ピカチュウ仮面!!! -The Heroic Tale of Yellow Mask-   作:月兎タンク

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英雄の証

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CHARACTER SELECT

▶︎SAKURAGI ARUKA

 ???

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『ルロォォォォォイッッッ!!!!!』

 

「さあ……行くよ!ガラガラ!!ポリゴン2!!」

 

 恐らく、僕の人生最後であろうポケモンバトル……!

 目の前で吠える“怪物”へ先陣を切るのは、僕の手持ちの中でも最強格のエース……アローラガラガラとポリゴン2だ。

 

 僕の手持ちは残り3匹……。でもぶっちゃけこの子たちの片方でも戦闘不能になったら詰みだ。残りの手持ちで怪物(あいつ)に太刀打ちできる未来が見えない。

 

 2匹の気絶は実質、ゲームオーバーと同義……。つまりは僕の視界が永遠に真っ暗になるってこと。

 

 ……もうここまできたら、やれるとこまでやるっきゃない……!何としてでも……シアンくんがチトセシティに到着するまでの時間を稼いでやる……っ!

 

『ルゥ……ロォォォ!!!』

 

 いきなり速攻を仕掛けてきたっ!やっぱり速い……!この速さーー種族データに直せば『150』以上は確実にある……!

 

 けど……対策は既にできてるっ!

 

「ポリゴン2!《トリックルーム》だっ!!!」

 

「ポリっ!ポリリ〜ンっ!!!」

 

『ルウッ!!?』

 

 よしっ!第一の作戦は成功っ!!《トリックルーム》は素早さの概念が捻じ曲がった特殊なフィールドを展開する技……!

 このフィールドの中じゃ、速いポケモンは“遅く”……!遅いポケモンは“速く”なる……!

 

 “怪物”は巨体に似合わず俊敏だってことは既に分かっていたことだからね!この技は効果的って訳!

 そして、“怪物”の動き鈍くなったところに……!

 

「ガラガラっ!もう一度……!脳天に目掛けて最大火力の《フレアドライブ》だっ!!!」

 

「カラッ!ガァララァァァァ!!!!」

 

 ガラガラの《フレアドライブ》をぶち当てる作戦……!これが決まってくれれば、並大抵のポケモンなら一撃KOの筈だけど……。

 

『ルロ……!ルロッシャァァァァ!!!!』

 

 やっぱり、そう上手くはいかないよね……。

 素早さが逆転しても、怪物が動けなくなった訳じゃない。《フレアドライブ》が直撃する寸前に骨棍棒を盾代わりにガードしたことで、渾身の《フレアドライブ》は惜しくも決まらず、無効化されてしまう。

 

「くっ……!それなら……ポリゴン2っ!!《れいとうビーム》!!!」

 

「ポーンっ!!!」

 

 幸い、僕のガラガラの特性は【いしあたま】だから、頭部への衝撃に強い耐性があるけど、あの骨棍棒で全力で殴られたら流石の石頭でも簡単に粉砕されるだろう。

 

 文字通り、敵の一撃一撃が致命傷になりかねない、圧倒的な戦力差……。1秒でも長く時間を稼ぐ為には、《トリックルーム》の効果が切れるまで怪物に反撃する暇を与えない他方法はない。

 

 とはいえ、だ。今の攻防である程度分かったことはある……!

 

 分かったことその①!

 とりあえず物理・特殊問わずに攻撃は効くっ!

 

 あの怪物は《フレアドライブ》や《れいとうビーム》を喰らった瞬間、僅かに怯んだ……!

 見た目こそバケモノでも、技の効き具合が通常のポケモンと変わらない以上、まだ手の打ちようはある……!

 

 分かったことその②!

 ハチャメチャにタフ!タフって言葉はあの“怪物”の為にあるっ!

 

 怯ませることはできても、効果的なダメージを与えることはできてない……っ!

 厳密には、岩タイプのポケモンのように硬いっていうよりかは、途方もなく体力が多いって感じだ……!

 

『ルロォ……!!!』

 

 やっばい……!そろそろガラガラたちの攻撃に適応し始めた……っ!

 攻撃が直撃しても、反撃に移る余裕ができて、武術のような構えをとってる……!このままじゃ……!

