ〜……ピカチュウも良いけど、ヒノアラシも良いモンだよね。“カワイイ”が一つ減るのは世界の損失だし、守れてよかった。……けどーーー」

 

『ウ”ァルルルルル……!!!!!』

 

「……まあ、そうなるよね……」

 

 煤と痛みに塗れながら、追撃を警戒して必死に顔を上げようとしたその瞬間。

 頭上を覆い尽くす程の漆黒の影が落ちてくる。

 

「相棒ォォォォォ!!!!!今すぐ、そこから逃げろォォォォォ!!!!!」

 

 ピカさんの悲痛な叫びも虚しく、重度のダメージで指一本動かない身体へ無慈悲な巨足が迫る。

 

「あー……。コレって……“キラヤバ☆”ってヤツ……?」

 

『ウ”ァルッシャァァァァァ!!!!!』

 

ーーグシャァァァァッ!!!!!

 

 数トンもの質量を誇る怪獣の足先が、無慈悲にもシアンの胴体へと踏み下ろされた。

 ミシミシと嫌な音を立てて軋み上がる骨。肺の中の空気が無理やり押し出され、視界が一瞬で真っ赤に染まり上がる。

 

「相棒……!相棒ーーーーッッッ!!!!!」

 

 紅蓮と濃淡の煙が立ち込める戦場に、ピカさんの悲痛な絶叫が虚しく木霊した。

 

ーーチュドォォォォォン!!!!!

 

『ウ”ァル……ッ!!??』

 

ーーズシーンッ!!!

 

 ピカさんの絶叫が響いた刹那、怪獣の足元から眩い『蒼』の閃光と凄まじい爆風が吹き荒れる。

 予想外の衝撃に体勢を崩した巨大な身体は、地鳴りを立てて崩れ落ちた。

 

「ハァ……!ハァ……!見た、か……っ!!オオタチの最後、っ屁を……っ!!!」

 

「相棒ッ!!!」

 

 なんと、数トンもの質量で全身を踏みつけられてなお、シアンの生命線は繋がっていた。

 常人や普通のポケモンであれば即死免れぬ圧殺の一撃。だが、常軌を逸したタフネスを誇るシアンにとっては、時速数十キロの大型トラックに跳ね飛ばされた程度でしかなかったのだ。

 

 ……しかし、大型トラックに跳ねられて無傷で済む人間など、この世界のどこを探しても存在する筈がない。ポケモンですら怪しいラインだ。

 いくら原形を留めているとはいえ、『即死』が『致命傷寄りの重傷』へと変わったに過ぎないのだ。

 

「あーー……視界がレッドゾーンに、いや……ブラックアウト?……それともアイリスアウトだったっけ……?どっちでもいいや……」

 

 『オオタチの最後っ屁』のことわざ通り、先ほど怪獣を撥ね飛ばした《焔雷重砲(レールガン)》も、シアンの生命力を削り削って振り絞られた最後の悪あがきに過ぎない。

 

 もはやシアンには、指一本動かす力どころか、喋る体力すら残されてはいなかった。

 

『ウ”ァルルル……!!!』

 

 だが、現実はどこまでも非情であった。

 シアンが命懸けで振り絞った『オオタチの最後っ屁』すらも、大怪獣からしてみればニャースに噛み付かれた程度の痛痒に過ぎない。

 

 鬱陶しそうに、のしりと巨体を起こした怪獣は、その凶暴な敵意の矛先をピクリとも動けない瀕死のシアンへと向けた。

 

 ーーーその時であった。

 

「目を覚ましやがれェェェェェ!!!!!ツバキ嬢ォォォォォ!!!!!」

 

『ウ”ァル?』

 

 空気を力任せに引き裂く大音量に、怪獣が拍子抜けしたような声を漏らす。

 薄れる意識の底で、シアンは微かに唇を動かした。

 

「ピカ……さん……?」

 

 その声の主は、ピカチュウーーと非常によく似た姿を持つ、ピカさんその人であった。

 彼はただでさえ眼つきの悪い顔を一層苦々しく歪め、怪獣、そしてその胸の奥に捕らわれた少女へ向けて鋭い言葉を叩きつける。

 

「それが嬢ちゃんの望んだコトか!? 違うだろッ!!!昨日のキャンプで語ってたオマエさんの夢は……!誰よりも純粋で輝いてたはずだろッ!!!」

 

