ポケットモンスターEMOTIONAL   作:月兎タンク

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宝探し開始!・・・と、その前に・・・

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CHARACTER SELECT

▶︎SAKURAGI ARUKA

 SIAN

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「おや、どうやら我々は非常に強い『縁』で結ばれているようだ。また会えて嬉しいよ。シアンくんに……えぇ〜と……サクラザキくん、だっけ?」

 

「サクラギ・アルカです!シアンくんよりかは文字数が多いとはいえ、その間違え方は流石にないでしょう!?クリスさん!!」

 

 手痛い出費を伴ってなんとか“宝探し”にエントリーした僕とシアンくんは、係員さんに案内されて街中にある学校の体育館へと移動していた。

 どうやらこれから、大会を始めるにあたってのオリエンテーションが行われるらしい。

 

 既に体育館内には、数十人ものトレジャーハンターらしきトレーナーたちが集まっていて、再会したクリスさんもその一人だった。

 

「しっかし、ヤバエモに参加者が多いねー。参加するだけで5万も取られたってのに」

 

「トレジャーハンターたる者、心惹かれるロマンの前には万単位の出費なんて些細な事さ」

 

「ほへ〜!なんかその気持ち、激エモにわかる気がします!」

 

「……言っとくけど、今回の参加費用に関しては、後日キッチリ返してもらうからね……」

 

「……それはエモくない……」

 

 流石の僕だって、一方通行的に施しを与え続けられるほど善人でもなければ優しくもない、ってことだよ。

 

ガラガラッ!

 

 そんなことを考えていたら、少し聞き慣れない音を立ててドアが開き、宝探しの責任者らしき人物が壇上に立った。

 

「そういえば、ココは他の街と比べるとそこまで近代化が進んでないんだね〜。ドアも自動じゃないし、もしかしてお金がないのかな?」

 

「もしくは、あえて昔のままにしてるかの二択だね。レトロな街並みを売りにして観光客を集める手法もよくあるからさ」

 

「……コホン!参加者の皆様! 本日は我がクロマツシティが誇る一大イベント、『黒龍伝説100周年記念・宝探し大会』にお越しいただき、誠にありがとうございます! 私は本大会の実行委員長を務めます、クロマツ市長のトワダと申します。以後お見知り置きを」

 

「ほえ〜、市長さんが実行委員長やってるんだ。てっきり、外注かと思ってた」

 

 それだけ、今回のイベントには力を入れてるって証拠じゃないのかな?

 ……それにしても、妙に眉間に皺が寄ってるな……。……もしかして、今の僕とシアンくんの会話聞かれてた……?

 

「それでは、本イベントの注意事項に関する資料をお配りします!よーく目をお通しください!」

 

 一番前から順に回されて手元に届いた資料は、思った以上に分厚かった。流石にここまで分厚いとは思っておらず、思わず呆気にとられてしまう。

 何なら、シアンくんに至っては、文字の山を目にした時点で既に目からキラヤバ☆な光が消え、完全に生気をなくしていた。

 

 ……とりあえず、気を取り直して配られた資料にサッと目を通す。シアンくんには後で掻い摘んで説明すればいいし。

 

 内容としては『怪我は自己責任』『危険を感じたら支給された“脱出スイッチ”を押すこと』……などなど。

 まあ、この手の危険を伴うイベントとしては、ごくごく一般的な注意事項だね。

 

「なら次は……」

 

 正直言って、上記の注意事項は言わば通過儀礼のようなものだ。集まったトレジャーハンターさんたちだって、ノーリスクでお宝を手に入れられるなんて思っていないだろう。

 

 なら、この資料で最も重要な情報は……やっぱり山に生息するポケモンの平均レベルだ。

 アーク・ポケモンと対等に渡り合えるシアンくんとピカさんはともかく、ただの一般トレーナーである僕は、何よりも現地ポケモンの種類と強さを把握しておかなくちゃいけない。

 

「え〜と、なになに……。セパルトラ山の生息ポケモンの平均レベルは……30オーバー……。・・・30オーバー!?」

 

「どわぁ!?ビックリした!?」

 

 なるほど……。そりゃ、参加費用に5万も取られる訳だよ……。

 

「……ねえねえ、アルカくん。レベル30のポケモンってどんくらい強いの?」

 

「そうだなぁ……。リーグチャンピオン級(クラス)の手持ちポケモンでだいたい平均50後半〜60前半くらいだから、その半分……まあ、大都市に勤務するジュンサーさんの手持ちくらいかな?」

 

