ポケットモンスターEMOTIONAL   作:月兎タンク

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今回は超重要回ということで、めちゃくちゃ気合いを入れて書きました……!
そのせいで、思っていたよりもだいぶ長くなっちゃったんですが、その分めちゃくちゃ良い出来に仕上がったと思います!
読んでくださった皆様、もしよろしければ一言でも感想をいただけるとすごく励みになります!よろしくお願いします!


黒狐、投影

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CHARACTER SELECT

▶︎SAKURAGI ARUKA

 SIAN

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 『セパルトラ山』ーーークロマツシティの北部にそびえ立つ標高の高い霊峰。古くから「あらゆる願いを叶える宝」が眠ると伝えられる『黒龍伝説』が残っていて、それがクロマツシティ成立の起源なんだとか。

 

 失われた記憶を取り戻すために旅するシアンくんと、それに同行する僕。

 ボルテック・スパークの導きで、その“お宝”こそがシアンくんの記憶に繋がると睨んで大会に参加したんだけど……。

 

ーーズドォォォォォン!!!!!

 

「グハッ……!き、聞いてねぇぞ……!野生のポケモンが、ここまで強ぇだなん、て……ッ!!!」

 

「も、もう、これ以上は無理だ……っ!!撤退するぞ……っ!!!」

 

ピッ!

ーー『エスケープ』

 

「イワァァァァァク!!!!!」

 

「うっわ〜……アホみたいに怒り狂ってる……。そんなに怒りっぽいってことは、カルシウムでも不足してるんじゃない?・・・あっ、キミの場合はケイ素かな?」

 

「イワァッ!!!!!」

 

「ピカカカッ!!!ピッ、ピカチュウッと!!!!!」

 

「イワァ!!?」

 

ズシーンッ!!!

 

「す、すごい……!鉄壁の防御力を誇るイワークがピカチュウのパンチ一発で沈んだ……っ!」

 

 なんというか……。ピカさんは当たり前としても、襲い掛かるポケモンたちを苦もなくボコボコにするシアンくんを見ていると、僕はこう思わずにはいられない……。

 

 これ、僕がいる必要ある?

 

 

 

ーーーーー

第8話『黒狐、投影』

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「フーー!!正当防衛、ピカっと成功!!!」

 

「ピッ、ピカチュウーー!!!」

 

「はぁ……はぁ……!あ、ありがとうございます、シアンさん……!おかげで何とか中層までたどり着くことができました……!」

 

「ギャウっ!!!」

 

 宝探しが始まってから、早1時間。

 あんなに大勢いた参加者は、既に半分以下にまで激減していた。

 

 幸いなことに、目立った重傷者は今のところ出ていない。けれど、一度脱出してから再びこの洞窟内に戻ってきた者は、誰一人としていなかった。

 

 その理由はあまりにも明白だ。だって――。

 

「イワァァァァァク!!!!!」

 

「ああ、もうっ!またイワークだ!ロトフィック!このイワークのレベルを測定っ!!!」

 

『測定完了!この個体のレベルは……『48』ロ!!!』

 

 そう、生息ポケモンの想定外の強さのせいだ。

 運営側の発表じゃ生息ポケモンのレベルは『30前後』って話だったのに、階層が上がれば上がるほど、明らかにその枠を超えた強力で凶暴なポケモンがゴロゴロ出現するんだから。

 

 そのせいで、攻略難易度が跳ね上がったもんだから、戻りたくても戻れない人が大半なはず。

 多分……今頃運営チームは混乱状態になってるんじゃないかなぁ?

 

 まあ……。

 

「行くよ、ピカさんっ!!レッツ……ゴー!!!」

 

「ピッカァ!!!!!」

 

 シアンくんとピカさんのコンビの前には、無力も同然なんだけど……。

 

ドカバキッ!!! ボコッ!!!

 

「イ、イワァ……」

 

「おー、よしよし!怖かったねぇ〜。ちょっぴり荒っぽい真似してごめんね!」

 

 ……シアンくんのすごいところは、襲い掛かる野生のポケモンたちを相手にしながらも、相手に一切の怪我をさせないところだ。

 

 ピカさんは……同じポケモンだからなのか、割と容赦なく殴り掛かって気絶させるのがデフォルトだけど、シアンくんはその逆。

 優れた体術で徹底的に攻撃を躱すことに徹し、怪我をさせない範疇の反撃で戦意だけを削いで無力化している。

 

「お見事!いや〜!本当に強いなぁ、シアン君とピカさんは!この調子で、“お宝”の場所までピカっと!よろしく頼むよ〜!」

 

「調子いいなぁ……。クリスさんだって、ちゃんと戦ってくださいよ!さっきから一匹もポケモンを出してないじゃないですか〜!」

 

「私はホラ……経験豊富なトレジャーハンターとして、この道中に張り巡らされた罠を見破るのが役目だから!」

 

 そんなこと言っても、道中にトラップなんて一度もなかったと思うんですけど……。

 

「ハハハ、ですが、その紫の御人の言うことも一理ありますよ。目に見える罠だけが仕掛けとは限りませんからね」

 

「あっ、コンスさん!生きーーゲフン!ゲフン! まだ、脱落してなかったんですね!」

 

 呆れる僕たちの会話に、穏やかな笑みを浮かべたコンスさんが割って入ってくる。

 

 この人、本職はトレジャーハンターじゃなくて鑑定士って聞いてたから完全に侮っていたけれど……思いの外強いな。

 ……もしかして、副業でジムリーダーでもやってたりするのかな?

