東京。
住宅街に私立探偵事務所が設置された。
輝須 彰の店舗だ。
以前の事務所を引き払ってこちらに越してきたのである。
店舗前の看板には、調査員募集の文字。
その前をテレスが通りかかる。
テレスは地球に来たばかりで無一文だ。
(調査員募集?)
テレスは事務所に入る。
「すみませーん」
輝須が出迎える。
「どうされました?」
「表の看板見させていただきました。調査員ので」
「ああ。応募の方ですか?」
「はい」
「今、空いてるんで面接しちゃいます?」
「お願いします」
輝須はテレスに椅子へ座るよう促した。
テレスの向かい側に机を挟んで座る輝須。
お前ら紛らわし名前をするな。
「うん? 今なんか聞こえなかったですか?」
「いや、気のせいじゃないですかね?」
輝須がテレスの前に紙を置く。
「履歴書代わりです」
テレスは紙を見て、必要事項に記入をする。
輝須は受け取った紙を見て。
「へえ。あなたも調査員の経験が?」
「はい」
「では即戦力になりますね。いいでしょう。ぜひうちでやってください」
(名前はテレスか。文字だけ見ると俺と同じだけど、外国の方なんだなきっと)
「ああ、そうだ」
輝須がテレスに名刺を渡す。
「所長の輝須 彰です」
「輝須? 同じ名前ですね」
「苗字ですけどね」
二人の名前が似ていた。
いや、似ているどころではない。
片方は名前で、もう一方は苗字なだけである。
「よろしければ、テレスさんの家族構成をお伺いしてもよろしいですか?」
「妹が一人。警察官です」
「へえ。奇遇ですね。私の妹も警察官なんですよ。有栖 由美って言うんです」
「有栖? 実は私の妹もアリスなんです」
「すごい偶然ですね」
二人の妹は警察官だった。
名前も似ていた。
偶然とは恐ろしいものである。
いや、ここまで来ると恐ろしいを通り越して腹立たしい。
「それじゃあ——」
輝須が言う。
「今、うちで扱おうとしている案件があるんですけど、形だけですが入社試験ってことで、とある事件の調査をしていただきましょうか」
「事件……ですか」
輝須は一枚の写真を取り出す。
そこには見窄らしい男性が写っている。
十六歳。
一週間前にバイトに出かけたきり自宅に戻っていない。
家族が心配して警察に相談するも、事件性なしとして捜索はされていなかった。
住所は東京都杉並区東三丁目。
「この男子高校生を捜し出していただきたいです。私は家出ではないかと思っているのですが」
「わかりました。写真、預かりますね」
テレスは写真を預かると、剛力の家へ向かう。
事務所を出たところで、恭子と雄一が通りかかった。
「あ、輝須さんじゃないですか」
恭子はたった今テレスの出てきた事務所を見る。
「ここ、輝須さんの?」
「そうだよ」
「何か事件でしょうか?」
「そうなんだよ。今、この人を捜しに行こうとしていてね」
テレスは恭子に剛力の写真を見せる。
(剛力 康太!?)
