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CHARACTER SELECT
▶︎SAKURAGI ARUKA
SIAN
ーーーーー
《ARUKA side》
ーーーーー
「それすなわち……ド強いっ!!!!!」
眩しい光が収まると……シアンくんーーもとい“ピカチュウ仮面”は、まったく別の姿へと変貌を遂げていた。
マフォクシーやムウマージみたいな“魔法使い”を思わせる黒いローブに、昔の騎士みたいな甲冑……っぽいコスチューム。
そしてーー黒いリザードンを模した、民族衣装っぽい厳かな仮面。
決め台詞の意味はイマイチよく分からないけど……とにかく、めちゃくちゃ強そうだ。
・・・え? 地割れに巻き込まれたはずの僕が、どうして無事にここに居るのかって?
……それはーーー
「どうやら……無事、シアン君は間に合ったようだねぇ」
「クリスさん……!」
……その答えを話す前に、ちょっとだけ待ってほしい。
僕は……どうしても、この人に聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「……クリスさん、あなたは一体何者なんですか?」
「………」
僕がクリスさんへ強い視線を向けて、クリスさんはワザとらしく目を背けるのには、ちゃんとした理由がある。
僕がクリスさんに抱く不信感と、僕がこうして五体満足で地上へ生還できたこと。その二つは……絶対に無関係じゃない。そう、直感が告げているのだから。
待たせちゃってごめんね。その答えを明かすためにーー時計の針を、今から30分前まで戻そう。
ーーーーー
第11話『勇気』
ーーーーー
「うわぁぁぁぁぁーーーっ!?!?!?」
あの時ーー突然の地割れが僕の全身を呑み込んだ瞬間……僕は思わず気を失ってしまった。
「うぅ……。こ、ここは……?」
幸か不幸か……。数十メートルはあるであろう、距離から落下しても僕は生きていた。それもーーこれといった大怪我を負うことなくほぼ無傷の状態でね。
まあ……命が助かった代償か、しばらく耳鳴りが止まなかったけど……。
……だけど、問題は“そこ”じゃないんだ。
「痛ててて……。……ん?」
鳴り止まない耳鳴りに耐え、ぼやける視界を何度も擦り、ゆっくりと頭を上げた僕の目に飛び込んできたのはーー立ち並ぶ岩石の山と、その頂に佇む“それ”だった。
「あ……っ……?」
“それ”が視界に入った瞬間……声が出なかった。息を吸うことすら忘れて、僕はただ、その姿に圧倒されていた。
頭頂部で輝く、クリスタルのような角。
北風のしなやかさを纏った、あまりにも神聖で美しい四肢。
そして……地上から僅かに漏れ出る光の中で、静かに僕のことを見下ろす澄んだ瞳。
「嘘でしょ……?あのポケモンって……っ!!」
教科書や図鑑の中でしか見たことがない。ジョウト地方に伝わる、走る北風の化身ーーー
「スイクン……!!?」
各地方の
あまりの衝撃にパニックを起こしそうだったけれど……混乱する脳みそでも、直感で分かったことがある。
ーーこのスイクンが、僕を助けてくれたんだって。
『………』
ーーフイ!
呆然とする僕の前で、スイクンはしなやかにその長い首を動かした。
すっと差し示された視線の先ーー地底の最深部には……より一層濃いコーヒーの香りと、シアンくんのそれよりもわずかに霞んだ光が放たれていた。
「……あそこに、行けってこと……?」
導かれた先を見つめ、お礼を言おうと慌てて視線を元の位置へ戻した、ほんの一瞬。
ーーそこに、もうスイクンの姿はなかった。
さっきまでそこに居たはずの瓦礫の上には、誰も居ない。
足音も、気配すらもなく。ただ一筋の澄んだ北風が、僕の頬を静かに撫で抜けていっただけだった。
「クリスさん……は、もういいかな……。流石に今からここまで来るのは難しそうだし……」
独り言を呟き、僕は思考を切り替えた。今考えるべきは、クリスさんではなくスイクンが示してくれた“あの場所”のことだ。
鼻をくすぐる濃いコーヒーの香りと、暗がりの中で仄かに揺らめく霞んだ光。
足元の瓦礫に引っかからないよう慎重に歩みを進めると、その光は地底の最深部ーーまるで周囲の崩落から守られるようにひっそりと佇む、古びた祭壇から放たれているのが分かった。
「……あった」
祭壇の前に立ち、思わず息を呑む。
そこに鎮座していたのは、見間違えるはずもないーー3メートルはある巨大なリザードンの石像。そしてその台座には、シアンくんが持っている物とそっくりな宝石ーー【ソウル・ルーン】が祀られていた。
シアンくんの持つルーンのような眩い輝きとはどこか違う、重厚で、けれどどこか優しい温もりを秘めた光。
きっと……スイクンが僕をここへ導いてくれた理由。それは、このルーンを僕に託すためだったんだ。
ーーカチャ……
指先が【ソウル・ルーン】に触れた瞬間ーーじんわりとした温もりが、手のひらを通じて腕から胸の奥へと駆け巡る。
「……冷たくない。むしろ……すごく温かいや」
台座から静かにルーンを持ち上げると、ずっしりとした心地よい重みが手に伝わってきた。
……良い感じに温かいし、持ち運びも楽そうだし、冬場の旅に便利そうだなーーって!そんなことを考えてる場合じゃない!早く、リザさんの封印を解いてシアンくんに届けないと……!
