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今回は、需要があるか分からないですが鵺視点での第一話、第二話になります。
「2030年、都立武蔵川高校、ボロアパート」
探している人物につながるキーワードを小声で呟く。かぐやから聞かされていた、酒寄彩葉の現れる時期と場所。
その情報をもとに、ジョンと別れ日本に帰国した鵺は戸籍を取得し直し、わざわざ受験までして彩葉の通う高校に入学した。
「あれ、いない?」
入学者一覧を見たとき、酒寄彩葉の名前が載っていないことに気づいた鵺は肝を冷やした。まさか自分が入学したことで酒寄彩葉が落ちたのでは、完璧超人と聞いていたが入学時の成績はいまいちだったのか、と心配が頭をよぎる。だが、結果としてそれは杞憂だった。
なんのことはない、彩葉が一学年上だったというだけだった。2030年時点で彩葉が2年生だという情報はなかったので仕方のない誤算ではあったが、必然的に、鵺が彩葉の情報を探るのは放課後が主になってしまった。
「酒寄彩葉……先輩のことについて教えてほしい」
「酒寄さん? あの子本当にすごいよ。成績優秀で運動もできる。それどころか、学費と生活費を自分で稼いでるんだから。まさに超人!」
情報はすぐに集まった。彼女について聞くと、誰もが我がことのように自慢げに彼女の功績を語ってくる。その内容は誰に聞いてもおおよそ同じ。文武両道、才色兼備、完璧超人。
しかし、そんな人間が本当にいるだろうか? 8000年の人生で、完璧に見える人間を鵺は何人か見てきたが、皆何かしらの闇を抱えており、最後には壊れていた。ましてやまだまだひよっこの高校生だ。
かぐやから聞いた人柄も含めて鑑みるに、命をすり減らして無理をしているタイプだろうかと推測する。
早急にコンタクトを取ろうと決意し、今度は本人の観察に移行する。2年生のフロアに上がり、こそこそと隠れつつ、それらしい人物を探す。
「黒髪の美人……苦労がにじみ出ている……ボロアパートに住んでいそうな顔」
失礼なひとり言を呟きながら、酒寄彩葉を探す鵺。
それらしい人物はすぐに見つかった。だが、彩葉は基本的に親友の綾紬芦花、諌山真実と一緒におり、その二人がいない時はバイトに直行していたため、声をかけるタイミングが見つからなかった。
そうこうしているうちに初夏に入った。
「とりあえず生物部に入ったはいいけど……」
彩葉に声をかける一番良いタイミングは、深夜のバイト終わりだ。だが、怪しまれる行動をとれば距離を取られかねない。
そこで、部活動で帰りが遅くなったという言い訳を作ってしまおうと考えた鵺は、最も得意な内容かつ、活動も比較的緩そうな生物部に入部した。
さらに、彩葉のボロアパートを特定した段階で、鵺は
「同じアパートに住めば、声をかけやすくなるのでは?」
不動産情報を調べたところ、1階の部屋に空きがあることを確認。早速引っ越し業者を手配し、わざわざ壁も薄くセキュリティもないに等しいボロアパートへ移住したのであった。
それから数週間。
「明日から3連休……か」
今日こそ彩葉に声をかけようと意気込んでいた彼女は、そのことに集中するあまり生物部の部室に鍵をカバンごと忘れ、自室の前で立ち往生していた。財布やスマホすらおいてきてしまったため、決済手段もない。
夜でも蒸し暑いこの真夏に、夕飯どころか水分すら補給できない危機的状況にあった。
さてどうしようかと悩んでいたところ、ふと、流れ星が流れた。直後、電線が発光し、近くでドンっという音が鳴る。朦朧とする意識の中、鵺の耳は女子高生の困惑の声を拾った。
「この状況じゃ私が攫ったみたいでは!?」
この声、酒寄彩葉だ。最悪のコンディションではあるが、鵺は気合を入れて彼女に声をかける。
「人攫い?」
「うひぃっ、ち、違っ、断じて私はそんなことは! これには海より深い事情がありまして――」
声をかけられた彼女は、反射的にこちらを呆然と見つめる。正面から見ると、黒髪を結わえており、整った顔立ちに左目の下の泣き黒子。今の時点でも相当周囲からモテそうな容姿だが、クマが隠せていない苦労人の顔。
間違いなく、探していた酒寄彩葉だった。想定とは違う出会いとなってしまったが、軽いアイスブレイクから入ろうと考える。
