ルパン三世 血の刻印 ~永遠のマーメイド~ ✕ 人魚シリーズ(るーみっくわーるど)   作:クリリ☆

8 / 9
闇夜の二面作戦

  【人魚の鱗を奪え!】

 

 夜の闇に紛れ、ルパン一味は二手に分かれて行動を開始した。ルパンと不二子は人魚の鱗が保管されている製薬会社の新薬研究所へ、次元と五ェ門は美沙が囚われている氷室の私邸へ。それぞれの目的地へ向かう二組の姿は、夜の街に溶け込むように消えていった。

 

 ひと足早く研究所へ到着したルパンと不二子は、建物の外観を確かめると、迷いのない足取りで内部へと侵入した。事前に下見を済ませていた不二子が、警備員の配置や監視カメラの死角を把握していたこともあり、二人の行動は驚くほど順調だった。社長室の裏に設けられた秘密の隠し部屋へも、ほとんど手間取ることなくたどり着く。

 

 途中、電子ロックで厳重に管理された扉が立ちはだかったものの、不二子は少しも慌てなかった。端末に手を伸ばし、慣れた手つきで操作を進める。いくつかの操作を終えると、さっきまで固く閉ざされていた扉が、何事もなかったかのように静かに開いた。

 

「はい、開いたわよ」

 

「さっすが不二子ちゃん。頼りになるねえ」

 

 ルパンは軽口を叩きながら、開いた扉の向こうへと足を踏み入れた。そこには、氷室が古今東西から集めた数々の品が並んでいた。表向きは製薬会社の社長でありながら、裏では武器の密売にも手を染める男だ。人目につかない場所に、表沙汰にできない品々を隠していたとしても不思議ではない。

 

 二人は目当ての品を探し、ほどなくして、それを見つけ出した。

 

 人魚の鱗――。

 

 長い年月、行方を追われてきた秘宝が、何食わぬ顔で秘密の部屋に保管されていた。ルパンはそれを手に取ると、しばし眺めてから懐へしまい込む。これで目的は達成だ。あまりにあっけない成功に、思わず拍子抜けしてしまいそうなほどだった。

 

 だが、その直後、室内に鋭い電子音が鳴り響いた。

 

 ピィーッ、ピィーッ、ピィーッ――!

 

 人魚の鱗を持ち出したことを検知したセンサーが作動し、緊急アラームが研究所中に響き渡る。赤い警告灯が点滅し始め、静まり返っていた建物の空気が一変した。

 

「おっと、見つかっちまったか」

 

「もう、せっかくここまで順調だったのに」

 

 不二子は口では不満を漏らしながらも、慌てる様子はない。ルパンもまた、焦るどころか面白がるように笑っていた。警備員たちが騒ぎに気づいて駆けつける頃には、二人はすでに脱出を開始していた。多少の騒ぎにはなったものの、二人の手際は鮮やかで、研究所を抜け出すまで大きな問題は起きなかった。

 

 夜の街へと戻ったルパンは、建物から十分に距離を取ったところで足を止め、懐から人魚の鱗を取り出した。さらに、勇太から預かっていた本物の竜の鱗を並べ、街灯の淡い光にかざして見比べる。

 

 人魚の鱗の内部には、本物の竜の鱗と同じように、鱗を思わせる模様が点々と浮かんでいた。先日のオークションに出品されていた偽物には、これがなかった。二つを見比べたルパンは、ようやく本物を手に入れたことを確信する。

 

「よし、上々だ。このまま帰るのも何だし、次元たちの助っ人に行ってやるか」

 

「そうね。こちらの侵入をきっかけに、向こうの警戒も高まってるかもしれないし」

 

 不二子も異論はないようだった。研究所でアラームが鳴った以上、氷室の側も何らかの異変を察知している可能性がある。私邸の警備が強化されていれば、次元と五ェ門にとっても厄介なことになるだろう。

 

 ルパンは二つの鱗を大切にしまい直すと、不二子と顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

「それじゃ、次は次元たちのところへ急ぎますか」

 

 二人はそのまま研究所を後にし、氷室の私邸へと向かった。人魚の鱗を手に入れたルパンたちの次なる目的は、囚われの美沙を救い出す仲間への加勢だった。

 

 

 

 

  【ミサを救出せよ!】

 