「……で、これってどう使うんだだっけ……?確か……シアンくんはスイッチを押してーーー」
ーーカチッ!!!
【ファンタジア バーニング!!!】
「ってあれぇ!?なんか……景色が……!!??」
手のひらの【ソウル・ルーン】から、ブワッと溢れ出した青黒い炎。
それは瞬く間に渦を巻き、僕の足元から空間そのものを丸ごと飲み込んでいく。
ーードゴゴゴゴ……ッ!!
地鳴りのような重低音が響き渡り、さっきまで目の前にあった古びた祭壇も、3メートルのリザードン石像も、一瞬で炎の残像へと溶けて消えた。
「嘘嘘嘘……!なんか、変なことやっちゃった……!!?」
よくよく考えたら、僕が自分で無理に動かすより、シアンくんに渡してから使ってもらった方がずっと安全だった。
……けど、今さらそんな当たり前のことに気づいても、もう遅い。
見渡す限り広がるのは、見たこともない漆黒の岩肌。
そして足元を削るように流れているのは……赤ではなく、不気味なほど鮮やかにうごめく蒼い溶岩の川だ。
「何……ここ……?」
まるで、世界の裏側ーー異次元のマグマ地帯に迷い込んでしまったかのような絶景。
あまりの熱気と異様な光景に、僕はただ口を開けて立ち尽くすことしかできなかった。
その時ーーー
「ギャウ!!!」
僕の背後から響き渡ったのは、地底のマグマすら震わせるような、深く、力強い咆哮。
ハッと息を呑んで勢いよく振り返った僕の視界を、石像とまったく同じ3メートルはあろう巨体と、オレンジ色の翼を広げた圧巻のシルエットが埋め尽くした。
それは……間違いなくーーー
「リザー……ドン……?」
「ーーーグゥ!!!」
ちょっと大きくて、右目に
「ギャウギャウ!ギャウ!ギャウ?」
……なんか一生懸命吠えているけれど、もしかして僕に何かを伝えようとしてる……?
ーーコホン!
『……帰りなさい、人の子よ。貴方は私の【ソウル・ルーン】を持つには相応しくない』
・・・へ?
「しゃ、喋ったぁぁぁぁぁっ!??? しかも……何この声、メッチャ良い声なんだけど!!?」
あまりの衝撃に僕が頭を抱えて叫ぶと、リザードンは、
『厳密には違います。私は貴方達の言語を使える訳ではありません。ここは、謂わば私の精神世界……故にこの地でのみ、私は意思の疎通が可能なのです』
……よくよく考えたら、ピカさんだってガッツリ喋ってたし、今さらポケモンが喋ったところで驚くことでもないか……。
『ここまで辿り着いた、貴方の知恵と勇気は賞賛しましょう。ですが……私は貴方が望む“宝”などではありません。寧ろ、その逆……一度、この地を離れてしまえば、恐ろしい厄災を齎す呪物なのです』
やっぱり……!僕の予想通り、地下にあるお宝ーーつまりは『リザさん』こそが本当の宝で、頂上の祠に祀られている宝こそが“厄災”……!
しかも……さっきの地響きから察するに、今頃地上じゃ……。
「……僕からも一つ訂正させてください。僕は
『“ある人”……』
「はい。“ある人”ーーきっと、今頃地上でアーク・ポケモンと戦っている、シアンくんにはーー貴方の力が必要なんです……!」
『ーー!!! 今なんと……?』
案の定……と言うべきかな。『シアンくん』という名前に、目の前のリザードンは強く反応した。
これで、このリザードンが『リザさん』本人であることが証明された。なら……あとは、ありのままを話せばいい。
僕はここへ辿り着くまでの出来事を、包み隠さずすべて打ち明けた。
シアンくんと初めて出会ったときのことーーー
ガラガラに似たアーク・ポケモンと遭遇したあの日のことーーー
そして、リザさんに会うためにクロマツシティの百年祭へ参加したことーーー
この数日間に起きた、全てを。
『……なるほど、事情はだいたい理解しました』
「それじゃあ……!」
『……
「・・・へ?」
『貴方の言葉を全て信じる訳にもいきません。何せーー当然、万が一私が封じていたアーク・ポケモンが復活した際には、私自身にも知らせが届くように細工しております。ですが……私にはまだ、その気配が届いておりません』
「そんな……!」
『この一点のみが、貴方を信用する事への大きな妨げとなっている。もしかすれば……貴方はシアン殿のご友人のフリをした、“残党”の可能性もある』
「残党……?」
聞き覚えのない物騒な単語に、僕は思わず眉をひそめた。
残党って……一体なんのこと? 僕はただ、シアンくんを助けたくて、必死でここまできただけなのに……!