 

「ガラガラ!ポリゴン2!攻撃中止!反撃に備えて、大きく距離を取って!!!」

 

『ルロッシャァァァァァァ!!!!!』

 

 怪物が凹むほど強い力で地面を踏み込んだ瞬間、その全身から桃色の炎が激しく吹き荒れる。

 

早めに回避の指示を出したことが功を成して強力な範囲攻撃がポケモンたちに当たることはなかった。

 ……けど、一番の問題は()()()()()()

 

「だわぁ!?」

 

 問題だったのは、ポケモンじゃなくて僕の方。

 恐らく……今、怪物が使った技は《オーバーヒート》。 

 

 ただでさえ強力なフィジカルを持つポケモンが、強力な技を使うだけでも頭が痛くなるってのに、さらに最悪なことに、通常の《オーバーヒート》と違って巨大な火の塊が周囲に撒き散らされるオマケ付き。

 

 当然、僕も例外じゃないけど、火の玉が直撃するギリギリのところでなんとか躱わす。

 

 くそ……っ!これもまた厄介……! ポケモン対ポケモンの構図が確立された公式戦と違って、指示を出すトレーナー自身も安置を確保することを求められる……!

 ……ポケモンに『かわせ!』と指示することはあっても、自分自身に出すのは今日が初めてだよ……。

 

 あまりにも危険すぎて永久禁止になった、ZAロワイヤル形式のバトルを現代人である僕が初見でこなさなくちゃならないってのが、思った以上に辛い……っ!

 

「でもやるしか道はないっ!!!ガラガラっ!!即座に体制を立て直して《つるぎーー」

 

ーードギャッ……!

 

「・・・え?」

 

 一瞬、僕自身も何が起きたのか理解できなかった。

 指示を出すきるよりも早く、僕の耳に届いたのは……骨が砕ける胸の悪くなるような鈍い破壊音。

 

 直後、僕の真横をくの字に身体が折り曲がった“黒い物体”が風を切って通り過ぎる。

 

「ガ……ッ!ラ……ッ?」

 

 軽い衝撃波と共に地面に激しく転がり落ちた“黒い物体”の正体は、僕が絶対的な信頼を置いていたエース……ガラガラーーー。

 

「ガラガラ……?」

 

 遅れて正体を察した僕は弱々しく呼びかけるが、ガラガラは返答どころかピクリとも動かない。

 

ビーッ!ビーッ!

 

「ッ!」

 

 徐々に僕の脳がガラガラの身に起きた出来事を理解し始めた瞬間、ガラガラを入れていたモンスターボールからけたたましい警報が鳴り響く。

 

『警告!警告!登録ポケモン・ガラガラ(アローラ種)のバイタル低下!繰り返します!登録ポケモンのバイタルが低下!只今より生命維持モードに切り替えます!直ちに最寄りのポケモンセンターへ向かってください!』

 

「……嘘だろ……?」

 

 警報が鳴り止んだ瞬間、強制的にボールから赤色の光線が発射され、地面に伏していたガラガラはモンスターボールに戻される。

 目の前で起きたことが示すのはただ一つ……僕のガラガラは今死にかけている真っ最中だってことだ。

 

「なんで……どうして……?」

 

 たった1秒の間に起きたありのままの“事実”に、脳は理解を受け入れても、魂は理解を拒んでしまう。

 

 だってそうだろ……?いくら試合の勘が鈍っているとはいえ、僕の戦術は最善手だった……。

  

 《トリックルーム》を使って怪物とガラガラたちの素早さを逆転させて、反撃する暇を与えないーーーそれが僕たち『人類』にできる唯一の抵抗だった筈だ。

 

 けど……僕は『最速』から『最遅』となった筈の怪物の動きを捉えることができなかった。それは……ガラガラもポリゴン2も同じだった筈。

 

 なんで?どうして?なにが悪かった?ーーーそんな思考がグルグルと脳内を渦巻く。その間現実時間にして0.05秒。

 

 ぐるぐると高速回転していた脳の処理回路が、ふと、異質な静けさにぶつかって急停止した。

 

 だってーーー

 

「え……?」

 

 空間を歪め、素早さの概念を捻じ曲げていた筈の領域が……跡形もなく()()()()()()()()()()

 

「《トリックルーム》が……消えてる……?」

 

 おかしい、おかしすぎる……おかしいにもほどがある……っ!!!

 なんでだ!?《トリックルーム》は一度の発動で5分は持つ筈……っ!!まだポリゴン2が展開してからは3分も経ってないぞっ!!?

 

ーー『ルロッシャァァァァァァ!!!!!』

 

「……あっ」

 

 まさか……さっきの《オーバーヒート》か……?

