クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。   作:めろんちゃん

5 / 9
 
 百合って良いよね、、、私も可愛い女の子に囲まれたいよ、、


第5話初めてのデートって、こんなに緊張するんですか!?

 

 放課後。

 

 ホームルームが終わると、私は鞄を持って立ち上がった。

 

 ……いや。

 

 立ち上がろうとして、いったん椅子に座り直した。

 

「……どうしよう」

 

 昼休みに玲奈から言われた言葉が、頭から離れない。

 

『今日の放課後、デートでもしない?』

 

 あの場では勢いで「うん」と答えたけれど、改めて考えると、ものすごく恥ずかしい。

 

「……デート」

 

 呟いただけで、顔が熱くなった。

 

 友達と遊びに行ったことなら何度もある。

 

 買い物も、ゲームセンターも経験がある。

 

 でも、恋人とのデートは今日が初めてだった。

 

「ひなた、帰らないの?」

 

 振り返ると、美咲が立っていた。

 

「えっ? あ、うん。帰る帰る!」

 

「お昼からずっと落ち着かないけど、どうしたの?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん。もしかして、月城さん?」

 

「っ!?」

 

「図星?」

 

「ち、違うし!」

 

 思わず声が大きくなり、周囲の視線が集まった。

 

「……ひなた」

 

「ご、ごめん」

 

 美咲は苦笑した。

 

「まあ、いいけど。今日は部活があるから、先に行くね」

 

「うん。頑張って!」

 

「ありがと。また明日」

 

「また明日!」

 

 美咲を見送ってから、私は鞄を持ち直した。

 

 待ち合わせは昇降口。

 

 玲奈はもう向かっているだろうか。

 

 そんなことを考えながら教室を出ると、階段の前に玲奈の姿が見えた。

 

「あ……」

 

 玲奈も私に気づき、こちらへ歩いてくる。

 

「ひなた」

 

「玲奈……」

 

「ここで待ち合わせでよかった?」

 

「うん。私も今来たところ」

 

「そう」

 

 玲奈はいつものように、落ち着いた声で答えた。

 

 けれど、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。

 

 それに気づいた瞬間、胸が小さく跳ねた。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

「うん!」

 

 二人で昇降口へ向かい、靴を履き替えて校門を出る。

 

 すると、玲奈が隣から私を見た。

 

「どこに行きたい?」

 

「え?」

 

「デートでしょう?」

 

「う、うん。そうだけど……」

 

 改めて言われると、やっぱり恥ずかしい。

 

 私は視線を逸らしながら答えた。

 

「そ、それなら……学校から少し離れたところがいいな」

 

「どうして?」

 

「知ってる人に会ったら恥ずかしいから……」

 

「分かった。少し遠くまで行きましょう」

 

「電車?」

 

「ええ」

 

「……なんか、本当にデートみたい」

 

「本当にデートでしょう?」

 

「そ、そうだけど!」

 

 玲奈は表情を変えずに言った。

 

 ただ、その目がわずかに楽しそうに細められている。

 

「もう……」

 

 駅へ向かう途中、玲奈が自然な動作で私の手を取った。

 

「……玲奈?」

 

「恋人なんだから、手くらい繋いでもいいでしょう?」

 

「……学校の外なら」

 

「じゃあ、決まりね」

 

 玲奈はそう言って、絡めた指を確かめるように、ほんの少しだけ手に力を込めた。

 

 今日の昼休みまでなら、恥ずかしくて絶対にできなかったこと。

 

 なのに今は、不思議と嫌ではなかった。

 

「……手、あったかいね」

 

「ひなたの手もね」

 

「そういうこと言うの、禁止」

 

「どうして?」

 

「恥ずかしいから!」

 

「そう」

 

 玲奈は淡々と返した。

 

 でも、繋いだ手は離さない。

 

 その横顔を見ていると、私まで嬉しくなった。

 

 電車に乗り、学校から少し離れた駅で降りる。

 

 見慣れない街並みを眺めながら、私はほっと息をついた。

 

「ここなら、知り合いにも会わなそう」

 

「そのために選んだもの」

 

「今日はゆっくりできそうだね」

 

「ええ」

 

 玲奈は短く答えた。

 

 けれど、私の手を握る指先は、さっきより少しだけ柔らかかった。

 

 まず向かったのは、大きなショッピングモールだった。

 

 服を見たり、小物を眺めたり。

 