僕はなんとしてでも、リザさんから協力を得なければならない。そのために反論しようと口を開かけた、まさにその瞬間ーーーー
「彼の言っている事は本当だ、“探究者”の眷属君。何者かが、君の封印を破って強制的にアーク・ポケモンを復活させた」
どこからか、場違いなほど軽やかで聞き覚えのある声が、僕たちの頭上から降ってきた。
「ーーっ!!? こ、この声は……っ!!」
『もしや……!貴方はーーい、いや……!
ハッとして見上げると、蒼い溶岩が揺らめく僕らの後方ーー本来なら誰一人入れるはずのないリザさんの『精神世界』に、その男は当然のような顔をして佇んでいた。
典型的なトレジャーハンターの衣装に身を包み、穏やかな笑みを浮かべた、紫髪がトレードマークの“あの人”が。
その名前はーーー
「クリス……さん……?」
「やあ、アルカ君!お久しぶり!!・・・って訳でもないけどね」
『……なるほど。ようやく合点がいきました。何故、ただの人間である少年が私の元まで辿り着けたのかーーー貴方様がこの少年を陰から導いていたのですね……』
導いた……? クリスさんが……僕を?
「まっ、結果的にはそうなるね。道中を共にし、彼ーーアルカ君は、信用に足る人間であると判断した。きっと……この場に居たのが『ライコ』や『ホムラ』でも、私と同じ判断を下しただろうね」
……すみません。さっきから何を言ってるか、全っ然理解できないんですけど……。
『……では、やはりシアン殿は復活を……?』
「……ああ。だが、お察しの通り、今のあの子には一部を除いた記憶が失われている。特に……“彼”の事はすっぽり頭から抜け落ちているよ」
う、うーん……。話の文脈はイマイチわかんないけど、クリスさんが介入してくれたおかげで成功、ってことでいいのかなぁ……?
ーーーっ!いやいや!
だいたい……なんでクリスさんが仲介してくれたからって、突然リザさんが納得するの!?そもそも……ここって、他人がそんな簡単に入れるような場所なの!!?
『・・・シアン殿のご友人ーーいや、アルカ殿』
「は、はいっ!!!」
『先程のご無礼をお許しください。事情が事情ゆえ、試すような真似をしてしまったことをお詫び申し上げます』
「い、いえ〜〜……」
そう言うと、リザさんはその巨体を静かに折り曲げ、僕と同じ目線まで頭を下げてくれた。
『万全の状態ならまだしも、記憶の大部分を失ってしまったシアン殿とピカさん殿はアーク・ポケモンーー『リリス・ボルガ』に苦戦を強いられているでしょう。アルカ殿……“北風の化身”に認められた、貴方のその真っ直ぐな魂を信じ、私の【ソウル・ルーン】を預けます』
「リザさん……!」
リザさんが胸の前で爪を重ねると、僕が握りしめていた【ソウル・ルーン】が、まるで命を得たようにまばゆい蒼と橙の光を放ち始めた。
温かい光の粒子が僕の身体を包み込み、ゆっくりと視界が白い光で満たされていく。
『どうか、私を……一人と一匹の“英雄”の元へ連れて行ってください。あの方達がもう一度戦うというのならーー私はこの命が尽きる限り、お供し戦後の一杯を提供しましょう』
リザさんの巨体もまた、蒼い炎の粒子となって【ソウル・ルーン】の中へと吸い込まれていく。
眩い光が収まった時ーー気づけば周囲の景色は、静かな元の祭壇へと戻っていた。
ーーーーー
《回想終了》
ーーーーー
はい、回想終了!それで、僕はあの後たまたま一直線に空いていた地上に繋がる抜け穴を通って、トゲキッスと一緒に絶対絶命のシアンくんへ【ソウル・ルーン】を届けたって訳!
