うすほそ人外のじゃロリに殺した責任を取ってもらう 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「分かっていだろう、終焉。今この街で何が起きているのか」
身を乗り出したハンクの言葉、どこか必死ささえ込められていた。
……何の話だ?
拓斗が眉をひそめ、
「知らんの。妾には関係ないことじゃ」
ヘイは興味が無さそうにポテトをハイペースで口に運んでいた。
「タク、お主も食べるか? ちゃんと揚げたてじゃぞ」
「あ、あぁ」
彼女が摘んだものを貰いつつ、拓斗はハンクを見る。
彼は明らかに苛立っていた。
「終焉、今回は見逃せ。アンタの立場は分かっているが、事も大きさも分かっているだろう」
「しつこいのぅ。知らん」
「……」
ハンクの表情がさらに険しくなる。
何の話をしているのか拓斗にはさっぱりだった。
そのことがハンクにも伝わったのだろう、彼は体の向きを変え、拓斗に語りかけだした。
「契約者、お前も言ってやれ。なんなら、お前にも恩恵を分けてやっても良い」
「悪いが、話が見えない。何の話をしているんだ?」
「なに? 終焉、お前、自分の契約者に教えていないのか?」
「言ったであろ、妾には関係ないことじゃからのぅ」
「まじかよ! 信じられない!」
彼は大げさに腕を広げながら肩をすくめる。
……おぉ、こういう仕草、ほんとにするのか……。
いかにも欧米人っぽいリアクションにちょっと感動した。
「少年、まさか本当に素人なのか?」
「どういう意味かによるが、あんたらの界隈のことは全く知らないという意味でなら素人だ」
「ガッデムッ! それは予想していなかったな。……ガキと言ったのは詫びようか、仲良くしよう」
急ににっこりと笑い出すが、胡散臭いことこの上ない。
「ヘイ? どういうことだ?」
それはそれとして、ハンクが何を言っているのか流石に気になるので拓斗はヘイへと問う。
教えてくれることは、あまり期待していなかったが。
ハンクに対する物言いは、あまりにも素っ気なかったからだ。
彼女に関係ないのなら、自分にも関係ないかと思い、
「この街に、≪特異点≫がいる」
質問に対して即座に返ってきた返事を聞いた。
「特異点というのは、象法師界においては極めて重要な存在であってな。特別な象力を持った者のことを言う。妾のような≪真我≫は世の理を象徴するが、特異点は世の理を超越する力を持つ。とにかくとんでもない才能の持ち主で、望むことは何でもできるような万能かつ反則の者と思うと良い」
「……」
「なんじゃ?」
「いや、普通に教えてくれるんだと思って」
「そうだ。さっきまで口に出すのも億劫だったろうが」
「おかしなことを言うのう、ジョーンズ。お主は敵じゃが、タクは我が≪
ハンクが眉を上げ唇をひん曲げて不満を表現したが、ヘイはどこ吹く風だ。
それはそれとして、拓斗は特異点というものを考え、
「それがこの街にいるっていうのは、凄いことなのか?」
「まぁの。≪特異点≫ちゅーのは、つまりは絶対に特等が当たることが最初から分かっている宝くじじゃ。なら、それが売られている宝くじに人は殺到する者じゃろう? 早い者勝ちなら奪い合いが発生するのも当然と言える」
「なるほど……だが、そんな凄い存在なのに、ヘイは関わらないのか?」
「言ったであろ、妾の仕事は不滅の≪神遺物≫の破壊じゃ。このジョーンズが持っているようなやつな。目の前で絶対に当たる宝くじの争奪戦が起きているとしたら、妾は宝くじ屋の裏で害虫駆除をしている業者じゃ。買うわけにもいかんじゃろ。ま、純粋に妾には不要という話ではあるんじゃが」
「そんなもんなのか」
「そんなわけないだろ」
だんっ、とハンクが拳を机に叩きつけた。
「≪特異点≫を手に入れるということは、この世界の勢力図を変えることができる。≪真我≫であろうとも欲しがらないはずがない。それとも、何か? もう≪特異点≫を確保しているのか?」
「しつこいのぅ。その話はもう飽きた」
ヘイは大きく嘆息し、テーブルの奥に調味料棚に視線を送る。
ケチャップ、塩、胡椒、オリジナルスパイスが並んでおり、そのうち最後のそれを手に取った。
ポテトへとスパイスをふりかけ、
「それよりもタク、今はどういう気分じゃ?」
「どういうって言われてもな……」