 その頃、氷室の私邸では、次元と五ェ門が敷地内への潜入に成功していた。二人は建物の陰から庭を横切り、見張りの目をかいくぐって、いくつもの大きな木が茂る一角へと身を潜めた。周囲には銃を携えた黒服の男たちが何人も配置されており、油断のできない状況だった。

 

 茂みの隙間から敷地内を見渡した次元は、やがて庭の奥にある奇妙な建物に目を留めた。

 

 そこに建っていたのは、周囲から隔絶されたような、小さな庵だった。四方を池に囲まれ、その水面は夜の闇を映して黒々と沈んでいる。外へ通じる橋はどこにも見当たらず、陸地から直接出入りすることはできそうになかった。空中からでもなければ、近づくことさえ難しい造りである。

 

 人を閉じ込めておくには、まさにうってつけの場所だった。

 

「どうやら、ここに違いねえ」

 

 次元は帽子のつばを指で押さえながら、警戒するように目を細めた。美沙が幽閉されている場所について、不二子から聞いた情報とも一致する。あの庵の中に美沙がいる可能性は高かった。

 

「うむ」

 

 五ェ門も短く頷いた。だが、目的地が分かったからといって、すぐに乗り込めるわけではない。

 

 何と言っても、庵の周囲には橋がない。しかも池には凶暴なワニの姿まで見え、泳いで渡る事も不可能だ。仮に何とか庵へ侵入できたとしても、美沙を連れて強引に池を渡りきるのはさらに難しい。敷地内には銃を持った黒服たちがうようよしており、正面から強行突破するのは得策ではなかった。

 

 次元はしばらく考え込んだ末、隣にいる相棒へと視線を向けた。

 

「どうする、五ェ門?」

 

「ここは拙者に任せろ」

 

 五ェ門はそう言うと、音を立てぬよう周囲を確かめながら、茂みのそばに立つ木へと近づいた。次元が何をするつもりなのかと見守る中、五ェ門は腰の斬鉄剣を抜き放つ。月明かりを受けた刃が、かすかな光を放った。

 

 次の瞬間、鋭い一閃が夜の闇を切り裂いた。

 

 ズバッ――!

 

 五ェ門が斬った木は、幹の途中から大きく傾き、そのまま庵の方へと倒れ込んでいった。枝葉が夜空を覆い、木が地面や池の縁に衝突する音が、静かな庭に響き渡る。

 

 幸い、木は狙いどおりに庵へ向かって倒れ、池の上に渡る格好になった。太い幹が、橋の代わりを果たしている。

 

「ナイスだぜ、五ェ門」

 

 次元は感心したように口元を緩めた。こんな大胆な方法を、ためらいもなく実行できるのは五ェ門ならではだ。

 

「うむ」

 

 五ェ門は平然と頷き、斬鉄剣を鞘へ収めた。

 

 二人はすぐさま倒れた木へと飛び乗ると、幹の上を駆け抜けて堀を渡り、庵へと向かった。足場は不安定だったが、次元も五ェ門も身のこなしに迷いはない。こうして二人は、難なく庵への侵入を果たした。

 

 しかし、木を派手に斬り倒した以上、物音を完全に隠し通すことはできなかった。

 

「おい、今の音は何だ!?」

 

 庭の見張りをしていた黒服の一人が、異変に気づいて声を上げた。ほかの男たちも一斉に振り返り、倒れた木と堀の向こうにある庵へと視線を向ける。

 

 やがて、侵入者の存在を察した黒服たちが、銃を構えながら慌ただしく動き始めた。

 

 次元と五ェ門は、ついに敵の目を引いてしまったのだった。

 

 

 次元と五ェ門の侵入に気づいた黒服たちは、次々と銃を構えて二人に襲いかかってきた。しかし、歴戦のプロである二人にとって、数が多いだけの相手など恐れるに足りない。次元は愛用の拳銃を手際よく操り、迫り来る敵の武器や足元を狙って、次々と戦闘不能に追い込んでいく。一方の五ェ門も、斬鉄剣を自在に振るい、黒服たちの銃を斬り落としながら、相手の動きを封じていった。

 

 二人とも、相手の急所をわずかに外すことを忘れてはいない。敵を倒すことにためらいはないが、必要もない殺生をするつもりもなかった。銃声と金属音が入り乱れる中、黒服たちは次々と地面に倒れ、屋敷の奥へ続く道が開けていく。

 

 やがて二人は、庵の最奥にある部屋へとたどり着いた。そこには、一人の女性がいた。美沙だ。

 