そしてーーー
「……クリスさん、あなたは一体何者なんですか?」
冒頭のここに繋がる。
「………」
僕からのストレートな問いかけに、クリスさんは相変わらずの穏やかな笑みを浮かべたまま、一言も発しない。
ワザとらしく視線を逸らし、何かを隠すように口元を撫でる。
だけどもう、ちょっと抜けているイチトレジャーハンターという言い訳は通らない。
あの精神世界に彼が易々と現れ、彼の一言であれだけ猜疑心の強かったリザさんが従ったーーこれだけの異常事態を見せられて、彼がただの人間でないことに気付けないほど、僕はバカじゃない。
重苦しい沈黙が数秒ほど続いた後、クリスさんはふっと小さく息を吐き、静かに首を振った。
「……アルカ君。物事には必ず“順序”というものがある。確かに君にとっての最優先事項は、私の正体なのだろう。……だが、私にとっては違う」
そう言い残すと、クリスさんは僕に静かに背を向けた。
「あ……ちょっと……!」
「安心してくれ、君の質問には必ず答えよう。シアン君ーーいや、“
……本当は今すぐこの場で答えてほしかったけれど、クリスさんの瞳には、これまでと同一人物とは思えないほどの凄味があった。
きっと、彼には彼なりの譲れない事情があるんだろう。なら……僕には“その時”が来るのを待つことしかできない。
とりあえず……安全そうな場所に隠れてシアンくんとリザさんを応援しとこ……。
ーーーーー
CHARACTER SELECT
SAKURAGI ARUKA
▶︎SIAN
ーーーーー
《No side》
ーーーーー
『ウ”ァル……!ウルウ”ァァァァァ!!!!!』
「さあ〜〜てと!怪獣退治といこうか、リザさんっ!!!」
「ギャウ!!!」
次の瞬間、リザードンの秘めたる魂に応じるように、スパークのコアからまばゆい蒼と橙の熱線がブワッと溢れ出す。
高密度の波動は渦を巻きながらスパーク全体を丸ごと包み込み、金属音を立ててその構造を再構築していく。
光の奔流が収まると、シアンの手元には、自身の身の丈ほどもある重厚かつ巨大な一振りの大剣が形成されていた。
【ボルテックス・ソード
「フッフーン♪ ジャッキーーーン!!!」
漆黒のローブを翻し、ずっしりとした大剣を軽々と肩に担ぎ上げたシアンは、不敵な笑みを仮面の奥で覗かせた。
「ギャウ!!!(それでは……百年ぶりの
シアンはしなやかに黒龍の背へと躍り乗り、人竜一体となって怪獣へ突撃する。
その威風堂々とした勇姿には、先ほどまで瀕死の窮地に陥っていた
『ウ”ァルガァァァァァ!!!!!』
天を突くような狂暴な咆哮と共に、怪獣の巨体から無数の黒い触手と紅蓮のエネルギー波が放たれる。
「ハイヨーーっ!!!」
回避不能と思える弾幕の嵐の中、黒龍ーーリザさんは翼をしなやかに羽ばたかせ、重力を無視したような急上昇と反転でそれらを紙一重で掻い潜っていく。
「いい、リザさん!ボクたちが狙うのは、ツバキちゃんーーアーク・ポケモンの宿主が囚われた胸の宝石だよっ!!!」
「ギャウ!!(合点!!)」
シアンの指示と同時に、リザさんは口腔の奥で超高熱のエネルギーを凝縮させた。
「グォォォォォオオオオンッ!!!!!」
急降下しながら一気に間合いを詰め、肉薄した至近距離から解き放たれるのはーー通常のリザードンを遥かに凌駕する、苛烈な蒼炎のブレス。
ーーーズドォォォォォンッ!!!!!
『ウ”ァル……!!??』
ゴウゴウと空間を焼き尽くす青き灼熱が直撃し、怪獣の強固な外殻が悲鳴を上げる。
メリメリと音を立てて凶悪な黒い装甲が砕け散り、その破片が炎の粒子となって夜空に飛び散った。
「オマケに……!もう1発っ!!!!」
予想外の威力に怪獣が怯んだ隙を見逃さなかったシアンは、自慢の大剣【ボルテックス・ソード
刀身に渦巻く蒼と橙の炎が爆発的な輝きを放ち、夜空に巨大な光の軌跡を描いた。
ーーーズバァァァァァンッッ!!!!
