クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。 作:めろんちゃん
翌朝。
「おはよう、ひなた」
「……あ、おはよう。玲奈」
教室に入ると、玲奈が声をかけてきた。
私は笑顔で返事をする。
……あれ?
少し前までなら、玲奈に話しかけられるだけで緊張していたのに。
今は、こうして普通に話せる。
「今日は早いのね」
「玲奈もね」
「私はいつもこのくらいよ」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「じゃあ、私が覚えてなかっただけか」
「そういうことね」
そんな他愛のない会話をしていると――。
「……朝から仲良しだねぇ」
「え?」
後ろから声がした。
振り返ると、美咲がニヤニヤしながら立っていた。
「お、おはよう、美咲」
「おはよう、ひなた。月城さんも」
「おはよう」
美咲は私と玲奈を交互に見る。
「なんか最近、二人とも自然な感じになったよね」
「そう?」
「うん。付き合い始めたばかりの頃は、ひなたなんて月城さんと目が合うだけで挙動不審だったじゃん」
「そ、そんなことないよ!」
「あったよ」
「……」
玲奈が淡々と頷く。
「玲奈まで!」
「事実でしょう?」
「玲奈は私の味方じゃないの!?」
「恋人だから、正直に答えただけよ」
「……っ!」
顔が熱くなる。
「おーおー」
美咲が楽しそうに笑った。
「朝からごちそうさまです」
「美咲!」
「はいはい。邪魔しませんよー」
「そういう言い方やめて!」
美咲は笑いながら自分の席へ戻っていった。
……もう。
美咲は最近、私と玲奈をいじるのが楽しくて仕方ないみたいだ。
でも――。
こうしてからかわれるのも、前ほど嫌じゃなくなっていた。
* * *
午前の授業が終わり、昼休み。
「やっとお昼だー!」
私はお弁当を取り出した。
すると、すぐに玲奈が私のところへやってくる。
「ひなた。今日も一緒に食べましょう」
「……!」
私は反射的に教室を見回した。
周りにはクラスメイトがいる。
「えっと……」
「どうしたの?」
「その……」
私は少しだけ迷う。
「今日くらい、別々に食べてもいいんじゃないかな……?」
そう言った瞬間、玲奈の表情がわずかに曇った。
「……そう」
さっきまでの穏やかな顔から、笑みが消える。
玲奈は視線を落とし、手にしていたお弁当を静かに握り直した。
「分かったわ。ひなたがそうしたいなら」
「……」
その声は、いつもより小さかった。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
玲奈は、別々に食べたいわけじゃない。
ただ、私と一緒にいたいと思ってくれている。
「……あの」
「何?」
玲奈が顔を上げる。
その目が少し寂しそうに見えて、私は慌てて首を振った。
「やっぱり、一緒に食べよう」
「……いいの?」
「うん」
「でも、みんなに知られたくないのでしょう?」
「それは……そうだけど」
私は玲奈の袖をそっと掴む。
「玲奈がそんな顔するなら、別々なんて無理だよ」
「そんな顔?」
「……寂しそうな顔」
玲奈は一瞬、目を丸くした。
それから、ほんの少しだけ頬を緩める。
「ひなたは、よく見ているのね」
「だって、玲奈のことだから」
「……そう」
玲奈は嬉しそうに微笑んだ。
そのとき、横から美咲が口を挟んだ。
「はいはい。結局、今日も二人でお昼ね」
「美咲!」
「だって、ひなたが月城さんの顔見て、すぐ折れたじゃん」
「折れたって言わないで!」
「じゃあ、愛の力?」
「もっと言わないで!」
美咲は楽しそうに笑いながら、玲奈を見る。
「月城さん、ひなたの扱い上手くなったね」
「そうかしら?」
「うん。ちょっと寂しそうな顔するだけで、すぐ甘やかしちゃうし」
「美咲!」
玲奈は少し考えるように首を傾げた。
「私はそんな顔していないわ」
「でも、ひなたと一緒に食べられるなら嬉しいわ」
「……っ!」
また顔が熱くなる。
美咲が机に頬杖をつきながら、にやりと笑った。
「はい、今日もごちそうさまです」
「もう! 行くよ、玲奈!」
「ええ」
私は玲奈の袖を引っ張った。
「じゃ、いってらっしゃーい。恋人さんたち」
「だから声大きいって!」
美咲の笑い声を背中に聞きながら、私たちは教室を出た。
* * *
いつもの空き教室。
誰もいないことを確認して、二人で机を並べる。
「……はぁ」
私は椅子に座って息を吐いた。
「疲れた?」
「美咲のせいだよ……」
「そう?」
「絶対楽しんでるもん」