 ピカさんの持つ電気技は、リリス・ボルガに対して絶望的なまでに相性が悪い。

 頼みの綱である相棒が倒れ伏した今、彼に残された唯一の武器は、肉体ではなく“精神(ココロ)”へと訴えかける魂の叫びだけであった。

 

『ウ”ァルワァァァァァ!!!!!』

 

 ……だが、ピカさんの魂の叫びすら、宝石の奥深くに眠る少女へと届く事はなかった。

 怪獣はピカチュウの言葉など歯顧にもかけず、今度こそ空(シアン)色のヒーローの息の根を絶つべく、その顎に禍々しい灼熱の吐息を溜め込んでいく。

 

「クソ……ッ!させるかよ……ッ!!!」

 

 唯一無二の相棒を護るべく、ピカさんは猛然と地を蹴るーーー

 

 ……まさに、その瞬間であった。

 

「ギャウッ!!!ギャウーーーッ!!!」

 

 上空から飛来した小さな火龍が、その両眼に大粒の涙を溢れさせながら、勇敢にも巨大な怪獣へと突っ込んだ。

 

 

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《SIAN side》

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 ・・・全身が死ぬほど痛い。そりゃそっか、だって推定体重トンの怪獣に全身を踏みつけられたんだもん。こうして思考できてるだけ奇跡みたいなモンだって。

 

『ウ”ァルワァァァァァ!!!!!』

 

 ハァ……まったく……。骸骨くんと戦ってる時も思ったけど、どうしてそこまで四六時中不機嫌なんだい?

 

 そのずっと不機嫌そうな顔を見ているだけで、心の底から“ムカっ腹”が湧き上がってくる。

 

 ……まだ、完全には記憶が戻ってないけど。多分……記憶喪失になる前のボクは相当、アーク・ポケモン(キミたち)を恨んでいたか、嫌いだったんだろうね。

 

 じゃなきゃ、こんな根源的な嫌悪感を感じるはずがないし。

 

『ウ”ゥ……!!!』

 

ーーゴォォォーーー!!!!!

 

 あー……。遂にブレスを溜め始めちゃったか〜……。なんか見てるだけで汗ばんできそう……。

 

 ・・・別に死ぬのは怖くない。それ以上に嫌なのは……ツバキちゃんを“人殺し”にさせちゃったこと。

 

 何というか……ものすっごく、漠然とした理由なんだけど、少なくとも……ココでボクが死んだとしても、それだけで世界が終わることないーーような気がする。

 

 かといって、無傷で済むわけでもない。悲劇の一言で終えるには、あまりにも大きすぎる痛手の末に……あの怪獣、そしてツバキちゃんはーー灰一粒残さずに燃やし尽くされる……そんな漠然とした感覚が、ボクの中にはある。

 

 ハァ……。脳死で“1000万ボルト”をぶっ放せば全てが丸く解決するーーそんな、日曜朝8:30みたいに世界が単純だったなら、ヒーロー業はどれだけラクなことか……。

 

『ウ”ァルゥ……!!!』

 

「クソ……ッ!させるかよ……ッ!!!」

 

 ……もう終わりみたいだね。ピカさんは助けに向かってくれてるみたいだけど、流石にブレスがボクの身体を焼く方が早いかな?

 

 せめて、あんまり痛くないやり方で焼いてくれる?逆に一番嫌なのは、弱火でじっくりーーー

 

「ギャウッ!!!ギャウーーーッ!!!」

 

『ウ”ァア……?』

 

 ・・・ん、アレ?なんかブレスが来なーーーってリズちゃん!? 何してんの!!?

 

「ギャウ……!」

 

 ちょっと、ピカさん!!!ボクのことはいいから、早くリズちゃんを安全な場所に移動させ、て……?……なんか、アーク・ポケモンが動揺してる……?

 

『ウ”ァ……ル……ッ!!ル……ガァ……!!!』

 

ーーキィィィィン……!

 

 アレは……!ツバキちゃんが囚われている宝石が……光ってる……?

 ・・・! もしかして……!ツバキちゃん……!?

 

『ルゥ……ガァァァァァ!!!!!』

 

「ギュウ……?」

 

 やっぱりそうだ……!中の……触媒となったツバキちゃんが、アーク・ポケモンの支配に抗ってる……!