 僕はてっきり、あの技はガラガラたちと距離を取って体制を立て直す為に発動したーーそう思い込んでた……。

 

 でも、こうも考えられる……!『身体の自由を奪う邪魔な空間を先に吹き飛ばした』って……!!

 

 けど常識的に考えてありえるか……っ!?《オーバーヒート》が《トリックルーム》を解除できるだなんて聞いたことも見たこともないーーー

 

『ルウゥ……!ロラァァァァァァ!!!!!!』

 

「ポリ……っ!?」

 

「ぐっ……!?」

 

 誇張抜きで地面を揺るがす怪物の咆哮ーーーそれに怯んだ僕はようやく思い出した。 

 

 答えは至極簡単なことだった。僕が対峙している存在はなんだ?

 

 リーグチャンピオンのエースポケモンか……?

 悪の組織が復活させた伝説のポケモンか……?

 

 ……どれも違うだろ。僕の目の前に居るのはーーーポケモンかすらも怪しいただの“怪物”だ……!

 

 そんな世界線すらも超えたような怪物に、僕が持つ“常識”なんて通用する筈がなかった。

 

『グルルル……』

 

「・・・終わった」

 

 ズンズン、と威圧を兼ねた足音が近づいてきても逃げる気力すら湧かない。

 文字通り全てを失い万策尽きた僕の視界は……ゆっくりと真っ暗になった。

 

 

 

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第3話『英雄の証』

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CHARACTER SELECT

 SAKURAGI ARUKA

▶︎SOーー繧キ繧「繝ウ

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 ・・・こんなの全然エモくない。

 

ーー『いいからっ!!!早く逃げてっ!!!!!』

 

 もうどれだけ走ったのかな……?5分?30分?1時間?

 正確な時間はボクには分からない。……だけど、どれだけ息を切らして走っていても……あの時のアルカくんの言葉が、ずっと頭にこびり付いて離れない。

 

「はぁ……はぁ……!急がなきゃ……!!早くしないとアルカくんが……!ーーーうわぁっ!?」

 

スッコロテーンッ!!!

 

 考え事をしながらどこか上の空で走っていたのがマズかった。

 道のど真ん中に落ちていた、野生のポケモンが食べ残したであろうナナの実の皮を踏んだボクは、後頭部から思いっきり転がり落ちる。

 

「痛たたた……なんだよもうーーー」

 

 ああ、もう……っ!今のボクは1秒だって惜しいってのにぃ……!!!

 ・・・落ち着けボク……。もう転んでしまったのは仕方ないんだ。ココは発散のしようがない怒りをグッと耐えて、スマートに立ちあがれ……!!

 

 ハイ、1・2・3ーーー

 

ーー『ピカカカッ!そんじゃ、勝ちにいこうぜッ!!相棒ッ!!!』

 

ーー『ギャウ!(油断は禁物ですぞ!『繧キ繧「繝ウ』殿!)』

 

ーー『がんばロト〜♪』

 

 っ……!!?何……今の……?

 コレは……『声』……?それとも……ボクの昔の『記憶』……?

 

 頭を強く打った拍子に眠っていた記憶の蓋が緩んだのかな……?でも、ダメだ……全っ然記憶にない……。

 

 ……けど、どうしてだろう……。胸の奥から“懐かしい”が溢れてくる。

 

「ひぐ……っ!えっぐ……っ!」

 

 『またみんなに会いたい』ーーーその想いが溢れて止まらない。

 不思議だよね?今のボクの記憶にあるのは『声』だけなのに……。姿も形も分からない“誰か”と会いたくてたまらないんだから。

 

 溢れ出す感情が強くなるに連れて、目から漏れ出る涙はより一層激しさを増す。

 

(ダメだ……今ココで泣いちゃダメなんだ……!お願い……!止まってよ……!“ヒーローは……仮面の奥でしか泣いちゃいけない”んだから……っ!!)