 もっと分かりやすく言うなら、初心者トレーナーに支給されるパートナーポケモンの最終進化レベルが30前後。野生の野良ポケモンでも、完全に成熟した成体クラス。

 

 つまり、最低でも中級者以上のトレーナーじゃなきゃ、まともに太刀打ちできない強さってことになる。

 

「とりあえず、シアンくんたちは気にしなくていいと思うよ。むしろ、戦意を失ったポケモンに“1000万ボルト”をぶちかまさないか心配」

 

「流石にそんなことはしないって……。それに、アレは一回の変身で一度しか使えない、文字通りの“最終手段”だし」

 

 あっ、ちゃんと理由があったんだ。シアンくんのことだから、てっきり『だって、ギリギリまでピンチを演出した方がエモいでしょ?』とかいう適当な理由かとばかり思っていたけれど、思いのほか切実な事情だったらしい。

 

「さて……それでは皆様、資料に目を通していただけましたね? ところで……あなた方はこうお思いではないですか? 『本当に宝など存在するのか?』『仮に存在したとして、その所有権は一体誰にあるのか?』……などなど!」

 

 ……あ、確かに言われてみればそうだ。今の今までそのことが全く頭になかった僕たちも相当間抜けだけど、仮に山頂のお宝がシアンくんの過去に関わる代物だったとしても、僕たちの手元に残らなきゃ参加した意味がない。

 

「ですが、その点はどうぞご安心を!宝の所有権は、一番最初に麓まで持ち帰った者のものとなります!」

 

<オ〜!!!

 

 所有権が正式に保証された瞬間、会議室全体から地鳴りのような歓声が上がった。

 周りのトレジャーハンターたちは「よし来た!」「ロマンだ!」なんて目を輝かせているけれど……ちょっと待って欲しい。

 

 ……一番最初に『持ち帰った』者のもの?

 それってつまり、山頂でお宝を見つけるだけじゃダメで、無事に麓まで持ち帰るまでの『奪い合い』すらも暗黙の了解で認められているってことじゃないか……!?

 

「……なんか……一気にきな臭い案件になってきた気がするね、アルカくん」

 

 隣を見ると、シアンくんも市長の言葉に含まれた棘に気づいたらしく、珍しく真面目な顔つきで壇上を見つめていた。

 

 ……けれど、よくよく考えてみれば、もっと早い段階で気づくべきだったのかもしれない。

 

 セパルトラ山の頂上に眠ると言われるお宝――それは『あらゆる願いを叶える』と伝えられている代物だ。

 お伽話のような伝説だけれど、未知のエネルギーや巨大な力を持つポケモンが存在するこの世界なら、それが単なる眉唾ものではない可能性だって十分にある。

 

「何か……悲惨なことにならなきゃいいけど……」

 

「……大丈夫だよ、アルカくん。ボクたちがいる以上、絶対にそんなことはさせない」

 

「シアンくん……!」

 

「最悪、何かが起きる前に『全員』気絶させちゃえばいいだけの話だしねっ!!」

 

「それ一番悲惨なことになってない!!??」

 

 こうして……一抹――どころか百抹くらいある不安を抱えたまま、宝探し直前のオリエンテーションは幕を閉じた。

 

 

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第7話『宝探し開始!・・・と、その前に・・・』

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「へ〜、こんなちっちゃなボタンをポチっと押すだけで、麓の拠点までワープできるんだ〜!」

 

 そう言って手元の小さなスイッチを見つめるシアンくんの目には、すっかり『キラヤバ☆』な光が戻り、目が完全にキノコマークになっている。

 

 オリエンテーションが終わった後、すぐに山へ突入する訳ではなく、1日の準備時間が与えられた。

 

 何せ、この町に到着した段階で夕方だったからね。夜はゴーストポケモンの数が多くなるらしいから、明日の早朝から始まるらしい。……これじゃ、1日じゃなくて、数時間の準備時間だね。

 

 まあ、危険が危ない確率は1%でも減らせるにこしたことはないし、宿泊施設は、ちゃんと町側が用意してくれたから文句はないけど。

 

 それで、今シアンくんが持っているのが、さっきの注意事項にもあった緊急用の『脱出スイッチ』という訳だ。

 

「厳密にはこれ単体でワープできる訳じゃないけどね。おそらく……拠点側にワープの転送先となる大型装置があるはずだよ」

 

「へ〜!確かミアレシティの地面と屋上を行き来できる装置があった気がするけど……。もしかして、今じゃどこでも一発でワープできたりするのかなっ!?」

 

「あはは……流石にそこまでの長距離ワープはできないよ。せいぜい、1km圏内が限界かな?」

 