 

「……そうだな。確かに黒の御人の言う通りかもしれないね。目には見えない罠ーー例えば……“化かす”とか、ね」

 

 仰々しくそう呟くと、クリスさんは左手でゾロアの頭を思わせる影絵のような手の形を作ってみせる。

 

「………」

 

「“化かす”……?それって……どゆこと?」

 

「まっ、今のはモノの例えさ。だが、この洞窟内は多少整備されているとはいえ、光量は少なく、岩・地面タイプのポケモンが多く生息している。そのせいで予想だにしないことが起こっても不思議じゃない。まるで……ゾロアに化かされたみたいに、ね」

 

 ……なるほど。今のクリスさんは、ちょっとだけ一流のトレジャーハンターっぽかったな。

 

 『目を疑うことが起こったら、まず最初にゾロアを疑え』ーーこれはイッシュ地方に伝わる格言だ。

 

 ゾロア、そしてその進化系のゾロアークは、人間・ポケモンを問わず他者に幻覚を見せる能力を持つ。

 そのため古くから“裏切り・騙し”の象徴として扱われてきた。

 それはトレジャーハンター業界でも同じ、という訳か……。

 

 ……けれど、今のコンスさんの反応が少し気になるな。表面上は笑顔を保っているものの、微かに眉間に皺が寄ってる。

 もしかして……過去にゾロアーク種に化かされた苦い経験でもあるのかな?

 

「……ならば、どうです?ここから先は、我々でチームを組むというのは?それならば、頂上まで辿り着ける確率がグッと上がるかと」

 

「私も黒の鑑定士と同意見だ。まあ……シアン君達がよければ、だけどね」

 

「アルカくん……どうしよう……?」

 

 チラリと僕の顔を伺ってくるシアンくん。僕は少し考えてから頷いた。

 

「……ここは素直に受けた方がいいと思う。難所の踏破は一人よりもチーム、大人数よりも少人数の方が都合が良い。それに……みんなシアンくんたちの実力を目の当たりにしてるから、下手に『お宝』を奪い合おうとする不毛な争いも避けられるはずだしね」

 

「……分かった。その提案を受けます!……けど、ボクからも条件がありますっ!!!」

 

………

……

…

 

「え……っ!?シ、シアンさん……!?」

 

「……分かった。その条件を飲もう」

 

 シアンくんが、コンスさんたちとチームを組むにあたって提示した条件は、大きく分けて3つ。

 

 ①チームメンバーにツバキちゃんを入れること。

 ②身の危険を感じたら無理に探索を続けずに、すぐに脱出すること。

 

 そしてーー

 

 ③お宝の所有権は、争わずにジャンケンで決めること。

 

 なんというか……実にシアンくんらしい、優しい条件だなって感じだ。

 

「どうして……。私……ここまでずっと、守られてばかりだったのに……」

 

「……ボクがキミの純粋な願いに惹かれたからーーそれだけじゃダメかな?」

 

「……でも、結局は私の“わがまま”でしかないし……」

 

「だから自分は“悪い子”だって?……そんなことはないよ」

 

 シアンくんは優しく微笑むと、少し腰を落としてツバキちゃんと目線を合わせる。

 

「ボクはツバキちゃんは“悪い子”だとは思わない。それは……キミの相棒(パートナー)が証明してる」

 

「え……?」

「ギャウ?」

 

 きょとんとして同時に顔を見合わせる一人と一匹の姿は、まるで本当の姉妹のようだ。

 

「にひ〜っ!優しい人ってのはね、人よりも先にポケモンに好かれるものなんだよ。リズちゃんは、どんな時でもキミの側から離れようとはしなかった……それってさ、誰よりもキミのことを信頼してるって証拠じゃない?」

 

「リズ……」

 

「ギャウ!!!」

 

 『優しい人は、人間よりも先にポケモンに好かれる』ーーか。……本当に、良い言葉だな。

 もしもあの時、“ジョン・ドゥ”がこの言葉を聞いていたなら……一体どれだけ救われていたんだろう。

 

「……記憶は失っていても、“彼”の言葉は魂に染み付いてるって訳か……」

 

「ん?クリスさん、今何か言いました?」

 

「……いや、なーにも?」

 

 今、あからさまにごまかした!

 ……まあ、いいか。ああ見えても、頭は切れるみたいだし、追求したところで煙に巻かれるのがオチだ。今は、頂上への到達だけに集中しよう……!

 

 こうして結成された、一筋縄ではいかなそうなメンツばかりで構成された、頂上の“お宝”を目指すインスタントチーム。

 

 ……ちょっと忘れそうだから、一旦、チームメンバーの情報をメモしとこっと……。

 

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■シアンくん

手持ちポケモン:ピカさん(ピカチュウ?)

Lv.測定不能(最低でも80以上は確実?)

 

■ツバキちゃん

手持ちポケモン:リズ(リザードン)

LV.36(バトル経験は無いに等しい。戦力としては不安)

 

■クリスさん

手持ちポケモン:不明(一度も出していない為)

Lv.不明

 

■コンスさん

手持ちポケモン:ブロスター/ブロロローム

Lv.40(ブロスター)/42(ブロロローム)

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 よし……!大体こんな感じだね。

 戦力としては、筆頭がシアンくんで、次点がコンスさんってとこか……。

 

「よーーし!休憩もココまでにして、頂上を目指して激エモに出発だよ〜〜!!!」

 

「ピッカー!!!」

 

 休憩を終えた僕たちは、再び頂上へ向けて歩みを進める。

 

 やはり……というべきか、上層へ近づけば近づくほど、襲い掛かってくるポケモンたちの強さは増す一方だ。

 

 シアンくんたちの活躍で順調に進めてはいるものの、僕たちのような一般トレーナー……特にツバキちゃんは、時折飛んでくる攻撃の流れ弾を回避するだけで手一杯だった。

 

「ギャウっ!!?」

 

「リズ……!きゃっ!?」

 

「危ない!ツバキちゃんっ!!!ガラガラ!!《ホネブーメラン》!!!」

 

「ガァラァァァ!!!」

 

ーーズバーン!!!

