玄関に、久世の靴があった。
硝子は鞄を下ろし、廊下の奥を見た。居間の灯りがついていた。
返事はなかったが、テレビの音がしていた。
「ただいま」
もう一度言いながら扉を開けると、ソファに久世がいた。
上着を脱いで、背に掛けている。片手に携帯を持ったまま、眠っていた。
高専を卒業してから、三年。
夏油が二人の子供を連れて帰ってきたあの夏からは、四年が過ぎていた。
硝子は先に冷蔵庫を開けた。
頼んだビールと、頼んでいない惣菜が入っていた。台所の隅には、空になった弁当の容器があった。
「雅臣」
缶を持って戻ると、久世が目を開けた。
「……おかえり」
「飯、食べたんだ」
「先に食べていいって、君が」
「うん。私のは?」
「冷蔵庫。温める?」
「自分でやる」
久世は起き上がりかけたところで、また背を預けた。
硝子は電子レンジを動かし、着替えを取りにいった。
卒業しても、硝子の仕事場は高専だった。
住む場所は変わった。最初は寮の方が楽だと思ったが、自分の場所がないことが嫌になった。
今の部屋を借りて、もう二年近くになる。
久世に鍵を渡したのは、去年だった。
深夜に帰ると、玄関の外で待っていたことがあった。先に入っていろと言える方が、こちらも楽だった。
それから洗面所に歯ブラシが増え、クローゼットの端に、男物の服が掛かるようになった。
今日は、十日ぶりだった。
「何時に着いたの」
「九時前だったかな」
「結構待ったね」
「寝てたからね」
硝子は卓上に皿を置いた。
久世がテレビの音量を下げた。何を見ていたのかと訊くと、分からないと言った。
「来月、正式に家を継ぐことになったよ」
箸を取ったところで、硝子は顔を上げた。
「決まったんだ」
「今日、日取りまで」
「まだ引き継ぐことあんの?」
「あるよ。父が誰に何を約束したかとか」
「嫌な引き継ぎだな」
「本当にね」
久世は笑った。
その顔を見て、硝子も缶に口をつけた。
「でも、もう父を通さなくていい」
「嬉しそう」
「そう見える?」
「うん」
久世は否定しなかった。
卓上の皿へ目を落とし、硝子が取ろうとしていた方を少し寄せた。
「おめでとう」
「ありがとう」
「何か奢る?」
久世がこちらを見た。
「今、少しこっちに来て欲しいかな」
「ご飯、食べたいんだけど」
「少しだけ」
硝子は箸を置いた。
隣へ座ると、久世の手が腰に回った。顔が近づいてきたので、口づけを受けた。そのままさらに引き寄せられる。
「……少しって言ったじゃん」
「十日ぶりなんだけど」
「知ってる」
硝子は、手をあげて久世の頭を雑に撫でた。
「ご飯食べるまで、待ってな」
*
その日の昼、父は客の名簿を広げていた。
久世は向かいに座り、父の指が止まったところを見た。
「この人は、来ないでしょう」
「招くかどうかを話している」
「招いたとしても、ここの派閥としての意見は反対のままです」
「お前が招かなかったという話にするな、と言っている」
久世は名簿に目を戻した。
消しかけていた印を、そのまま残した。
「来れば、こちらに何か言えるとは思うでしょうね」
「言わせればいい。聞き入れる約束はしていない」
「……何か約束したんですか?」
父は、少しだけ顔を上げた。
「家の仕事を減らさんとは言った」
「……どの仕事です」
「呪物の保管と、封印の点検だ」
「尋問への派遣は」
「言っていない」
久世は手元の紙に書き足した。
父の返事には、こういう隙間があった。
相手が勝手に含めたものまで、一緒に引き継ぐつもりはなかった。だが、父が本当に引き受けたことまで、知らなかったでは済ませられない。
「相手は、一通り続くと思っていますよ」
「そうだろうな」
「困るんですが」