「逆に1キロ圏内ならできるんだ……」

 

 世にも珍しい、シアンくんのツッコミゲット。

 ……もっとも、まだ量産化の技術が確立されてないから、結構高価だし一般的にはそこまで普及していないけどね。

 僕も一度使ったことがあるけど、若干気分が悪くなったから、以降は極力使ってない。

 やっぱり、旅はデジタルじゃなくて、アナログに限るよ。ホントに。

 

 ・・・ちょっと、話が逸れちゃったね。それで今はーーー

 

「あっ、アルカくん。モーモーミルク取って」

 

「え〜っと……あ、あったあった。はい、シアンくん」

 

 宿舎から少し離れたキャンプ場で夕食を作ってる最中だ。

 

「アルカくんって、シチューのお供はご飯派?それともパン派?」

 

「どっちも派だけど、今日はパンの気分かな」

 

「オッQ〜」

 

 え?なんで、宿舎が用意されてるのにワザワザ自炊してるのかって?

 ……別に深い意味はないかな。強いて言うなら、料理に下剤やらを入れてライバルを減らそうとする卑怯者対策……ってとこかな?

 

 流石に考えすぎかもしれないけど、用心しておくことにこしたことはないしね。

 

 それに……

 

「よし!激エモに完成〜!シアンさん特製シチュー!!!」

 

「ピッカ〜!美ン味そ〜〜!!!」

 

 シアンくんが作る料理の方が、そこらへんのレストランよりも美味しいし。

 

「ハム……。……そういえばさ、そのリザさんってはどんな子だったの?」

 

 食事中、何気なくシアンくんの言う『リザさん』が気になった僕は、シアンくんに質問する。

 大した理由なんかない。ただの、よくある食事中の世間話なんだから。

 

「う〜ん、そうだなぁ……。とっても大きくて、気が利いて、ポカポカしてて、優しくて……」

 

「なんか……ヤケに抽象的だね……。カンペ読んでるみたいな感じ……」

 

「しょうがないじゃん。まだ完全に記憶を取り戻した訳じゃないんだし。今のボクにあるのは、リザさんの名前と断片的な特徴だけだよ」

 

 まあ、それもそうだけどね……。完全に取り戻してたら、こんな物騒なイベントに参加してない訳だし。

 

 ……それにしても……シアンくんは『リザさん』の第一印象を大きいと表現したけど、実際にはどれくらいの大きさなんだろう?

 

「ギャウ!」

 

 メディアの影響か、リザードンは大柄のイメージが浸透してるけど、実際には1.7メートルだしなぁ。

 流石に僕よりは大きいけれど、僕よりちょっとだけ身長の高いシアンくんがそこまで言うってことは、少なく見積もっても2メートルくらいはあるのかな?

 

「ギュ〜?」

 

 あ〜……ダメだな、珍しくリザードンのことばっか考えてるから、聞こえるはずのない幻聴が聞こえてきたぞ……。

 

「何この子〜!?ヤバエモに可愛い〜〜!!!こんなちっちゃな、リザードンは見たことないんですけど〜!!!」

 

 そうそう、リザードンは小さくても1.7メートルはあーーー・・・へ?

 

「って!うわぁ!!?な、なんでガチモンのリザードンがここにぃ!!??」

 

「キュ〜?」

 

 ビックリしたっ!!!本当にビックリしたっ!!!

 なんでリザードンがこんなところに居るの!?リザードンは森林地帯には生息したなーーー・・・ってあれ?なんか……小さくない?

 

「可愛いね〜♡ キミはどこから来たのかな〜?」

 

「ギュ〜!」

 

 おかしい……このリザードンは、あまりにも小さすぎるぞ……?

 さっきも言ったけど、リザードンの平均的な身長は約1.7メートル……。だけど、この子は1.4メートルもない……。

 

 人間で例えるなら、20歳(ハタチ)を超えてるのに、身長が140にも満たないくらいーーいや、そんな人もたまに居るか……。

 

 けど、どちらにせよ、ここら辺にリザードン種が生息してる情報はなかったし、一体……

 

「リズー!どこ行ったの、リズー!!!」

 

 その時、遠くから聞こえてきたのは焦ったような少女の声だった。

 その声はどう見ても、目の前にいる小さなリザードンへ向けられている。

 

 声に反応したリザードンは、嬉しそうに目を輝かせながら声を張った。

 

「ギャウ!!」

 

 ……なるほどね。『リズ』って名前からして、この子は野生のポケモンじゃなくて誰かの手持ちだったって訳だ。ここらに生息していないはずの珍しいポケモンが単体で歩き回っていた理由としては、一番しっくりくる。

 

「あ〜! リズ〜!! こんなところに居た!! ダメでしょ、勝手に知らない人の食事中に入り込んだら!!」

 

 慌てた様子で駆け寄ってきた『リズ』のトレーナーは、鮮やかな赤い髪が特徴的な女の子だった。

 ラフなパーカーにショートパンツ、足元は頑丈そうなトレッキングシューズと、旅慣れた動きやすい装いをしている。

 歳は……僕たちよりも年下で、だいたい12〜13歳くらいかな?