「あなた、酒寄彩葉」
残念ながらアイスブレイクの意味を理解していなかった鵺。目の前の少女の目に、こちらの不審さを疑う色が浮かぶ。
「え、なんで私の名前……」
「才色兼備、文武両道、完璧超人。学校の有名人」
とにかく、こちらが彼女の情報を知っていることを伝える。いざ自己紹介しようとしたところで、
「ふえええーーーん!」
「ご、ごめんなさい! 今どうしても忙しくて、失礼します!」
腕に抱えた赤ん坊が泣きだしてしまい、彩葉は2階の部屋にすっ飛んで行ってしまった。鵺は一人ポツンとその場に取り残される。
「……明日、また声をかけよう」
仕方なくそのまましゃがみ込み、一晩を過ごした。
目覚めたときにはすでに太陽が高く昇っていた。自分の部屋の前に立ち、改めてどうしようか考える。そこに、外出から戻ってきた彩葉が声をかける。
「昨日はバタバタしていてごめんなさい。えっと……」
これはチャンスだと、改めて自己紹介する。ようやく、かぐやの探していた人物とまともなコンタクトが取れた。
安心すると同時に、空腹を思い出した身体が悲鳴を上げ始める。ぐーぐー鳴る腹に、今は会話中だから黙っていてほしいと思う。
「嘘でしょ、それじゃ昨日からずっとそこに立ってたわけ!? というか、なんでそんな冷静なの!?」
「うん、学校も閉まってる時間だったし……冷静さは私の長所」
生まれた瞬間にかぐやから逃げてしまってから8000年。もう何があっても取り乱すことのないように、感情をなるべく表に出さないようにしてきた。その成果の賜物として、今の自分があることを自慢するためにピースしてみる。
だが、目の前の少女は慌てて鵺の手を引き、自室に連れ込んでしまった。見ず知らずの後輩を心配して連れ込むとは、聞いていた以上に大胆でお人好しな人物のようだ。
彩葉の部屋は殺風景な上に、エアコンのコンセントが抜かれていてとても暑かった。まさかこの真夏に電気代をケチっているのか。想像以上の限界生活に、内心愕然とする鵺。
だが、それ以上に目を引いたのは、神棚に祀られている仮想空間ツクヨミの管理人、月見ヤチヨのアクリルスタンドだった。
ヤチヨ……おそらく8000年来の友人であるかぐや。もう接触している可能性も考慮していたが、それなら彼女が彩葉の限界生活を放っておくはずもない。どうやら彩葉は彼女の大のオタクのようだと判断する。
大切な友人が、その思い人に推されている事実に、鵺の疲労と空腹で冷え切った胸が温かくなる気がした。
その後、彩葉の貴重な食糧を分けてもらったお礼に、彩葉が拾ってきた謎の赤ん坊を育てる手伝いをすることになった。かぐやも月からやって来た後に酒寄彩葉に拾われたと言っていたが、この赤ん坊もかぐやと同郷の宇宙人なのだろうか。
呑気にそんなことを考えながら、3連休を無事に乗り切った鵺は、寝ている間に宇宙人少女の激突を受けてたたき起こされることになる。
「得体の知れないものは、お断りっ!」
「いーやーだー!」
彩葉と宇宙人の引っ張り合いで、後方に転がった少女が鵺にぶつかる。
「まさか、3日目にして寝込みを襲われるとは。不覚」
「痛い~! 助けて~」
寝る前まで存在しなかった少女に、消えた赤ん坊。信じがたいことだが、この子が成長したあの赤ん坊なのだろうかと推理する。
ちょうど同じタイミングで、宇宙人少女と彩葉の腹の虫が鳴いたため、一時休戦となった。
「私が買いに行く。こういうのは、後輩の役目」
「いや、私が行くから大丈夫。鵺はこの子を見といて」
後輩といえば先輩のために焼きそばパンを買ってくるものだと思っていた鵺は肩透かしを食らった気分だったが、言われた通りに少女の様子を観察することにした。
「私、神出鵺。あなた、名前は?」
「ん~? わかんない!」
「そう」
「うん!」
「……」
一瞬、沈黙が訪れる。なに?とでも言いたげな様子で首を傾げる少女は、鵺の目から見てもかなり可愛らしく、子どもながら将来は美人になるだろうことを予感させた。
「ねぇねぇ、彩葉はどこ行ったの?」
「食べものを買いに行った」
「食べもの!」
「近くにコンビニがある。すぐ帰って来る」