 

 “ヒーローが涙を流すのは仮面の奥だけ”ーーーボクの記憶にはない。だけど肉体の……細胞の一つ一つに染み付いた、誰かがボクに与えてくれた唯一の“言葉(きおく)”……。

 

 ボクは涙を抑えつける為に、何度も何度も同じ言葉を復唱して立ちあがろうとする。

 

 けどーーー

 

『違うね、キミのその言葉は……解釈違いだ』

 

「・・・え?」

 

 突然耳に届いた声が、唯一の“言葉(きおく)”を否定する。

 

 ボクは声の方向へ顔を上げる。そこに居たのは……

 

『ヤッホー♪初めまして……じゃないよね?』

 

 全体的な衣服のデザインは、ボクが着ている服に似てるけど、後頭部にイナズマを思わせる独特な曲線を描く長い黄色フードに、地面につくスレスレの長さの大きなシアン色のスカーフ……。

 

 そしてなによりも……お祭りの屋台で1000円くらいで売ってそうなピカチュウのお面を被った特徴的な容姿をした“ニンゲン”だった。

 

 フードの奥からチラリと見える髪色は……僕とまったく同じ(シアン)色をしている。

 

「キミは……誰……?」

 

『・・・ボクはただの……名もなき“旅人”だよ。けど……ボクはキミを知っている。siーーいや、ココはあえて“ソラくん”って呼ばせてもらおうかな?』

 

 自分を“旅人”だと名乗る不審者だけど、不思議と敵意は感じられない。こんなに怪しい恰好なのに。

 

 ……けど、なんでだろう。旅人の声を聞けば聞くほど、アレだけ悲しみに満ちていた心が落ち着く。

 

「……悪いけど、ボクはキミとお話ししてる時間はないんだ……。早く、チトセシティに行って警察を呼ばないと……!」

 

『・・・キミは、警察程度にあのバケモノをなんとかできるって本気で思ってるの?』

 

「っ……!そ、それは……!」

 

 仮面の旅人の指摘に、ボクは反論できない。

 ボクたちの前に現れたあのバケモノ……ボクは無意識のうちに“アーク・ポケモン”って呼んでたっけ……。

 

 あのアーク・ポケモンの強さは規格外だ……。記憶のないボクにだって警察の平均的な武力がどれくらいかは分かる。

 多分……全世界から警察が……いや、軍が出動したってあの怪物に勝つことはムリだ。

 

『……ソラくん。ココは“運命の別れ道”だ』

 

「別れ……道……?」

 

 そう告げる旅人さんの声はアルカくんのように優しい。けど……同時にボクを試すような声でもある。

 

スッ……

 

 手始めに旅人さんは、ボクが向かう先ーーチトセシティへ続く道を指差す。

 

『キミがこのままチトセシティに向かえば……幸運な人生か、不運な人生か、どちらの人生を生きるかは分からないけどーーー少なくとも……キミは“ただの人間”として生きることになる』

 

「……アルカくんはどうなるの?」

 

『・・・断言する。彼は100%死ぬ。彼だけじゃない、あのバケモノを討伐しようとした者全員がヤツに殺される。人もポケモンも関係なしに、だ』

 

「……それじゃあ、ボクは……?」

 

『・・・キミは生きる。どれだけ犠牲が出ようが関係ない。“()()”はどんな犠牲を払ってでもキミを生かし続けるだろう。……それこそが、世界を守る唯一の希望なんだから』

 

 ボクが“唯一の希望”……?

 ・・・ぶっちゃけ、割と早い段階から薄々気付いてた。ボクは普通の出じゃないことくらい。なんならボクは……アルカくんたちのように人間ですらないかもしれないって……。

 

『……少し話が逸れちゃったね。それじゃあ、話を戻すよ?残る別れ道は……アッチだ』

 

 最後に旅人さんが指差したのは、チトセシティから逆方向……つまりはアルカくんが怪物と戦っている戦場へ続く道ーーそしてボクが辿った道でもある。

 

『運が良いのか必然か……。ヤツと相対してから3分も経ってるってのに、彼ーーサクラギ・アルカはまだ生きてる』

 

「ほ、本当っ!?……でも、どうして分かるの……?」

 

『感じるんだよ。まったくの無傷ってワケじゃないだろうけど、彼の“()()”がちゃんと脈動しているのがね』

 

「はどう……?」

 

『・・・とりあえず、キミの友達はまだ生きてるってこと!』

 

「……もういいや」

 

 とりあえず一つ分かったことがある……。

 ボクが今、立っている地点……。ココは冗談だとか、誇張表現だとかじゃなくて……本当の意味での運命を決める岐路の中間地点なんだ、と。

 

『……ようやく実感したみたいだね。先に言っとくけどボクは誘導するような真似はしないよ。ボクはただ“道を示した”だけ……。どちらの道を選ぶかはーーーキミ自身の“感情(エモ)”が決めるんだ』

 

 ボクの……“感情(エモ)”……。

 

『キミがどんな選択をしようとも、誰もキミを責めることはないだろう。キミは……それだけの“責任”を果たしたんだから』

 