 

「あっ……!ご、ごめんなさい!!!うちのリズが、何か失礼なことをしませんでしたかっ!?」

 

 あっ、よかった。派手な見た目に反して、ちゃんと常識がありそうだ。まだ幼いのに、ちゃんと謝れて偉いなぁ。

 

「キャラデザに使われる彩色が、桜色・緑色・白色のアルカくんがそれを言う?」

 

「だから、勝手に心を読まないでってシアンくん!……それに何なの!?その読者がイマイチ反応に困りそうなタイプのボケは!?」

 

 ……そもそも、好きでこんな髪色になったんじゃないし。元々茶髪だったけど、諸事情あってピンク色に染まってるだけだし。

 

「あ、あのー……?」

 

「あっ!ゴメンゴメン!こっちの話。リザードンなら大丈夫だよ!この子……リズちゃんだっけ?激エモにいい子で甘えん坊だから!」

 

「よ、よかった……!この子、普通のリザードンよりも人懐っこくて……気になったものがあると、すぐにフラフラと立ち寄っちゃう癖があるんです……」

 

「ギュウ?」

 

 赤髪の女の子は何度も頭を下げて手持ちの無礼を謝っているが、当の本人……いや、当の“本ポケ”はどこ吹く風といった様子で、首を傾げている。

 

 ……やっぱり、おかしいな。リザードンはプライドが高く、それなりに知性や理性を備えたポケモンのはずだ。

 けれど、目の前にいるリズちゃんは成体にしては小さすぎるし、一つ一つの仕草があまりにも幼い。

 

 もしかすると……。

 

「あー……もしかして、この子、“レベル・ディソナンス”だったりする……?」

 

「……はい」

 

「“レベル・ソーナンス”?何それ?」

 

 聞き慣れない単語に、今度はシアンくんが不思議そうに首を傾げる。

 

「“レベル・ディソナンス”……簡潔に言えば、ポケモンの精神と肉体の成長が大きくズレてしまう現象のことだね。主に成長促進剤である“ふしぎなアメ”を過剰摂取した時に現れる症状だよ」

 

「へぇ〜!要するに身体は子ども、頭脳は大人ってヤツ?」

 

「まあ……簡単に言えばそういうこと。……けど、この子の場合は逆(・)の(・)よ(・)う(・)だ(・)け(・)ど(・)ね(・)……」

 

 先に言っておくと、ポケモンに“ふしぎなアメ”を与えること自体は悪じゃない。

 プロのトレーナーだって必要に応じて使うことはあるし、法律で厳しく規制されている訳でもないんだ。

 

 問題なのは、キャパシティを超えて過剰に与え、ポケモンに心身の負荷をかけること――その一点に尽きる。

 

 ……でも、こんな真面目そうな女の子(トレーナー)が、ポケモンにそんな無理をさせるとは到底思えないけれど……。

 

「……なんか、ちょっと空気が重くなっちゃったね。どう?もしもキミが良ければ、ボク特製の“ピカチュウシチュー”を食べて行かない?」

 

「い、いえ……。流石にーーー」

 

グゥ~…!

 

「あっ……!」

 

「にひ〜!胃袋は正直みたいだね〜。大丈夫!お金は取らないし、毒とかも入れてないから!キミも宝探しの参加者でしょ?“お腹がペコペコじゃ、宝探しはできぬ”、だよっ!!!」

 

 シアンくんはそう言って、女の子とリズちゃんにシチューが入ったお椀を手渡した。

 ……シアンくんって、普段はガサツで楽天的に見えて、実はすごく他人の気持ちに敏感で細やかな気配りができる人なんだよね。

 やっぱり……自称『ヒーロー』は伊達じゃないなぁ……。

 

「……ありがとうございます。実は……手持ちのお金を参加費で使い切っちゃって、今日の晩ご飯を諦めてたんです……」

 

「キュ〜♡」

 

 あー……そりゃそうか、5万円なんて大金普通の子供が持ってる訳ないもんね……。せめて、子供料金くらい用意してくれればいいのに……。

 

 アツアツのシチューをふーふーと冷ましながら口へ運ぶツバキちゃん。

 “ピカチュウシチュー”の優しい味にお腹が満たされたことで心もほぐれたのか、さっきまでの暗い顔が嘘のように幾分か表情が明るくなった。

 

「……ごちそうさまでした!!! こんな美味しいシチューは初めて食べましたっ!!!」

 

「ギュウ!!!」

 

 おっ、お腹が膨れたことで心身共に完全復活、ってところかな?

