クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。   作:めろんちゃん

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第8話玲奈の部屋で二人きり……!?

 

 放課後。

 

 私と玲奈は、並んで学校を出た。

 

 今日はいつもの帰り道とは少し違う。

 

 向かっているのは――玲奈の家だった。

 

「……なんか、緊張する」

 

 思わず口にすると、隣を歩いていた玲奈がこちらを見る。

 

「どうして?」

 

「だって……玲奈の家に行くの、初めてだし」

 

「そうね」

 

 玲奈は小さく頷いた。

 

「私も、家に人を呼ぶのは初めてよ」

 

「……そう言われると、余計に緊張するんだけど」

 

「ふふ」

 

「笑わないでよ!」

 

 玲奈は楽しそうに笑った。

 

 学校ではいつもクールで、あまり表情を変えない玲奈。

 

 でも最近は、私と二人でいるときだけ、こうやって笑ってくれることが増えた気がする。

 

 それが少し嬉しかった。

 

     * * *

 

 しばらく歩いていると、目の前に大きなマンションが見えてきた。

 

「……え?」

 

 私は思わず足を止めた。

 

 高い。

 

 ものすごく高い。

 

 しかも、入口からして明らかに普通のマンションとは違う。

 

 広いエントランス。

 

 綺麗に整えられた植木。

 

 大きなガラス張りの扉。

 

 そして中には、ホテルみたいなロビーまである。

 

「ここ……?」

 

「ええ。ここが私の家」

 

「…………」

 

 私はマンションを見上げた。

 

「玲奈って……もしかして、お金持ち?」

 

「そういうわけじゃないわ」

 

「いやいやいや!」

 

 どう見ても普通じゃない。

 

「こんなところ、初めて入るんだけど……」

 

「大丈夫よ。私がいるから」

 

 玲奈はそう言って、私の手を軽く握った。

 

「……うん」

 

 その一言だけで、不思議と緊張が少しだけ和らいだ。

 

 エントランスを抜け、エレベーターに乗る。

 

 玲奈が押したのは、一番上の階だった。

 

「最上階……?」

 

「そうよ」

 

「……すご」

 

 エレベーターが静かに上がっていく。

 

 やがて到着すると、扉が開いた。

 

 そこに広がっていたのは、学校とはまったく違う静かな空間だった。

 

 廊下も広く、窓からは街並みが一望できる。

 

「うわぁ……」

 

 思わず声が漏れる。

 

「景色、すごいね」

 

「慣れると普通よ」

 

「私は絶対慣れないと思う……」

 

 玲奈は少しだけ笑った。

 

 そして一つの部屋の前で立ち止まり、鍵を開ける。

 

「ただいま」

 

 玲奈が小さく声をかける。

 

 当然、返事はない。

 

「……お父さん、今日も仕事?」

 

「ええ。今日も遅くなると思うわ」

 

「そっか……」

 

 私は少しだけ寂しくなった。

 

 前に玲奈から、家では一人で過ごすことが多いと聞いたことがある。

 

 こんなに大きな家なのに、玲奈はいつも一人で過ごしているんだ。

 

 そう考えると、さっきまでの「すごい家」という感想が、少し違って見えた。

 

「入って」

 

「お、お邪魔します……」

 

 靴を脱いで中へ入る。

 

 広い。

 

 とにかく広い。

 

 リビングだけでも、私の家よりずっと広そうだった。

 

「玲奈、ここでお父さんと二人で住んでるんだよね?」

 

「ええ。父と二人よ」

 

 玲奈は少し間を置いてから続ける。

 

「……今日は私一人だけど」

 

「……そっか」

 

 玲奈は少しだけ視線を落とした。

 

 私はなんとなく、その表情が気になった。

 

「……玲奈」

 

「何?」

 

「今日は私がいるから」

 

「……え?」

 

「だから、その……一人じゃないよ」

 

 自分で言っておきながら恥ずかしくなった。

 

 でも玲奈は、少し驚いたような顔をしたあと――。

 

「……そうね」

 

 優しく笑った。

 

「今日は、ひなたがいるものね」

 

「うん」

 

 なんだか胸の奥が温かくなった。

 

「じゃあ、私の部屋に行きましょう」

 

「玲奈の部屋……!」

 

「そんなに驚くこと?」

 

「だって、初めて見るんだよ!?」

 

「ふふ。そうね」

 

 玲奈に案内されて、廊下を歩く。

 

 そして、一番奥にある部屋の前で玲奈が立ち止まった。

 

「ここよ」

 

 扉が開く。

 

「……わぁ」

 

 玲奈の部屋は、想像していた通り、落ち着いた雰囲気だった。

 

 大きな窓。

 

 綺麗に整理された机。

 

 本棚にはたくさんの本が並んでいる。

 

 ベッドもきちんと整えられていて、余計なものはほとんど置かれていない。

 