「……教えてよ。ボクは一体……誰なの……?」

 

『・・・ごめん。それだけは絶対のボクの口から答えるワケにはいかない。……ボクだけじゃない、きっと“彼ら”も口にしないだろう。その答えはキミ自身で探し出すしかないんだ』

 

「………」

 

『・・・もうそろそろ時間が来たみたいだ。最後に一言だけ言わせて欲しいな。・・・ヒーローは決して“神”なんかじゃない。命を救えなくて悔しさのあまり泣いてしまう時だってある。恐怖のあまり脚が震える時だってある。時には……孤独に押し潰されそうなることだってある……』

 

「……ボクは今も孤独で押し潰されそうだよ……」

 

『……うん、知ってる。でも、それでいいんだ。だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“人”であることがヒーローの証なんだから』

 

「っ!!!!」

 

ーードガァァァァァン!!!!!

 

 刹那、夜空を覆った暗雲から一筋の雷が近くの木へ落ちる。

 青天の霹靂……とは絶妙に違うけど、あまりの轟音に不意を突かれてしまったボクは、反射的に驚いてほんの一瞬ーー時間にして1秒程度だけ旅人さんから目を晒してしまう。

 

 ……けれど、ボクが再び視線を戻した時、そこに旅人さんの姿はなかった。

 

 その代わりーーお面の旅人さんが立っていた地点に残されていたのは……転んだ拍子にボクのポケットから地面に転がり落ちていた蒼と黄色の紋章(ルーン)だった。

 

「……ボクの“感情(エゴ)”が赴くままに、か……」

 

 旅人さんが消えた時には、すでにアレだけ溢れていた“懐かしい”と涙はピッタリと止まっていた。

 

 ……ボクが出会った旅人さんが“本物”だったか……。それとも、ボクの心の弱さが作り出した“幻”だったかは分からない。

 

 でも……!

 

「もう分かったよ……!ボクは……ボク自身の“道”を行くっ!!!だってそれが……!」

 

 ボクは残った涙を拭って、自分自身の意志で決めた“道”へ向かって走り出す……!

 

「本当の“感情(エモ)”なんだからっ!!!!!」

 

 

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CHARACTER SELECT

▶︎SAKURAGI ARUKA

 ???

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「・・・終わった」

 

 ガラガラは瀕死の重症を負い戦闘不能……。

 サポーターであるポリゴン2じゃ怪物に太刀打ちできない……。

 そもそも、僕の戦略は怪物相手には何一つ通用しなかった……。

 

 見事なまでに完敗だ。もう、身ぐるみ全部剥がされた僕に打てる手はない。

 

『ジュピラ……!』

 

 うっわ……近くで見るとかなり歪な形をしてるな、その骨棍棒……。

 そりゃ別の意味で命を刈り取る形をしてたら、砂漠地帯出身のガラガラだって生死を彷徨う重症を負っちゃうよ……。

 

「ーーーくん……!」

 

 あー……いよいよ僕の人生も幕引きか……。本来聞こえる筈のない声まで聞こえてきた……。

 ソラくんはどれくらい逃げられたかな……?せめて怪物が見つけ出すのに手こずるような場所に逃げてくれればいいけど……。

 

『ジュロウ……。ルゥラァァァァァ!!!!!』

 

 ……それじゃ、バイバイ……ソラくん。僕はここで命尽きるけど、君は長生きしてくれることを願ーーー

 

「危ないっ!!アルカくんっ!!!」

 

 ・・・へ?

 

ーーズガァァァァァン!!!!!

 

 なんだ……?今、なにが起こった……?

 聞こえる筈がないソラくんの声が今度はハッキリと聞こえて、それからーーー。

 

『ジュピラ……!?』

 

 そうだ……!怪物の骨棍棒が直撃する直前に“何か”が僕に突っ込んで来たんだ!

 

 あの時確か……花のように良い香りがしたっ!香水みたいな匂いじゃなくて、天然物の花のような……。

 ・・・いや、待てよ……?僕は確かにこの香りを嗅いだことがあるぞ……?確かこの香りはーーー

 

「ソラ……くん……?」

 

「ヤッホー♪アルカくん!」

 

 ようやく状況を飲み込んで、視界がまともに機能した先には、逃した筈のソラくんが僕を抱えていた。

 膝裏と背中に腕を回された状態ーーーつまりは、またお姫様だっこの状態で。

 

スタンッ!