 

「……あっ!申し遅れました!!!私の名前はツバキって言います!!!3ヶ月前に旅を始めた新米ポケモントレーナーですっ!!!」

 

「よろしくね〜、ツバキちゃん!ボクの名前はシアン!それでこの子は相棒のピカさんっ!!!」

 

「よろーービッカ〜☆」

 

 危ない……。こんな純粋な子が、喋るピカチュウなんて目の当たりにしたら卒倒しちゃうよ……。

 

「……僕の名前はサクラギ・アルカ。アルカでいいよ」

 

「はいっ!!!よろしくお願いします!シアンさん!!アルカさん!!」

 

 素直で元気で良い子だなぁ。……その素直さが、悪い奴らに利用されなきゃいいけど……。

 

「ところで……どうしてツバキちゃんは、宝探しに参加したの?見た感じ……新米トレーナーにはキツそうなイベントだけど……」

 

 ……少しキツい言い方にはなるけど、シアンくんの言う通りだ。

 今回のイベントは明らかにトレーナー歴3ヶ月の初心者には向いていない。

 

 相棒のリズちゃんのレベルは間違いなく30を超えているだろうけど、あまりにも精神が幼すぎる。

 これじゃあ、セパルトラ山に生息するポケモンには到底通用しないはずだ。

 

「……どうしても、叶えたい願いがあるんです……」

 

「……それって、やっぱり……」

 

「はい……リズのことです」

 

「キュッ!」

 

「私の実家、代々ブリーダーの家系なんです。お父さんも私と同じくらいの歳の時にはもう旅に出てて……ジムバッジを8個も持ってるくらい強いトレーナーだったんです……」

 

 へぇ〜!バッジ8個所有は普通に凄いなぁ!

 大半のトレーナーは5〜6個集めたあたりで伸び悩んで諦めてしまうから、8個コンプリートした実績があれば、それだけでトレーナーとして相当な箔がつく。

 

 ……まあ、シアンくんにはその凄さがイマイチ伝わっていないみたいだけど。

 

「それもあって、私の家にはポケモンを育てるための道具がたくさんあって……“けいけんあめ”もその中にあったんです……」

 

 ……なるほど、だいたい話が見えてきたな……。

 

「リズは、私がタマゴの時から大切に育てて、半年前に生まれたばかりだったんです。……でも、ある日“けいけんあめ”を保管してた倉庫に勝手に入っちゃって……」

 

「ヒトカゲ時代のリズちゃんは、大量の“けいけんちあめ”を食べちゃって、その結果“レベル・ソーナンス”が起きちゃった……ってワケだね」

 

 “けいけんあめ”の誤食か……。“レベル・ディソナンス”が引き起こされる、最も代表的な原因の一つだ。

 

 生まれたばかりのポケモンは何でも口に入れちゃうからね……。

 正直言って、“ふしぎなアメ”や“けいけんあめ”の使用が法律で完全に規制されないのは、こうした『ポケモンの誤食事故』を法律で一律に取り締まるのが難しいから、とも言われている。

 

「私の夢は……!“リズと一緒に強くなる”ことなんですっ!!!だから……お宝の力を使って、リズをヒトカゲに戻せないかな〜って思って……」

 

 ……確かに、“レベル・ディソナンス”はポケモンの暴走を呼び起こしかねない症状だ。

 きっと、ツバキちゃんもパートナーポケモンを思ってのことなんだろうし、とっても純粋で清らかな“願い”だと思う。

 

 ……でもそれって……。

 

「……分かってます。これは私自身の“わがまま”でしかないってことは。けど……成長しちゃったリズを見る度に思っちゃうんです。『ああ、私だけリズに置いて行かれちゃったんだな』って……」

 

 そうだよね……。単純に強さを追い求めるのなら、リズちゃんを元に戻さずに、そのまま育て上げた方が合理的に決まってる。

 

 その合理性をあえて捨てて非合理を選ぶ――それは、効率ではなく自らの感情に従った結果に他ならない。

 

「………」

 

 ……あれ?どうしたんだろ、シアンくん……。急に暗い顔になっちゃったけど……。

 

「……痛いほど分かる気がする。その気持ち……」

 