 

 ツバキちゃんに迫っていた《岩石封じ》の流れ弾。すんでのところで僕の指示が間に合い、炎をまとったガラガラの骨が岩石を豪快に粉砕する。

 

「あ、ありがとうございます!アルカさん……!!」

 

「無事ならよかった……!けど、ここから先はポケモンの攻撃はより激しくなるはずだよ。ポケモンの相手はシアンくんとピカさんに任せて、僕たちは迫る危険を回避することだけに集中して進もう」

 

「は、はい……!!」

 

 ここで一番やっちゃいけないのは、大した力もないのにシアンくんたちの力になろうと下手に介入することだ。

 

 確かにシアンくんやピカさんは規格外に強い。

 けれど、彼らだって生身の存在だ。僕たちを庇おうとして余計な隙ができ、致命傷を負ってしまう……それが一番マズい展開なんだから。

 

 シアンくんたちの足を引っ張らず、身の周りの危険は自分と自分のポケモンで対処する……それが今の僕たちにできるベストな選択だ。

 

「ハイヨー!!!」

 

「ピカっと!!!」

 

 ……頼りにしてるよ……!シアンくん……!

 

ーーーーー

《数時間後》

ーーーーー

 

 それから……僕たちは時折休憩を挟みつつも、シアンくんたちの力を借りて、着実に頂上へと近づいていた。

 

「えっと……支給された地図によれば、踏破率はだいたい80%くらいだね」

 

「フー……流石のボクもそろそろ疲れてきた、かも?」

 

「お疲れ様です!シアンさん!!!」

 

「ギャウ!ギャウ!!!」

 

 ツバキちゃんとリズちゃんが、精一杯シアンくんを労う。

 そんな和気あいあいとした光景にクスッと笑みをこぼしつつも、僕はふと周囲の違和感に目をとめた。

 

 ……静かすぎる。

 さっきまであれほど猛威を振るっていた野生のポケモンたちの気配が、嘘のように途絶えていた。

 まるで……何か恐ろしい“捕食者”の気配を察知して、一斉に息を潜めたかのように。

 

 ……その時、事件は起こった。

 

「………」

 

「アレ?どしたんですか、コンスさん?突然、立ち上がって?」

 

「……何かが……来る……!」

 

「何か?ヤケに抽象的ですね?もうちょい具ーーー」

 

ーーズドォォォォォン!!!!!

 

 刹那、分厚い岩壁を文字通り破砕し、大量の土煙と共に茶色の巨大な“何か”が僕たちの前に立ち塞がる。

 

「あ〜……やっぱ聞かなくていいや」

 

「ワギアアアアア!!!!!」

 

 荒々しい咆哮とともに自ら土煙を吹き飛ばし、姿を現した“何か”。

 ……その正体は、まさに目疑うような存在だった。

 

「リ、リングマ……!?い、いや!違う……っ!限りなく似てるけど……明らかに違うポケモンだ……!!」

 

 確かに目の前のポケモンはリングマの面影を強く残してはいる……!

 だけど、身体の所々が硬質な灰色の土に覆われているし、何より……僕の知っているリングマよりも、遥かに荒々しく、圧倒的な野生みに満ち溢れている……!!

 

 おまけに……なんだかおかしい!

 その唯一露出した右目には、まともな瞳すらないのに、まるで赤く血走っているみたいにギラギラと不気味に輝いている……!!!

 

「アレって……ガチグマ……?けど……“アカツキ”の個体はと(・)っ(・)く(・)の(・)昔(・)に(・)絶(・)滅(・)し(・)て(・)た(・)は(・)ず(・)……」

 

「ガチグマ!?あのポケモンを知ってるんですか、シアンさんっ!?」

 

「あー……あのポケモンはねーーー」

 

「グルガァァァァァ!!!!!」

 

 な、なんかヤバそう……!額の紅い満月っぽい模様が光って……!

 

ーーズガァァァァァン!!!!!

 

「「「「わあぁぁぁぁ!!??」」」」

 

 ガチグマと呼ばれたポケモンの額が光った直後、視界を紅い閃光が埋め尽くし、爆風によって僕の身体は一瞬で宙に浮き上がる。

 

(く……っ!躊躇なく攻撃してくるなんて、やっぱりポケモンは怖い生き物だ……!!……けど、あのアーク・ポケモンよりかはマシ……って思ってしまう僕は、どこかおかしいのかなぁ……?)

 

 そんなことを考えながら重力に従って落ちていく僕。……けれど。

 

「フー!!危ない危ない!間一髪間に合った!!アルカくん危機一髪!!!」

 

 僕とツバキちゃんは、間一髪でシアンくんが抱き止めてくれたおかげで地面に叩きつけられずに済んだ。……他の二人は……まあ、お察しの通りだけど。

 

「シアンくん……!今、何が……起こったの……?」

 

「今のはアカツキ個体のガチグマだけ使える技……《ブラッドムーン》……!額からありったけの気迫を打ち出す技だ……!」

 

「気迫!?どっからどう見ても、ただのビームにしか見えなかったんだけどっ!!?」

 

「おっ、いいツッコミ!そんな余裕があるなら、大丈夫そうだね〜」

 

 ……悪かったね、ツッコミ担当で。

 ・・・あっ。そ、そうだ……!クリスさんとコンスさんは……!?

 

「ゲホッ!ゴホッ!なんて品のない技なんだ……!」

 

「フー……こりゃ参ったね……」

 

 あっ、よかった。思いの外無事そうだ。結構、派手に吹き飛ばされてた気がするけど、僕の見間違いだったのかな?

 

「オイオイ……。こいつはもう、厳(・)重(・)注(・)意(・)だ(・)け(・)じ(・)ゃ(・)効(・)か(・)な(・)い(・)領(・)域(・)だ(・)ぞ(・)……!」

 

 爆発音のせいでまだ耳がキーンとするから、何を言っているのかは聞き取れない。

 けれど、クリスさんはこのガチグマに本気で命の危険を感じたのか、懐から素早く『脱出スイッチ』を取り出し――。

 

「すまない、シアン君! どうやら私はここまでみたいだ!! 規定に従って、命尽きる前に離脱させてもらうよ!! 君達の幸運を祈る!!!」

 

ピッ!

