ピカチュウ仮面!!! -The Heroic Tale of Yellow Mask- 作:月兎タンク
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CHARACTER SELECT
▶︎SAKURAGI ARUKA
???
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「ねぇ、ソラくん?本当に何一つ……現金すら持ってないの?」
“チトセシティ”への旅路の途中、ふとソラくんの懐事情が気になった僕は、何気なく質問してみた。
いや、別にお金を取ろうとしてるとかじゃないからね!?
ただ……ソラくんは見てくれこそかn……ゲフン!ゲフン! 少し独創的だけど、人生の崖っぷちみたいに見窄らしい訳じゃない。
衣服に多少砂埃がついてるくらいだし、目立った外傷もない。だから、追い剥ぎに遭ったって線は消える。
それなら、行き倒れる前に必ず何かしらの荷物は持ってた筈……。そう睨んだから、記憶を取り戻すのに繋がる“何か”を持ってないかな〜って思っただけだよ。
「残念ながら、金品らしき物は何一つとして所有してなし!そもそも、出発する前に荷物らしき物がないか探したけど、結局なかったでしょ?なら、もうーー・・・ん?」
台詞の途中、違和感に気付いたソラくんは、腰の周りを何やらガサゴソと探り始めた。
「……何コレ?」
「なになに?もしかして、何か見つかったの?」
スッ…
「・・・何これ?」
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第2話『今にも落ちてきそうな夜空の下で』
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無言で僕の手元に差し出された“物”を見た僕は、思わずソラくんとまったく同じ反応をしてしまう。
なんというか……差し出された物は、超古代文明チックと一世代前くらいの近未来チックを兼ね備えたデザインを持つ短剣……のような形状をした謎のデバイスだった。
ぶっちゃけ、側から見れば、ちょっと高級な大人向け
「え、待って?こんな大きい物体を腰にぶら下げといて、今の今まで気付かなかったの?もう、旅立ってから丸一日くらい経つんだよ?」
「おっかしいな〜……。目を覚ました時はこんな物持ってなかった筈なんだけど……」
・・・もしかして、これって盗品?
え〜っと……確か僕たちが途中で寄り道したのは、道中にあったポケモンセンターで昼食を食べた時だけだから……。
……いや、だとしてもポケモンセンターの売店にこんな商品が置いてあるのは見たことがない。
それじゃあ、盗品なんかじゃなくてソラくんの持ち物?……けど、本人は目覚めた際にはこんな物なかったって言ってたし、ここまで大きかったら僕も早い段階で気付けた筈だし……。
「ちょっとこれ借りてもいい?」
「どーぞ、どーぞ〜。道場にどーぞ〜」
考えて答えが出ないのなら、調べて答えを出すべきだ。……ってどこかの地方の偉い学者が言ってたのを覚えてる。
“チトセシティ”への道はまだまだ長いんだし、とりあえず歩きながら調べてみることにする。まずは感触。
「質感は……金属に近いけど、金属特有の冷んやり感は一切ないな……。それどころか中に基盤がギッシリ詰まってるにも関わらず、全然重さを感じないや……」
普通に考えてそんなことってあり得るのかな?
金属と同じ……いやそれ以上に硬いけど、重さはせいぜい発泡スチロール20個分くらい……。
こんな矛盾した特性を兼ね備えるなんて、ハッキリ言って異常だ。
「・・・あっ、コレも今見つけた。てか、出現した」
「出現したって……。マジで君の周辺状況はどうなってるんだよ……」
もうそろそろソラくんに起きた異常性を前に、不気味さすら感じ始めたけど、僕に“見捨てる”なんていう選択肢はない。
……実際は、見捨てたら普通にしばらくの間、罪悪感で眠れなくなりそうだから、引くに引けないだけだけど……。
とりあえず、虚勢で恐怖心を誤魔化して差し出された物を手に取ってみる。
それは、明るい黄色とソラくんの髪色と同じシアン色が混ざり合ったクリスタルだった。
「これって……新種のメガストーン……?」
……いや、多分違う。僕の中にある記憶で一番近い物体がメガストーンだったからそう表現しただけで、100%メガストーンなんかじゃない。
・・・やっばい。そろそろ僕の辞書に『見捨てる』の四文字が書き加えられそう。
「んもうっ!!一体全体、君の身体に何が起こってるんだよ〜!?」
「
「へ?」
「いや……コレは、石じゃなくて
そっか……。けどごめんね、ソラくん。まず……僕は『ルーン』ってのが何なのか分かんないんだ。
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《数時間後》
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あの後、色々と弄ったり、デバイスと
そりゃそうだよ。だって、僕は別に研究職専攻の大学生でもない訳だし。一応、大学までは出てるけど。
……まあ、けどいい暇つぶしにはなったし、結果オーライかな?
