めでたしや~!
かぐやメシ等、まだまだ今後の展開も期待したいです。
今回は少し短めです。
光り輝く海洋生物を模したオブジェクトが空を往く。多数並ぶ煌びやかな楼閣のうちの一つ、その高層階の欄干に寄りかかりながら、頭にかぶったゲーミングクラゲを輝かせた鵺は、いつものように無表情で告げた。
「結論から言う。ヤチヨとは、かぐやである」
かぐやの卒業ライブ前の一件のように、ツクヨミの一画に集められた芦花、真実、それと共に月人と戦ったブラックオニキスの帝アキラ、雷、乃依は、鵺から発された情報に理解が追いつかず、全員が目を白黒させる。一瞬訪れる静寂。鵺のクラゲ頭だけが空しく辺りを照らしていた。
「それだけだと意味がわからないでしょ!」
説明を鵺に任せた自分が間違っていたと反省しつつ、彩葉が鵺を りつける。集まって早々、混沌としてきた空気に取り残される一同。
「結論を先に述べるのは大事」
彩葉の正論に臆さず、鵺は心外そうに答える。鵺なりに分かりやすく説明したつもりのようだが、今回は逆効果だった。
そんな二人のやりとりを見て、このままだと話が進まないと見たヤチヨが、困った顔をしながら後を引き継いだ。
「ずっと黙っててごめんね~。かぐやがいる前ではどうしても言い出すわけにはいかなくって……月に帰った後、この星にはるばる戻ってきたかぐや姫こそがヤッチョだったんだよね~」
それから、ヤチヨは擬態生成の際に生まれた鵺のことも交えて、あったことを簡潔に話した。
タイムスリップに失敗して鵺とともに8000年の旅をしたこと、月見ヤチヨとしてツクヨミを作ったこと。途方もない話であるにも関わらず、彼女は暗い部分はあえて触れずに、ものの数分で説明を終えた。
「で、彩葉が頑張って、ヤッチョの身体を取り戻そうとしてくれてるってお話でした。めでたしめでたし~」
重要な話をしているはずだが、ヤチヨはいつも通りの笑顔を浮かべ、どこか茶化すように語り終える。そこに確かにあった寂しさも悲しみも悟られないように。
「えーっと……」
「めでたし、じゃないだろ」
それでもなお、皆にはヤチヨの歩んできた道のりの壮絶さが伝わったようで、8000年という途方もない絶望を経験することになる卒業後のかぐやの人生に戦慄していた。
先ほどの間の抜けた空気は消え去り、芦花や真実は顔を青ざめさせ、ブラックオニキスの面々は拳を握りしめた。誰かの喉がごくりと鳴る。そんな彼らに、再び彩葉が向き合う。
「今日集まってもらったのは、一緒にかぐやを守ろうとしてくれた皆に、ヤチヨと、ついでに鵺のことも話しておかなきゃと思って」
「ついでは余計」
「はいはい」
重くなった空気を払拭するように、鵺の抗議を軽くあしらう彩葉。すでに希望を見出している彼女にとって、過去の悲しみに囚われている暇はない。それに彩葉は、いちいちこの後輩に構っていると話が進まなくなることを理解していた。
そんな二人の様子を見て、いつもの調子が戻ってきた友人たちが口を開く。
「彩葉に会うために8000年も超えてきたなんて……」
「ロマンチックだ~」
芦花は涙ぐみ、真実は両手で口元を覆いながら呟いた。
「ヤチヨちゃんがかぐやちゃんだったとは……くそっ、俺としたことが見抜けなかったなんて!」
帝は一人歯を食いしばって唸る。KASSENの際に「かぐや道は深い」などと呟いていた男だ。本気で悔しがっている。先のかぐや卒業ライブで行ったチートモード関連で若干炎上していたときでさえ、感情を荒ぶらせなかったのが嘘のようだ。
雷と乃依がそんな帝を呆れた目で見つめる。
ちなみに、チートモードについてはもとよりヤチヨプロデュースによるライブの演出であるということが公式に発表されたため、スポンサーからも彼らにお咎めはなく、ブラックオニキスは今も無事に活動を続けられている。
彩葉が真剣な眼差しで全員を見据え、口を開いた。
「ヤチヨの言ったように、これから私はヤチヨの身体を再現したい。そのために、皆にもまた協力をお願いすることになるかもしれない」
「俺たちにできることなら、もちろん協力してやりたいが。具体的には何だ?」
「感覚を数値化するためのモニターになってもらったり、いずれ研究が本格化してきたら出資もお願いするかもしれない。でも、なによりもまずお願いしたいことは……」
「ヤチヨと、これまでみたいに友だちでいてあげてほしい」
鵺が彩葉の言葉を引継ぎ、友人としての望みを口にする。彩葉も頷き、皆の目を見つめる。
これまでみたい、というのがヤチヨとしてではなく、かぐやと遊んでいた頃のようにという意味だと気付かない者はこの場にいなかった。鵺と彩葉の真剣な願いに、一瞬だけ呆気にとられながらも、全員が当然とばかりに頷く。
ヤチヨだけが、気まずそうに目を逸らした。
「……彩葉、鵺。気持ちはとっても嬉しいんだけど、ちょーっと気まずいというか、恥ずかしいというか……」
ヤチヨがほんのりと顔を赤らめ、指先をもじもじと合わせながら抗議する。例えるなら、友だちにこの子と仲よくしてあげてねと親に目の前で言われる子どもの気分か。
そんなヤチヨに構わず、