ーー『エスケープ』

 

 こうして、最初の脱落者はクリスさんに決まった。結局……何一つ役に立たなかったな、あの人……。

 

「……だ、そうだけど、キミはどうする?ツバキちゃん?脱出するなら……早めに決断した方がいいよ」

 

 ……ねぇ、シアンくん?そこに僕の名前が含まれていないことは、素直に喜ぶべきなのかなぁ?

 シアンくんの中で、僕はガチグマ攻略に必要な人材としてカウントされてるって解釈でいいの?

 

「……残ります……!ずっとバトルをシアンさんたちに任せっぱなしなのは本当に申し訳ないとは思ってます……。けど……!せめて、リズと一緒に山頂にまでたどり着きたいんです!!!」

 

「オーケー!それなら……!パパっと迅速にガチグマを倒さなくちゃねっ!!!」

 

 ツバキちゃんの強い想いを聞き届け、あの凶暴極まりないガチグマを倒す覚悟を決めたシアンくん。

 シアンくんは抱えていた僕とツバキちゃんを丁寧に地面へと下ろすと、ピカさんと合流する(リズちゃんは、いち早く危険を察知して上空へ避難していたから無事だった)。

 

「グルルル……!」

 

 迫り来るシアンくんたちを前に、ガチグマは両腕を大きく広げ、ただでさえ大きな身体を更に大きく見せるように威嚇の体勢に入った。

 どうやら……粗暴そうな見た目に反して、シアンくんたちの放つタダ者ではない気配(オーラ)を感じ取るくらいには知性があるらしい。

 

「あー……ごめんね〜、ガチのクーさん。今、ハチミツは切らしちゃってさ〜。ボクを倒しても、ドロップはしないよ〜?」

 

「ヘッ!オイrーーゲフン!ゲフン! ピッカァ!!!!」

 

「グルガァァァァァ!!!!!」

 

 単純な基本動作こそ鈍い部類に入るけれど、3メートル近い巨体を支える脚部から繰り出される突進の瞬発力は圧巻だ……!

 

 で、でも……!

 

「ピカチュウっと!!!」

 

ーーズガンッ!!!

 

 よしっ!流石はピカさん!純粋な素早さは圧倒的に彼の方が上だ!

 しかも、かなりいい一撃が入った!!ピカさんの高い攻撃力なら、流石のガチグマでも……!

 

「グルウラァ!!!!」

 

「チッ……!ピカガ……ッ!」

 

ーーズドーン!!!

 

「クゥ……!やってくれるじゃねェか(ピッピカピピー)……!!!」

 

 嘘だろ……!? ピカさんの一撃をノーガードで喰らっておいて、ノータイムでカウンターを叩き込んでくるなんて……!

 

「つ、強いですね……!あのガチグマってポケモン……!」

 

「……恐らく、あのポケモンは『宝』の番人でしょう……。元よりリングマ種は非常に強い執着心を持つと聞く……。奴を無力化しなければ、我々が『宝』に辿り着くことは不可能かと……!」

 

「コンスさん……」

 

 ……そ、そうだ……! もしもあのガチグマが本当に『番人』なのだとしたら、伝承の類に対処法やヒントくらいは載っているはず……!

 

 そう閃いた僕は、急いでバッグの中から『黒龍伝説』が記載された資料を取り出した。

 

 ……けれど、どれだけページをめくっても、資料に記されているのは『宝の在処』と『それがもたらす恩恵』ばかり……。

 そもそも、『番人』の存在なんて影も形も触れられてすらいない。

 

「……あれ?待てよ……?」

 

 その瞬間、思考の糸が、ふと妙なところで引っかかった。

 

 よくよく考えてみれば、この『伝承』には明らかに不自然な点がある。

 運営も、周囲のハンターたちも、そしてコンスさんたちだって当たり前のようにこの『頂上』を目指している。

 

 けれど……目の前の資料に目を落とせば落とすほど、ある“決(・)定(・)的(・)な(・)不(・)自(・)然(・)さ(・)”が浮き彫りになっていく。

 

「お宝って……確か地下にもあるって書いてたよね……?」

 

 そう、宝は最初から一つじゃない。

 『伝説』にある宝には、今僕たちが目指している『至聖の宝』。そして…… 山頂の宝を縛りつけると伝えられる『不浄の化け物』が眠っているとある……。

 

「アルカ君……?」

 

「すいません!今は話かけないでください!……あっ、流れ弾が飛んで来た時だけはお願いします!!!」

 

 どうして誰も地下のお宝を目指さない?

 ……いや、その答えは至極単純だ。伝承には地下に封じられたもう一つの楔こそが『不浄の化け物』だと伝えられているから……。

 

 けど……少し書き方がおかしくないか……?

 

ーー山頂の宝を縛りつける『不浄の化け物』、地の底にて蒼き焔を滾(たぎ)らせ眠る。

 

 この書き方だと、まるで『不浄の化け物』こそが『宝』を押さえ込んでるみた……い?

 

「ーー!!! まさか……そういうことなの……?」

 

 もしかしたら……僕たちは大(・)き(・)な(・)思(・)い(・)違(・)い(・)を(・)し(・)て(・)い(・)た(・)の(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)……!!!

 

 『宝』=『善』で、『不浄の化け物』=『悪』……!僕たちはそう考えていた……!

 だけど……もしも、真実はそ(・)の(・)真(・)逆(・)だ(・)っ(・)た(・)と(・)し(・)た(・)ら(・)……?

 

 クソ……っ!恐らく……この事実に気づいたのは、今のところ僕一人のはず……!

 だけど、僕の推理が間違っている可能性だって大いにあり得る……!それだったらそれでいい……!寧ろ、ハズレて欲しいくらいだ……!

 

 でも……もしも、僕の仮説が当たっていたのなら……!

 

『ルロォォォォォイッッッ!!!!!』

 

 もう……!50:50の確率に賭けるしかない……っ!!!