「ん〜!やっぱりカレーはガラル地方式に限るね〜。美味しい過ぎてピカエモ〜♪」
「自分のことは一切分からないのに、ガラル式のカレーは分かるんだ……。・・・あっ、すごく美味しい」
“チトセシティ”まであと数時間も歩けば到着……というところで、日が暮れてしまった為、僕たちは野宿の準備をして夕食を食べていた。
ちなみにカレーを作ってくれたのはソラくん。僕が作る物よりも何倍も美味しいし、もしかして記憶を失う前は飲食店に勤務してたのかな?
「……そういえば、さっきのデバイスの件なんだけどさ……」
「
「いや、別に僕は機械工学に詳しい訳じゃないけど、こんな摩訶不思議な代物を作れるのは、世界でもキリュウ博士くらいしかいなんじゃないかなぁ?」
「
キリュウ博士も知らないか〜……。う〜ん……記憶がある時とない時との違いが分かんないぞ?
「オッケー……それじゃあ、簡潔に説明するね?キリュウインダストリーってのは、カントー地方に拠点を置く世界屈指の大・大・大企業!そして、キリュウ博士ってのは、その会社の社長で超天才科学者!まだ生きててバリバリの現役だけど、教科書に載るくらいには有名人だよ?」
……まあ、ここ最近は歳のせいか、以前よりも革新的な商品を出せてないから、世間からは厳しい声が多いけど……。
「・・・分かった?」
「あっ!見て!あそこの茂みの奥っ!!ピカチュウいるっ!!!」
ズコーッ!!!
せっっっかく人が丁寧に説明してやったってのに、これっぽっちも聞いてない!!?なにこの人!?精神年齢7〜8歳児!?
「人の話……聞いてた……?」
「あ〜……うんうん。なんかスゴい科学者なんでしょ〜?」
「……まあ、ざっくらばんに噛み砕くとそうだけどさぁ……」
ハァ……もういいや。熱狂的なシンパでもない僕がwikiを見ながら説明したところで『超天才物理学者』以上の感想は出てこないし……。
ソラくんの自由奔放さに呆れる気力すら沸かなかった僕は、茂みの奥に居るらしいピカチュウを見ることにする。
「ピッカ!」
「あ〜!コッチ見てくれた〜!!可ン愛い〜〜♡」
そこに居たのは……♂♀のピカチュウ2匹と、♂のピチュー一匹……。見た感じだと親子……もしくは兄妹かな?
「どの地方でもレアなピカチュウを生で見れるなんて感激!テンションがヤバエモ〜♪」
「別にそうでもないよ。確か昔はペットとしての需要が高かったことから乱獲が相次ぎ、一時期は希少種として登録されてたようだけど、先人たちの保全活動の甲斐あって、今ではどこでも見かける普通のポケモンだよ」
「ほへー……。なんとなくピカチュウといえば“トキワの森”ってイメージがあるけど、今はそうでもないのか……」
“トキワの森”か……。ここ数年で色んな地方を旅したけど、僕はあの森が各地方の名所の中で一番好きだな。あの森特有のマイナスイオンが気持ちいいんだ。
それにしても……“ロトフィック”の件といい、キリュウ博士の件といい……基本的な知識が100年前で止まっているところを見るに、もしかしてソラくんって100年前からのタイムスリッパー?