黒龍の急降下と共に繰り出された強烈無比の一閃が、怪獣の巨大な右腕を一気に切り裂く。
『ガァァァァァアアア!!!??』
流石に蒼炎を纏った大剣を以てしても即座に一刀両断ーーとまではいかなかったが、与えたダメージは十分過ぎる程だった。
半ばまで断ち切られた怪獣の右腕はだらりと垂れ下がり、もはや攻撃の機能を完全に失っている。
ーーだが、蒼炎に燃ゆる大剣の真の効力はここからだ。
『ガ……ッ!?ウ”ァル……ッ!!?』
リザさんの蒼炎とシアンの一閃をモロに喰らった怪獣ーーリリス・ボルガが、突如として激しく苦しみ始めた。
一見すると重大なダメージによる悶絶のようにも思える。
しかし、胸部の宝石が激しく明滅を繰り返す様は、単なる肉体的な傷によるものではない異様な雰囲気を漂わせていた。
するとーーー
『リ、ズ……?』
「ーー!!! ギュウ!ギャウーーッ!!!」
怪獣の苦悶の叫びに、その胸中に囚われた少女ーーツバキのか細い声が重なる。
蒼炎の大剣の刃は、ただ対象を斬り伏せるにあらず。
その真なる効力こそーー邪悪なる意志に囚われた者の支配を、断ち切る事にある。
「……ツバキちゃん」
『その声、は……。シアン、さん……?』
意識を取り戻しかけたツバキへ、シアンは胸の宝石越しに優しく、けれど力強く語りかけた。
「今、キミの身に何が起こっているか分かんないと思う。……けど、キミの“願い”は……こうなることだったの?」
シアンの言葉に促されるようにして、ツバキはゆっくりと視線を落とした。
視界に飛び込んできたのはーードロドロに溶解した森林の惨状と、池の水面に映る紅蓮の怪獣。
『なに、これ……!まさか……私がやった、の……?』
目の前に広がる地獄絵図により、胸を刺すような理解が、ツバキの顔からみるみる血の気を引かせていくのが、容易に想像出来る。
「キミは……このままでいいの? こんなバケモノとして、罪のない人もポケモンも傷つけていいの!?」
『い、や……!私は……私は……!』
「だったら……。キミが望む“未来”をーーボクたちに教えてっ!!!!!」
雷鳴の如く響き渡るシアンの叫びが、ツバキの凍りついていた心を強く揺さぶる。
恐怖に震え、涙に濡れていた彼女の瞳に、フッ、と温かな光が灯った。
罪の意識に押し潰されるのはもうやめだ。今ここで逃げ出せば、本当に自分は誰かを傷つけるだけの“バケモノ”になってしまう。
『私が望む未来は……!』
胸の奥底から湧き上がる本当の想いを、溢れる涙と共にツバキは叫んだ。
『リズと一緒に……!強くなる未来っ!!!!!』
溢れ出る涙と共に叫ばれた少女の純粋な願い。その言葉が放たれた瞬間、アーク・ポケモンの胸部を満たしていた禍々しい光が一気に掻き消えた。
ツバキの意志に応えるように、シアンの持つ【ソウル・ルーン】と【ボルテックス・ソード焔】がかつてない程の激しい蒼炎を噴出させる。
「ギャウ……。(どうやら……“賽は投げられた”ーーようですな)」
差し伸べられた少女の未来。それを絶対に汚させはしないと、シアンは仮面の奥で力強く頷く。
「いい“未来”だねっ!!その“未来”はーーボクたちが紡ぐっ!!!」
少女の願いを聞き入れたシアンは、大剣のトリガーを三度深く押し込む。
【フィニッシュタイム!!!】
耳ではなく、脳内に直接響き渡るハイテンションな電子音。
シアンは大剣の先端へ、リザさんの力が秘められた
【ロード!“ファンタジアバーニング”!!!】
「さあ〜てと!もうそろそろ……EDのお時間だよっ!!!」
刹那、シアンとリザさんの全身が膨大な量の蒼炎に包まれーーー
解き放たれた蒼炎が急拡大し、シアンとリザさんの二人をまるごと呑み込んでいく。
それはただの炎ではない。一人と一匹による絆と【ソウル・ルーン】の未知のパワーが織りなすーーー
「シアンくんとリザさんが……大きなリザードンに……!?」
翼を広げた巨大な蒼炎のリザードンそのものだった。
「「《
夜空を裂いて飛翔する巨大な蒼き龍王。
急降下の加速度を限界まで上乗せし、必殺の輝きを宿した大剣【ボルテックス・ソード焔】の先鋒が、怪獣の巨躯を真っ直ぐに穿つ。
『ルグゥ……!ウ”ァーーールラッ!!?』
迫り来る『死』に瀕し、怪獣は咄嗟に回避しようと身を捩るーーだが、その身体は金縛りに遭ったようにピクリとも動かない。
触媒である少女ーーツバキが“未来”への希望を見出したことで、内側から必死に怪獣の支配へ抵抗しているのだ。
「“未来”への希望は……!悪意を超えるんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」
『ルゥ……!!!』
ーーースドガァァァァァン!!!!!
蒼炎の龍が怪獣を完全に貫通した瞬間、一滴の容赦もない高熱の一閃が、肉体と邪悪な意図の全てを焼き尽くしていく。
『ウ”ァル……ッ!? ヴァァァァァァァアアアッ!!!!!!』
天をも揺るがす断末魔の悲鳴と共にーーー
ーーードッカァァァァァン!!!!!
