クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。   作:めろんちゃん

6 / 9
第6話昨日のこと、妹には秘密です!

 

 その日の夜。

 

「ただいまー!」

 

 玄関の扉を開ける。

 

「おかえり、お姉ちゃん!」

 

 すぐに妹のユナが顔を出した。

 

 私は靴を脱ぎながら、いつも通りに返事をする。

 

 ……いつも通り。

 

 そう。

 

 今日は普通の日だった。

 

 普通の日……のはずだった。

 

 でも。

 

 頭の中には、今日の出来事が次々と浮かんでくる。

 

 玲奈と電車に乗ったこと。

 

 二人でショッピングモールを歩いたこと。

 

 クレーンゲームでぬいぐるみを取ってもらったこと。

 

 写真を撮られたこと。

 

 一緒にカフェで話したこと。

 

 本屋にも行った。

 

 そして――帰り道には手を繋いで歩いた。

 

「……」

 

 思い出した瞬間、顔が熱くなった。

 

「……お姉ちゃん?」

 

「えっ!?」

 

 ユナが不思議そうに私を見る。

 

「どうしたの? ぼーっとしてたよ?」

 

「な、なんでもないよ!」

 

「ほんとにー?」

 

 ユナは疑うように、私の顔を覗き込んだ。

 

 危ない。

 

 顔に出ていた。

 

 私は慌ててリビングへ向かう。

 

「お姉ちゃん、今日帰ってくるの遅かったね」

 

「え?」

 

「いつもより遅かったでしょ?」

 

「あー……」

 

 ユナがじっと私を見る。

 

「どこか寄ってたの?」

 

「……!」

 

 心臓が跳ねた。

 

「そ、それは……」

 

「どこに行ってたの?」

 

「えっと……」

 

 玲奈とデートしてました。

 

 なんて言えるわけがない。

 

 そもそも、玲奈と付き合っていることだって家族には秘密だ。

 

「……友達とちょっと遊んでたの」

 

「友達?」

 

「う、うん!」

 

「誰と遊んでたの?」

 

「そ、それは……」

 

 美咲。

 

 そう答えればいい。

 

 でも今日は美咲とは遊んでいない。

 

「……お姉ちゃん?」

 

「な、何?」

 

「顔、赤いよ?」

 

「暑いだけ!」

 

「えー? 今日はそんなに暑くないよ?」

 

「……!」

 

 鋭い。

 

 妹なのに鋭すぎる。

 

「それに……」

 

 ユナが私の鞄を見る。

 

「お姉ちゃん、その鞄に何か入ってる?」

 

「え?」

 

 鞄から少しだけ、今日玲奈に取ってもらったぬいぐるみが見えていた。

 

「あっ!」

 

 私は慌てて鞄を抱きしめる。

 

「こ、これは!」

 

「なになに? 見せてー!」

 

「だ、だめ!」

 

「えー、なんでー?」

 

「これは、その……」

 

「買ったの?」

 

「う、うん!」

 

「誰と買ったの?」

 

「……」

 

 答えられない。

 

「……一人で」

 

「えー? 一人でゲームセンター行ったの?」

 

「そ、そう!」

 

「ほんとー?」

 

「ほ、本当!」

 

 ユナはしばらく私を見つめていた。

 

「……怪しい」

 

「怪しくないよ!」

 

「絶対怪しいよー」

 

「怪しくないってば!」

 

「お姉ちゃん、今日ずっとにこにこしてるし」

 

「えっ!?」

 

「なんかいいことあったんでしょ?」

 

「な、何もないよ!」

 

「ふーん……」

 

 ユナは納得していない様子で、私の顔をじっと見ている。

 

「じゃあ、誰と遊んでたの?」

 

「だ、だから友達だってば!」

 

「その友達って、女の子?」

 

「……!」

 

「男の子?」

 

「ち、違う!」

 

「じゃあ女の子なんだー?」

 

「そ、そうだけど!」

 

「名前は?」

 

「そ、それは……」

 

 私は言葉に詰まる。

 

 玲奈の名前を出したら、余計に怪しまれそうだった。

 

「……ひみつ」

 

「えー! お姉ちゃんのくせに、妹にひみつにするのー?」

 

「妹だからって、何でも話すわけじゃないの!」

 

「むー……」

 

 ユナは頬を膨らませた。

 

「お姉ちゃん、ずるい」

 

「ずるくないよ!」

 