「そんなことならお安い御用だ」
「当然だ」
「別にヤチヨの正体が分かったところで、何か変わるわけでもない、でしょ♡」
帝、雷、乃依がそれぞれ当たり前のように受け入れる。芦花、真実の二人も若干まだ混乱してはいるが、かぐやを受け入れることに異論はないようだ。
「まだ実感は湧かないけど、ヤチヨがかぐやちゃんなら、前みたいにいっぱい遊びたいよね」
「温泉もいいし、また皆で海行きたいね~」
「みんな…………ありがとね」
先ほどまでの羞恥の感情を引っ込めて、今度はヤチヨが震える声で感謝を伝えた。
温かい友情に触れて和やかな空気が流れるが、そんなものお構いなしと、鵺が現実的な話を始める。
「今のかぐやは電子上の存在だから、味覚、嗅覚、触覚がない。だから温泉や海を楽しむためには、身体を作ってからになる。そこまでの道のりは、全部彩葉にかかっている」
鵺はそのまま彩葉に視線を向ける。彩葉は静かに頷き一言。
「まずは私が東大に合格します」
「いきなり難易度たっか」
彩葉から示されたかぐや復活へのロードマップ、その第一歩に、乃依が率直な感想をこぼす。続いて芦花が口を開く。
「でも、もともとそこ志望だったよね」
「今までは弁護士になるために文系志望だったけど、理系に変わりました」
彩葉の目指す東京大学は入学時ではなく、2年生になってから学部を選択する珍しい大学だ。入学時は文理それぞれⅠ~Ⅲ類のうちから志望先を選ぶ。彩葉は工学部への進学を目指すため、理科Ⅰ類を志望することになる。
「数学と理科も頑張らなきゃいけないってことか」
真実がうげ~、という顔で呟く。文系から理系への転向は、普通これらの科目がネックになるものだ。
だが、東京大学は文系でも一定以上の理数系の実力が必要になる。逆に、理系でも国語や社会系科目が必要となるため、元々この大学を志望していた彩葉のこれまでの努力が役に立つ。
また、2年生の10月後半という今の時期に理系に転向するのは遅すぎるわけでもない。
「大変そうだけど、彩葉なら十分実現可能」
鵺が静かに彩葉の意思を肯定する。
「それに、受験がゴールじゃない。システム情報学、電子情報工学、ロボティクス、神経科学。学ぶべき学問がたくさんあるし、博士号を取って自分の研究に専念できる環境、つまり自分の研究室を持つ必要もある…………でも、私がやっと見つけたやりたいことだから、絶対に乗り越えてみせる」
ぐっと握り拳を作り、やる気に満ちた表情で宣言する彩葉。
高校2年生の描くものとしては具体的すぎる未来予想図と、なによりそれを語る彩葉の圧に皆が圧倒される。そんな彩葉を心配した芦花が声を上げる。
「ちょ、ちょっと彩葉? 立派だと思うし、応援もするけどさ。この感じだとまた無理しすぎそうじゃない?」
「そうだよ、また倒れたり、引きこもっちゃったりしない?」
芦花に続き、真実も彩葉に尋ねる。親友たちの気づかいに、虚をつかれたように一瞬目を瞬かせた彩葉は、しかし照れくさそうに頬をかきながら笑った。
「確かに、今までは無茶しすぎてた。心配かけてごめん。でも大丈夫。かぐやのために急ぐのはもちろんだけど、私が倒れちゃったら意味ないって、もう分かったから」
はにかみながら断言する彩葉に、帝はどこか満足そうな笑みを浮かべる。それでも、心配そうな二人の親友の前に、鵺が歩み出てみせる。
「安心してほしい。もし彩葉が無理していたら、私が止める」
物理的に、と続きそうな様子で腕まくりし、握り拳を見せる鵺。どうみても頼りない細腕のくせに、自慢げなクラゲの頭部が七色にぴかぴかと輝く。
「鵺は別の意味で心配だけど……」
真実が呆れたように言う。ゲームの特訓をした際、散々鵺の失敗や破天荒な行動を見せられたブラックオニキスの面々もこれに頷く。
「しかし、かぐやちゃんのことでうっかり流してたが、鵺ちゃんが8000歳っていうのも驚きだな」
鵺まじまじと見つめながら、改めて信じがたいと呟く帝。なぜか鵺はドヤ顔でガッツポーズをとる。
「全然そんな素振りなかったのにね~」
「いや、8000年生きてきた素振りって何……まあ、変わってはいるけど威厳みたいなのは全然ないよね」
「親しみやすいと言ってほしい」
芦花と真実の発言に、どこかむっとした雰囲気の鵺が反応する。そんな彼女らの様子に顔を引きつらせつつ、彩葉が口を開いた。
「この野生児は色々あったけど、今は一緒に住むことにしてるから、こっちも心配ご無用。私は鵺が変なことしでかさないようにちゃんと見張る。鵺は私が無理しすぎたら止める。相互監視ってやつね」
「彩葉、なんか失礼」
鵺がじっとりと睨んでくるが、彩葉は涼しい顔で黙殺する。
「ヤッチョも目を光らせてるけど、この二人のこと、これからもよろしくね」
今度はヤチヨが彩葉と鵺のことを気に掛けるよう呼びかける。
彩葉と鵺は互いに納得のいかなそうな様子でヤチヨを見たが、他の面々は仕方ないといった様子で頷いた。
誤字・脱字、感想等ありましたら、どうぞよろしくお願いします。
また、活動報告で蛇足のネタ募集もしていますので、何卒ネタをお恵みください……