あれほど強固だった紅蓮の怪獣は爆炎の粒子となって夜空の中へ消砕・雲散していった。
「勝った……!シアンくんたちが……勝った……!!!」
「ピカカカッ!!!やったな……相棒ッ!!!」
地上にてヒーローの勇姿を見届けていた仲間達は、心の底から彼らの勝利を祝福した。
そしてーー
爆炎と嵐が去った、静寂の夜空。
粉砕された核から溢れ出し、重力に従って虚空へ崩れ落ちるツバキの華奢な身体。
「よっと!」
すれ違いざま、シアンは滑らかに手を伸ばし、彼女の体をそっと胸元へと引き寄せた。
雲が切れ、雲間から射し込む柔らかな月明かりが二人をスポットライトのように優しく照らし出す。
仮面のヒーローにしっかりとお姫様抱っこされたツバキは、全ての恐怖から解放されたかのように、安らかな寝息を立てて瞳を閉じていた。
「スー……。スー……」
「……ピカっと解決!オールオッケー!!!」
安らかな寝息を立てるツバキを抱え、シアンはもはやお馴染みとなった勝ち鬨を少女を起こさないようにそっと上げる。
散り際のアーク・ポケモンが遺した紅蓮の粒子ーーそれに触れられた木々が、失われた生命を取り戻すように青々と生い茂っていく。
アーク・ポケモンの一柱『リリス・ボルガ』ーーー討伐完了。
ーーーーー
CHARACTER SELECT
SAKURAGI ARUKA
SIAN
▶︎RENARD
ーーーーー
《No side》
ーーーーー
「これで二枚目……!」
シアンたちの活躍によって『リリス・ボルガ』が討ち果たされた、まさにその瞬間。
『ユベル・リズガ』の時と同様、ヒーローたちの目を掠めて逃げ延びた紅蓮の邪気。
その塊は、遠くから高みの見物を決め込んでいた妖狐ーールナールの掲げる一枚のカードへと、吸い込まれるように収束していった。
「……グッ!!」
ーーーだが、その直後。
『リリス・ボルガ』の姿が刻まれたカードを手にした瞬間、ルナールは激しい苦痛に顔を歪め、ドッと片膝を地面に突き破るように倒れ込んだ。
姿を維持する余力すら奪われた事で、禍々しい妖狐の【投影】がノイズのように弾けて解除され、そこには荒い息を吐く黒髪の青年の姿が残された。
「いくら力と記憶を失っているとはいえ……現役の“探究者”に挑むのは、早過ぎたか……!」
類稀なる策略と幻影を用いて、見事ヒーロー達を化かして魅せた漆黒の妖狐、ルナール・A・ルパン。
だが実際は、ピカチュウ仮面との死闘で負ったダメージは限界を超えていた。
『リリス・ボルガ』を復活させた直後のあの飄々とした態度は、彼が魅せた『痩せ我慢』に過ぎなかったのだ。
『ウェンヒッヒ〜!ムリしちゃって〜、最初から力試しなんてせずにパッパッとリリス様を復活させちゃえばよかったのに〜!』
「……黙っていろ。どちらにせよ……計画が進めば“ピカチュウ仮面”ーーそして“奴ら”との全面戦争は免れん。力が不十分な『今』こそが、試金石として好都合だっただけだ……」
『まっ、そーゆーコトにしといてアゲル!』
腹部を奔る激痛に耐え、ルナールは不機嫌そうに言葉を返す。ーーだが不可解な事に、彼の周囲には誰一人として姿が見当たらない。
『とりま、しばらくの間は休んどきな〜?次は……ボクっちがやる』
「……フン、好きにしろ」
会話を終えたルナールの姿が輪郭から揺らぎ、まるで夜風に溶け込むかのように無色透明となって消え去っていく。誰の目にも映らなくなった闇の中ーーー
果たしてーー二枚目のカードを手中に収めた妖狐は、次なる目的の為何処へ向かうのだろうか。
ーーーーー
CHARACTER SELECT
SAKURAGI ARUKA
▶︎SIAN
RENARD
ーーーーー
《No side》
ーーーーー
「本っっっっ当に申し訳ありませんでしたっ!!!!!」
「ギャウ〜〜?・・・ギャウッ!!!」(ペコリ)
無事に“紅蓮の大怪獣”を討伐してから、早数時間ーーー
夜空が美しく朝焼けに染まり、昇りゆく朝日の下に少女の悲痛な謝罪声が響き渡る。
その正面には、重症とまではいかないものの、全身に絆創膏や包帯が巻かれたままのシアンとアルカが並んでいた。
「・・・なんでツバキちゃんが謝ってるのかな……?」
アルカは心底困惑していた。
救出された後、交代で眠りにつきながらツバキの介抱を続けていた二人。
朝日の訪れと共に彼女が目を覚ましたと思えば、いの一番に飛び出してきたのがこの謝罪だったのだ。
それもーー彼女自身は、間違いなくただの被害者であるにも関わらず……。
「だって、そうじゃないですか……!私が……もっと強ければ……!!あんな“ゾロアークのバケモノ”に体を乗っ取られることはなかったのかもしれないのに……!!!」