一般的なポケモンでも、ドータクンみたいな次元を操るポケモンも居るし、可能性としては全然ありえる気がする……。
う〜ん……だとしても、記憶が一切ない理由が説明できないしな〜……。
「いいよね〜、ピカチュウって。なんか見てるだけで、心の奥底がマジエモにポカポカしてくる気がするし。あ〜あー、世界がピカチュウに包まれれば、もっと平和になると思うんだけどな〜」
そう願うソラくんの笑顔は……この上なく“純粋”で誰よりも“優しい”笑顔だった。
尤も、今はまさに“平和”そのものだよ。……表面上はね。
昔は一部の地方で凄惨な戦争が勃発していたようだけど、ある日を境に全ての戦争が終結。今となっては、戦争なんて昔話の概念だよ。
けど、その分闇組織による事件が増加したけどね。……“あいつら”みたいに……。
「……ソラくんはピカチュウが好きなの?」
「……いや、ピカチュウが好きっていうかーーー」
その時、僕は確かに見てしまった。
「・・・ソラくん……?」
ポタ…ッ。
「アレ……?」
ソラくんの目尻から一粒の涙が零れ落ちる瞬間を。
「どうしたのソラくん……?もしかして……泣いてるの?」
「な、泣く……?ボクが……?」
涙を指摘されたソラくんの表情には、普段のサイコ染みた余裕はなくて、明らかに動揺していることが分かる。
「そ、そんな訳ないじゃん……!ボクが泣くなんて……。それに!“ヒーローが泣くのは常に仮面の奥だけ”って相場が決まってるからねっ!」
「ヒーロー……?それって……特撮ドラマの名言かなにか?」
「え……。・・・アレ……?コレって……誰の言葉だっけ……?」
身体を小さく震わせて困惑するソラくんに、僕はこの子の開けちゃいけない『引き出し』に触れてしまったのだと確信する。
・・・あー……。『引き出し』ってのは、僕が個人的に使ってる隠語……のような言葉でね。
『人間』にはーーー踏んじゃいけない“地雷”の他に、その人が隠し通したい“本心”がつまった引き出しが存在する……僕はそう考えてる。
今にして思えば……僕はあまりにも迂闊だった。
そりゃそうだ、自分に関する全ての記憶をなくして平然と居られる訳がない。きっと……ソラくんは、心のどこかでは不安でたまらなかったんだろう。
“
「・・・あっ!そ、そうだ!昔、どこかで読んだ本かコミックかなにかにこう書いてあったんだ!記憶喪失になった人が、目覚めて最初に頭に浮かんだ言葉が、実は過去を握ってる重要な鍵……ってね!」
こうなったら話題を変えるのが一番だ。これ以上、ソラくんの『引き出し』には触れないーーー僕はそう硬く誓った。
「最初に頭に浮かんだ言葉……」
「そうそう!」
「強いて言うなら……『おはよう』……とか?」
・・・ダメだこりゃ。
寝起きの挨拶が重要なピースを握ってる訳ないし。……強いて言うなら、最低限の常識はある人ーーってことくらい?
「……少ししんみりし過ぎちゃったね……。今日はもう後片付けして寝よう。大丈夫、“チトセシティ”に着けばなんとかなる筈だよ。……僕も出来る限りのことはするから」
「………」
あれれ……?なんか突然黙り込んじゃったぞ……?もしや、心の声が漏れてた?
「あの〜……ソラく〜ん……?」
「ーーせて……!!!」
「え……?」
「今すぐ伏せてっ!!!!!」
ソラくんの口から出た言葉は、鬼気迫る表情に正比例するように、この上なく緊迫した声だった。
その言葉にはーー僕がよく知るお調子者で能天気なソラくんとは程遠い、大きな“決意”や“責任感”があった。
「伏せてって……どういうこと……っ!?」
「感じる……!ゲキヤバなヤツが……!!こっちに来る……っ!!!」
「ゲキヤバって……そんなーー」
刹那、僕の声を掻き消すほどの轟音が空を穿つ。
ーーーヒューー……
夜空の果てから響いたのは、雷鳴などではない。空間そのものが軋み、破裂したかのような重低音。
「何……あれ……?」
見上げると、群青色に染まった雲を抉りながら、紫黒の炎を纏った“巨大な何か”が流星のように一直線に降り注いでいた。
あれは隕石だ。……いや、違う!
何故、僕が隕石であることを否定したのかは僕自身も分からない。
ただ唯一の分かったことは、大気を摩擦で焦がしながら落下してくる『それ』のターゲットは間違いなく、僕たちであることくらいだ。
(に……逃げなきゃ……!)