 目的もなく歩いているだけなのに、楽しい。

 

「玲奈、これ見て!」

 

「可愛いわね」

 

「でしょ?」

 

「ひなたに似合いそう」

 

「……え?」

 

「買ってあげようか?」

 

「いいよ! 自分で買えるから!」

 

「そう?」

 

「うん!」

 

 玲奈は商品に視線を戻した。

 

 その横顔はいつも通り涼しげだったけれど、ほんの少しだけ残念そうに見えた。

 

「……玲奈?」

 

「何?」

 

「ううん。なんでもない」

 

「そう」

 

 そんなやり取りをしながら歩いていると、ゲームセンターが目に入った。

 

「玲奈、あれ行こう!」

 

「クレーンゲーム?」

 

「うん!」

 

 店内に入り、並んだ景品を見ていると、私の好きなキャラクターのぬいぐるみが目に留まった。

 

「……あ」

 

「欲しいの?」

 

「……ちょっとだけ」

 

「じゃあ、やってみましょう」

 

「えっ、玲奈が?」

 

「恋人へのプレゼントよ」

 

「……っ!」

 

 一気に顔が熱くなる。

 

「そ、そういう言い方しないでよ!」

 

「本当のことでしょう?」

 

「……もう」

 

 ひなたは小さく息を吐いた。

 

「ひなたが欲しそうに見ていたから」

 

「……それなら、普通に言ってよ」

 

「普通に言ったつもりだけど」

 

「そういうところ!」

 

 結局、玲奈が挑戦することになった。

 

 一回目は失敗。

 

 二回目は惜しい。

 

 そして三回目。

 

「……取れた」

 

「えっ!?」

 

 玲奈がぬいぐるみを持ち上げる。

 

「すごい!」

 

 私は思わず玲奈の腕を掴んだ。

 

「玲奈、すごいよ!」

 

「そんなに喜んでくれるなら、頑張った甲斐があったわ」

 

 玲奈はそう言いながら、ほんの一瞬だけ嬉しそうな表情をした。

 

「ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

 玲奈からぬいぐるみを受け取り、私は大事に抱えた。

 

「……嬉しい」

 

「そう」

 

「玲奈は嬉しくないの?」

 

「何が?」

 

「私が喜んでること」

 

「……嬉しいわよ」

 

 玲奈は少し間を置いてから答えた。

 

 その声はいつも通り落ち着いていたけれど、表情には隠しきれない満足感が浮かんでいた。

 

「……そっか」

 

 私まで嬉しくなってしまう。

 

 すると、玲奈がスマートフォンを取り出した。

 

「こっち向いて」

 

「え?」

 

 返事をする前に、シャッター音が響いた。

 

「ちょっと! 今撮ったでしょ!」

 

「ええ」

 

「消して!」

 

「どうして?」

 

「だって恥ずかしいし!」

 

 画面には、ぬいぐるみを抱えて笑う私が写っていた。

 

「……うぅ」

 

「可愛いわよ」

 

「だから恥ずかしいんだって!」

 

「じゃあ、大切に保存しておくわね」

 

「えっ」

 

 玲奈がスマートフォンをしまう。

 

「ちょっと待って! また脅しに使うつもり?」

 

「必要なら」

 

「必要なの!?」

 

「ひなたが、あまりにも無防備だったから」

 

「それ、理由になってないよ!」

 

「そう?」

 

 玲奈は平然としている。

 

 けれど、口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。

 

「玲奈!」

 

「……ふふ」

 

 小さく笑う玲奈を見ていると、最初に会ったころより表情が柔らかくなった気がした。

 

 私といるときだけ見せてくれる笑顔。

 

 それが、少し嬉しい。

 

 ゲームセンターを出たあと、私たちは近くのカフェに入った。

 

 二人で向かい合って座る。

 

「なんか……こうしてると、本当に恋人みたい」

 

「恋人だからね」

 

「……うん」

 

 今度は、否定しなかった。

 

 玲奈が少しだけ目を細める。

 

「ひなたは、普段こういうところに来るの?」

 

「友達とはたまに来るよ。でも……」

 

「でも?」

 

「恋人と来るのは初めて」

 

「私も」

 

「玲奈も?」

 

「ええ。だから、少し慣れないわね」

 

「……意外」

 

「そう?」

 

「玲奈って、何でも知ってそうだから」

 