「ええ。楽しんでいると思うわ」
「玲奈まで……」
私はお弁当を開く。
「いただきます!」
「いただきます」
二人で昼食を食べ始める。
窓から入ってくる風が気持ちいい。
教室には私たち二人しかいない。
静かで、落ち着く。
「……ここで食べるのも、すっかり慣れたね」
「そうね」
「最初はすごく緊張したのに」
「私はそうでもなかったわ」
「玲奈は最初から余裕だったよね」
「そうかしら?」
「そうだよ」
私は笑う。
すると、玲奈が私のお弁当を見た。
「それ、美味しそう」
「これ?」
「ええ」
「食べる?」
「いいの?」
「うん」
私は箸で卵焼きを取る。
そして玲奈のお弁当のほうへ差し出した。
「はい」
「……」
玲奈が少し目を見開く。
「どうしたの?」
「いえ」
玲奈はそのまま卵焼きを食べた。
「……美味しい」
「でしょ?」
「ひなたが食べさせてくれたから、余計に美味しいわ」
「そ、それは関係ないと思うけど……」
「そう?」
「そうだよ」
玲奈は小さく笑った。
「でも、嬉しいわ」
「……そっか」
私もなんだか嬉しくなる。
こんな何気ない時間が、最近は楽しい。
玲奈と二人でお昼を食べることも。
くだらない話をすることも。
少しずつ、当たり前になってきている。
「……ねえ、玲奈」
「何?」
「私たち、最近こういう時間増えたよね」
「ええ」
「なんか……いいね」
「私もそう思うわ」
玲奈はそう言って、優しく笑った。
私はその笑顔を見ながら、お弁当を食べる。
……やっぱり。
玲奈と一緒にいるのは、好きかもしれない。
「……」
そこまで考えて、私は慌てて首を振った。
まだ。
まだ恋とは限らない。
脅されて付き合わされただけだから。
ただ、一緒にいるのが楽しいだけ。
……たぶん。
* * *
午後の授業も終わり、放課後。
私は鞄を持って立ち上がる。
「今日も疲れたー!」
「お疲れ様」
玲奈が隣に来る。
「ひなた」
「ん?」
「今日の放課後、予定はある?」
「ないよ」
「そう」
玲奈が少しだけ間を置く。
「……私の家に来ない?」
「……え?」
思わず固まった。
「玲奈の家?」
「ええ」
「今日?」
「今日」
「……いいの?」
「もちろん」
玲奈は少しだけ視線を逸らした。
「家に帰っても、一人だと思うから。」
「……」
「ひなたが来てくれたら、嬉しいわ」
胸が少しだけ温かくなる。
「……うん」
私は頷いた。
「行きたい!」
「本当に?」
「うん!」
玲奈の表情が少し柔らかくなる。
「じゃあ、一緒に帰りましょう」
「うん!」
そのとき。
「おや?」
美咲がこちらを見ていた。
「二人で何の相談?」
「えっ!?」
私は慌てて振り返る。
「な、何でもないよ!」
「ふーん?」
美咲がニヤニヤする。
「今日も二人で帰るの?」
「う、うん……」
「へえ」
美咲は玲奈を見る。
「月城さん、ひなたのことよろしくね」
「ええ。任せて」
「ちょっと! 何の話!?」
「別に?」
美咲は笑っている。
「じゃあ、また明日ね。ひなた」
「う、うん。また明日!」
「月城さんも」
「ええ。また明日」
美咲と別れ、私たちは校門へ向かう。
「……美咲、絶対何か勘違いしてる」
「そうかしら?」
「絶対そうだよ」
「なら、今度聞いてみれば?」
「やだよ!」
玲奈が小さく笑う。
「ふふ」
「もう……」
私は頬を膨らませる。
でも。
これから玲奈の家へ行く。
そう思うと、自然と足取りが軽くなった。
* * *
学校を出て、二人で並んで歩く。
「玲奈の家って、学校から近いの?」
「電車に乗るほどではないわ。少し歩けば着くわよ」
「へえ」
「ひなたは、私の家に来るの初めてね」
「うん」
「緊張してる?」
「ちょっとだけ」
「どうして?」
「だって……玲奈の家だよ?」
「私の家だから?」
「そう!」
玲奈が不思議そうに私を見る。
「変なの」
「変じゃないよ!」
「そう?」
「そうだよ!」
私は少しだけ笑う。
「でも、楽しみ」
「……私も」
「玲奈も?」
「ええ」
玲奈は少しだけ微笑んだ。
「恋人を家に呼ぶの、初めてだから」
「……!」
また胸がどきっとする。
「そ、そういうこと言うと緊張するって!」
「ふふ」
「笑わないでよ!」
「ごめんなさい」
そんなやり取りをしながら、私たちは歩いていく。
今日のお昼も楽しかった。
放課後に玲奈の家へ行けるのも嬉しい。
少し前の私は、こんなふうになるなんて想像もしていなかった。
脅されて始まったはずの関係なのに。
今では――。
「……なんか、楽しみだな」
「私もよ」
玲奈と並んで歩く。
そして私たちは、そのまま玲奈の家へ向かった。