うすほそ人外のじゃロリに殺した責任を取ってもらう 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「拓斗、今日は随分と手が込んでるのねぇ」
「むっ……」
昼休みの時間、生徒会室で弁当を広げた拓斗は、背後から覗きんできた唯の横顔を見た。
高校三年生というには大人びた造形だが、瞳はどこか子供っぽい好奇心が浮かんでいる。
出会って一年半ほどだが、至近距離になるには少し落ち着かない整った造形。
三日前に出会ったばかりのヘイとは色々な意味で正反対だ。
スタイルも抜群に良く、起伏に富んでいて、モデルの誘いを受けたなんて話も何度も聞いているが、そんな彼女が近すぎると少し気まずい。
「こほん」
一つ咳払いをしつつ、若干の距離を取る。
「うん?」
こちらの気まずさに気づかず、彼女はきょとんとしていた。
……なんつーか、他人の距離感とか、男女の差とか、そういうの気にしない人なんだよなぁ。
弁当についてだが、
「拓斗は料理上手だけど、弁当はいつも主食とおかずで二品くらいで抑えておくわよね」
「えぇ、ちょっと気が向いたからあれこれ作ってみました」
曲げわっぱの弁当箱の中にはバターライスにオムレツ、ほうれん草のソテー、にんじんのグラッセ、蒸した鶏胸肉が綺麗に収まっている。
唯の言う通り、普段からここまで品数を多くはしない。
食べ盛りの男子高校生として、炭水化物を多めにすることが習慣になっていた。
それが、インターネットで見栄えの良い弁当を検索したのは、
……ヘイに頼まれたから。
『タク、妾の昼飯、何か用意できんか? 妾はお主の作ったものが食べたいのぅ』
昨夜、双頭蛇との戦いを終えて帰宅した彼女がそんなことを言い出した。
正直、わりと疲れていたが、そんなことを言ってくれるのは素直に嬉しかった。
高校生活の一人暮らしでは、誰かに手料理を振る舞うことは少ない。
夜から仕込んで、朝に調理。朝食として一部出しつつ、昼食はレンジで温めるだけで食べれられるように準備をしておいた。
『大変に善い』
朝食から機嫌が良かったので、頑張って良かったとは思っている。
おまけで拓斗の弁当も豪華になったわけだし。
「んー」
唯が拓斗の後ろから正面の席に移動し、彼女も弁当箱を広げる。
五段重ねの重箱だった。
下から日の丸ご飯、味ご飯、主菜、主菜その二、副菜と積み重ねられ、別枠でデザートも控えている。
初見ではちょっと引くほどの健啖家ではあるが、全く太らない体質らしい。
唯はいただきます、と手を合わせ、食事を始めつつ、
「拓斗」
「はい?」
「恋人でも出来たのかしら」
「んっ、んんっ、ふふっ」
カービングナイフで綺麗な楕円形に形を整えたにんじんが喉に詰まった。
「んんー? 恋人ではないけれど、特別な関係かしら? よかった、拓斗にも春が来たのね。年中春夏秋冬というより宵の時、みたいな顔をしていたから心配していたのよ」
言い返す前にスマホが鳴った。
『詳しく』
翠だ。
拓斗がどう言い返すか考える間に、再びの通知音。
『昨日の詐欺の話ではないのか?』
「なんか、そんな感じじゃなさそうね? 勘だけど」
『唯先輩の勘は良く当たるが、本当に大丈夫そうか? 拓斗先輩』
「ひとまずはな」
「ヤバくなったら私が突っ込むからからそのつもりでね?」
良い笑顔で、唯はげんこつサイズのハンバーグを切り分けている。
立派な人物ではあるが、流石に彼女でも化物の相手は無理だ。
……昨日も似たようなこと聞かれたし、あからさまだっただろうか。
基本的に表情が変わらないと言われることが多いが、相手が唯であっても連続だとちょっと気になる。
非日常の出会いに浮ついていないと言われたら、嘘になる。
ウキウキで彼女のために料理なんて作っていたわけだし。
「とりあえず、今度の球技大会の話もしないといけないわね。放課後はそのあたりの話を詰めるわよ。あ、部活委員会対抗の徒歩戦、通常、障害物、クイズのトリプルリレーはもうエントリー決めていおいたから安心しておいてね?」