「……ゾロアークのバケモノ、か……」
自身の不甲斐なさに悔しさを募らせるツバキから、その言葉を聞いたアルカは、意味深に顎へ手を当てて思案を巡らせる。
ツバキの看病中、アルカはシアンからこの騒動の黒幕ーー自らを『ルナール・A・ルパン』と名乗り、人語を解するポケモンの存在を聞かされていた。
いくら喋るピカチュウやリザードンを目撃してきたアルカとはいえ、その存在はにわかには信じがたいものだった。
ーーだが、当事者であるツバキの証言を得た事で、ようやくその存在が実感を伴って胸に迫ってきたようだった。
「………」
(…… あのあと、シアンくんに何度尋ねても、正体については結局教えてくれなかった。……だけど、今の反応を見る限り、やっぱりシアンくんは何かを知ってるんじゃ……)
どこか意味深な表情を浮かべるシアンを見つめながら、アルカがそんな思考を巡らせているとーーー
「ギャウ〜♪」
「わっ!こら、リズ!今は真面目な話をしてるから、じゃれるのはあとにしてよ〜!!」
突然、リズが甘えるようにツバキへ戯れつき始める。その愛らしい乱入によって、それまで緊張に包まれていた場は、一瞬にして和やかな空気へと解けていった。
「……ツバキちゃん」
「は、はいっ!!!」
「キミは弱くなんかないよ。むしろ、その逆……キミはとっても強い子だとボクは思うな」
「・・・えっ?」
シアンはそっと膝を折り、ツバキと目線を合わせると、その華奢な肩を優しくポンと叩いた。
「だって、そうでしょ?あの時ーーボクの呼びかけにキミはちゃんと応えてくれた。それにキミは怪獣の支配に抵抗したんだ。それは間違いなく……キミ自身の“勇気”だったんじゃないかな?」
「私の……勇気……」
「キミだけじゃない。リズちゃんだって、アレだけ怯えていても、キミを助けに勇気を振り絞って立ち向かったんだ。多分……彼女の助けがなかったら、ボクは今頃あの世行きだったはずだしね」
「ギャウッ!!!」
誇らしげに胸を張るリズが、シアンの言葉へ元気よく鳴き声を返す。
ーーシアンのその言葉は、決して気休めの嘘などではなかった。
子供のヒノアラシを庇い、リリス・ボルガから致命傷を喰らったシアンは、文字通り絶対絶命の大ピンチに陥っていた。
ピカさんの救出が間に合うよりも早く、怪獣のブレスがシアンを呑み込もうとしたあの極限の瞬間。
勇気を振り絞ったリズが割り込み、ツバキが必死に抵抗してくれたからこそーーピカさんが間一髪で救出に入るための、『時間』が生まれたのだから。
するとーーー
ーーポンッ!!!
「グゥ……」
シアンの腰に収められた【ソウル・ルーン】が眩い光を放ち、そこから突如として3メートルもの巨体を誇るリザードンが現れた。
「わっ……!おっきい〜……!!」
どうやら、相棒であるピカさん以外のシアンが持つ特別なポケモン達は、モンスターボールではなくこの【ソウル・ルーン】の中で普段の生活を送っているらしい。
「ギャウ!!!」
「……ギャウ」
無邪気に駆け寄ってきたリズの頭を、リザさんは大きな爪で愛おしむように優しく撫でる。
それはーーまるで、言葉を介さずとも会話を交わしているかのようだ。
「ホラ!リザさんだって、この子の勇気を褒めてるしね」
「……ありがとうございますっ!!シアンさん、アルカさんっ!!!」
一人と一匹のヒーローによって自身の中にある“勇気”を認めてもらった少女は、もう一度深々と頭を下げた。
そして理想の未来を掴み取るため、新たな一歩を踏み出そうとする。
その去り際ーーー
「……アルカさんっ!!!」
「ーー!!!」
未来を見つめる少女が、覚悟の宿った力強い瞳でアルカを真っ直ぐに見つめ返してきた。
「……やっぱり、私はこれからも“ジョン・ドゥ”を目指し続けます……っ!!」
「ッ……!」
「分かってます……。きっと……アルカさんじゃなくても、同じことを言うと思います……。それでも……!私はあの人が見た景色を見たいんですっ!!!一人だけじゃなくて……
強い決意を乗せた少女の言葉は、誰よりも純粋で、何よりも尊い願いだった。
その瞳の輝きを前に、アルカは確信する。
“ジョン・ドゥ”とは違う。相棒と共に歩む彼女ならば00決して同じ過ちを繰り返すことなく、本当の栄光を掴み取ることができるのだと。
ならば……アルカが未来ある少女へ贈る言葉は、ただ一つだ。
「……うん!成れるよ……!きっと、君なら……“ジョン・ドゥ”を超えるトレーナーに……っ!!」
「はいっ!!!」
ーーガチャン!