正直、普通にファミレスで座っていることの違和感は未だに拭えない。
特異点という重大な存在がこの街にいるのはわかったが、ヘイと関わりがないということは拓斗にもないということだ。「
「結局、この人の持ってる≪神遺物≫の話はどうした? 今のところはただの外国の人って感じなんだが」
「おぉ、そうだったそうだった」
ぱんっ、とヘイは大げさに手を打ち鳴らす。
拓斗の方から聞いてくれるのを待っていたと言わんばかりにわざとらしく破顔。
「こやつの≪青銅の鱗≫、それ自体は蛇の鱗のブローチみたいなものでの。体に取り込むと、体から鱗が生えるようになり、不老不死、不滅の存在となるわけじゃな」
思わず拓斗はハンクの顔をマジマジと見た。
初老の男ではあるが、鱗は見えない。
「……出し入れは自由だ」
拓斗の考えを察したのか、ハンクは小さく肩をすくめながら答えた。
「その鱗は体から剥がすことができる。そして、あることをすると、鱗の一枚一枚から、さんざん見てきた双頭の蛇を生み出すことができるわけじゃ」
「あること?」
「その鱗に、命を与えるということじゃ」
「――――」
言葉の意味が、拓斗には良くわからなかった。
命を与える。
比喩表現なのか、直接表現なのか。
「言っておくがな、≪契約者≫。俺は今回この街で一人も殺していない」
「それはそうであろな。≪特異点≫に集まっている象法師のせいで、お主がこれまで通りに鱗を使って虐殺を行えば、それこそ≪特異点≫を探すのも確保も難しくなるであろ」
虐殺。
それ至る可能性をヘイは口にしていた。
だから、拓斗はヘイに協力をしようとしたのだ。
「おいおい、終焉。嫌な言い方をして、契約者君への印象を悪くするな。殺しはしていない。本当だ」
「だが、蛇が生まれていたということは命を食らっている」
「少し体調が悪くなったり、疲れやすく、眠くなったりするだけ。俺の捕食のせいで死んだ人間はいないぞ? 酒でも飲んでしまえば何も変わらない」
「それだけではないであろう」
初めてヘイがポテトを食べる手を止めた。
窓の外、最初に目にした病院へ視線を送る。
「タク、あの病院が何を専門としているか知っておるか?」
「いや。初めて来たからな……むしろなんでヘイが知っている?」
「スマホで調べたら出てくるじゃろ」
「……それはまぁそうなんだが」
「ともあれ、あの病院の専門はの。精神科と老介護、加えて―――
「それは」
「終末期医療とも言うが、つまり余命僅かな人間が安らかな死を迎えられるように、というものじゃ。病気、老衰、認知症、そういった者があの病院で入院しており―――その性質上、死人が出る」
ぞわり、と背筋に悪寒が走った。
嫌な予感だ。
何か、今からヘイは、おぞましいことを言うのではないかというという予感。
「蛇は、命を食らう。なるほど、そのせいで死ぬことはしておらんのじゃろう。どうせ死ぬ人間から命を食らっているのなら。三日後に死ぬ人間から一日分の命を食らうだけ。大きな違いはないと、そう言うであろ?」
「悪いか? どうせ死ぬんだ」
「然り。死は必ず訪れる。お主や妾のような例外を除いてな。だが―――その時を定める権利は、お主を持ち合わせておらんだろ」
ぴりりとした緊張感が走る。
その中で、拓斗はヘイの言葉を反芻していた。
「つまり……あんたは、これから死ぬ人から命を奪って、死を早めていたってわけか?」
「言い方が悪いな、少年」
ハンクは唇を曲げ、首を回し、
「だけど、あぁ、そういうことだ。言っただろ? どうせ死ぬ連中だ。俺は殺していない」
「そして≪青銅の蛇≫を使って産んだ蛇は、最初に僅かな生命力しか与えられなくとも、時間をかければその生命を増幅させ、成長する。それがこの街に潜む双頭蛇であったというわけじゃ。そのやり方であれば直接的な死人は生じないから、象法師の組織に気づかれる可能性も低い。妾でなければ、気づくのにもっと時間が掛かったであろうのぅ」
二度戦った無数の蛇たち。
あれは、この街の人々の命を糧に生まれたものだった。
それを拓斗は終わらせたのだ。
「あんたは……なんでそんなことを」
じりり、と何かが、拓斗の胸の奥で熱を持った。
「≪特異点≫を確保するため、と言っても君には通じないか。やれやれ、終焉。なんでこんなやつを≪契約者≫に選んだ?」