 

「ソラくん……なんーーむぎゅっ!?」

 

「ハァ〜……!本当によかった〜……!!!キミが無事で激エモだよーーー……!!!」

 

 く、苦しいし痛い〜……!そんなに強く抱き締めないでよ……!ガラガラほどの重症じゃなくても、ちょこちょこあんまり折れちゃいけない骨にビビが入ってるんだからーーー・・・じゃなくてっ!!!

 

「な、なんで……戻ってきたの……!?僕は言ったよね!?危ないから逃げろって……!あの怪物の狙いは君なんだよ……っ!?」

 

「怪物……?」

 

『ルロォォォォォイイッ!!!!!』

 

 ほら見たことか!?シアンくんの姿を目にした途端、血相を変えて襲いかかってきたじゃないか!?……まあ、怪物の頭部は白骨化してるから血相もクソもないけど……。

 

「ヤバいヤバいヤバいっ!!!避けてーーーっ!!!ソラくーーんっ!!!!!」

 

 終わった!!!今度こそ本当の本当に終わった!!!

 このスピード、この距離……!戦闘訓練を積んだポケモンでも避けられるか怪しいレベルなのに、人類が対処できる筈がない……っ!

 

「・・・とか考えてるでしょ〜?アルカくん?」

 

「勝手に人の心読まないでよっ!?てかっ!もう来るっ!!僕たちの肉片が地面に飛び散っちゃう!!!」

 

『ルロッシャァァァァ!!!!』

 

 やめてぇぇぇぇぇ!!!!!そんなに殺戮をしたいのなら、せめてソラくんだけでも助けてぇぇぇぇぇ〜〜!!!!!

 

「あらよっと!」

 

 ・・・はへ?

 

『ルロ……ッ!!??』

 

 ……結論から言おう。僕、そしてソラくんは殺意マシマシの怪物に襲われたにも関わらず無事だった。

 

 僕を抱えたソラくんはやったのは実にシンプル……。自分に襲いかかる骨棍棒を逆に足場代わりにして逆方向に移動しただけだ。

 

「信じられない……!あんな『死』の一歩手前の状況だってのに、襲いかかる骨棍棒を足場代わりにするなんて……!普通思いつく筈がない……っ!」

 

「フッフーン!ヒーローの鉄則その①!“絶対絶命の逆境に陥った時にこそ、落ち着いて周りを見渡せ!そしたら意外なところにチャンスがある!”・・・か〜もね?」

 

 ・・・なんだろう。この感覚……。目の前に居るのは間違いなくソラくんなのに、まったく別人と話しているかのような感覚は……。

 今のソラくんには、これまでの不安を隠す為に仮面を被っていたサイコ染みた余裕とは、まったく別種の余裕がある。

 僕と別れた間のたった数分間で、一体何があったっていうんだ……?

 

「ソラくん……。なんか……君、少し見ない間にキャラ変わった……?若干、前よりも大人びてるっていうか……」

 

「……かもね。けど、ボクはボクだ。それは今も昔も変わらない。・・・そういや、さっきの質問を答えてなかったね〜」

 

 そうか……!分かったぞ……!きっと、ソラくんとあの怪物には深い因縁があるんだ……!

 多分、逃げてる途中にそれを思い出したから、一族代々伝わる封印の秘術か何か使って、バケモノを封印する気だ……!

 

 それなら、怪物がソラくんの殺害に執着する理由も、ソラくんの身体能力が抜群に高い理由にも納得がいく……っ!

 

「ボクが戻って来た理由……。それはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルカくんがとっても“良い人”だから」

 

「・・・へ?」

 

「・・・ん?」

 

「い、いや……!たったそれだけ……!?僕がいい人だから、わざわざここまで戻ってきたの……っ!?」

 

「そーだけど?そうじゃなきゃ、ワザワザあんな世界観を間違えてるバケモノの元へ戻る理由なんてなくない?」

 

 うっ……!確かに、それはそうだけどさぁ……!