「じゃあ、ぬいぐるみだけ見せて」

 

「それは……」

 

「お願い、お姉ちゃん!」

 

 上目遣いで見つめられる。

 

「……ちょっとだけだよ」

 

 私は鞄からぬいぐるみを取り出した。

 

「わあ、かわいい!」

 

 ユナの目が輝く。

 

「これ、お姉ちゃんが取ったの?」

 

「えっと……」

 

「お姉ちゃん?」

 

「……そう!」

 

「ほんとー?」

 

「ほ、本当だよ!」

 

「ふーん」

 

 ユナはぬいぐるみを見つめたあと、にやっと笑った。

 

「でも、お姉ちゃんが自分で取ったなら、そんなに顔赤くならないよね?」

 

「……!」

 

「やっぱり誰かに取ってもらったんだー!」

 

「ち、違うってば!」

 

「誰? 誰に取ってもらったの?」

 

「もう、ユナ!」

 

 私はぬいぐるみを取り返し、逃げるように自分の部屋へ向かった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「な、何?」

 

「……楽しそうだね」

 

「……え?」

 

 振り返る。

 

 ユナは少しだけ笑っていた。

 

「今日、ずっと嬉しそうだから」

 

「……!」

 

 私は思わず頬を押さえる。

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「ふーん」

 

「じゃあ、おやすみ!」

 

「えー、まだ寝る時間じゃないよー」

 

「おやすみ!」

 

「逃げたー!」

 

 私はそのまま部屋へ逃げ込んだ。

 

 ドアを閉める。

 

「……はぁ」

 

 ベッドに座り、今日もらったぬいぐるみを見る。

 

「……可愛い」

 

 そして。

 

 思い出してしまう。

 

『また……こういうのしたい』

 

 自分から言った。

 

 また玲奈とデートしたいって。

 

「……私、どうしちゃったんだろ」

 

 最初は、脅されて仕方なく付き合っていたはずなのに。

 

 今は――。

 

「……次のデート、楽しみかも」

 

 そう思ってしまった自分に気づいて、また顔が熱くなった。

 

 私はぬいぐるみを抱きしめる。

 

「……まだ、恋じゃないから」

 

 誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

 でも。

 

 その言葉を、自分自身が信じられなくなり始めていた。

 

     * * *

 

 翌朝。

 

「おはよう、ひなた」

 

「おはよう!」

 

 教室に入ると、美咲がいつものように声をかけてきた。

 

「昨日、どうだった?」

 

「……え?」

 

「月城さんとのデート」

 

「っ!?」

 

 私は思わず固まった。

 

「な、なんで知ってるの!?」

 

「昨日、自分で話してたじゃん」

 

「あ……」

 

 そうだった。

 

 美咲には玲奈と付き合っていることを話している。

 

「で、どうだった?」

 

「……楽しかった」

 

 気づけば、素直に答えていた。

 

「へえ」

 

「な、何?」

 

「いや。ひなたがそんな顔するんだなって」

 

「どんな顔!?」

 

「嬉しそうな顔」

 

「……!」

 

 私は慌てて顔を隠した。

 

「普通だよ!」

 

「はいはい」

 

 美咲が笑う。

 

 そのとき。

 

「おはよう、ひなた」

 

「……っ」

 

 玲奈が教室に入ってきた。

 

「お、おはよう!」

 

 昨日のことを思い出して、なんだか玲奈の顔をまともに見られない。

 

「……どうしたの?」

 

「な、なんでもない!」

 

「そう」

 

 玲奈は不思議そうに首を傾げた。

 

 でも、すれ違う瞬間。

 

「昨日、楽しかった?」

 

 小さな声でそう聞かれた。

 

「……うん」

 

 私も小さな声で答える。

 

「私も」

 

 それだけ言って、玲奈は自分の席へ戻っていった。

 

 ……なんだろう。

 

 昨日よりも、玲奈が近くに感じる。

 

 そんなことを考えているうちに、授業が始まった。

 

     * * *

 

 そして、四時間目。

 

「今日は体育です!」

 

 先生の声とともに、みんなで体育館へ向かう。

 

 今日の授業はバスケットボールだった。

 

「よし!」

 

 私は張り切ってボールを受け取る。

 

「ひなた、無理しないでね」

 

「大丈夫!」

 

 美咲が心配そうに言う。

 

「私、こう見えて運動得意だから!」

 

