クールな美少女に脅されて秘密の恋人になりました。 作:めろんちゃん
「ひなた」
「ん?」
「せっかく来てくれたんだし何かして遊びましょ」
私は部屋を見回した。
「何があるの?」
「ゲームとか、トランプとか。本もあるわ」
「玲奈の家ってゲームあるの?」
「ええ。いくつか持っているわ」
「意外……」
「そうかしら?」
「うん。玲奈って、ゲームより本を読んでいるイメージだったから」
「私だって、ゲームくらいするわ」
「なんか想像できない……」
「ひなたは私を何だと思っているの?」
「えっと……いつも静かに本を読んでる人?」
「それは否定できないわね」
玲奈は少しだけ笑いながら、ゲーム機を用意してくれる。
「何する?」
「これ!」
私が選んだゲームを、二人で遊び始めた。
「よしっ! 私の勝ち!」
「……もう一回」
「え?」
「もう一回やりましょう」
「玲奈、悔しいんでしょ?」
「違うわ」
「絶対悔しいじゃん!」
「……ひなた」
「なに?」
「次は勝つわ」
「ふふっ。いいよ!」
それから何回か勝負をした。
結果は、私が少し勝ち越し。
「やったー!」
「……今日はここまでにしましょう」
「もしかして諦めた?」
「違うわ」
玲奈は少しだけむっとした顔をする。
「続けたら、ひなたが疲れるでしょう?」
「……え?」
「せっかく来てくれたんだから、ゲームだけで時間を使うのはもったいないもの」
そう言って、玲奈はゲーム機を片付けた。
「じゃあ、次は何する?」
「そうね……」
玲奈は少し考えてから、私の隣に座った。
「こうやって二人で話すのも、私は好きよ」
「話すだけ?」
「ええ」
「なんか玲奈らしいね」
「そうかしら」
「うん」
私たちは並んで、学校のことを話した。
今日の授業のこと。
クラスであったちょっとした出来事。
美咲が言っていたくだらない冗談。
そんな何気ない話をしているだけなのに、時間が過ぎるのが早く感じた。
「……ひなた」
「ん?」
「もう少し近くに座ってもいい?」
「え?」
玲奈が少しだけ私の方へ寄る。
「うん……」
私が答えると、玲奈はさらに少しだけ距離を縮めた。
肩が触れる。
「……落ち着くわ」
「玲奈?」
「ひなたとこうしていると、安心するの」
「……そ、そう?」
「ええ」
玲奈はそのまま私の肩に、そっと頭を預けた。
「……え!?」
「少しだけ、このままでいてもいい?」
「う、うん……」
玲奈が甘えている。
学校では、いつも誰にも隙を見せない玲奈が。
今は私の肩に頭を乗せている。
「……なんか、玲奈ってこういうことするんだね」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……ちょっとびっくりした」
「なら、よかった」
玲奈は目を閉じたまま、小さく笑った。
「……ひなたの隣、私は好きよ」
「……」
また、胸がどきっとする。
私はどう返せばいいのか分からなくて、窓の外を見る。
でも、玲奈が安心したような顔をしているのを見ると、なんだか嬉しかった。
「……玲奈」
「何?」
「今日、すごく甘えんぼだね」
「そうかもしれないわ」
「否定しないんだ」
「ひなたになら、いいと思っているから」
「……もう」
私は恥ずかしくなって笑った。
* * *
それからしばらくして。
私は何気なくスマホを確認した。
「……え?」
「どうしたの?」
「もうこんな時間!?」
時計を見ると、夕方をかなり過ぎている。
「本当ね」
「遊んでると時間が経つの早すぎるよ……」
私は立ち上がった。
「そろそろ帰らないと」
「……もう?」
玲奈の声が、少しだけ寂しそうになる。
「うん。家の人も心配するだろうし」
「そうね……」
玲奈は頷く。
でも、その表情は明らかに残念そうだった。
「……玲奈?」
「何でもないわ」
「何でもない顔じゃないよ」
「……」
玲奈は少し黙ったあと、私を見る。
「ひなた」
「うん?」
「……夕食、食べていかない?」
「え?」
「もしよかったらだけど」
玲奈は少しだけ視線を逸らす。
「もう少し、ひなたと一緒にいたいから」
「……」
私は思わず玲奈の顔を見る。
さっきまでゲームをして。
一緒に話して。
肩に頭まで乗せてきて。
今日は本当に、玲奈が甘えてくる。
「……玲奈」
「何?」
「そんな顔されたら、断れないよ」
「……本当?」
「うん」
玲奈の表情がぱっと明るくなった。
「よかった」
「そんなに嬉しい?」
「ええ」
玲奈は素直に頷いた。
「ひなたと、もう少し一緒にいられるから」
「ふふっ」
私は笑った。
「じゃあ、夕食食べていこうかな」
「ありがとう」
「でも、家に連絡しないと」
「そうね」
私はスマホを取り出して、家に連絡する。
友達の家で夕食を食べてから帰ることを伝えると、すぐに返事が来た。
「大丈夫だって」
「……よかった」
玲奈は心から安心したように笑った。
「じゃあ、一緒に夕食を作りましょう」
「え?」
「私一人で作るより、二人で作った方が楽しいでしょう?」
「た、確かに楽しそうかも、?」
「何が食べたい?」
「うーん……」
私は少し考える。
「カレーがいいな」
「カレーね」
「うん。せっかくだから、玲奈と一緒に作ってみたい」
「ふふ。そうしましょう」
* * *
私たちはキッチンへ向かった。
「まず、材料を確認しましょう」
玲奈が冷蔵庫を開ける。
「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ……ちゃんとあるわね」