『唯先輩。私は行かないぞ』
「えぇ、わかってるわ」
「あれ、五人参加ですよね? どうするんですか、助っ人でも?」
「いいえ、私と拓斗の二人で出るわよ。私が四人分走るから問題ないわ」
『ありなのか?』
「去年、唯先輩は色々な部活の助っ人に七回呼ばれて同じ競技に二十回以上出て、全部で勝ってしまったから、唯先輩の運用制限が今年はかかっていたはずだが……そういうパターンもあるのか」
「ルール上問題ないのは顧問である
「いえ、結構です」
ヘイとの『神遺物』云々がなかったとしても、無理な話だ。
空衣唯はとにかく、バイタリティが高い上にアグレッシブだ。
「目の前にある今、その全てを楽しむ。それが私のモットーだからね。ありがとう、翠。あなたのおかげで私の青春は物理的に楽しさが増しているわ」
『引きこもりをそんな形に感謝するのは唯先輩くらいしかいないだろうな……』
「他にもいたら困る」
「ひどいわね。別に、普通に参加してもいいのよ? それはそれで私は愛する後輩が一人増えて嬉しいけれど」
『やめておこう。肉体労働は得意ではない、私は頭脳労働専門で』
「それもまた良いでしょう」
嬉しそうに答え、唯は弁当に集中し始めた。
食べる時は静かに食べるタイプの人だ。
拓斗も基本的にはそうだったが、
『私たちの先輩は変な人だな、拓斗先輩』
翠からのメッセージが、個別で拓斗だけに来ていた。
『陰口は感心しない』
『陰口ではない、事実だ。正面からでも言えるし、変なのは変だろう』
『それは、そうだが。しかし、俺もお前も人のことは言えない』
死に方ばかり妄想する陰気な自分と引きこもりでカメラ越しにメッセージで会話する翠。
『自慢じゃないが、唯先輩がいなかったら俺はクラスで一人でご飯を食べていただろう』
『自殺妄想家が便所飯か……』
『いや、トイレでは食べないが。それに妄想は自殺だけじゃない、他殺も事故死もだ』
『そんなことを訂正されても困るんだが?』
唯より先に食事を終えた拓斗は翠とメッセージのやり取りをしつつ、生徒会室に備え付けの給湯器でコーヒーを飲んでいた。
昼に生徒会室で唯と雑談をしつつ昼食、弁当に集中し始めた唯を横目に翠とメッセージで会話するか生徒会の仕事をするというのが拓斗の恒例行事だった。
翠とやりとりをしていると、
「むっ」
通話アプリに登録されたIDから着信が入った。
ヘイだ。
あの死神様は、QR決済もしていたがスマホの機能全般を使いこなしており、当然のように通話アプリのIDも交換していた。
唯と翠にそれぞれ一言づつ断り、生徒会室の外に出て電話に出た。
「ヘイ」
『タク。すまんの、急に。今は、昼休みかの?』
「あぁ。弁当を食べ終えたところだが、何かあったか?」
『うんむ。まずは、昼食、大変美味であった。お主は料理が上手いの』
「……そうか? それは、よかった」
そんなことを言われるとは思わなかったので、一瞬戸惑うが、あとに来るのは純粋な喜びだった。
趣味ではあるが、人に振る舞う機会は少ない。
……結構嬉しいな。
朝も言われたが、わざわざ電話で言ってくれたというのが殊更嬉しい。
頑張った甲斐があったというものだ。
「それで? それだけではないだろう?」
『いや、これが本題ではあるんじゃがな? せっかくお主の睡眠時間を削って美味しいごはんを作ってくれたんじゃから、ちょいと礼もできんかと思ってのぉ』
「そんな気にすることでもないが」
『そうもいかん。妾がいっぱい持ってる二つ名とか通り名のあれこれが泣くわい。それでな? お主の家、広くて立派なわりには手が回らんことになっておるじゃろ?』
「まぁな。使ってない部屋とか整備しきれていない庭とか……」
ヘイがくつろいでいた池とかもそうだ。
『じゃから、ワシの伝手を辿って、その当たり上手いことできる者を呼んでみようかと思っての。ようはちょっとした使用人……今風に言えばハウスクリーニングかの』
「相変わらず現代人より現代に詳しいな……」