ここにきてようやく、ソラくんの言葉の意味を理解した僕は急いでその場から逃げ出そうとする。
……だが、迫り来る『死』の恐怖で脳の処理速度が追いつかず、指一本すらまともに動かせない。
こうしてる間にも、刻一刻迫り来る『死』……。遂には衝撃波だけで周囲の木々がなぎ倒され、爆風が僕の視界を真っ白に染め上げる。
(あっーーー僕……死んだーーー)
『死』を確信した僕の脳内に、ロクでもない走馬灯が《だくりゅう》のように雪崩れ込む。
だけど、僕は死ななかった。何故なら……。
次の瞬間ーー世界そのものがフワリと浮き上がったのだから。
いや…… 浮き上がったのは“世界”じゃない。僕の“視界”そのものだ。
「え……っ!?」
視界が目まぐるしく回転し、身体を強い衝撃から守るように包み込まれる。
ーーードゴォォォォォンッ!!!!
数歩手前に直撃した凄まじい着弾音が地面を震わせ、土煙と衝撃波が吹き荒れる中、我に帰った僕は自分が“誰か”に抱えられていることに気づいた。
膝裏と背中に回された腕。
……いわゆる、お姫様抱っこの体勢で。
「〜〜〜っゲホッ!ゲホッ!間一髪のヤバエモセーフ……!命拾いしたねアルカくんっ!!」
「ソラ……くん……?」
着弾地点から飛び退き、軽やかに着地したソラくんが、僕を抱え上げたままニッと笑う。
その顔にはさっきまでの動揺はなく、全身の皮膚が泡立つような緊迫感と、信じられないほどの敏捷さが宿っていた。
「……なんで顔を隠してんの?」
「……ごめん、ちょっと今だけはまともに君の顔を直視できないかも……」
ごめんねソラくん。その顔と声で命を救われたら誰だって心がときめいちゃうんだ。多分、今の僕は顔がメッチャ紅くなってるし。
・・・ちょっと待って?今僕が居る座標って、落下してきた正体不明の“何か”を見下ろす位置だよね……?ってことは……!
「あの一瞬で、数メートルもジャンプしたってこと!?それも……僕を担いでっ!!?」
「・・・ん?数メートル……?」
「・・・へ?」
「・・・え?」
待って待って待って……!なんか……ものすっごく嫌な予感がするんだけど……!
「あの〜……ソラくん……?一応聞くけど……自分の力で僕を助けてくれたんだよねぇ……?・・・どうやってこの高さまで飛んだか覚えてるよねぇ!?」
「・・・ごめん、アルカくん……。全っ然覚えてないっ!!!」
「やっぱり〜〜〜っ!!!!!」
僕の絶叫が夜空に木霊した瞬間、まるで今頃重力が本来の仕事を思い出したかのように、僕たちを物理法則に従わせて地上に連れ戻した。
「「どわぁぁああ〜〜!!!???」」
ドスンッ!!!
「びがっ!?」
「げぼぉっ!!??」
地面に激突する直前、ソラくんが僕を放り投げて衝撃を緩和してくれたけど、それでもめっちゃ痛い……!……けど、命があるだけ儲けもんーーなのかなぁ……?
「ありがとう……ソラくん……」
「・・・(^^)b」(グッ…!)
衝撃で声を出すのも辛いのか、ソラくんは地面に突っ伏したまま、プルプルと震える右腕で無言のサムズアップを掲げて応える。
無駄にキリッとしたその手元が、今の情けない体勢と噛み合っていなさすぎてシュールすぎる。……まあ、僕を庇ってくれたのは紛れもない事実だから、強くはツッコまないでおいてあげるけどさぁ……。
僕は痛む腰を庇いながらなんとか立ち上がり、土煙を払いつつ周囲を見回した。
……そして、直撃の惨状を目にした瞬間、僕の思考はピタリと停止する。
「あ……ああ……!」
その瞬間、僕の脳裏に焼きついた感情はまさしく『絶望』の二文字。
さっきまで僕たちが和気藹々と囲んでいた野営地は、跡形もなく吹き飛ばされ、丁寧に組んだ焚き火の跡は巨大なクレーターの底部へと消え去り、野宿用のテントは引き裂かれ、僕たちのリュックは遥か遠くの木々に引っかかって無惨に引きちぎられている。
要するに、だ……。
「ほ゛く゛の゛キ゛ャ゛ン゛フ゛セ゛ッ゛ト゛か゛〜〜〜!!!」
旅立った時からずっと愛用し続けてきたキャンプ道具一式は、今日その命を散らした。
「アルカくん……!」
「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛〜〜〜!!!お゛気゛に゛入゛り゛た゛っ゛た゛の゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛〜〜〜!!!!」
「アルカくんっ!!!」
「ハッ…!ソ、ソラくん……?」
「今すぐ……この場から離れるよ……っ!!」
「離れる……?」
「ココは危険だ……っ!もうすぐ……
ソラくんの切迫した叫びに、僕は思わず息を呑む。
「産まれるって……まさか……!」
ーーピシッ……
僕の問いかけの言葉は、クレーターの底から響いた微小な亀裂音によって遮られた。
「嘘だろ……?」
紫黒の煙が渦巻くクレーターの中心。そこに鎮座していたのは、隕石などではない。
巨大で不気味な、拍動する紫煙の“繭”……あるいは“卵”のようなナニカだった。
ーーピシッ……ピシピシッ!!!