「シアンくん……?」

 

「大切な人に“置いて行かれる”のは、何よりも苦痛で……寂しいことだからね。大切な人が突然いなくなっちゃった時の喪失感は……この世のどんな痛みよりも重い……」

 

「………」

 

「……共感してくれたことはとっても嬉しいです。……でも、これが私の“わがまま”であることには変わりません。やっぱり私って、悪い子ですよね……」

 

 ……ダメだな。また空気が重くなっちゃった……。ここは何か流れを変える言葉をーーー

 

「“我儘(エゴ)”=悪……。果たして、その図式は本当に正しいのでしょうか?」

 

「・・・え?」

 

 突然、背後から掛けられた見知らぬ声に、僕とシアンくんは思わず肩を揺らした。

 

 人が近づいてくる気配なんて微塵も感じなかった。まるで、最初から影のようにそこに潜んでいたかのような静けさだ。

 驚いて振り返ると――いつの間に移動したのか、そこにはシックなスーツを隙なく着こなした背の高い男が、なぜかシチューの入った器を手に持ったまま、僕のすぐ隣に座っていた。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません。私の名はコンス=タンティン。イッシュ地方にある美術館にて鑑定士をしております」

 

「は、はぁ……。・・・って!その手に持ってるの、シアンくんが作った“ピカチュウシチュー”じゃないですか!!?」

 

「おや、失礼。あまりにも豊潤で香ばしい匂いがしたもので、つい手に取ってしまいましてね。……まあ、これも何かの縁です。私も貴方がたの興味深い会話に混ぜていただいても?」

 

「全っ然、ボクのシチューを勝手に食べた答えになってないんだけど……。……まあ、いいや。ご飯は誰かと食べた方が美味しいし」

 

 シアンくんがいいって言うなら、僕も断る理由はないけど……。

 

「……それで、お嬢さん(フロイライン)。貴方は何故、己を“悪い子”だと思ってしまうのですか?」

 

「えっ……。そ、それは……私が……リズに元に戻って欲しいと願うのは、私の“わがまま”だから、です……」

 

「ギャウ?」

 

「なるほど。それでは、次の質問です。貴方が相棒と共に“強くなりたい”と願うのならば、夢の原点となったトレーナーが居るでしょう?その者の名を教えていただけますか?」

 

 あー……確かに、ツバキちゃんが誰に憧れてトレーナーを目指したのかは気になるなぁ。

 

 やっぱり教科書にも載るような有名人……カントーのワタルさんや、シンオウのシロナさんかな?もしくは、レジェンド中のレジェンドと謳われたあのーーー

 

「そんなのは決まってます!!!私が憧れるのは、伝説のポケモントレーナー……“ジョン・ドゥ”ですっ!!!!!」

 

「ぶふぅ!!??」

 

「ぴかっ!?ビ、ビックリしたぁ……!急にシチューを吹き出してどうしたのアルカくんっ!!?」

 

「ゲホッ!ゲホッ! ご、ごめん……!ちょっと、にんじんが変な器官に入っちゃって……」

 

 い、いや〜……。まさか、その名前が出るなんて思ってもなかったからさ……。

 ……けど、ツバキちゃんの顔に明るさが戻ったし、ある意味結果オーライかも。

 

「そもそも……“ジョン・ドゥ”って誰?」

 

「知らないんですかっ!!??伝説のポケモントレーナー・“ジョン・ドゥ”をっ!!??」

 

「あ、圧がスゴいよ〜……。助けて〜ボク専用単語辞典(アルカえもん)〜!」

 

「嫌なルビに、嫌な救援要請だなぁ……。それにごめん、僕はポケモンバトルにはあまり興味がないから……」

 

「知らないというのなら、この私が1から10までお教えしましょう!!! “ジョン・ドゥ”とは……! 公式大会において史上初となるリーグ5(・)連(・)覇(・)を達成した、正真正銘“史上最強”のポケモントレーナーなんですっ!!!」

 

 “史上最強”……ねぇ……。

 

「はへ〜……ところで、5連覇ってそんなにスゴいの?」

 

「もちろん、5連覇だけでも前人未到の偉業ですが……彼の凄さはそれだけではありませんっ!! カントー・ホウエン・シンオウ・イッシュ・ガラルの5地方のポケモンリーグは、その水準(レベル)の高さから通称“ビッグ5”と呼ばれているのですが……彼はその全てを完全制覇してみせたんですっ!!!」

 

 すっごい早口……。本当に憧れてるんだろうなぁ……“ジョン・ドゥ”のことを……。……そんなに憧れるような人間でもないのに……。

 