 

「シアンくんっ!!!」

 

「なにっ!?アルカくんっ!!?今、ちょっと忙しいんだけどっ!!!」

 

「悪いけど……僕ももうここまでみたい!山頂の“お宝”は……任せたよっ!!!」

 

「・・・へっ?ちょ……!アルカくん!!?」

 

 本当にごめん!シアンくんっ!!説明している暇はないし、君にはここに残ってて欲しいから、もう……押すね!!

 

ピッ!

ーー『エスケープ』

 

「嘘でしょーー!!??アルカくーーん!!!???」

 

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 SAKURAGI ARUKA

▶︎SIAN

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 どうしよう……。クリスさんはまだしも、アルカくんまで居なくなっちゃった……。

 ガチグマの対処に忙しかったとはいえ、冷たくあしらったのがよくなかったかなぁ……。

 

「……ピカ」

 

 ……分かってるよ、ピカさん……。きっと、『クヨクヨすんな!二度と会えないワケじゃあるまいし、さっさと用事済ませて帰ろーぜ!』って言ってるんでしょ?

 

 ……まあ、もうココまで来ちゃったら、引き返すって選択肢はないよね……!

 

「よしっ!!!もう吹っ切れたっ!!!コッから先はーーー」

 

「ラガァァァァ!!!!」

 

「どわぁ!!??」

 

 あっぶな……!あと一瞬でも遅れてたら洒落にならないダメージを負ってた……!

 くっそ〜!!!決め台詞の最中は攻撃禁止って相場が決まってるでしょ〜!?

 

「グルガァァァァァ!!!!!」

 

「また《ブラッドムーン》か……!ツバキちゃん!コンスさん!伏せててっ!!!」

 

 “アカツキ”個体のガチグマの特徴は、圧倒的な特攻の高さ……。そのせいで、コレまでのポケモンと違って、一撃一撃がとてつもなく重い……!

 

 加えて、全身を覆う“泥の鎧”も厄介だ……!地面タイプを持ってるせいで、ピカさんの電気が全部吸収されてる……!

 

 ああ、もうっ!!“ピカチュウ仮面”に変身すれば、苦もなく倒せるんだろうけど……!こんな洞窟内で変身すれば、火力が高すぎて崩落してしまう可能性がある……!

 

 そしてたら、ツバキちゃんたちを危険に晒す……。流石のボクも、それだけは避けたい!何とか被害を最小限にして鎮圧しないと……!

 

「ピッカァ!!!」

 

ーーズガンッ!!!

 

「ガァ?ワギアアア!!!!!」

 

「ピクショウメッ!!!」

 

 敵は尋常じゃなく硬い……。

 周囲の環境は最悪……。

 頭脳担当のアルカくんは不在……。

 

 ハッキリ言って、戦況はボクたちの方が圧倒的に不利だ……。

 でもどうすればいい……?変身しなくても“波動”の操作はできるけど、威力は大きく劣る……!

 ピカさんでも簡単にダメージを与えられない相手に、有効打になるとは思えない……!

 

「頑張ってくださいっ!!!シアンさーーんっ!!!」

 

 くそ……っ!一体、どうすれば……!

 

ーー『ヒーローたるモノ、常にベストコンディションってワケにゃあいかねェ。もしも、オタクのスペックがフルに発揮出来ない状況に陥った時にゃあ……』

 

ーー『身体が動くうちに、今の自分に出来るコトをありったけ試しな。そうすりゃ……打開策の一つや二つも見えてくんだろ』

 

「っ!!?」

 

 何……?今の“声”は……?ボクの脳内に直接響いた……?

 ……“今の自分に出来るコトをありったけ試せ”、か……。

 

 体術での鎮圧はすでに何度も試した。全部が失敗に終わったけど。

 なら、ボクがまだ試していないのは蒼い炎だけ……。だけど極力、“波動”の炎はツバキちゃんたちの前では使いたくない。

 

 理由は自分でも分からないけど……もしも使ってしまったら、事態がややこしい方向に向かってしまいそうだから。

 

「ガァ!!!」

 

「ピッピィ!!!!!」

 

 ……けど、もうやるしかなさそうだ。ピカさんの時間稼ぎもそう長くは持たない、ココで一発……お熱いのをかましてやる……っ!!!

 

「ピカさんっ!!!いい感じにガチグマの気を引いてっ!!!ボクが何とか突破口を開くっ!!!!」

 

「ピカッタァ!!!」

 

 ボクの指示に応え、《疾風迅雷(しっぷうじんらい)》を発動したピカさんが凄まじい速度で躍動する。

 残像すら残すほどの超スピードで繰り出される怒涛のインファイト*1。

 

 分類上ではノーマルタイプの物理技である《疾風迅雷》じゃあ、泥の鎧に阻まれ有効打にはなっていない……けれど、ガチグマの意識をボクから逸らすには十分すぎるラッシュだ。

 

 そうすれば……。

 

「グワァ!?」

 

「懐がお留守だよ!ガチのクーさん!!」

 

 手薄になった巨体の足元へ、ボクは簡単にたどり着けるんだから!そんでもって、最後に……!

 

「あーーーっ!!!ツバキちゃんとコンスさんの後ろに危なそうなポケモンが接近してるっ!!!」

 

「えっ!!?」

「まさか……!」

 

 ぃよし……っ!!!いい感じに2人の気を引けたっ!!!この隙を逃さずに……!!!

 

ボワァ……!

 

「正当防衛だ。悪く思わないでよ!」

 

 手の形は、右手に人差し指と中指をくっつけてピーン!!!

 あとはガチグマの命を奪わない範疇で、貫通力だけに特化させて……!

 

 引き金を……思いっきり引けっ!!!

 

「《焔雷巨銃(マグナム)》!!!」

 

ーーズドォォォォォン!!!!!

 

「ガァァァァーーー!!!?」

 

ズシーンッ!!!