ヒビ割れは一瞬にして表面全体へと伝播していく。
同時に、大気が重苦しく歪み、肌を刺すような悪寒と異臭が周囲一帯に立ち込める。
「今度は……心臓の音……?」
ドクン……ドクン……と、大地の底から響くような不吉な脈動。
それは内側から這い出そうとする“異常な生命”の鼓動そのものだった。
ーーバリィィィィンッ!!!!
「アルカくんっ!危ないっ!!!」
「ぶわっ!?」
遂に殻が激しく弾け飛び、眩ませるほどの紫黒の閃光が夜空を焼き尽くす。
『ルロォアァ……!』
爆風とともに煙の中から現れたのは、僕たちの知るポケモンの姿を歪に引きちぎり、悪意で塗り固めたようなおぞましい異形の“怪物”だった。
全体的な色彩はアローラガラガラを思わせる漆黒と禍々しい霊火のカラーリング。けど、そのスケールと肉体構造は僕の知っているガラガラとは大きく違う。
身の丈は3メートルを優に超える巨体。そして何より異彩を放っていたのは、胴体から生え伸びた醜悪な『四本の腕』と、本来存在する筈のない『二対の白骨化した頭部』だった。
重なり合う二つの髑髏の眼窩から紫炎の眼光がギラつき、細く引き締まった四本の腕にはそれぞれ異様な形状の骨根棒が握られている。
その異形にはどんなポケモンにも持つ最低限の理性など微塵も感じられず、ただ眼前にある全ての命を断とうとする純粋な破壊衝動だけが宿っているーーーように見えた。
『ジュピラ……!!!ルロォォォォォイッッッ!!!!!』
大気を震わせ、鼓膜を裂くほどの咆哮。
それは僕が慣れ親しんだポケモンとしての鳴き声などでは到底なくーー世界観が違う“怪物”そのものの叫びだった。
「なんだよこれ……!本で見た“伝説のポケモン”とも違う……っ!こんなの……ただの“怪物”じゃないか……っ!!?」
凡人の手に負えないくらい凶暴なポケモンと遭遇して恐怖心を感じるーーーそんな経験は嫌というほどある。
……けど、僕が今まで相対してきた凶暴なポケモンは、獰猛さの中にどれも憎めない“可愛げ”と“知性”があった……。
でも、目の前の怪物は違う……!人類と共存関係を築く余地なんて微塵もない、血と破壊衝動に飢えた獣だ……っ!
「“アーク・ポケモン”……!」
パニックに継ぐパニック。恐怖のあまり、身体の震えが止まらない状況に追い詰められてるってのにーーー僕はソラくんの一言を聞き逃さなかった。
「“アーク・ポケモン”……!?そんなポケモン、僕は見たことも聞いたこともないよ……!ソラくん……君はあのバケモノの何を知っているの……っ!?」
「分からない……っ!けど、あのポケモンを見た瞬間……その名前が頭に浮かんだんだよ……!」
そう答えるソラくんの声には嘘偽りなんてない。本当に……本当に自分でも理屈が分かっていないんだ。
『ルゥロォ……!!』
なぜ、なに、どうしてーーーそんなことすら考える間もなく、頭上の暗雲を切り裂くように、四本の腕の怪物がその異様な骨根棒を同時に振り下ろしてくる。
「やっばい……!!!」
ーードゴォンッ!!!