 見知らぬ男たちが武器を手に踏み込んできたことで、美沙は怯えた表情を浮かべ、警戒するように身構えていた。ここがどこなのか、何をされるのかも分からないまま拘束され、恐ろしい実験まで受けさせられたのだ。簡単に他人を信用できるはずもなかった。

 

【挿絵表示】

 

「あなた達は誰ですか」

 

「安心しろ、あんたを助けに来たんだ。あんたの妹分、麻紀に頼まれてな」

 

「麻紀が!?」

 

 その名前を聞いた瞬間、美沙の表情が変わった。ずっと気がかりだった妹分が、自分を探してくれていた。その事実に驚きながらも、胸の奥に温かなものが広がっていく。

 

「ああ、あんたを待ってる。一緒にここを出るぞ」

 

 次元の言葉に、美沙の顔には一瞬、安堵の色が浮かんだ。ようやく帰れる。もう一度、麻紀に会える。その希望が胸に灯った、そのときだった。

 

 二人は美沙を発見したことで、ほんの一瞬だけ周囲への警戒を緩めてしまった。救出対象を無事に見つけたという安堵が、プロである彼らにもわずかな隙を生んだのだ。

 

 その背後から、一人の黒服が銃を構えて迫っていた。

 

「危ない!」

 

 いち早く気づいた美沙が、とっさに次元の身体を突き飛ばす。次の瞬間、銃声が庵の中に響き渡った。弾丸は次元の身体をかすめるように通り過ぎ、その代わりに美沙の首もとを撃ち抜いた。

 

「美沙?!」

 

 次元は振り返るや否や、銃を構えた黒服を撃ち倒した。そして、崩れ落ちそうになる美沙をすぐさま抱きとめる。首筋からは、見る間に大量の血が流れ出していた。

 

 常人ならば、間違いなく致命傷だ。次元の表情にも一瞬、焦りが走る。だが、彼は事前に美沙の驚異的な再生能力について聞かされていた。今は一刻も早く、この場所から彼女を連れ出すことが先決だった。

 

 次元は美沙を背負い上げると、五ェ門に目配せした。

 

「すまねえ、油断した」

 

「私なら、大丈夫、です……」

 

「分かった。今は喋るなよ」

 

「はい……」

 

 苦しそうに答える美沙の声は弱々しかったが、それでも彼女は次元を安心させようとしていた。自分の身を顧みず、彼をかばったのだ。次元はその思いを受け止めるように、美沙を背負う腕に力を込めた。

 

 五ェ門が先頭に立ち、二人を庵の外へと導く。背後からは、仲間を倒された黒服たちの怒号が響き、再び銃弾が飛び交い始めた。

 

 五ェ門は斬鉄剣を振るい、迫り来る弾丸を次々と弾き返す。次元も美沙を背負ったまま、隙を見て追っ手を牽制しながら走り続けた。木を渡して作った即席の橋を駆け抜け、敷地内を一気に突っ切る。幾度も銃弾がすぐそばをかすめたが、二人は足を止めることなく、ついに正門を飛び出した。

 

 その先には、ちょうど到着したばかりのルパンと不二子の車が待っていた。二人が駆け寄ると、次元は美沙を背負ったまま後部座席へ飛び込み、五ェ門も続いて乗り込む。全員が乗ったことを確認するや、車は急発進し、追っ手を振り切るように夜の道路へと走り出した。

 

「よう次元、五ェ門。首尾はどうだ?」

 

 運転席から振り返るルパンに、次元は苦々しい表情で答えた。

 

「ああ、何とかな。だが、しくじっちまった。怪我をさせちまった」

 

 次元の背中から降ろされた美沙は、首筋からなお血を流し、苦しそうに顔をしかめていた。それでも、ようやく助け出された安堵と、麻紀のもとへ帰れるという希望が痛みを上回っているのか、彼女はかすかな笑顔を浮かべた。

 

「私なら、大丈夫……、心配させてしまって、すいません……」

 

「美沙、お前は俺を助けてくれたんだから、謝る必要なんてねえぞ」

 

 次元はそう言って、美沙を気遣うように見つめた。彼女が自分をかばわなければ、撃たれたのは次元だった。救出に来た側が守られることになるとは、思いもしなかったのだろう。

 

 だが、美沙の傷は、彼女自身が語ったとおり、いずれ再生するはずだった。今はただ、彼女を麻紀の待つ場所へ無事に連れ帰る。それが、次元たちに残された仕事だった。

 

 

続く☆

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。