 

 ほぼ不意打ち同然で、ボクの《焔雷巨銃(マグナム)》を喰らったガチグマは、苦悶の声を上げながら大きく後方へと吹き飛ぶ。

 流石は、数百キロ級の大型個体。激しい破壊音とともに地面に激突すると、大量の砂煙を巻き起こした。

 

 だけどーーー

 

「グルガァァァァァ!!!!!」

 

「ハァ……やっぱりね……」

 

 そこそこいい一撃がモロに入って、全身がボロボロだってのに、まーだ、倒れてくれないか……!

 けど……!そ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)……!!

 フィニッシュを決めるのは……ボクじゃなくてーーー

 

「ピィーカッカッカッ!!!!!」

 

 マイフェイバリットパートナーの……ピカさんなんだからっ!!!

 

「《ボルテッ拳(ピカピッケン)》!!!!!」

 

 ガチグマ……キミの防御力の大部分を占めていたのは、全身に纏った泥の鎧のお陰だ……。だけど……その鎧は今、どこにあるのか理解してる?

 

「グロ……ッ!?」

 

 見つかるはずがないよね〜?だって、ボクの《焔雷巨銃(マグナム)》によってぜーんぶ粉砕されちゃったんだから。

 

 ってことは……次のシーンで“どんなこと”が起こっちゃうか、分かる?答えは〜……

 

ーーズガァァァァァン!!!!!

 

「ガッ……!? ヴォガァァァッ!!???」

 

 一撃(ワンパン)ノックアウトだ。

 

「ガ……ッ!チ……ッ!」

 

 ピカさんの全体重を乗せた黄金の拳が、見事に急所にクリーンヒットした瞬間、アレだけ血走っていた赤く輝く右目から光が消え、ガチグマはガクガクと膝を折り――。

 

ーーズシーーーーンッ!!!!!

 

 地響きとともに、もう一回砂煙を立ち上げてその場へ豪快に倒れ伏した。

 

「ハァ……!ハァ……!……ピカカカ……ッ!!!」

 

「……にひっ!」

 

 分かってるって、ピカさん!! いっちょ、盛大にいきますかっ!!!

 

「「ピカっと解決っ(ピカッピピカピカッ)!!オールオッケー(ピィーピッカチュー)!!!」」

 

 お互いの健闘を称え合い、パチンッ!と勢いよくハイタッチを交わしてから、ドヤ顔で天高く拳を突き上げるボクとピカさん。

 

 うんっ!やっぱり、強敵に勝利したあとの勝ち鬨は、ゲキエモに気持ちいいねー!!!

 

「お、終わったの……?ハァ〜……!!もう……生きた心地がしなかった……!!」

 

「ギャウ〜……」

 

 ごめんね、ツバキちゃん……。もっとボクが上手く対処できれば、こんな怖い思いをさせずに済んだのに……。ハァ〜……やっぱり……いくつになっても、“あの人”にはまだまだ及ばないな……。

 

 ・・・アレ?“あの人”って誰だっけ……?……まあ、いっか!!

 

「……シアン君。勝利の余韻に浸っている最中で悪いですが、早く頂上の宝を回収して、番人が目を覚ます前に下山しましょう!!!」

 

 あっ、そっか。あんまりにもガチグマが手強かったから忘れてたけど、今は宝探しの最中だったんだ。

 

 まっ!苦労して番人も気絶させたことだし、あとはもうお宝を回収するだけでしょ!コッから先は、簡単ッッッ!!!簡単ッッ!!!

 

「シアンさーん!!!早くこの場から離れましょうよー!!!」

 

「あー!うん!今行くー!!!……って、二人ともボクを置いて先に行ってるし……。酷いな〜! ボクとピカさんだって、メチャンコ頑張ったのに〜!」

 

「ピカカカッ!!!そんだけお宝が待ち遠しいってこった!!オイラたちも追いかけようぜ!!!」

 

 こんな時でもマイペースなピカさんと顔を見合わせ、苦笑いしながら二人の後を追おうと足を踏み出した――その時。

 

 ……ふと、背中に妙な違和感が走った。いや、予感と言い換えてもいいかも……。

 

 さっきまで足元を揺らすほどの激闘を繰り広げていた場所。

 激しい爆風で抉れた岩肌と、もうもうと立ち込める砂煙の残り香。

 そこには確かに、つい数秒前まで巨大なガチグマが横たわっていた……は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

「……っ?」

 

 ボクは立ち止まり、振り返る。

 

「アレ……?」

 

 いくら目を凝らしても、ガチグマが眠っていた場所には……崩(・)れ(・)た(・)岩(・)の(・)破(・)片(・)が(・)転(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)だ(・)け(・)。

 3メートル近いあの圧倒的な巨体も、分厚い泥の鎧の残骸も――影も形すら存在しない。

 

 まるでーーー最(・)初(・)か(・)ら(・)そ(・)こ(・)に(・)何(・)も(・)あ(・)り(・)は(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)。

 

「アカツキのガチグマが……消えてる……?」

 

 おかしい。いくら死なない程度に手加減していたとはいえ、ピカさんの《ボルテッ拳》を直撃させたんだ。

 並のポケモンなら丸一日気絶コースは確定だし、あのタフなガチグマ相手だとしても、最低半日は目を覚まさないはずなのに……。

 

 そもそも……。

 アレほどの巨体が、ボクたちの目を盗んで姿を消すなんて――そんなこと、あり得る……?

 

「……オイ、相棒……!」

 

「分かってる……っ!!間違いなく……何か良くないことが起こってる……っ!!!」

 

 記憶は失っていても、ボクの細胞の一つ一つがムズムズ、と警鐘を鳴らしている。

 胸の中で跳ね上がる嫌な予感を振り払うように、ボクはピカさんと再度顔を見合わせ、ツバキちゃんたちの後を追って全力で駆け出した。

 

 

ーーーーー

CHARACTER SELECT

▶︎SAKURAGI ARUKA

 SIAN

ーーーーー

 

 

 

ドンッ!