「ははは!ならば……貴方が憧れるその英雄もまた、“悪(・)い(・)子(・)”になるのではないのですか?」

 

「・・・え?」

 

「だってそうでしょう?貴方は、『リズが元に戻ることは自身の“我儘”』だと断言された。……ですがね、この世界は元より人間の“我儘(エゴ)”によって成り立っているのですよ。強くなりたい……大金持ちになりたい……大切な者と再会したい……。そうした多種多様な“我儘(エゴ)”によって、ね」

 

 ……確かに、コンスさんの言葉は的を射ているのかもしれない。

 例えば、ポケモンを使って悪事を働いた人間が居たとしよう。その者が捕まった後、罰せられるのはトレーナーであってポケモンではない。なぜなら、ポケモンは単にトレーナーの“命令(エゴ)”に従わされただけだと判断されるからだ。

 

 無論、これはあくまで僕個人の解釈だし、一例に過ぎないけれど……言い得て妙ではある。

 

 ……だけど、なんだろう、この胸のざわつきは。

 この人の言葉は、紛れもなく彼自身の口から発せられているはずなのに……まるで、彼の言う“人間”の範疇に彼(・)自(・)身(・)が含まれていないかのように聞こえる……。

 

「……おっと、少々説教臭くなってしまいましたね。勿論、これはあくまで私個人の解釈に過ぎません。……結局のところ、答えを出すのは貴方自身です。……イチ傍観者に過ぎない私は、そろそろお暇させていただくとしましょうか」

 

 コンスさんは静かに立ち上がると、空になったお椀をシアンくんへと手渡した。

 

「ごちそうさまでした。貴方が作ったシチュー、とても美味でしたよ」

 

「う、うん……」

 

「それでは失礼。ご縁があれば、明日(あす)の“宝探し”にてまたお会いすることを楽しみにしています」

 

 そう言い残すと、彼は足音ひとつ立てず、暗闇の奥へと静かに去っていった。

 

「何か……まるで“幻影”のような人だったね……。突然現れて、音もなく退出するなんてさ……」

 

「そう、かもね……。・・・ん?アレ?コレって……」

 

 渡されたお椀に残る“異常”に気付いたのか、シアンくんは鼻をひくつかせ、残ったシチューの匂いをじっと嗅ぎ始めた。

 

「どうしたの、シアンくん?」

 

「・・・アルカくん、ちょっとこのお皿に残ったシチューを舐めてみて……」

 

「え……?なんで……?」

 

「ちょっとした確認!」

 

「……ハァ……。分かったよ……」

 

ペロ……

 

 何をそんなに警戒しているのかは知らないけれど、別に味なんか変わら―――

 

「・・・うっげ〜〜……!何これ!?見た目は普通のシチューなのに、なんか絶妙に美味しくない……!」

 

 一応シチューの味はする。するけれど……全体的にとてつもなく複雑で、舌が本能的に拒絶するような味だ……!

 

 ……いや、待てよ?僕は“この味”を知っているぞ?もっと言えば、この味とほぼ同じ匂いを知っている……!

 

「シアンくん……!これって……!」

 

「うん……。コレ、アルカくんの手持ちポケモン用のシチューだよ……!」

 

 そう……シアンくんは最初から2種類のシチューを作っていた。

 1つは当然、僕たち人間用に作られた普通のシチュー。

 そしてもう1つは、ポケモンの味覚や栄養に合わせて調整されたポケモン専用シチュー。

 

 ……つまりコンスさんは、最初から最後まで後者のシチューを平然と平らげていた……ということになる。

 

「……もしかして、あの『美味』って言葉はガラル流の皮肉だったりする?」

 

「……まあ、勝手に現れて勝手に食べたのは、あの人の方だし、自業自得……なんじゃないかなぁ……?」

 

 その割にコンスさんの言葉に“嘘”の匂いは感じなかったけど……。

 

「な、なんか急に寒気がしてきましたね……!あ、明日も早いですし、私はもう宿舎に帰って寝ます!美味しいシチュー、ありがとうございました!そ、それでは!!!」

 

「ギャウ〜!」

 

 ……あ、そうだ。

 去りかける彼女の背中を見て、僕はハッと思い出す。

 最後に、ツバキちゃんへこれだけは伝えておかなければいけないことがあった。

 

「……ちょっと待って、ツバキちゃん。トレーナーの先輩として、一つアドバイスだ」

 

「アドバイス……?」

 

「……“ジョン・ドゥ”に憧れることだけはやめた方がいい」

 

「え……」

 