 

「・・・プププ……!アッハハハ!!!ごめんごめん!今のは半分ウソ!まだ記憶が完全に戻ったワケじゃないけど、ボクとあの怪物は無関係じゃない。けど……キミが“良い人”だからなんとしてでも助けたかってのは……紛れもなくホント」

 

「……イカれてるよ、君は……。こんな時にそんなジョークを言えるなんてさぁ……」

 

「そうかな?むしろこーゆー時こそ、軽口を叩いて場を和ませるべきなんじゃないかな?」

 

 ……ダメだ。平時ならまだしも、こんな状況でソラくん相手に口喧嘩で勝てる気がしない。

 

 ・・・それにしても……。

 

『ジュロロロ……!』

 

 怪物は、一連の攻防でソラくんに強く警戒してるみたいで、さっきの地点から一向に動き出す気配が見えない。

 

「……アルカくん。こんな中サイズの岩陰で悪いけど、ココで待機してて」

 

「待機って……!キミはどこへ行くの……!?」

 

「大丈夫!すぐ終わらせるからっ!」

 

 ……聞き間違いじゃないよね……?今の言葉のニュアンスって、『ボクがあの怪物を倒す』って解釈でいいよね……?

 トレーナーである僕でさえ手も足も敵わない怪物相手に、生身のソラくんが?

 

「さ〜〜てっ!!1()0()0()()()()()()()()()!フォロー頼むよ〜……僕のマイフェイバリットパートナーっ!!!」

 

 そう言ってソラくんが懐から勢いよく取り出したのは……知らない間に手にしていたという謎のデバイスだった。

 

「それって……!君がいつの間にか持ってた意味不明のデバイスだろ……!?そんなんじゃムリだっ!!!武器もない、ポケモンも持ってないーーー君1人だけじゃ……!」

 

「ワンモア大丈夫!ボクはもう……1()()()()()()()()!」

 

 相手は下手すれば大都市一つ余裕で余裕てま壊滅させかねない“怪物”。

 それに相対するのは、武器も手持ちポケモンも所持していない“人間”1人。

 

 こんなの、ロボットの軍団に弓矢を持っただけの人間が立ち向かおうとしてるようなものだ。

 

 ・・・でもどうしてだろう……。今のソラくんにならーーー

 

「フンフンフ〜ン♪」

 

 全てを任せてもいい……そんな気がする。

 

『ジュルルル………!!!』

 

「お待たせサンダー♪待ちに待たされちゃって、機嫌が悪いとこ申し訳ないんだけどさぁ……ココから先はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパーヒーロータイムだ」

 

【ボルテック・スパーク!】

 

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 SAKURAGI ARUKA

▶︎繧キ繧「繝ウ繝サ蟶ク逎舌�繧、繧ィ繝ュ繝シ繝�

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 閃光(ひかり)が晴れた先にあったのは、澄み切った青空が果てしなく広がる異空間……。

 

「……ヤッホー、久しぶり……だよね?ボクの目には見えないけど、“キミ”はそこにいるんだろ……?」

 

 異空間にはボク1人しか人間……いや、生命体らしき存在はいない。それでもボクは、目に見えなくても確実にいるであろう“彼”に向かって話かける。

 

 そしたら……

 

《ああ……とっても久しぶりだ……。オイラは短気だからよ、100年も待つってのはケッコー苦痛だったんだぜ?》

 

 やっぱりね。“彼”なら……絶対返答してくれると思ってた。

 もっとも……この『声』を聞いても一向に失われた記憶は浮かんでこないけどネ。

 ・・・それでも、この会話は何よりも『懐かしい』だ。*1

 

「アッハハ!待たせちゃってごめんごめん!……けど、よく言うでしょ?“ヒーローは遅れてやって来る”って!」

 

《ピカカカッ!違いねェや!!》

 

 ……本当はもう少し“彼”と話したいけど、のんびりしてる時間はない。

 久しぶりの会話もほどほどにして、おもむろに前方へアイテムを構える。

 

 右手には短剣型のデバイスーー【ボルテック・スパーク】を。

 左手には蒼と黄色の宝石ーー【ソウル・ルーン】を。

 

《・・・最後の確認だ、()()。オマエさんはすでに“ヒーロー”としての道に片足を突っ込んでる。コレ以上、足を踏み入れちまったら……いくら後悔しようとも、もう引き返せねェぞ?》

 

 ……分かってるよ。“ヒーローの道”に華やかさなんてない。むしろ、その逆……血と憎しみに塗れた薔薇の道だ。

 

 正直言って、今だって怖い。もしもボクがあのアーク・ポケモンに負けたら……何百、何千万もの罪のない人たちが死ぬ。

 記憶の大半を失ったボクがあんなバケモノに勝てるのか……そんな不安に駆られる。

 

 でも……!