 ……それだけ、ツバキちゃんとリズちゃんの間には強い絆があるんだね……。

 

「何とか間に合った!逃げるぞ、相棒ッ!!ココは一旦引いて、体勢を立て直すんだッ!!!」

 

「ピカ……さーーーげぼっ!ごほっ!!!」

 

ーービチャ!ビチャ!

 

「クソ……ッ!出血が酷ェ……!このままじゃ……治療よりも先に、出血多量で死んじまう……ッ!!」

 

 あー……こりゃ、参ったね……。多分、折れた肋骨が肺にブッ刺さってる……。どうりで、さっきから息がしにくいと思った……。

 

「ーーくん!!」

 

 アハハ……燃やされはしなかったけど、ボクもいよいよ年貢の納め時ってヤツか、な……?この場にいないはずのアルカくんの声まで聞こえてきた、ような……。

 

「ーーンくん!!!ーーアンくん!!!」

 

 ……なんだ、この幻聴? 幻聴のクセにヤケにしつこいな……。それに、だんだんと声が鮮明になっているような……?

 

「キッスーーー!!!!!」

「シアンくーーーんっ!!!!!」

 

 ふと……なにかに導かれるように霞む視界の先にボクは視線を移した。

 そこにあるのは、青空を切り裂いて急降下してくる白い影ーーコレはボクでも知ってる、しゅくふくポケモンのトゲキッスだ。

 

 けど……肝心なのはそこじゃない。問題なのは、その背に乗り、なりふり構わず叫んでいる人影の方だ。

 

 激痛で霞む視界と、夕陽の反射光のせいで上手く捉えられないけれど……一つだけ確かなのは、その人物の髪色だ。

 

 ……綺麗で、鮮やかなピンク色。

 

 ボクが知る限り……そんな髪色をしていて、ボクの名前を叫んでくれる人間なんて一人しか存在しない……!

 

 その影ーーいや……! “彼”の名前はーーーー

 

「アルカ……くん……?」

 

「これを……!受け取ってぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ーーパシッ!!!

 

 アルカくんがこちらへ向けて、勢いよくボール状の“ナニカ”を投げ渡す。

 

 流石はポケモントレーナーだね……。その投擲のコントロールは寸分の狂いもなく、正確にボクの右手に収まった。

 

「コレ……は……!」

 

 掌にあるのは、黒と若干くすんだ蒼が入り混じった綺麗な宝石。

 それを見た瞬間……ボクの脳裏を強烈な既視感が駆け巡る。……いや、違う。厳密には『思い出した』んだ。

 

 ボクは残された最後の力を振り絞り、その上部にあるスイッチを力強く押し込む。

 

【ファンタジア バーニング!!!】

 

 

ーーーーー

《No side》

ーーーーー

「ココは……」

 

 アルカから渡された宝石ーー【ソウル・ルーン】のスイッチを押した次の瞬間。

 気付けばシアンは、視界一面に蒼いマグマが静かに脈動する、見知らぬ漆黒の火山地帯の中に立ち尽くしていた。

 

 身に纏っていたピカチュウ仮面の装束は消え去り、元の姿へと戻っている。

 それどころか、先ほどまでシアン自身を苛んでいた怪獣による凄惨な重傷すらも、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「思い……出した……!」

 

 だが、もはやシアンにとってこの場所は『見知らぬ』空間ではない。

 一呼吸着くたびに、シアンの脳内には途切れていた記憶が濁流の如く溢れ出していた。

 

 それは、相棒であるピカさん一匹のリザードン……そして、未だに姿形共にあやふやな“もう一匹のポケモン”達と共に過ごした、過酷でありながらも温かかった……かけがえのないあの日々。

 

 不完全ながらも、記憶と心の歯車が完全に噛み合った、その時ーーー

 

「ギャウ!!!」

 

 どこからともなく届いた、リザードン特有の力強い鳴き声。

 導かれるように、シアンはほぼ無意識のうちに声のした方向へと振り向いていた。

  

 そこにいたのはーーー

 

「リザ……さん……?」

 

 体長3メートルはあろう堂々たる巨躯。その右目には知性を感じさせるモノクルを光らせ、老いたリザードンが穏やかで温かい瞳でシアンを見つめていた。

 

「ギャウ……!」

 

 老いたリザードンは、シアンの問いかけを静かに、そして深く肯定するように頷く。

 そして……今の鳴き声を翻訳するならば、こうなる。

 

『言ったでしょう?きっと我らは、遠い未来で必ず再会する……と』

 