 ツバキちゃんは、自分がずっと憧れ続けていた英雄を真正面から否定され、呆然とした表情を浮かべている。

 ……分かるよ。僕だってもし君の立場なら、まったく同じ反応をしたはずだ。

 

 それでも……僕はその“憧れ”を否定しなくちゃいけない。

 

「君だって知らない訳じゃないんだろ?“ジョン・ドゥ”が……ど(・)ん(・)な(・)末(・)路(・)を(・)辿(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)を(・)……」

 

「そ、それは……!」

 

「あれは……“史上最強のトレーナー”であると同時に……“史(・)上(・)最(・)低(・)の(・)ト(・)レ(・)ー(・)ナ(・)ー(・)”でもあるんだから……」

 

「……ごめんなさい、いくら食べ物を恵んで相談に乗ってもらったとしても……憧れを否定されていい気分にはなりません……」

 

「……本当にごめん。この言葉は……真に受けなくていい。けど、頭の片隅には留めておいて欲しいな……」

 

「……はい」

 

 憧れの存在を拒絶されたショックは大きかったようで、ツバキちゃんは消え入りそうな声で返事をすると、一度もこちらを振り返ることなく宿舎へ戻っていった。

 

 ……残された僕らはそのままキャンプ場に留まり、僕の手持ちポケモンたちのお世話と、夕食の後片付けを淡々と済ませた。

 

「……シアンくん」

 

「ん〜?どしたの、アルカくん?」

 

「……あっ、えっと……。……いや、明日の宝探し頑張ろうね……」

 

「うん! 絶対に『リザさん』に繋がる手がかりを掴もうっ!!!」

 

 ……その後、僕は、胸の奥底にドス黒い不穏なモヤモヤを抱えたまま、眠れぬ一夜を過ごした。

 

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これまでの冒険を日記に記録しますか?

 

はい◀︎

いいえ

 

アルカはツバキちゃんとリズちゃんとの出会いを日記に記録した!

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なんか思った以上に長くなっちゃった……。2話のゲストキャラの紹介も兼ねているから仕方ないか……。
それでは、次回!本格的に宝探し開始!シアンたちの冒険をお楽しみに!

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【本作オリジナルのレベル基準】
・Lv.10〜20【初心者クラス】
順当に育てれば20後半くらいまでは辿り着けるが、以降からレベリングが頭打ちとなる。以降は単純なトレーニングだけではなく、ポケモンとの深い信頼関係が必須(ただし、ドーピングは除く)。

・Lv.30〜40【中級者クラス】
ここまでポケモンを育て上げる知識と力量があって、初めて「中級者」と認められる領域。大都市の警備に当たるジュンサーさんや、野生ポケモンの成熟した成体クラスがこの帯域に属する。

・Lv.50〜60【上級者クラス】
世間一般で「ベテラン」「名トレーナー」と称賛される領域。
本気を出したジムリーダー、四天王、リーグチャンピオンの手持ち平均レベルがここに含まれる。この領域のポケモンは人間の言葉や戦術を深く理解し、一匹で一騎当千の兵器に等しい破壊力を持つ。

・Lv.70以降【レジェンドクラス】
常人と常ポケには到達不能。「ビッグ5」のチャンピオン防衛戦や、国家規模の危機に対応するトップランカー達といった歴史に名を刻んだ“伝説”と謳われるトレーナーの領域。生半可なトレーナーでは指示すら追いつかず、ポケモンの「本能の暴走」と「理性の維持」のギリギリの境界線に位置する。

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【キャラ紹介】
■ツバキ
第2話のゲストキャラ。
旅に出て3ヶ月の新米ポケモントレーナー兼ブリーダーの卵。鮮やかな赤い髪にショートパンツという旅慣れた装いだが、根は純朴で礼儀正しい12歳の少女。
代々ブリーダーの家系に育ち、かつてジムバッジを8個集めた父親を誇りに思っている。
事故で相棒であるヒトカゲに「レベル・ディソナンス」を起こしてしまったことに対し強い罪悪感を抱いており、元の小さなヒトカゲに戻すという“願い”を叶えるため、危険を承知で「宝探し」に参加した。

■リズ
ツバキの実家でタマゴから生まれたパートナー。生後半年ほどのヒトカゲだった頃、倉庫に保管されていた大量の「けいけんあめ」を誤食してしまったことで急激にレベルが上昇し、肉体だけがリザードンへと最終進化してしまった。
肉体こそ、少し小さめのリザードンだが、中身は生後間もない幼いポケモンのまま。甘えん坊で人懐っこく、興味のあるものを見つけると目を輝かせてフラフラと近づいてしまう。
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