『不老不死ではあるが妾も現代人じゃぞ? ともあれ、どうじゃ。悪いようにはせんと約束する。妾の言う約束は超重いぞ? 絶対破らんから安心せい』
「疑ってはないが」
拓斗は少し考え、
「アンタに任せるよ」
……なんか穴場の業者とか知ってそうだもんなぁ。
世慣れたした彼女なら何を知っていても不思議ではない。
変なこともしないだろう。
『おぉ、よかった。では手配しておくでな。授業中、昼寝するでないぞ。寝るならバレんように』
またぞろ妙に親近感を湧かせるような言葉を最後に電話を切る。
生徒会室に戻ろうとし、
「ちょいと」
声が掛かった。
●
拓斗に声を掛けてきたのは先輩である少女だった。
日焼けした小麦色の肌、外ハネウルフカットの黒髪、その内側を濃い青色で染めている。
制服であるセーラー服は規定通りに来ているが、右耳全体に五つほど、様々な形状のピアスを付け、指や手首にはシルバーアクセサリーが複数付けられていた。
スカートは規定よりもだいぶ短く、見るからにギャルや不良といった単語を思わせる。
「氷見先輩? どうも」
「ん、秋宮」
小さく頭を下げた拓斗に対し、彼女も小さく頷く。
氷見弥生。
彼女とは友人というほどではないが、顔見知りで、
「珍しいですね」
「あー、まーね。唯、いる? 用があったから」
「はい。部屋で弁当を」
「そっ」
弥生が扉を空ける前に、拓斗が開け、彼女の入室を促す。
右手で手を立てた彼女が中に入ってき、
「唯」
「弥生? どうしたの、生徒会室まで」
「今日はもう帰ることになったから、帰りの約束はまた今度って伝えに来た」
「あら、残念」
会話をする唯と弥生を横目に、拓斗はさっきまで自分が座っていた席に戻る。
『氷見弥生か?』
『あぁ。翠は知り合いだったか?』
『知ってはいる。だが見るからに不良で、黒ギャルで、ヤンキーじゃないか。唯先輩と親友というのも信じられない』
『不良とヤンキーは似たようなものじゃないか? 何でも幼馴染らしいぞ』
『唯先輩と……? あんなにピアス大量についているのに? タトゥーとか入っていそうじゃないか』
『偏見がすごくないか?』
流石に高校生でタトゥーはないだろう。
ピアスに関しては、普江田高校の大して厳しくない校則では問題はない。
見た目が派手なだけだ。
『愛想が良いわけじゃないが、悪い人じゃない』
『拓斗先輩の同類ということか? 向こうのほうが見た目の危険度が高いが。気をつけたほうが良い。あまり気を許すな、拓斗先輩』
反応に困った。
翠は生徒会の唯と拓斗相手はいいのだが、それ以外の相手への警戒心が強い。
だがまぁ引きこもりでカメラとチャット越しでしか会話をしない翠ならばこんなものだろうとも思う。
拓斗が翠とやり取りをしている間に、唯と弥生の会話は終わったらしい。
「それじゃ、唯。また今度」
「えぇ。放課後のスイーツバイキングはまた今度に行きましょう」
そうして、弥生は部屋を出ようとし、
「………………秋宮」
「はい?」
拓斗に声をかけてきた。
そんなことは珍しい。
弥生とは、友人の友人という関係で雑談するような関係でもない。
拓斗にしても彼女にしても、社交的な方ではないのだ。
「なんでしょう、氷見先輩」
彼女は小さく口を開き、
「……いや、なんでもない」
「はぁ」
「じゃあね。唯、秋宮」
何事もなかったかのように彼女は去っていった。
……なんだったんだ?
拓斗が思い、首を傾けていると唯も人差し指を顎に当てて、不思議そうな顔をしていた。
「拓斗? なにかしたの?」
「いえ、心当たりはありませんけど……」
「ふぅん。となると、モテ期かしらね? 弥生は可愛いし」
『気をつけろ、拓斗先輩。美人は危険がいっぱいだからな。唯先輩はともかく』
「……」
家にいる小さな美人を思い出し、反応に困る拓斗だった。
●
「おかえりなさいませ、拓斗様。ヘイ様のご命令の下、お邪魔させて頂いております」
家に帰ったらメイドの美人が待っていた。
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