「だから今、お前に話している」
父は次の頁を開いた。
久世は、もう一枚、白紙を出した。
家の実務は、少しずつ渡されていた。
ただ、最後の返事には父の名前が要った。久世が決めたことを父のところまで確かめに行き、違う答えを持って帰ってくる人間もいた。
来月からは、それをやめさせられる。
「今後、私を頼ってくる者もいる」
父が言った。
「お前が断った仕事を、私に持ってくるだろう」
「僕へ戻してください」
「それで済めば、そうする」
久世はペンを止めた。
「済まないなら、受ける前に僕へ話してください」
「お前が首を縦に振る話だけではないぞ」
「承知しています。でも、受けた後で引き継ぐのは、今日で終わりにしたい」
父は、しばらくこちらを見ていた。
それから、名簿を久世の方へ押した。
「挨拶の席で、お前から言いなさい」
「はい」
返事をすると、父はようやく茶碗を取った。
「東京からは、誰が来る」
「まだ、日程を伝えていません」
「五条家には先に出しておく」
「五条君本人には、僕から聞きます」
「来るか」
「分かりません。忙しい人なので」
父は鼻から息を吐いた。
「お前は、あれを呼べるから好きにしていると思われている」
「そう思っている人は、来るでしょうね」
父が茶碗を置いた。
「来なかったときの顔も、見ておけ」
久世は名簿を閉じた。
*
直哉は、縁側に座っていた。
庭へ片足を下ろし、携帯を見ている。久世が近づくと、それを閉じた。
「長かったな」
「待たせたね」
「話、済んだん?」
「うん。来月に決まった」
直哉は、久世を下から見上げた。
「先越されたわ」
「直毘人さんは、まだお元気だから」
「元気すぎんねん」
久世は隣に座った。
直哉が、足元の紙袋を寄越した。中に、細長い木箱が二つ入っていた。
「これ、返しとく」
「使えた?」
「使えたけど、紐、替えた方がええで」
「使える期間があるんだ」
久世は箱をひとつ開けた。
使い終えた封具が、きちんと収められていた。紐だけが切られていた。
「……既に切られてるんだけど?」
金具を動かして見せると、直哉の目が細くなった。
「知らん」
「金額、追加で載せとくね」
「サービス精神はないんか」
「僕にあると思ってるの?」
直哉は鼻で笑って、久世の手から金具を取った。
一度動かし、元へ戻した。
箱を閉じている間に、今夜、外へ食べに行くかと聞かれた。
東京へ行くと答えると、直哉は露骨に口を曲げた。
「またかいな」
「明日は高専で用事がある」
「今日から行く用事は、別やろ」
「うん」
久世が頷くと、直哉は笑った。
「あの女も、ええとこ捕まえたな」
「家入さんね」
「聞いてへんところでまで、いちいち直さんでええやろ」
「僕が聞いてるから」
直哉は、つまらなそうに足を戻した。
「家に入れるんやったら、東京に置いといてええんか」
「彼女の仕事は東京にあるからね」
「こっち来させたらええやん。お前が継ぐんやろ」
「僕が当主になると、彼女の職場が変わるの?」
「変えられるやろ」
久世は、少しだけ笑った。
「嫌われるよ。それ」
「女の機嫌で家のこと決めるんかい」
「僕は家入さんのことも大事だからね」
直哉は久世を見た。
久世も見返した。どちらも、相手が納得するとは思っていなかった。
「……ほんま、あの女関連だけやな」
「何が?」
「お前が、理屈以外のこと言うん」
「他にも言ってるよ。僕、案外わがままなの知ってるだろう?」
直哉がまた鼻で笑った。
立ち上がり、袴の膝を払った。
「ほな、飯は別の日な」
「来週なら、木曜が空いてる」
「店、送っとくわ」
久世も立ち上がった。
「ああ、直哉。こないだの代理で来ていた人だけど」
「またあいつに任せるん?」