「テレスさんの調査、我々も同行してよろしいでしょうか?」
「それはどうして?」
「実は我々ACRでもその高校生を探しているんですよ」
「そうなのか。では、合同捜査ってことで同行しようか」
恭子の同僚の雄一が口を開く。
「あの、この方は?」
「有栖さんのお兄さんだよ」
「ああ、あのお巡りさんの」
また一人、勘違い役が増えたのである。
改めて三人は剛力の家に向かう。
剛力家に着き、インターホンを鳴らした。
「はーい」
女性が出てくる。
きっと剛力の母だろう。
恭子はACR手帳を見せる。
「ACRの高木です。こちらの剛力 康太さんの件でお伺いしました」
「え、康太の失踪は宇宙人と関係してるんですか?」
母の問い。
「その恐れがあるので調べています。話を聞かせていただけないでしょうか?」
「はい。汚いですが、とりあえず上がってください」
家へと招き入れられた三人はリビングの椅子に腰掛けた。
「今、お茶を出しますね」
「いえ、お構いなく」
三人の前にお茶が出される。
向かい側に母親が座った。
「では、早速ですが、康太さんが最後に家を出たのはいつでしょうか?」
「一週間前の水曜日です。その日は初めてのアルバイトの日で、張り切って出かけて行きました」
ところが、夜になり、日付が変わっても帰宅しない。
心配になった母親は父親と相談した翌朝、警察に相談をしたが、事件性もなくただの家出ということで捜索はされなかった。
「康太さんはどちらのバイト先へ向かったんでしょうか?」
「それが教えてくれなかったんです。ただバイトに受かったから行ってくるとだけで」
「康太さんのお部屋を拝見しても?」
「どうぞ」
母親が康太の部屋に案内する。
リビングを出て、階段を上がり、廊下を左に曲がったすぐのところが康太の部屋だった。
「こちらです」
扉を開ける。
「部屋は失踪時のままです」
「失礼しますよ」
三人は部屋に入る。
「では私は下におりますので、何かあったらお声がけください」
母親が階段を降りていった。
三人は部屋の中を調べる。
恭子は机。
恭子は日記帳を手に取って開いた。
日記には康太がいじめられているということが書かれていた。
それを読み進めると、そのいじめの加害者に仕返しをすべく、宇宙人の肉体改造施設へ行くということが殴り書きされている。
(肉体改造施設?)
テレスが日記帳を覗き込む。
「何かあったのか?」
「気になるワードが」
どれどれ、と見るテレス。
「宇宙人の肉体改造施設?」
「輝須さん、これは大きな手がかりですよ」
三人は室内をくまなく探し回り、肉体改造施設の住所が書いてあるパンフレットを見つけた。
「行きましょう」
三人は階下に降りた。
「お母さん、重要な手がかりが見つかりました。これからその場所に行ってきます」
「息子は、息子はそこにいるんですね?」
「それは……」
「お願いします。息子を無事に帰してください」
三人は剛力家を出る。
「輝須さん、この先は危険です。我々ACRに任せてもらえませんか?」
「いえ、俺も行くよ。探偵として最後まで見たいんだ」
「わかりました。ですが、なにが起こるかはわかりません。それだけご理解ください」
三人は住所の元へ移動した。
そこは都内にある山奥の誰も寄りつかないような場所。
ポツンと一軒だけ建造物がある。
ポツンと一軒家か。
三人は建造物の周囲を確認する。
表に戻り、静かに中へと入る。
中はもぬけの殻。
しかし、様々な実験設備が残っており、どうやらここで何かが行われていたことだけはわかった。
奥へ進み、コンピュータルームへ。
コンピュータを起動させる。
データを確認すると、あらゆる証拠がわんさかと出てきた。
人間の生態調査。
実験サンプルの回収。
精神操作。
そして人体の機械化。
「拐われた高校生の居場所を特定しましょう」
恭子はコンピュータを調べる。
剛力 康太。
機械惑星ギアールに移送。
「機械惑星ギアール……」
呟く恭子。
「そんな星どこにあるんだよ」
と、雄一が困ったように言う。
「……乙女座」
テレスがそう言った。
「輝須さん?」
恭子がテレスの言葉を不審に思う。
「う、宇宙人の知り合いに聞いたんだよ。そんな星があるって」
「なんだ、そうだったの」
雄一が疑問を口にする。
「大体そんなところまでどうやって行くんだよ? 乙女座まで短くても250光年はあるぞ」
「そうね。アストライアなら行けるんでしょうけど」
「まあ、アストライアならな」
テレスは思った。
(あの白銀の巨人か)
「250光年か……お手上げだな。アルクビエレ・ドライブが実現できれば地球人類でも行けるだろうけど」
「ここまで、か」
テレスは歩き出す。
「どちらへ?」
「帰る」
そう言ってテレスは去っていってしまった。
「高木さん」
雄一が声をかける。
「あんた、宇宙船持ってないのか?」
「持ってるよ。アルクビエレ・ドライブもできる」
「なに!? 本当か!」
「うん」
「それじゃあ行こうぜ! 機械惑星ギアールに!」
「私もそう思っていたところだよ」
恭子は時空転移装置を取り出す。
「それは?」
「時空転移装置。これで宇宙船まで一っ飛びよ」
装置起動。
二人の体が亜空間を通って恭子の宇宙船に転移した。