「ぶわっ!?」
「うわぁ!?」
ただ力任せに骨棍棒を地面に叩きつけただけーーーたったそれだけの動作だけで、地面に巨大なクレーターが発生し、凄まじい衝撃波が僕たちを容赦なく弾き飛ばす。
「げほ……っ!ごほ……っ!」
「大丈……夫……?シアンくん……?」
あれだけの衝撃波に襲われてもなお、僕たちはなんとか生きていた。
けど、ハッキリ言って死ぬほど全身が痛い。いっそのこと、あの一撃を受け入れていれば、こんなに苦しい思いをせずに済んだんじゃないかって思ってしまうほどに。
……でも、この苦痛を代償に目の前のバケモノの狙いは分かった。奴の目的は僕じゃなくて、シアンくんだ。
さっきの一撃を放つ瞬間……その目線は明らかに僕じゃなくて、シアンくんに向いていた。
「アルカくん……?」
ということは、だ……。あの“怪物”に
『ルロ……!ルッロ……!』
黒い“怪物”はズンズンと大きな足音を立てながら、僕たちの方へ向かって来る。猶予は時間にしてだいたい10秒程度。
ーー10……
後ろに居るのは、昨日会ったばかりの僕とは縁もゆかりもない赤の他人。
ーー5……
赤の他人を命懸けで守ってやる義務なんて、僕にはこれっぽっちもない。
ーー1……
『いや〜♪世の中も捨てたモンじゃないよね〜!こ〜んな優しい人がいるんだからさ〜!!』
………。
ーー0……
「ーー訳がないだろ……!」
もう“あんな悲劇”を繰り返さない為にも……!
「そんなこと……!できる訳がないだろぉぉぉぉぉ!!!!!」
『ルロ……ッ!?』
ほんの一瞬……ほんの1秒程度だけど、何故か“怪物”は怯んだ。
その理由は分からないけど、今はそんなことを考えてる暇なんてない……!
僕は腰のベルトから二つのボールを引っ掴み、渾身の力で地面へ投げつけた。
「来てっ!!ガラガラっ!!ポリゴン2っ!!」
ボールがカパっと開いて、弾け飛ぶ二つの閃光。
淡い月明かりが照らす草原に現れたのは、二対の骨を力強く構えた僕のエースと、デジタルな質感で静かに浮遊するピンクとブルーの独特な色合いをした電子生命体。
「ガッラー!!!」
「ポリリンっ!!!」
これこそが、僕の手持ちで最強クラスのポケモン、アローラガラガラとポリゴン2だ。
「シアンくん……。あの道を真っ直ぐ走ればチトセシティに着く……!街へ行って、この怪物のことを警察に報告するんだ……!」
「で、でも……っ!それじゃあアルカくんは……!?」
「僕は……僕たちは……!ここで死ぬ気で時間を稼ぐ……っ!」
「そ、そんな……っ!?ムリだよっ!!あんな怪物……君じゃ勝てーー」
「いいからっ!!!早く逃げてっ!!!!!」
「っ……!……分かった」
ようやく折れてくれたソラくんは、僕に背を向けてチトセシティへ続く道へ向かい始める。
『ルロ……ッ!!』
「行かせないっ!!ガラガラっ!!!」
「ガァッ!!ラァァァーーッ!!!」
怪物がシアンくんを追いかけようとした直後、特性:いしあたまのガラガラによる渾身の《フレアドライブ》が怪物の脳天に直撃した。
『ルロガァ……!!?』
多分、『逃すか』的なニュアンスの鳴き声だったんだろうけど、残念。絶対にここから先には行かせないよ。僕たちがそれを許さない。
「君がポケモンなのか、それともこの惑星の外から来た宇宙人なのかは知らない。……けど、本気で僕を倒したいのなら。・・・命を懸けてかかってこい……っ!!!」
『ルロォ……。ルゥゥゥゥ……!!ロアァァァァァアア!!!!!』
……これまでの攻撃から察せられる“怪物”の戦闘力は、地方チャンピオンのエースポケモンの優に100倍……。
下手すれば、地方自衛軍の全総力に匹敵するかもしれない……。
……本当にごめんね、僕のポケモンたち。何度も何度も、危険な舞台に首を突っ込むダメなトレーナーで。
本当に申し訳ないと思ってる。だけど……ここまできたら最後まで僕にその命を預けてくれ……!
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これまでの冒険を日記に記録しますか?
はい◀︎
いいえ
アルカは正体不明の
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遂に現れた本作オリジナルの特殊なポケモン群……その名も“アーク・ポケモン”!通常のポケモンとは比にならない凶悪さと破壊衝動を併せ持つ怪物相手に、果たしてアルカは生き残れるのか!?