 

「痛゛っ゛た゛っ゛!!?」

 

 痛いです……主にお尻が……。

 てか、なんでワープ先が若干空中なの!?せっかく5万円も払ったんだから、せめてマットを敷いておくとか、もっと参加者に配慮してくれればいいのに……。

 

「・・・ってあれ? ここって……本当に転移先の小屋、だよね……?」

 

 てっきり運営スタッフの一人や二人は待機していると思っていたのに、室内には人の気配すら存在しない。案内役どころか、静まり返った空間が広がっているだけだ。

 

 すると……。

 

「おや、アルカくん。とうとう君も脱落しちゃったか」

 

「うわぁ!?ビックリしたぁ!!!い、居たんですか!?クリスさん……!」

 

 僕を出迎えてくれたのは、まさかまさかのクリスさんだった。

 どうして他の人の気配がないのかは疑問だけど、今の僕にとっては、むしろトップクラスに都合が良い相手だ。

 

「あ、あの! クリスさんっ!! 他の脱落者の人たちは、今何をしてますかっ!? もしかして……地下へ向かう、とか言ってませんでしたか!?」

 

「いや? 私が聞いた限りでは、脱落した参加者たちは皆、とっくに帰路についたそうだよ。ああ、ちなみに待機スタッフが誰もいないのは……強力な野生ポケモンの多発への対処に追われ、完全に機能不全へ陥っているから、だそうだ」

 

 だから、ここに待機しているスタッフが誰一人としていなかったのか……。

 せっかくの100年祭の目玉イベントだってのに、こんな想定外の事態に直面するなんて……。ご愁傷様です……。

 

「それで?アルカ君はどうするんだい?シアン君ならば、無事に頂上まで辿り着けそうだし、ここで待っておくかい?よければ、話し相手にでもなるよ」

 

「……すみません。僕はどうしても行かなきゃいけない場所があるんです……!」

 

「……へぇ?その顔を見る限り、スェパルトラ山へ戻る……って訳ではなさそうだ。君が何処へ向かおうとしているか興味があるな」

 

 ……どうしよう。クリスさんに言っても良いのかな……?

 けど、この人って悪い人ではなさそうだけど、頼りになるかと聞かれれば答えは普通に『いいえ』だしなぁ……。

 

「……本当にごめんなさい。話したいのは山々ですけど、今は一分一秒が惜しいんです……!それに、話したところで信じてもらえるか……!」

 

「……フーン。まあ、言いたくなければそれでいいさ。……あー、そうだ。これはあくまでも独り言なんだが……山頂に眠っているとされる“宝”は、本当に所有者が望む願いを叶えてくれる理想のお宝なのかなぁ?」

 

「え……?」

 

 この人、まさか……。気づいていた……?『伝承』の矛盾に……!

 

「おや?目の色が変わったね。君、以外とトレジャーハンターの才能があるんじゃないかな?」

 

 ……これから僕が向かおうとしている『セパルトラ山』の地下は、山頂までの道のり以上に何が起こるか予測不可能な危険地帯だ。

 

 もしかすると、あのガチグマに匹敵するような強力な番人が待ち構えているかもしれない……。

 正直、ただの自転車好きな旅人でしかない僕が、一人で踏破するにはリスクが高すぎる。

 

 ……けれど、本職のトレジャーハンターであるクリスさんが同行してくれるなら、生存率も成功率もグッと上がるはずだ。

 

 ……ならば、答えは一つ……!

 

「クリスさん……!今度は僕からお願いさせてもらいます……!お願いしますっ!!僕と一緒に……セパルトラ山の地下に同行してくださいっ!!!」

 

 僕はクリスさんに向かって、深く頭を下げる。

 

「別にいいよ。どちらにせよ、手持ち無沙汰で絶賛暇していたところだったしね」

 

「クリスさん……!ありがとうございますっ!!!」

 

「ただ一つだけ訂正させてくれ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……“セ”パルトラ山じゃなくて、“スェ”パルトラ山だよ?」

 

「どっちでもよくないですか、それっ!!??」

 

 こうして、割とあっさりとクリスさんの協力を取り付けた僕は、詳しい説明は道中で行うことにして、急いでセパーースェパルトラ山の地下へと向かう。

 

 お願い……もう少し耐えてて、シアンくん……!

 もしかすると……また世界の命運は君たちの手にかかってるかもしれないから……!

 

 

ーーーーー

《No side》

ーーーーー

 

 

「大丈夫ですか!?ツバキちゃん!コンスさん!」

 

 一足遅れて目的地である宝の眠る【天なる祠】へ辿り着いたシアンは、肩で息を荒げながら、大焦りで仲間の名を呼ぶ。

 

「ど、どうしたんですかシアンさん!?そんなに慌てて……」

 

 シアンの焦燥とは裏腹に、二人の姿に目立った異変は見られない。

 強いて言うなら、ツバキは突然慌て出したシアンに目を丸くして驚いており、コンスに至っては――駆け込んできたシアンに一瞥(いちべつ)すら向けず、ただ無言で【天なる祠】を一心に見つめ続けているくらいだ。

 

ーーパチ……パチ……パチ……パチ……。

 

 すると、どこからともなく乾いた拍手の音が響き渡る。

 洞窟の静寂を切り裂くその音は、どこか形容し難い不気味さを孕んで木霊(こだま)していた。

 

 その乾いた拍手の主――それは。

 

「……コンスさん……?」

 

 これまで仲間として共に困難を乗り越えてきた筈の『黒の鑑定士』、コンス=タンティンであった。

 

「ブラボー、実にブラボー。やはり、君は私が期待した通りの人物であったよ」

 

「な、なにを言ってるんですか、コンスさん……!冗談でも言っていいことと悪いことがーーー」

 

 言いかけたツバキの言葉が、途中でぴたりと途絶える。

 何故なら……嘲笑を浮かべながら振り返ったコンスの瞳――それが、先ほど消滅したガチグマと全く同じ、吸い込まれるほどに不気味な真紅色へ染まっていたのだから。

 