その後、帰ってきた彩葉と少女の問答を見守り、年長者として多少の意見を述べた。どう在るか、どう終わるかを決めるのは自分だ。
鵺自身は、かぐやからもらった神出鵺という名とともに、かぐやの友人として彼女を支えきってから、この身を得た罪を背負って生涯を終えると決めている。
若い彼女には荷が重いかもしれないが、彩葉にもせめて自分の在り方を自分で決める気概を持ってほしいと、つい思ってしまった。
翌日。
「おはよ、鵺。彩葉まだ寝てるみたいだし、隠れて驚かそうよ」
「わかった」
起きた途端にかくれんぼに誘われ、二つ返事で了承する。
この3日を一緒に過ごしてみて、彩葉がいいリアクションをするのは分かっていたため、若干楽しみだった。そしてこういう悪戯を思いつくところは友人のかぐやに似ていて、鵺には好ましく感じられた。
「おはよう」
「……」
鵺は押し入れに隠れたものの、あっさりと見つかってしまった。彩葉は驚くよりも呆れた顔で、何も言わずに扉を閉める。勝負に負けたので、大人しく押し入れからのそのそと出ていく鵺。
宇宙人がいなくなったと判断してガッツポーズをとる彩葉に対し、流し台の下の扉が開く。
「ココダヨー」
そのまま崩れ落ちる彩葉。
「鵺は見つかったからかぐやの勝ちー」
「残念……」
「朝っぱらから何やってんだ」
床に手をついたまま、恨みがましい視線を二人に送る彩葉。想像通り、良い反応を見られて鵺はご満悦だった。
駄々を捏ねる少女を置いて学校に向かった鵺は、部室に忘れたカバンを回収すると、教室に着く。8000年の人生を歩んでいるとはいえ、教育の内容も質も昔とは異なる。真面目に受けなければ置いていかれてしまうため、今日もきちんと授業を受けた。
鵺はこう見えて、変わり者だが非常に優秀な生徒として通っているのだ。
「ん?」
帰り道。彩葉に会えたらお金を返そうと考えていた鵺は、見覚えのある少女の後ろ姿を目撃する。その先には、彩葉とその友人らが歩いており、どうやら尾行しているようだと当たりを付ける。
せっかくなので、彼女に聞きたいこと。かぐやが落ちてきた際に壊れたという宇宙船、もと光る竹について何か知っていること、特に直し方などを聞き出せないかと考えた。
まずは少女を見失わないよう、手ごろな街路樹の上に登り、枝伝いに飛び移っていく。この場に彩葉がいれば、普通に追いかけた方が早いだろうと叫ぶところだが、CIAの仕事を手伝っていた彼女にとっての尾行はこれが正解なのだった。
おそらく、CIAでもこんな尾行をする者は他にいないだろうが。
「もと光る竹と聞いて、思い当たることはある?」
宇宙人の少女と合流し確認する。もし宇宙船の直し方が分かれば、すぐにでもかぐやに人間の身体を渡せるかもしれない。その期待は、少女の心底心当たりがないという反応によって奪われた。
(そううまくはいかないもの……わかってはいた)
「あ~~、置いていかないで~~」
「急がないと、見失う」
元より希望など抱いていない鵺は、しかし無意識に淀んだ瞳を隠すためにその場を後にした。
「可愛いね、お名前は?」
「えーっと……か、かぐや」
「かぐや~、かわよ~!」
「ねっ、かぐや」
カフェに突撃した宇宙人少女について、混乱しながらも彩葉が名前をつけた時。鵺は表情を変えなかったものの、一瞬だけ動作を止めて彩葉を見つめた。
(同じ月から来て、同じ名前。酒寄彩葉に拾われた。私の知るかぐやとも縁がある? いや、月といえばかぐや姫……偶然かも)
「かぐや? かぐや! かぐやかあ~!」
名付けられた本人を見ると、心の底から嬉しそうな表情で、くるくると回ってみせている。その感情に、鵺は覚えがあった。
「名前は人生最初のプレゼント」
そんな言葉を思わずつぶやいていた。自分も8000年前のウミウシかぐやに、この名前をもらった。決して感情を表には出さなかったが、何者でもなかった自分に意味を与えてくれたことに、形容しがたい熱い感情が湧いたことを、今でも鮮明に覚えている。
(だからこそ、酒寄彩葉とかぐやの再会を、なんとしてでも実現させる)
翌日。その想いを胸に、鵺は買うだけ買って使っていなかったスマコンを付け、ツクヨミの世界に旅立った。
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