「それ、昨日も言ってたような……」

 

「昨日は言ってないよ!」

 

 そんなことを話しながら、授業が始まった。

 

 走って。

 

 ボールを追いかけて。

 

 夢中になっているうちに――。

 

「ひなた!」

 

「え?」

 

 ボールを取ろうとした瞬間。

 

 足が床に引っかかった。

 

「わっ!」

 

 そのままバランスを崩して、膝を床にぶつける。

 

「いたっ……」

 

「ひなた、大丈夫!?」

 

「う、うん……」

 

 立ち上がろうとする。

 

 でも、膝に少し痛みがあった。

 

「ちょっと擦りむいてるよ」

 

「ほんと?」

 

 見ると、膝に小さな擦り傷ができていた。

 

「保健室行ってきたほうがいいんじゃない?」

 

「これくらいなら平気――」

 

「ダメ」

 

 聞き慣れた声がした。

 

 振り返る。

 

 玲奈だった。

 

「玲奈?」

 

「血が出ているでしょう」

 

「でも、ほんのちょっとだよ?」

 

「それでも治療したほうがいいわ」

 

「……うん」

 

 玲奈は先生に事情を説明すると、私の腕を軽く支えた。

 

「歩ける?」

 

「歩けるよ」

 

「なら、保健室まで行きましょう」

 

「……ありがとう」

 

 二人で体育館を出る。

 

 廊下を歩いている間、玲奈は何度も私の膝を気にしていた。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 

「心配するわよ」

 

「……そっか」

 

 少し嬉しかった。

 

     * * *

 

 保健室に着く。

 

「失礼します」

 

 玲奈が扉を開けた。

 

 でも――。

 

「……誰もいない?」

 

 保健室の先生の姿がなかった。

 

「先生、いないみたい」

 

「どうしよう?」

 

「少し待ちましょうか」

 

「うん」

 

 椅子に座って待つ。

 

 けれど、しばらくしても先生は戻ってこない。

 

「……まだ来ないね」

 

「そうね」

 

 玲奈は少し考えたあと、棚を開けた。

 

「玲奈?」

 

「消毒液と絆創膏があるわ」

 

「え?」

 

「私が手当てする」

 

「玲奈が?」

 

「嫌?」

 

「嫌じゃないけど……」

 

「なら、任せて」

 

 玲奈は消毒液とガーゼを持ってきた。

 

「少し染みるかもしれない」

 

「うん」

 

 玲奈が膝の傷を丁寧に消毒する。

 

「……痛っ」

 

「ごめん。もう少しだけ我慢して」

 

「うん」

 

 玲奈の手は驚くほど優しかった。

 

 普段はクールで、何を考えているのか分からないのに。

 

 今は私の膝を見ながら、真剣な顔をしている。

 

「……玲奈」

 

「何?」

 

「優しいね」

 

「普通よ」

 

「でも、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 玲奈は傷に絆創膏を貼る。

 

「これで大丈夫」

 

「ありがとう」

 

「無理して走らないこと」

 

「分かってるよ」

 

「本当に?」

 

「本当!」

 

「ならいいわ」

 

 玲奈が立ち上がる。

 

 そのとき、私はふと気づいた。

 

「……玲奈」

 

「何?」

 

「昨日のデートでも思ったけど」

 

「ええ」

 

「玲奈って、私が思ってたよりずっと優しいよね」

 

 玲奈は少しだけ目を見開いた。

 

「……そう?」

 

「うん」

 

「ひなたにだけかもしれないわね」

 

「……え?」

 

 玲奈はそれ以上何も言わず、保健室の窓へ視線を向けた。

 

 私はその横顔を見つめる。

 

 胸の奥が、また少しだけ温かくなる。

 

「……なんか、嬉しい」

 

「何が?」

 

「ううん。なんでもない」

 

 玲奈がこちらを見る。

 

 そして、ほんの少しだけ笑った。

 

「なら、戻りましょう」

 

「うん!」

 

 保健室を出る。

 

 昨日のデート。

 

 今日の学校。

 

 そして、玲奈の優しさ。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつだけど。

 

 私は玲奈のことを知っていっている気がした。

 

 そして――。

 

 玲奈と一緒にいることが、どんどん嫌じゃなくなっている。

 

 むしろ。

 

「……もっと一緒にいたいかも」

 

 小さく呟いた言葉は、隣を歩く玲奈には届かなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。