「そんなことないわ。私だって普通の女の子よ」

 

「……うん」

 

 その言葉が、なぜか心に残った。

 

 学校ではいつも落ち着いていて、誰からも一目置かれている玲奈。

 

 私とは違う世界にいるように見えた。

 

 でも今は、目の前で私と向かい合っている。

 

 表情は相変わらずクールなのに、時々、嬉しそうな顔を見せる。

 

 そのたびに、私は玲奈のことを少しずつ知っていくような気がした。

 

「……なんか、安心した」

 

「何が?」

 

「玲奈も普通の女の子なんだなって」

 

「ひなたは私を何だと思っていたの?」

 

「クールで完璧な美少女?」

 

「それは褒めているの?」

 

「褒めてるよ!」

 

「なら、ありがとう」

 

 玲奈は淡々と答えた。

 

 けれど、今度ははっきりと嬉しそうに笑った。

 

 二人で笑う。

 

 それだけなのに、胸の奥が温かくなった。

 

 カフェを出ると、私は近くの本屋に目を向けた。

 

「あ……」

 

「入りたい?」

 

「うん」

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 本に囲まれた店内は、やっぱり落ち着く。

 

 玲奈も慣れた様子で本棚を眺めていた。

 

「玲奈、本当に本が好きなんだね」

 

「ええ。家に帰っても一人のことが多いから」

 

「……そっか」

 

 私は少しだけ玲奈を見る。

 

「だから、本屋で働いてるの?」

 

「それも理由の一つね」

 

「じゃあ……私が来たときも?」

 

「ええ」

 

 あの日。

 

 私が百合漫画を読んでいて、玲奈に見つかって。

 

 写真を撮られて。

 

 そして、付き合うことになった。

 

「……なんか、変な出会い方だったね」

 

「そうね」

 

 玲奈が本棚に視線を向けたまま答える。

 

「でも私は、あの日があってよかったと思ってる」

 

「……え?」

 

「ひなたとこうして一緒にいられるから」

 

「……玲奈」

 

 胸が大きく跳ねた。

 

 玲奈はいつも通りの顔をしていた。

 

 でも、私の反応を見た瞬間、ほんの少しだけ目元が柔らかくなった。

 

「……そういうの、ずるいよ」

 

「何が?」

 

「そういうことを普通に言うところ」

 

「本当のことだから」

 

「……もう」

 

 誤魔化すように本を手に取る。

 

 玲奈はそんな私を見て、満足そうに目を細めた。

 

 それからしばらく店内を見て回り、外へ出ると、空は夕暮れ色に染まっていた。

 

「もうこんな時間なんだ」

 

「楽しかった?」

 

「うん」

 

 私は素直に答えた。

 

「玲奈は?」

 

「私も、楽しかった」

 

 玲奈はそう言ってから、少しだけ間を置いた。

 

「……思っていたより」

 

「え?」

 

「ひなたと一緒なら、悪くないとわかっていたけれど」

 

「けれど?」

 

「思っていたより、楽しかったわ」

 

 玲奈は視線を逸らした。

 

 その耳が、ほんの少し赤くなっている。

 

「……玲奈も照れるんだ」

 

「照れてないわ」

 

「でも耳、赤いよ」

 

「夕日のせいでしょう」

 

「絶対違う!」

 

 玲奈は答えず、繋いだ手を少しだけ強く握った。

 

 駅へ向かう道を、二人で歩く。

 

「……ねえ、玲奈」

 

「何?」

 

「また……こういうのしたい」

 

 言ってから、急に恥ずかしくなった。

 

「……今の、聞かなかったことにして」

 

「嫌よ」

 

「なんで!?」

 

「私もまた、ひなたとデートしたいから」

 

「……そっか」

 

 私は笑った。

 

 玲奈は前を向いたまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

 最初は、脅されて始まった関係だった。

 

 玲奈のことを、少し怖いと思っていた。

 

 それなのに今は――。

 

「……今日、楽しかったな」

 

 自然に言葉がこぼれる。

 

 玲奈が、繋いだ手に少し力を込めた。

 

「私も」

 

 短い返事だった。

 

 でも、その声には隠しきれない嬉しさが滲んでいた。

 

 その温かさを感じながら、私は玲奈の隣を歩く。

 

 まだ、これが恋なのかは分からない。

 

 だけど、玲奈と一緒にいる時間が、少しずつ好きになっている。

 

 そんな気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。