「お主に教えてやる義理はない」
「そうか。どうやら取引も駄目そうだ」
「うむ。妾を前にできると思っていたのが驚きじゃわい」
「ならなんで会話に応じたのかという話だが……まぁいい」
ハンクをため息を吐いた後、ニッコリと笑い、
「それじゃあ、始めるか」
どぷん、という感覚が拓斗を飲み込んだ。
●
深界に以降すると共に、ハンクの体が解けて消えた。
彼自身の肉体が極小の双頭蛇となったのだ。数十センチ程度の蛇たちが何十体も集まって、蠢いてる。
さらに、人間大の小型の双頭蛇も、数十匹がファミレス内に待ち構えていた。
それらは拓斗とヘイが深界に出現した直後に、二人へと殺到。
ファミレス内さえ埋め尽くそうとする蛇たちは、文字通り濁流となって彼らを飲み込もうとし、
「黄昏を目指しながら、旅の意味を問う―――」
「――――涙と共に踏み出し、微笑みと共に至る果てに約束を」
漆黒の炎が吹き上がった。
「……!?」
生じた黒炎は竜巻状に頭上へ伸び、ファミレスの建物全体を消し飛ばした。
蛇たちは一瞬で消滅し、その残滓の灰が振り散る中に拓斗は佇んでいた。
背後には、半透明のヘイがいて、
「……なぁ、その姿でも食い物を持ち込めるのか」
ドリンクとポテトの皿をそれぞれ両手に持っていた。
『そりゃあ、そうでなかったら妾、常に全裸になってしまうであろ。生き物はだめじゃが、食べ物くらいならどうとでもなる。やつが思うたよりせっかちだったから食い切れなんだ。あのまま残しておくにはもったいないからのぅ』
「そうか」
のんびりと彼女はポテトを摘んでいる。
いつも通りだ。
だが、拓斗の方はそうではなかった。
「ヘイ、わざわざあいつと話したのは……俺のためか?」
『妾たちのため、と言っておこう』
彼女の答えは即座だった。
『不滅の破壊は妾の使命であって、お主のものではない。お主は存外付き合いが良く、ずっと付いてきてくれているが、戦うというのに成り行き、では良くない。ゆえ、お主があのジョーンズをどう思うか、というのは明確にしておく必要があると思ったのじゃ』
「俺がやる気にならなかったらどうするつもりだったんだ?」
『その時はその時じゃな。今回の不滅殺しは諦めて、この街のグルメ巡りでもしようかと思っておった』
「どんだけ食いしん坊なんだ」
拓斗は思わずため息を吐き、
「あいつは、誰も殺していないのか」
視線は、道路の向かいの病院。
深界に移動し、電気は灯っておらず、赤い空の下に不気味さを発していた。
そこに、多くの病人、末期患者がいるという。
『見方によるのぅ。確かにあやつは直接殺しをしてはおらんのじゃろ。実際、そうしておったのなら、他の象法師に目をつけられていたであろうからの。だから、手にはかけておらん』
「それでも」
思うのは、
「例え、死ぬことが決まっていたとしても。それを速める権利は誰にもないはずだ」
三日後に死ぬから、二日後に死んでもいいのか?
どうせ死ぬなら、さっさと殺しても良いのか?
大したことはないからと、他人から命を奪っても良いのか?
……断じて、否だ。
拓斗の胸の奥、燃えているモノがある。
「あいつを放っておくと、大勢死ぬって言ったよな」
『言ったのぅ』
「俺が日和れば、あいつを放っておくんだな?」
『そのつもりじゃ』
「わかった」
頷き、
「――――あいつと戦おう。俺は、俺の意思で」
黒剣を振るい、宿った炎が燃え上がる。
それは胸に宿る怒りと同じように。
「生も、死も、あいつは馬鹿にしている。だったら、俺はそれを認められない。あんたはどうだ?』
『無論、言うまでもない。良い答えじゃ、我が契約者』
そして、拓斗が見ていた病院。
その影に変化があった。
ぞわぞわと蠢き、影が広がっていく。
加え、影の中に膨大な緑の光点があった。
蛇の目だ。
大中小、様々な大きさの双頭蛇が病院全体からにじみ出て、覆い尽くしているのだ。
最も大きいものは、これまで戦った大型よりも更に大きく、全長数十メートルを越えているほどだ。
数にすれば数百、数千に届くかもしれない。
その全てが、この街の人々から食らった命で出来ている。
『征こうか、タク』
「あぁ、終わらせよう、ヘイ」
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