 ただ、ベッドの隣には小さな棚があり、その上にはいくつかのぬいぐるみが並べられていた。

 

「……あれ?」

 

 私は思わずそちらを見る。

 

「ぬいぐるみ、置いてあるんだ」

 

「……昔から持っているものよ」

 

 玲奈は少しだけ視線を逸らした。

 

「意外?」

 

「ううん。なんか、かわいいなって思って」

 

「そう」

 

 玲奈は平静を装っているけれど、耳が少し赤くなっている気がした。

 

「なんか……玲奈らしい」

 

「そう?」

 

「うん。綺麗で、静かで……でも、ぬいぐるみが少し置いてあって」

 

「褒めているのかしら?」

 

「もちろん褒めてるよ!」

 

 私は笑いながら、部屋の中を見渡した。

 

「本、いっぱいあるね」

 

「本が好きだから」

 

「私も本は嫌いじゃないけど……こんなにたくさん読んでるの?」

 

「一人の時間が多いから」

 

「……」

 

 その言葉に、私は少しだけ黙った。

 

 玲奈はいつも一人で、家でも一人。

 

 だから本を読む時間が多かったのかもしれない。

 

「……そっか」

 

 私はそれ以上、何も言えなかった。

 

 すると玲奈が、ベッドの近くを指差した。

 

「そこ、座って」

 

「うん」

 

 私はベッドの下に置いてあるクッションに腰を下ろした。

 

 ふわり、と柔らかな感触が伝わってくる。

 

 部屋の中には、ほのかにいい匂いがした。

 

「……いい匂い」

 

 思わず呟く。

 

「何か言った?」

 

「えっ!? う、ううん、何でもない!」

 

 玲奈は不思議そうに私を見る。

 

 私は慌てて視線を逸らした。

 

 ……なんだろう。

 

 玲奈の部屋にいるだけなのに、妙にドキドキする。

 

 ここは玲奈が普段過ごしている場所。

 

 玲奈が本を読んだり、眠ったりしている場所。

 

 そう考えると、なんだか少しだけ特別な場所に思えてきた。

 

「……私、変なのかな」

 

 小さく呟く。

 

 玲奈には聞こえていないようだった。

 

 玲奈はそのまま部屋を見渡してから、私を見る。

 

「何か飲む?」

 

「あ、うん。お願いしていい?」

 

「もちろん」

 

 玲奈は部屋の扉へ向かう。

 

 そして出ていく直前、こちらを振り返った。

 

「すぐ戻るから、待っていて」

 

「うん」

 

「勝手に何か触ったりしないでね」

 

「触らないよ!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

 玲奈が少しだけ目を細めた。

 

「……何か触りたいものでもあるの?」

 

「な、ないよ!」

 

「ふふ。冗談よ」

 

 玲奈は小さく笑って、部屋を出ていった。

 

 扉が静かに閉まる。

 

「…………」

 

 私は一人になった。

 

「……静かだ」

 

 さっきまで玲奈がいたからか、急に部屋が広く感じる。

 

 私は改めて周囲を見渡した。

 

 ここが玲奈の部屋。

 

 玲奈が普段、一人で過ごしている場所。

 

 机の上には読みかけの本。

 

 本棚にはたくさんの本。

 

 そして、ベッドの隣には昔から大切にしているぬいぐるみ。

 

 学校では、いつもクールで落ち着いていて、誰にも隙を見せない。

 

 でも、この部屋では一人で本を読んでいる。

 

 そんな玲奈を想像すると――。

 

「……寂しかったりするのかな」

 

 ふと、そんなことを思った。

 

 そのとき。

 

 廊下から足音が聞こえてきた。

 

 私は慌ててクッションに座り直す。

 

 そして扉が開いた。

 

「お待たせ、ひなた」

 

「おかえり」

 

 玲奈は両手に飲み物を持っていた。

 

「はい。ひなたの分」

 

「ありがとう」

 

 受け取った飲み物を見ながら、私は笑う。

 

「……こうして玲奈の部屋で二人きりでいると、なんだか変な感じ」

 

「そうね。私も少し不思議な感じがするわ」

 

「玲奈でもそう思うんだ?」

 

「ええ。ひなたがここにいるのが、まだ少し新鮮な感じがするわ」

 

「……そっか」

 

 玲奈が隣に座る。

 

 肩が少しだけ触れた。

 

 私はそれだけで、また胸がどきっとした。

 

 学校とは違う場所。

 

 誰もいない玲奈の家。

 

 そして、今は二人きり。

 

 私はまだ、この状況に慣れていない。

 

 でも――。

 

 不思議と嫌ではなかった。

 

 むしろ。

 

「……今日は、もう少しここにいたいかも」

 

 小さく呟いた言葉は、玲奈には聞こえなかった。

 

 玲奈はただ、嬉しそうに微笑んでいた。

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