 

ーーー『いいか“繧キ繧「繝ウ”?もしも、だ。オタクがどうしても敵を前にして脚の震えが止まんないって時は……そっと目を閉じて、3つ事柄を心の中で復唱しろ』

 

 ・・・それでも、もうやるしかないんだ。いつまでも、ボクは子どもじゃいられない。大いなる『力』には……大いなる『責任』が伴うんだから、ネ。

 

「・・・フー……」

 

ーー(ひと)つ。一般人のアルカくんに無茶をさせた。

 

『一つ目、オタクが守れなかったモノ』

 

ーー二つ。今のボクには勇気がある。

 

『二つ目、今オタクの手元にあるモノ』

 

ーー三つ。今度こそ絶対にアルカくんを守り抜く。

 

『三つ目、オタクがコレから絶対に守り抜きたいモノ』

 

ーーー『どうだ? そこまできたら、後はもうビックリする程簡単だ。そうすりゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追い風が、オマエさんの背中(かくご)を押してくれる筈さ』

 

「……よしっ!!!」

 

 心の準備はオールオッケー!ソラーーーいや!()()()参りますっ!!!

 

ジュビンッ!!!

 

 手順その①!【ソウル・ルーン】の上方部にあるスイッチを強く押す!

 

【エモーショナルプラズマッ!!!】

 

 手順その②!ルーンが起動状態になったら、【ボルテック・スパーク】の先端でルーンを読み込ませるっ!

 

【エンゲージ!ポケリンク!“マイソウル”!!!】

 

 手順その③!ココまでくれば、あとは……!

 

《ピカカカッ!!!コレでフィニッシュだ!引き金(トリガー)を……引けェッ!!!》

 

【3……!2……!1……!Are you ready(覚悟はできてるか)? 】

 

 スパークからの問いかけに答えるように……ボクは躊躇なく【ボルテック・スパーク】のトリガーを押した。

 

「・・・レッツゴー」

 

 瞬間、スパークから眩い稲妻が解き放たれて、ボクの身体を包み込んだ。

 バチバチと鳴り響く電流の音が、ボクの鼓動と完全に同調し、重なっていく。

 

 (シアン)色一色に染まっていたボクの服は、黄色を基調としたローブへと変わり、その代わりに(シアン)色の長いスカーフが空へたなびく。

 

 そして……目の前に見覚えのある“ピカチュウのお面”が出現すると、ボクは迷うことなく、それを手に取り顔に装着する。

 

MASK ON!!

type:“EMOTIONAL HERO”!!!

 

 電子音がスパークから鳴り響いた瞬間、澄み切った青空に覆われていた異空間は、現実世界へと戻り、ボク……そして“彼”は黒い怪物の前へと降り立つ。

 

「ソラ……くん……?」

 

 戻って来たボクの姿を見たアルカくんは、唖然として声でボクの名前を呼ぶけど、それも仕方ない。

 だって、今のボクの姿は、さっきボクの前に現れた“仮面の旅人さん”とまったく同じ姿なんだから。

 

 ……そして、ボクの隣には…… 2回りくらい大きくて、目つきも悪い一匹のピカチュウがいる。

 

「ピカカカッ!や〜〜っとこさ、元の姿に戻れたぜっ!!!」

 

 ポケモンが喋るのはアニメの中……それもニャースだけの話ーーそんな常識はあっても、ボクは不思議と喋るピカチュウに驚きはしなかった。

 むしろ、彼の姿を見た瞬間、空白だらけの記憶(パズル)に、一部分だけ記憶の欠片(ピース)が埋められたような感覚に陥る。

 

 ……まっ、今はそんなこと考えてる暇はないよね!よ〜〜し!それじゃあー……

 

「いくよっ!()()()()っ!!!」

 

「オーケー!!ピカっとエンジンかけろよ、相棒ッ!!!」

 

 ボクはマイフェイバリットパートナー……ピカさんと一緒に怪物目掛けて突撃する!

 

 月明かりに照らされる草原のど真ん中で100年前の後始末……その()()()が今、始まったーーー

 

 TO BE THE NEXT STAGE……!

 

「……これ夢だぁ……」

 

ーーーーー

これまでの冒険を日記に記録しますか?

 

はい

いいえ◀︎

 

アルカは正体不明のヒーローとの初遭遇を夢だと思い込んだ!

ーーーーー

*1
誤字じゃないヨ。




遂に初変身を果たしたソラことシアン……!そして同時に復活したシアンの相棒ピカチュウもといピカさん……!
彼らはどうやって、アーク・ポケモンを倒すのか!次回をお楽しみに!
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