「お肉もあるね!」
「これなら大丈夫そうね」
「よーし!」
私は腕まくりをする。
「玲奈、私は何すればいい?」
「野菜を洗ってもらえる?」
「任せて!」
私は野菜を洗い始める。
玲奈はその隣で玉ねぎの皮を剥いていた。
「……なんか楽しいね」
「そうね」
「こうやって二人で料理するの、初めてだよね」
「ええ」
「なんか……普通の恋人っぽい」
「……」
玲奈の手が止まった。
「玲奈?」
「……そうね」
玲奈は少しだけ頬を赤くして、また玉ねぎに視線を戻した。
「私も、そう思ったわ」
「……」
今度は私まで恥ずかしくなる。
「じゃ、じゃあ次!」
私は慌てて話題を変えた。
「野菜切る!」
「分かったわ。でも、包丁には気をつけて」
「大丈夫だよ!」
私は包丁を持つ。
すると玲奈が私の手元を見る。
「……ひなた」
「なに?」
「少し危ないわ」
「え?」
「指をこうして」
玲奈が隣に立ち、手元を指差す。
「猫の手にするの」
「あ、こう?」
「そう。ゆっくりでいいわ」
「うん」
「焦らなくて大丈夫」
玲奈は優しく教えてくれる。
「……玲奈って、料理上手なんだね」
「一人で作ることも多いから、慣れてるだけよ」
「そっか」
私は切った野菜を見る。
「私も料理できるようになりたいな」
「どうして?」
「また玲奈の家に来たときに、一緒に作れるように」
「……また来てくれるの?」
「え?」
「……」
玲奈は少しだけ期待するような目で私を見る。
「もちろんだよ」
「……そう」
玲奈が嬉しそうに笑った。
「それなら、今度は別の料理を作りましょう」
「うん!」
「ひなたは何が作りたい?」
「オムライス!」
「じゃあ、次はオムライスね」
「約束!」
「ええ」
私たちは小指を絡めた。
「……約束」
なんだか、こういうのも楽しい。
* * *
「じゃあ、玉ねぎ炒めるね」
「お願い」
玲奈がフライパンに油を入れる。
玉ねぎを入れると、ジュッという音がキッチンに響いた。
「いい匂い!」
「まだこれからよ」
「お腹空いてきた……」
「さっきお菓子食べてなかった?」
「それは別腹!」
「ふふ」
玲奈が笑う。
しばらくすると、玉ねぎが少しずつ透明になっていく。
「玲奈、これくらい?」
「もう少しね」
「料理って難しい……」
「慣れれば大丈夫よ」
「玲奈が教えてくれる?」
「もちろん」
玲奈が私の隣に立つ。
「次はお肉を入れるわ」
「はい!」
「ひなた、混ぜてみる?」
「やる!」
私は木べらを受け取った。
「こう?」
「そう。焦げないように、ゆっくり混ぜて」
「分かった!」
私は一生懸命鍋を混ぜる。
「……なんか本格的!」
「そんなに難しいことはしていないわ」
「でも楽しい!」
「そう?」
「うん!」
玲奈はそんな私を見て、嬉しそうに笑った。
「……私も楽しいわ」
「本当?」
「ええ」
「一人で作るより?」
「もちろん」
「じゃあ、これからも一緒に作ろうね」
「……ええ」
玲奈は少し照れたように頷いた。
* * *
カレーが煮込まれている間、私たちはキッチンの椅子に並んで座っていた。
「いい匂いになってきたね」
「もう少し煮込めば完成よ」
私は鍋を眺める。
「……なんか、不思議」
「何が?」
「今日、玲奈の家に遊びに来ただけだったのに」
「ええ」
「まさか夕食まで一緒に作るとは思わなかった」
「私もよ」
玲奈は小さく笑う。
「でも……嬉しいわ」
「……うん」
「ひなたが来てくれて、本当によかった」
「玲奈……」
玲奈は少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした。
「今日は、一人で過ごすと思っていたから」
「……」
「だから、ひなたが来てくれて嬉しかった」
私は玲奈の横顔を見る。
学校ではいつもクールで、何でも一人でできそうに見える。
でも、本当は寂しいと思うこともあるのかもしれない。
「じゃあ……また来るよ」
「……本当?」
「うん」
私は笑った。
「玲奈が寂しくならないように」
「……それは、ずるいわ」
「え?」
「そんなこと言われたら……もっと甘えたくなるじゃない」
「えぇ!?」
玲奈が小さく笑う。
「冗談よ」
「絶対ちょっと本気だったでしょ!」
「どうかしら」
「もう!」
二人で笑う。
しばらくして、カレーが完成した。
「できた!」
「ええ。盛り付けましょう」
二人で皿にカレーを盛る。
「いただきます!」
「いただきます」
一口食べる。
「……おいしい!」
「本当?」
「うん!」
もう一口食べる。
「玲奈が作ったから?」
「二人で作ったからでしょう?」
「そっか」
私は笑う。
「じゃあ、二人で作ったからおいしいんだね」
「ええ」
玲奈も穏やかに笑った。
食事をしながら、今日のゲームの話をしたり、学校の話をしたりする。
ただそれだけなのに、すごく楽しかった。
今日一日、玲奈の家で過ごして。
一緒に遊んで。
たくさん話して。
玲奈に甘えられて。
そして、一緒に夕食まで作った。
最初は、写真で脅されて始まった関係だった。
なのに今は――。
「……玲奈と一緒にいるの、やっぱり楽しいな」
自然と、そんな言葉が口からこぼれた。
「……何か言った?」
「ううん。何でもない!」
私は慌ててカレーを食べる。
玲奈は不思議そうに私を見ていた。
でも、その顔はとても嬉しそうだった。
そして私も――。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに。
そんなことを思っていた。