クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。 作:めろんちゃん
百合って良いよね、、、私も可愛い女の子に囲まれたいよ、、
放課後。
ホームルームが終わると、私は鞄を持って立ち上がった。
……いや。
立ち上がろうとして、いったん椅子に座り直した。
「……どうしよう」
昼休みに玲奈から言われた言葉が、頭から離れない。
『今日の放課後、デートでもしない?』
あの場では勢いで「うん」と答えたけれど、改めて考えると、ものすごく恥ずかしい。
「……デート」
呟いただけで、顔が熱くなった。
友達と遊びに行ったことなら何度もある。
買い物も、ゲームセンターも経験がある。
でも、恋人とのデートは今日が初めてだった。
「ひなた、帰らないの?」
振り返ると、美咲が立っていた。
「えっ? あ、うん。帰る帰る!」
「お昼からずっと落ち着かないけど、どうしたの?」
「そ、そうかな?」
「うん。もしかして、月城さん?」
「っ!?」
「図星?」
「ち、違うし!」
思わず声が大きくなり、周囲の視線が集まった。
「……ひなた」
「ご、ごめん」
美咲は苦笑した。
「まあ、いいけど。今日は部活があるから、先に行くね」
「うん。頑張って!」
「ありがと。また明日」
「また明日!」
美咲を見送ってから、私は鞄を持ち直した。
待ち合わせは昇降口。
玲奈はもう向かっているだろうか。
そんなことを考えながら教室を出ると、階段の前に玲奈の姿が見えた。
「あ……」
玲奈も私に気づき、こちらへ歩いてくる。
「ひなた」
「玲奈……」
「ここで待ち合わせでよかった?」
「うん。私も今来たところ」
「そう」
玲奈はいつものように、落ち着いた声で答えた。
けれど、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。
それに気づいた瞬間、胸が小さく跳ねた。
「じゃあ、行きましょう」
「うん!」
二人で昇降口へ向かい、靴を履き替えて校門を出る。
すると、玲奈が隣から私を見た。
「どこに行きたい?」
「え?」
「デートでしょう?」
「う、うん。そうだけど……」
改めて言われると、やっぱり恥ずかしい。
私は視線を逸らしながら答えた。
「そ、それなら……学校から少し離れたところがいいな」
「どうして?」
「知ってる人に会ったら恥ずかしいから……」
「分かった。少し遠くまで行きましょう」
「電車?」
「ええ」
「……なんか、本当にデートみたい」
「本当にデートでしょう?」
「そ、そうだけど!」
玲奈は表情を変えずに言った。
ただ、その目がわずかに楽しそうに細められている。
「もう……」
駅へ向かう途中、玲奈が自然な動作で私の手を取った。
「……玲奈?」
「恋人なんだから、手くらい繋いでもいいでしょう?」
「……学校の外なら」
「じゃあ、決まりね」
玲奈はそう言って、絡めた指を確かめるように、ほんの少しだけ手に力を込めた。
今日の昼休みまでなら、恥ずかしくて絶対にできなかったこと。
なのに今は、不思議と嫌ではなかった。
「……手、あったかいね」
「ひなたの手もね」
「そういうこと言うの、禁止」
「どうして?」
「恥ずかしいから!」
「そう」
玲奈は淡々と返した。
でも、繋いだ手は離さない。
その横顔を見ていると、私まで嬉しくなった。
電車に乗り、学校から少し離れた駅で降りる。
見慣れない街並みを眺めながら、私はほっと息をついた。
「ここなら、知り合いにも会わなそう」
「そのために選んだもの」
「今日はゆっくりできそうだね」
「ええ」
玲奈は短く答えた。
けれど、私の手を握る指先は、さっきより少しだけ柔らかかった。
まず向かったのは、大きなショッピングモールだった。
服を見たり、小物を眺めたり。
目的もなく歩いているだけなのに、楽しい。
「玲奈、これ見て!」
「可愛いわね」
「でしょ?」
「ひなたに似合いそう」
「……え?」
「買ってあげようか?」
「いいよ! 自分で買えるから!」
「そう?」
「うん!」
玲奈は商品に視線を戻した。
その横顔はいつも通り涼しげだったけれど、ほんの少しだけ残念そうに見えた。
「……玲奈?」
「何?」
「ううん。なんでもない」
「そう」
そんなやり取りをしながら歩いていると、ゲームセンターが目に入った。
「玲奈、あれ行こう!」
「クレーンゲーム?」
「うん!」
店内に入り、並んだ景品を見ていると、私の好きなキャラクターのぬいぐるみが目に留まった。
「……あ」
「欲しいの?」
「……ちょっとだけ」
「じゃあ、やってみましょう」
「えっ、玲奈が?」
「恋人へのプレゼントよ」
「……っ!」
一気に顔が熱くなる。
「そ、そういう言い方しないでよ!」
「本当のことでしょう?」
「……もう」
ひなたは小さく息を吐いた。
「ひなたが欲しそうに見ていたから」
「……それなら、普通に言ってよ」
「普通に言ったつもりだけど」
「そういうところ!」
結局、玲奈が挑戦することになった。
一回目は失敗。
二回目は惜しい。
そして三回目。
「……取れた」
「えっ!?」
玲奈がぬいぐるみを持ち上げる。
「すごい!」
私は思わず玲奈の腕を掴んだ。
「玲奈、すごいよ!」
「そんなに喜んでくれるなら、頑張った甲斐があったわ」
玲奈はそう言いながら、ほんの一瞬だけ嬉しそうな表情をした。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
玲奈からぬいぐるみを受け取り、私は大事に抱えた。
「……嬉しい」
