沖へ出た年配の男性が船の上から魚釣りをしている。
「お!」
竿に何かがかかり、男性は釣り上げようとする。
「くっ、結構大物だぞ!」
リールを巻いたり緩めたりして海の中の相手との格闘。
「よし!」
魚を釣り上げた。
そう思った。
しかし、水面から顔を出したのは、大きなイカの怪物。
全長五十メートルほどのイカだ。
クラーケンと呼ばれるそのイカは、船の上の男性を押す。
「うわ! うわああああ!」
男性はクラーケンの触手に絡め取られ海に引きづり込まれてしまう。
ACR基地。
鈴間が話をしている。
「先日、東京湾の沖合で、釣り客が巨大な何かに海へ引きづり込まれるという事件があった」
「巨大な何か?」
と、隊員の一人が訊く。
「うん。近くを遊覧していた乗組員が確認したそうだ。巨大なイカを」
「巨大なイカですか?」
と、恭子。
「推定全長五十メートルはあるとのことだった。恐らく、近世ノルウェーに伝わっていた海の怪物……クラーケンではないかと思われる」
「そのクラーケンがどうして日本に?」
「実はな、クラーケンはノルウェーだけの伝説ではないんだ。日本でも深海獣イカルガとして恐れられてきていたんだ」
「イカルガ……」
その場にいた隊員たちが一堂に想像して戦慄する。
「まずは高木隊員。クラーケンの調査メンバーに入ってくれ」
鈴間がそう指名してから、他の隊員を見る。
「そうだな。今回はイカ博士の
斑鳩隊員が突っ込む。
「隊長、相手がイカルガだから僕を選んでます?」
「お前はイカの生態にとても詳しい。だから選んだ」
鈴間は一瞬だけ目を逸らした。
「高木隊員、斑鳩隊員の両名は準備して現地に向かってくれ」
「「はい!」」
二人は海底探査機で東京湾の沖合の調査に向かった。
探査機の中で斑鳩が口を開く。
「いくら僕がイカ博士でも、クラーケンの生態がイカと合致するとは思えないけどなあ」
「じゃあ何しに来たんですか?」
と、恭子は訊く。
「隊長に訊いて」
ごもっともだった。
探査機がしばらく海底を航行。
恭子は窓の外を覗き込んでいる。
「高木さん、何か異常はありますか?」
「いや、特には……」
刹那、探査機のレーダーに反応が現れた。
「後方から何か近づいてきてます。見えますか」
恭子は目を凝らして後方を確認する。
確かに何かが近づいていきている。それも大きな影だ。
「ぶつかると危険よ。浮上しましょう」
探査機が浮上する。
大きな影はそれを見て追いかけてくる。
「追跡してくる?」
と、恭子。
「何ですって?」
そう言うのは斑鳩だ。
「斑鳩さん、向きを変えて魚雷を発射」
斑鳩は探査機の向きを後方の巨大な影に変え魚雷を発射した。
太い触手のようなものが動き、魚雷を撃ち落とす。
影は接近する速度を上げる。
そして、その影がだんだんと近づいてきて、はっきりとした姿が見えてきた。
全長五十メートルの巨大なイカ。
クラーケン。
間違いようがなかった。
「く、クラーケンだああああ!」
クラーケンの触手が探査機を襲う。
探査機はコントロールを失い海底へ落下していく。
急激な水圧変化で探査機の皮膜が音を立てて凹む。
探査機は海底に墜落すると少し地面を滑って止まった。
衝撃が原因で故障したのか、探査機はびくともしない。
「やべえ、船体壊れた!」
「ちょっと、どうやって逃げるのよ!?」
「助けてくれ、ウルトラマーン!」
「そんなものいるわけないでしょう!?」
二人が漫才をしている間にも、クラーケンは探査機に近づいてくる。
恭子は懐からスティックを取り出すが。
(この状況を何とかするにはこれしかないけど……)
しかし船内には斑鳩が乗っている。
アストライアを呼び出せば、斑鳩に正体を知られてしまう。
恭子はスティックを押すわけにはいかなかった。
斑鳩は口が軽い。内緒話など到底できないタイプの人間だった。
クラーケンが触手で探査機を巻き取る。
絶対絶命のピンチ。
そう思った時、伝説の海神が現れ、クラーケンの触手を切り落とし、探査機を救出した。
「あの巨人は……?」
首を傾げる斑鳩。
探査機はゆっくりと海底に着地する。
恭子は海神を見て懐かしさを覚えた。
(ポセイドーン……)
海神ポセイドーン。
恭子がまだ自衛隊に所属する前、海底神殿でお世話になったことのある旧知の仲だ。
目の前のポセイドーンがクラーケンと戦う。
ポセイドーンの剣が遅いくるクラーケンの触手を切り落とし。
残った触手でポセイドーンの顔を叩く。
ポセイドーンは触手を払い。
クラーケンが触手でポセイドーンを転ばせる。
ポセイドーンは起き上がり、迫り来るクラーケンの触手を切った。
クラーケンは残る全ての触手を使ってポセイドーンを襲う。
ポセイドーンはバックステップで攻撃をかわし、クラーケンが触手を引いた隙に懐へと潜る。
クラーケンの体にポセイドーンの剣が突き刺さる。
「ぎああああ!」
悲鳴を上げるクラーケン。
ポセイドーンは剣を抜き、頭上に振りかぶるとクラーケンに向かってジャンプしてその刃を一気に下ろした。
クラーケンの体が縦に真っ二つに切り裂かれ、力を失ってその場に崩れ落ちた。
ポセイドーンは探査機を抱え、浮上して陸地にゆっくりと置いた。
探査機から降りる二人。
「誰だかわからないけど、助かったよ!」
と、斑鳩がポセイドーンの方を向いて言った。
ポセイドーンは恭子に気づくと、声をかけようした。
しかし、恭子が両手を顔の前でブンブン振ると、ポセイドーンはその意味を理解して何も言わなかった。
そして、ポセイドーンは海の底へと戻っていくのであった。