 常人であれば、どれも全く同じ声と響きにしか聞こえないポケモンの言語。

 けれど……シアンだけは彼ーーリザさんの言葉を、正確に聞き取り、理解する事が出来ていた。

 

「リザさん……!リザさんだぁ……!!!」

 

 実に100年ぶりとなる奇跡の再会。

 溢れ出す感情を抑えきれなくなったシアンは、頼りになる年長者の大きな胸へと、全力で抱きついていた。

 

「ガウッ!(感動の再会ーーと言いたいところですが、我らにはそんな時間は残されておりません。概ねの事情は“あの方”から聞いております)」

 

「“あの方”……?」

 

「ガウッ!( ……説明はリリス・ボルガを討伐し、罪無き少女を救ってからです。参りましょうぞ!シアン殿ッ!!!)」

 

「……オーケー!久しぶりに、大暴れしちゃおうよ!リザさんっ!!!」

 

【ボルテック・スパーク!!!】

【ファンタジア バーニング!!!】

 

 シアンは間髪容れずに二つのデバイスのスイッチを押し込み、起動状態へと移行させる。

 

【エンゲージ!ポケリンク!“リザードン”!!!】

 

 【ボルテック・スパーク】のスロットへ【ソウル・ルーン】を滑り込ませると、球体状だったルーンが内部機構と共鳴して展開し、雄々しいリザードンの全身を模した形状へと変形を遂げた。

 

【3……!2……!1……!Are you ready(覚悟はできてるか)? 】

 

 【ボルテック・スパーク】から放たれるカウントダウンと問いかけに応えるように、シアンは不敵な笑みを浮かべ、お決まりの決め台詞を力強く唱える……!

 

「マスクチェンジ!!!」

 

MASK ON!!

type:“FANTASIA DRAGOON”!!!

 

 トリガーを引くと同時に【ボルテック・スパーク】から目も眩むような蒼き閃光が解き放たれ、同色の烈々たる蒼炎がシアンの全身を包み込んでいく。

 

 シアンとリザさんを繋いでいた境界線ーーあの熱く静かな火山地帯は熱狂の余韻を残したまま静かに溶けて消え、意識は激動の現実世界へと引き戻されていく。

 

『ウ”ァル……ッ!!??』

 

 シアンを包み込んでいた蒼炎が周囲の空気へ溶け込むように消え去ると、そこに佇んでいたのは、見慣れた黄と蒼の『ピカチュウ仮面』ではなかった。

 

 身に纏うのは、魔法使いを彷彿とさせる漆黒のローブ。だが重厚なその見た目とは裏腹に、風になびく裏地は澄んだ夕空を溶かしたような、美しくもどこか霞んだ天空色に染まっている。

 

 更に胸元から腰回りにかけては、凛とした中世の騎士を思わせる軽快かつ重厚な甲冑を装着。青と金を基調とした可憐で気品ある装飾は、どこか高貴なヒーローの威風を漂わせていた。

 

 そして……真の象徴たるその顔面。かつてピカチュウを模していた仮面は、リザードンの意匠を宿した異形の仮面へと変貌を遂げていた。

 黒を基調とした木製の地肌に、幾何学的な蒼のラインが刻まれたその面は、どこか古代の呪術的な神秘と猛威を感じさせる。

 

「シアンくんが……変わった……!」

 

「ピカカカ……!ざまーみろ……!!デカブツ野郎……ッ!!!」

 

 その隣に佇むのは、リザードンのメガシンカ形態ーー『メガリザードンX』を彷彿とさせる、漆黒の鱗と蒼き焔を纏った巨竜。

 

 頼もしき相棒を傍らに従えた人竜一体の漆黒の竜騎士は、右手の人差し指をピンと立て、僅かに怯む大怪獣へと一閃の如く突き突きつけーーー

 

「それすなわち……ド強いっ!!!!!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、確固たる自信と共に決め台詞を言い放つ。

 

 絶望の淵から舞い戻った漆黒の竜騎士と、蒼き焔を纏いし巨竜。

 反撃の狼煙は、いま揚がった。

 

ーーーTo be the continue… …




遂に登場!シアンの新形態【ファンタジア ドラグーン】!
果たして、人竜一体のヒーローはアーク・ポケモンに囚われたツバキを救い出せるのか!?そして、死にかけた筈のアルカはどうやってソウル・ルーンを手に入れたのか!?そこらモロモロ、次回判明!
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