ルパン三世 血の刻印 ~永遠のマーメイド~ ✕ 人魚シリーズ(るーみっくわーるど) 作:クリリ☆
【二つの宝玉が示す地】
薄暗いアジトの中、勇太が室内を見回していると、ルパンは机の上に投影機を据え付け、その電源を入れた。壁に向けられた光の中に、竜の鱗と人魚の鱗をそれぞれかざす。まるで影絵でも映し出すかのように、二つの宝玉に浮かぶ模様が壁面へと投影された。
「何をやってるんだ?」
「まあ、見てなって」
そう言いながら、ルパンは手に持った二つの鱗を慎重に回し、光の当たり具合を調整していく。しばらくすると、宝玉の中に浮かんでいたまだら模様が少しずつ重なり始め、やがて一つの図形を形作った。
「こいつだ!」
ルパンが声を上げる。壁に映し出されたのは、まぎれもなく地図だった。
「これは……地図なのか? 二つの宝玉に浮かんでいた鱗の模様が、組み合わさって地図を形作っている!?」
勇太は目を見張った。地図の中央には、周囲を海に囲まれた小さな島が描かれ、その脇には『海鳴島』という文字が記されている。
「海鳴島。どうやら、ここが八百比丘尼の財宝の在り処のようだぜ」
「海鳴島……」
その名を口にした瞬間、勇太の脳裏に八百比丘尼の姿が浮かんだ。長い年月を生きた彼女が、最期に自分へ託した願い。その約束を果たすため、勇太は百年以上もの間、人魚の鱗を探し続けてきた。ようやく、その墓所の場所を突き止めたのだ。
「だがルパン、俺たちは二つの鱗を手に入れて、ようやく場所を特定できた。氷室はどうなんだ? あいつは、この場所が分からないんじゃないのか?」
「いいや。恐らく奴は、八百比丘尼のお宝を代々管理してきた一族の人間だ。最初から場所は知っているんだろうよ。ただ、奴には墓所の中へ入る手段がないのさ」
「入る手段がない?」
「そうだ。どうやら、あそこへたどり着くには、途中に仕掛けられた死の罠をくぐり抜けなきゃならないらしい。普通の人間じゃ、とても生きては通れねえってわけだ」
「なるほどな……」
死の罠――。その言葉に、勇太は改めて自分たちの置かれた状況を考えた。幸い、今ここには人魚の肉を食べて不老不死となった自分と、驚異的な再生能力を持つ美沙がいる。二人ならば、氷室が恐れている死の罠を突破できるかもしれない。
だが、氷室にとって真魚もまた、不老不死の肉体を持つ存在だ。もしそのことまで知られてしまえば、真魚までもが利用される危険がある。勇太は彼女の身を案じずにはいられなかった。今はただ、真魚が無茶をせず、無事でいてくれることを祈るしかない。
(待ってろよ、真魚、麻紀。すぐに助けに行くからな)
【第三の勢力】
その頃、ルパンと氷室のほかにも、海鳴島へ向かおうとしている人物がいた。銭形警部である。
銭形はオークション会場に設置されていた監視カメラの映像をくまなく調べ、会場から大きな袋を抱えて走り去る氷室と影浦の姿を捉えることに成功していた。さらに、事前にオークションの主催者から提出されていた来場者名簿を確認し、藤堂昌江の側近として会場に出入りしていた美沙が行方不明になっていることを突き止めた。これらの状況から、銭形は美沙を連れ去った犯人が氷室であると判断したのだった。
そして、氷室がヘリコプターで海鳴島へ向かったことも把握していた。藤堂昌江殺害の容疑に加え、美沙の誘拐という重大な犯罪。銭形は氷室を逃がすわけにはいかないと、現地へ急行し、到着次第ただちに逮捕することを決めた。
だが、もちろん銭形には、もう一つ忘れてはならない目的があった。そう、長年追い続けてきた宿敵、ルパン三世の逮捕である。
人魚の鱗を盗み出したルパンも、恐らくは海鳴島へ向かうに違いない。銭形はそう確信していた。氷室を追うことになったのは偶然のようでいて、結果的にはルパンを追い詰める絶好の機会でもあったのだ。
「ルパン、氷室、首を洗って待っていろ。お前たち全員まとめて逮捕してやる!」
【束の間の休息】
翌日。ルパンたちは夕暮れの海岸にいた。
海鳴島への最寄りとなる海岸。目の前には、どこまでも続く壮大な海が広がり、寄せては返す波が穏やかな音を立てている。潮風が頬を撫で、遠くから聞こえる波の音に耳を傾けていると、つい先ほどまでの緊迫した状況も、しばし忘れてしまいそうだった。
勇太は一人、海の中へと潜っていった。しばらくすると、手に馴染んだ銛を構え、魚を追い始める。長年漁師として生きてきた彼にとって、海は勝手知ったる場所だ。魚の動きを見極め、狙いを定めると、素早く銛を突き出した。やがて何匹かの魚を獲って海岸へ戻ってくると、拾い集めた枝を組み、火を起こして魚を焼き始めた。
「へえ、勇太。器用なもんだな」
魚を焼く様子を眺めながら、ルパンが感心したように声を掛ける。
「まあな。俺は本職は漁師だからな」
勇太はそう言って、焼き加減を確かめながら魚の向きを変えた。
先ほど、氷室の手下である影浦と対峙した時、勇太はほとんど何もできないまま斬られ、命を落としてしまった。もちろん、不老不死の肉体を持つ彼にとって死は永遠の終わりではない。それでも、何もできずに倒されたことへの悔しさは残っている。氷室と再び相まみえれば、今度こそ戦闘は避けられないだろう。自分の手に馴染む銛を手に入れたのも、そんな戦いに備え、今度は大切な仲間を守るという決意の表れだった。
やがて魚が焼き上がると、皆でそれを頬張った。香ばしい匂いが辺りに漂い、焼きたての魚の身からは、まだわずかに湯気が立っている。海辺で獲ったばかりの魚をその場で焼いて食べる。普段なら何でもないような食事だが、張り詰めた空気の中では、かえって心を落ち着かせてくれるものだった。
しかし、美沙だけは焼き魚に手を伸ばそうとしなかった。真魚と麻紀を氷室にさらわれ、自分だけが助け出されたことへの後ろめたさもあるのだろう。胸がいっぱいで、とても食事をする気にはなれなかった。
そんな美沙の様子に気づいた次元は、焚き火に残っている魚を取り、そっと美沙に差し出した。
「美沙、食える時に食っておけ。明日はどうなるか分からないんだぞ」
「すいません、次元さん。こんな大変なことに巻き込んでしまって……」
「何、謝ることはないさ。むしろ俺たちが勝手に首を突っ込んだことだ。それに、俺はお前に命を救われたんだ。おかげでこうして美味い飯が食える」
次元はそう言うと、手にした焼き魚に豪快にかぶりついた。まるで何事もなかったかのようなその態度に、美沙の表情もわずかに和らぐ。自分が彼らの足手まといになっているのではないかという不安も、少しだけ薄らいだのかもしれない。
「……いただきます」
美沙も焼き魚を受け取り、ゆっくりと口に運んだ。
こうして、束の間の休息を過ごすルパンたち。しかし、その一方で氷室も、そして彼らを追う銭形警部も、海鳴島へと向かいつつあった。三者の思惑が交錯する時、島で待ち受けるものとは――。
続く☆