「そう」
「玲奈は嬉しくないの?」
「何が?」
「私が喜んでること」
「……嬉しいわよ」
玲奈は少し間を置いてから答えた。
その声はいつも通り落ち着いていたけれど、表情には隠しきれない満足感が浮かんでいた。
「……そっか」
私まで嬉しくなってしまう。
すると、玲奈がスマートフォンを取り出した。
「こっち向いて」
「え?」
返事をする前に、シャッター音が響いた。
「ちょっと! 今撮ったでしょ!」
「ええ」
「消して!」
「どうして?」
「だって恥ずかしいし!」
画面には、ぬいぐるみを抱えて笑う私が写っていた。
「……うぅ」
「可愛いわよ」
「だから恥ずかしいんだって!」
「じゃあ、大切に保存しておくわね」
「えっ」
玲奈がスマートフォンをしまう。
「ちょっと待って! また脅しに使うつもり?」
「必要なら」
「必要なの!?」
「ひなたが、あまりにも無防備だったから」
「それ、理由になってないよ!」
「そう?」
玲奈は平然としている。
けれど、口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。
「玲奈!」
「……ふふ」
小さく笑う玲奈を見ていると、最初に会ったころより表情が柔らかくなった気がした。
私といるときだけ見せてくれる笑顔。
それが、少し嬉しい。
ゲームセンターを出たあと、私たちは近くのカフェに入った。
二人で向かい合って座る。
「なんか……こうしてると、本当に恋人みたい」
「恋人だからね」
「……うん」
今度は、否定しなかった。
玲奈が少しだけ目を細める。
「ひなたは、普段こういうところに来るの?」
「友達とはたまに来るよ。でも……」
「でも?」
「恋人と来るのは初めて」
「私も」
「玲奈も?」
「ええ。だから、少し慣れないわね」
「……意外」
「そう?」
「玲奈って、何でも知ってそうだから」
「そんなことないわ。私だって普通の女の子よ」
「……うん」
その言葉が、なぜか心に残った。
学校ではいつも落ち着いていて、誰からも一目置かれている玲奈。
私とは違う世界にいるように見えた。
でも今は、目の前で私と向かい合っている。
表情は相変わらずクールなのに、時々、嬉しそうな顔を見せる。
そのたびに、私は玲奈のことを少しずつ知っていくような気がした。
「……なんか、安心した」
「何が?」
「玲奈も普通の女の子なんだなって」
「ひなたは私を何だと思っていたの?」
「クールで完璧な美少女?」
「それは褒めているの?」
「褒めてるよ!」
「なら、ありがとう」
玲奈は淡々と答えた。
けれど、今度ははっきりと嬉しそうに笑った。
二人で笑う。
それだけなのに、胸の奥が温かくなった。
カフェを出ると、私は近くの本屋に目を向けた。
「あ……」
「入りたい?」
「うん」
「じゃあ、行きましょう」
本に囲まれた店内は、やっぱり落ち着く。
玲奈も慣れた様子で本棚を眺めていた。
「玲奈、本当に本が好きなんだね」
「ええ。家に帰っても一人のことが多いから」
「……そっか」
私は少しだけ玲奈を見る。
「だから、本屋で働いてるの?」
「それも理由の一つね」
「じゃあ……私が来たときも?」
「ええ」
あの日。
私が百合漫画を読んでいて、玲奈に見つかって。
写真を撮られて。
そして、付き合うことになった。
「……なんか、変な出会い方だったね」
「そうね」
玲奈が本棚に視線を向けたまま答える。
「でも私は、あの日があってよかったと思ってる」
「……え?」
「ひなたとこうして一緒にいられるから」
「……玲奈」
胸が大きく跳ねた。
玲奈はいつも通りの顔をしていた。
でも、私の反応を見た瞬間、ほんの少しだけ目元が柔らかくなった。
「……そういうの、ずるいよ」
「何が?」
「そういうことを普通に言うところ」
「本当のことだから」
「……もう」
誤魔化すように本を手に取る。
玲奈はそんな私を見て、満足そうに目を細めた。
それからしばらく店内を見て回り、外へ出ると、空は夕暮れ色に染まっていた。
「もうこんな時間なんだ」
「楽しかった?」
「うん」
私は素直に答えた。
「玲奈は?」
「私も、楽しかった」
玲奈はそう言ってから、少しだけ間を置いた。
「……思っていたより」
「え?」
「ひなたと一緒なら、悪くないとわかっていたけれど」
「けれど?」
「思っていたより、楽しかったわ」
玲奈は視線を逸らした。
その耳が、ほんの少し赤くなっている。
「……玲奈も照れるんだ」
「照れてないわ」
「でも耳、赤いよ」
「夕日のせいでしょう」
「絶対違う!」
玲奈は答えず、繋いだ手を少しだけ強く握った。
駅へ向かう道を、二人で歩く。
「……ねえ、玲奈」
「何?」
「また……こういうのしたい」
言ってから、急に恥ずかしくなった。
「……今の、聞かなかったことにして」
「嫌よ」
「なんで!?」
「私もまた、ひなたとデートしたいから」
「……そっか」
私は笑った。
玲奈は前を向いたまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。
最初は、脅されて始まった関係だった。
玲奈のことを、少し怖いと思っていた。
それなのに今は――。
「……今日、楽しかったな」
自然に言葉がこぼれる。
玲奈が、繋いだ手に少し力を込めた。
「私も」
短い返事だった。
でも、その声には隠しきれない嬉しさが滲んでいた。
その温かさを感じながら、私は玲奈の隣を歩く。
まだ、これが恋なのかは分からない。
だけど、玲奈と一緒にいる時間が、少しずつ好きになっている。
そんな気がした。