「その方が、君も話が早かっただろう」
「早いのはええけど、上に話戻したら、また最初からやで」
「上に戻さなくても、進みそうかい?」
直哉の足が止まった。
「……お前、最近そんなんばっかりやな」
「噂でも聞いた?」
「久世家のが好き勝手に頭悪いことしとるってな」
「裏で今までと同じことに戻されてるのは知ってるよ」
直哉は、それなら何の意味があるのかという顔をした。
久世は箱の入った紙袋を持ち直した。
「今は、代わりにできる人がいると分かればいいんだ」
「うちのは褒めとったで」
久世は動きを止め、少しだけ目を細めた。
「……それは、嬉しいな」
*
翌日、五条は職員室で椅子を回していた。
久世が入ると、床につけた足でそれを止めた。
「お。次の当主様」
「もう聞いたの?」
「硝子」
「早いなあ」
「さっき、そこで会った」
五条は、廊下の方を指した。
久世が来る前に、硝子は医務室へ戻っていた。出勤は別々だった。家を出る時刻まで合わせようとすると、どちらかが待つことになった。
「祝い、何がいい?」
「当日の予定が合えば、来てくれると嬉しい」
「うわ、面倒くさそう」
「聞いてから決めてよ」
久世は日付を伝えた。
奥の机にいた夏油が、手帳から顔を上げた。
「すみません。その日は行けません」
「先約?」
「菜々子たちの運動会です」
「ああ。もう、そんな時期か」
夏油は頷いた。
肩より下まで伸びた髪を、後ろでまとめている。机には任務の資料と、小学校から配られたらしい紙が並んでいた。
「終わってからでも、間に合いますか」
「京都だよ。無理しなくていい」
「では、別の日に。お祝いはさせてください」
「ありがとう」
五条が口を挟んだ。
「俺もそっち行く」
「運動会?」
久世が聞くと、五条は頷いた。
夏油は、少し眉を寄せた。
「……何をするつもりだい」
「普通に見に行くだけだけど?」
夏油は五条を見た。
五条も夏油を見た。
「保護者の競技、出るなら術式はなしだよ」
「なくても勝てるし」
「出るつもりなんだね」
久世は、持ってきた封筒を鞄へ戻した。
「じゃあ、二人とも欠席で伝えておくね」
「悪いね、先輩」
五条は、悪いと思っていない声で言った。
久世は父の言葉を思い出し、少し笑った。
「構わないよ。来る人の顔を、よく見ておくことにする」
「何それ」
「こっちの話」
夏油が机から薄い綴りを取った。
「こちらも、返しておきます」
「目を通してくれた?」
「はい。一か所、変えてほしいところが」
任務から外した術師と、その後の対応をまとめた資料だった。
休養した者も、仕事を変えた者もいる。四年前に作った報告書の項目が、まだ、そのまま使われているところがあった。
夏油は、表の見出しを指した。
「任務に戻るまでの日数を、そのまま回復の早さにしないでください」
久世は紙へ目を落とした。
「復帰した日と、休みに入った日は必要なんだけど」
「それは残して構いません。ただ、短ければ良いという書き方は、やめてほしいです」
夏油は、もう一頁めくった。
自分の記録を使った箇所に、線を引いていた。
「私が任務に戻ったのは、私が戻ると決めたからです。それで、前に話していたことが全部なくなったわけではない」
久世は、書き込まれたところまで読んだ。
五条の椅子も止まっていた。
「今も、なくなっていない?」
「非術師を守りたくないと思うことなら、ありますよ」
夏油は答えた。
窓の外で、誰かが大きな声を出した。グラウンドからだった。
「でも、行かない方がいいと思ったときは、そう言えています。代わってもらったこともあります」
「うん」
「戻った後まで見てもらわないと、これだけでは、休ませれば元通り働くと思われます」