ヒーロー達の激励という追い風を受け、“勇気”を得た少女は未来へ向かって力強く一歩を踏み出し、部屋を後にした。
つい先刻までーー少女の必死な声が木霊していたコテージには、静けさと共に、蒼と桃色の旅人だけが残されていた。
「さあ〜〜てと!!無事、リザさんと記憶の一部も取り戻したことだし、もうそろそろ、ボクたちも次の目的地へ出発しようか、アルカくんっ!!!」
この地で果たすべきことを終えたシアンは、晴れ晴れとした笑顔で新たな旅立ちを促す。
ーーだが。
「……ごめん、シアンくん。あと一つだけ……僕にはやらなきゃ、いけないことがある」
静かに発せられたその言葉と共に、アルカは足を止め、シアンとの旅立ちを拒んだ。
その瞬間ーーー
「私を呼んだかい?」
「「どわぁ!?!?!?」」
静まり返った室内に、突如としてシアンでもアルカでも……ましてやポケモン達でもない第三者の声が朗らかに響き渡る。
しかしーーその声は、皆が聞き覚えのある馴染み深い声だ。
何故なら………
「ク、クリスさん……!!?」
扉も開けずにそこに佇んでいたのは、一時期シアン達と行動を共にした自称・一流トレジャーハンターのクリスその人だったからだ。
「・・・って、なんですか?そのコスチュームは? さっきまでのThe・トレジャーハンターみたいな格好とは打って変わって、科学隊みたいなコスじゃないですか?」
姿を現したクリスを目にし、シアンは思わず別の意味で首を傾げた。
シアンの言葉通りーー今のクリスの身なりは、見慣れたコテコテのトレジャーハンター風衣装ではなく、何らかの公的機関を思わせる洗練された隊服に包まれていたのだ。
その衣装のせいか、これまでのどこか頼りなかった雰囲気は鳴りを潜め、彼からはどこかピリッとした威厳すら漂っている。
「……騙すような真似をして悪かったね。残念ながら……
「偽名っ!!??」
衝撃のカミングアウトを淡々と告げたクリスーーもとい謎の男は、胸元から一枚の白いカード……名刺を滑らかに取り出すと、シアンへ向けて手裏剣の如く一閃させた。
ーーパシッ!!
「本当はロトフィックで送信してもよかったが、たまにはアナログってのも中々いいものだろう?特に……
「え〜と……なになに……?」
「うわ……っ!? 何これ!? 見たことない文字列ばっかなんだけど……?」
その名刺に刻まれていたのは、アルカの豊富な知識を以てしても一切読めない、解読不能な特殊言語。
だがーーー
「“Protection&Unified Rescue Executive”……。略称はーー『
シアンは何の躊躇もなく、その謎の文字列をサラサラと読み上げてみせた。
「読めるの、シアンくんっ!!?」
「アレ、ホントだ? 文法はイッシュ訛りに似てるけど、なんでボクが読めるんだろ……?」
当の本人すらも、自分が解読できた理由にピンときていない様子だった。ーーだが、寧ろその自然な反応こそが何よりの証拠だと言わんばかりに、謎の男はシアンへと静かに歩み寄る。
「まっ、めんどくさそうな事件を調査・解決する機関だと認識してくれればいいさ。そして私はーーー」
男は胸元から黒塗りの手帳ーーライセンスカードを取り出し、提示してみせた。
「捜査チームを率いる隊長の、ミナモだ」
「“ミナモ”……?・・・どっかで聞いたことがあるような……?」
「そして、シアン君」
ーーカチャ!
「君を本件の重要参考人として連行させてもらう」
「「え……?」」
「「ええぇぇぇぇぇぇぇええ〜〜〜〜!?!?!?!?」」
明かされたミナモの正体と、シアンの両腕にはめられた鈍色の手錠……。
二人が放った衝撃の絶叫はーーコテージを突き抜け、厄災の去った晴れやかな青空へとどこまでも響き渡ったのだった。
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これまでの冒険を日記に記録しますか?
はい◀︎
いいえ
アルカは、クリス改めミナモ隊長との出会い、そしてシアンの逮捕を日記に記録した!
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まさかの