「その眼……!まさか……さっきのガチグマは……!?」

 

「私をここまで導いてくれてご苦労だった。シアン君……いやーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピ(・)カ(・)チ(・)ュ(・)ウ(・)仮(・)面(・)よ」

 

【ファントム・トリックス!!!】

 

 瞬間、コンス……いや、“虚構の奇術師”は懐から漆黒と真紅に彩られた謎のデバイスと宝石を取り出すと、その宝石の天頂部を親指で力強く押し込む。

 

「アレって……!【ソウル・ルーン】……!!?」

 

 シアンの驚愕を余所に、“虚構の奇術師”は間髪入れず、怪しい光を放つルーンをデバイスの上部へ滑らかに嵌め込み―――

 

《OVER-LAY SYSTEM, AUTHENTICATE.》

 

 この世界には既に存在しないはずの古代語で構成されたシステム音声が鳴り響くと、それに続いて和と洋が融合した優美かつ妖しい旋律が洞窟内に響き渡る。

 

 ……機は熟した。そう言わんばかりに、“虚構の奇術師”は不敵な笑みを浮かべ、静かに呟く。

 

「……投影」

 

 持ち手の引き金(トリガー)を強く絞り込んだ瞬間、装填された【ソウル・ルーン】が勢いよく展開。

 舞踏会の仮面を思わせる禍々しくも優美な形状へと変貌を遂げ、“虚構の奇術師”の目元へ吸い付けられるように張り付く。

 

 そして……。    

 

《ILLUSION PROJECTING.》

 

 全身に紫の光が収束すると同時に、コンスの肉体が歪んでいく。

 人間の皮膚は禍々しい毛並みへと取って代わり、身体には真紅のタキシードが仕立て上げられていく。

 頭部にはシルクハットとゾロアの頭部が融合し怪異化した不気味な面が形成され、やがてゾロアーク種を彷彿とさせる、エレガントで邪悪な異形のシルエットが立ち現れる。

 

《COMPLETE THE SHAPE-SHIFTERーーーPHANTOM TRICKS.》

 

「……嘘でしょ……?」

 

「ピカ……ッ!」

 

「コンス……さん……な、の……?」

 

 目の前で怪異へと変貌を遂げたかつての仲間――その圧倒的な異彩を前に、シアンとピカさんは身を硬くして冷や汗を流すにとどめている。

 しかし、一般人にすぎないツバキはあまりの非現実的な光景に恐怖し、ただ声を震わせる事しかできない。

 

 かつての仲間たちが浮かべる困惑と恐怖――それを前にしても、“虚構の奇術師”は一切意に介さない。

 まるで過去の関わりなど初めから存在しなかったかのように冷たく見下し、仮面の奥から冷徹な声を響かせる。

 

「その名は既に捨てた……。誇り高き我が真名はルパン……。ルナール・A・ルパン……!真なる“英雄”の意志を継ぐ者……ッ!!」

 

「……ツバキちゃん。ボクたちの後ろに下がってて」

 

 もはや交渉の余地はないと悟ったシアンは、恐怖で硬直するツバキを庇うようにそっと背後へ促すと、不安を和らげるように優しく微笑んで見せる。

 

「ココで見たことはぜ〜んぶ……ミンナニハ、ナイショダヨ♪」

 

「え……?それって、どういう……?」

 

【ボルテック・スパーク!!!】

【エモーショナルプラズマ!!!】

 

 シアンもまた、即座に『ボルテック・スパーク』と『ソウル・ルーン』を構えると、一切の隙のない流れるような動作で紋章(ルーン)を読み込ませ、引き金(トリガー)を強く絞り込む……!

 

「レッツ……!ゴー!!!」

 

MASK ON!!

type:“EMOTIONAL HERO”!!!

 

 眩い閃光が収まるのと同時に、そこにいたのはただの一人と一匹ではない。

 ルパンの持つ異形とは対極をなす、“英雄”の証――黄金のローブと風に靡く空(シアン)色の二又マフラー。そして、その名の象徴たるピカチュウを模した仮面を戴き、今ここに“ピカチュウ仮面”が降臨する……!

 

「シアンさんも……変わっ、た……?」

 

「まっ、キミが何者……いや、何ポケなのかは分かんないけど。とりあえず……ぶっ倒させてもらうから」

 

「ホウ?それが今代の“探(・)究(・)者(・)”の力か……!お手並み拝見といこう……!」

 

「たんきゅーしゃ……?何それ?……と言いたいところだけど、そこらへんは後でジックリ聞かせてもらおうかっ!!!」

 

「ピカカカッ!!!そんじゃあ……行くぜッ!!相棒ッ!!!」

 

 突如として交錯し、激突する黄鼠の英雄(ピカチュウ仮面)と黒狐の怪盗(ルナール)。

 

 そして――相反する二つの巨大な力が衝突した、まさにその瞬間……。

 

『ウ“ァル……ガァアアアァァッッ!!!!』

 

 祠の奥深くに納められた“宝”から、マグマの如し紅の邪気が溢れ出し始めていた……。

 

ーーーTo be the continue… …

*1:
技じゃなくて、戦術の方ネ




遂にシアン達の前に姿を現した、本作のメインヴィラン……その一角ッ!ルナール・A・ルパンッ!!!
果たして、彼は人間か!?それともポケモンか!?そして……紅の邪気を宿す、伝説の宝の正体とは!?次回にこうご期待!!!

【オリキャラ解説】
本作のメインヴィランにして、封印されたアーク・ポケモンを解き放った黒幕。
表の顔はイッシュの鑑定士「コンス」として旅に同行していたが、全て演技と能力を使って化けていたに過ぎず、その正体は“オーバーロード・ポケモン”と呼ばれる突然変異によって人間に匹敵する知性を得たポケモン。
『ある目的』の為に封印されたアーク・ポケモンを復活させているらしいが……?
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