久世は鞄からペンを出した。
見出しの横に、訂正を書き込んだ。
「担当を外した後の仕事についても、別に載せようか。君の場合なら、保護した子の受け入れや、家族への説明もしているから」
「それは、載せて構いません」
「この書き方で、もう一度見てもらえる?」
「はい。来週なら」
夏油は、戻された紙へ目を落とした。
一行を読んでから、久世のペンを借りた。
「ここもです。硝子が、一人で復帰を決めるように読めます」
「……そこは、本人にも見てもらった方がいいね」
「もう見せました。怒っていましたよ」
久世は顔を上げた。
五条が笑った。
「先に言ってよ」
「今、言いました」
夏油がペンを返した。
声は穏やかだったが、訂正してほしいところから、指は動かなかった。
*
夏油が面談へ出ていくと、五条は椅子を久世の方へ向けた。
「で」
「何?」
「当主になったら、進むわけ」
久世は、鞄へしまいかけた資料をいったん机に置いた。
「そのために継ぐんだよ」
「四年前から聞いてる」
五条は机に肘をついた。
「あのときの爺さん、まだ偉そうに座ってんじゃん」
「任務の割り振りには、直接触れなくなった」
「別の奴に言わせてるだけだろ」
「うん。だから、言われた方が何をしているか、今はそちらを見ている」
五条が、僅かに顎を引いた。
「こないだ、担当が変わったやつ?」
「そう。元の担当がいなくても、仕事は回った。君のところへ渡る資料も、戻ってから出す報告もね」
「あいつ、すげえ礼言ってきたけど」
「君が、前の担当を通さずに返したからだよ」
「お前が、そっちに出せって言ったんじゃん」
「出してくれたのは君だ」
五条は、指先で机を叩いた。
「それ、いつまでやんの」
久世は時計を見た。
次の予定まで、まだ少しあった。
「今度は、日程を決める話をしたい」
五条の指が止まった。
「……へえ」
「君と相談する前に、こちらで済ませておきたかった引き継ぎが、ようやく終わる」
「家の?」
「それも含めて」
五条は背もたれへ寄りかかった。
しばらく考えてから、机の上の紙を顎で指した。
「後に座らせる連中、俺も会うからな」
「もちろん」
「もちろんじゃねえだろ。お前、ずっと紙持ってきてたじゃん」
「先に、任せる仕事を知ってほしかったから」
「分かったから、次は顔見せて」
久世は頷いた。
何人かの名前を挙げると、五条は二人を知っていた。一人は、最近、現場へ来るようになった人間だった。
「こいつでいいと思ってんの?」
「今のところは」
「俺、気に入んないけど」
「どういうところが?」
「若いのに頼めば安く済むって、生徒の前で言うとこ」
久世は、出していたペンをもう一度取った。
「それ、いつの話?」
「先週」
「誰に言ったかも、後で聞かせて」
五条は、久世が書くのを見ていた。
「そいつ外したら、予定延びる?」
「任せる範囲を変えるかもしれない」
「そう」
久世がペンを置くと、五条は続けた。
「学校のことは、こっちでも決めるから」
「夜蛾先生と?」
「うん。お前が上になっても」
久世は、少しだけ笑った。
「会議には来てね」
「面倒くせえ」
「そこで黙っていて、後から嫌だと言われるのも困る」
「言うけど。後でも」
久世は笑うのをやめた。
「……そうだろうね」
五条が、楽しそうに口の端を上げた。
「傑にも話すの」
「頼みたいことはあるよ。まだ、本人とは相談していない」
「じゃ、先に聞けよ」
「うん」
「あいつ、最近普通に断るから」
久世は、夏油が出ていった扉を見た。
「知ってる。来週、僕が代わりに行くところがある」
「お前も?」
五条が、少しだけ目を丸くした。
それから携帯を取り出し、何かを確かめた。
「あ、違う日か」
「君も頼まれてるの?」
「面談、一個。俺が連れてきた子だから、俺が出ろって」
「それは、出た方がいいね」
「知ってるって」
五条は画面を閉じなかった。
予定の欄へ何かを書き込んでから、携帯を机に置いた。
*
夜、硝子が風呂から出ると、久世は台所にいた。
「まだ洗ってんの」
「終わったよ」
最後の皿を水切りに置いた。
手を拭いて、壁の時計を見た。
「今日は、早かったね」
「たまにはな」
硝子はソファへ座り、濡れた髪をタオルで押さえた。
久世も隣に来た。昨日はそこに置いてあった鞄が、今日は壁際へ移っていた。
「夏油から、紙、返してもらった?」
「うん。君が怒っていたとも聞いた」
「あんな書き方した覚えないんだけど」
「ごめん。何人かの手を通って、まとめ方が変わってた。直したものを、明日送る」
「次は先に見せて」
「そうする」
硝子はタオルを膝へ下ろした。
久世が、卓上の封筒を取った。
「あと、もうひとつ」
「まだあんの」
「来月のこと」
硝子は差し出された紙を受け取った。
当主交代の挨拶。場所と、日付が書いてあった。
「君にも来てほしいんだけど、どうかな」
硝子は日付を見た。
「休み取れるか、聞いてみる」
「うん」
「五条たちは?」
「運動会」
「ああ。そうか」
紙を封筒へ戻した。
久世は、まだこちらを見ていた。
「何」
「来てくれると思っていなかったから」
「まだ、休めるか分かんないよ」
「それでも」
硝子は封筒を卓上へ置いた。
「私のこと、何て紹介するつもり?」
久世の目が、少しだけ動いた。
「交際している人だと」
「ふうん」
「そこ、確かめる?」
「反転術式の説明から入られたら、帰ろうと思って」
「知ってる人しか来ないよ」
「そういうことじゃない」
久世は、困ったように笑った。
硝子はその顔を見てから、封筒をもう一度取った。
「何時に終わる」
「予定では、夕方」
「その後は?」
「遠くから来る人とは、少し話すことになると思う」
「じゃあ、翌日」
久世が首を傾けた。
「翌日が、どうかした?」
「空けといて。せっかく京都まで行くんだから、どっか連れてけ」
久世は携帯へ手を伸ばした。
予定を開いて、しばらく見ていた。
「昼からなら」
「朝も」
「……朝は、親戚が残ると思うんだけど」
「飯食べたら帰るでしょ」
久世が顔を上げた。
硝子は、笑っていた。
「それとも、私も一緒に聞いてた方がいい話?」
「いや」
久世はもう一度、画面を見た。
朝食の後に、念のため取っていた時間があった。誰かが引き留めるだろうと思っていた。実際、引き留めるだろう。
その欄へ、硝子、と入れた。
「空ける」
「うん」
「どこへ行きたい?」
「考えとく」
久世は携帯を置いた。
硝子の髪に触れ、指先に残った水を見た。
「まだ濡れてる」
「今から乾かす」
「やっていい?」
「自分でできる」
「したいんだよ」
立ち上がって洗面所へ向かうと、後ろで硝子が笑った。
乾かした後久世が隣へ座ると、硝子の方から肩を寄せてきた。
「明日、何時に出るの」
「昼前」
「朝はいるんだ」
「うん。君は?」
「午後から」
久世の手が、硝子の手に重なった。
指が入ってきたので、軽く握った。
「じゃあ、少しゆっくりできるね」
「起きられたらな」
久世がこちらを見た。
「起こしていい?」
「用事による」
「君と朝ご飯を食べたい」
硝子は、少し考えるふりをした。
「九時より前は駄目」
「分かった」
返事をしたくせに、久世は動かなかった。
硝子も、すぐには立たなかった。
先に顔を寄せたのは、硝子だった。
唇が触れる直前、久世が少し笑った。何がおかしいのか聞くつもりだったが、腰を引き寄せられて、言いそびれた。