輝須の探偵事務所。
テレスは輝須に昨日の失踪事件の報告をしていた。
「宇宙人絡みの事件だったんですか?」
「ええ。乙女座のギアールって惑星に剛力 康太はいました。今は母の元に戻ってます」
「しかし、乙女座までは250光年はかかりますよ。どうやって行って来たんですか?」
「調査の過程で長距離空間転移装置ってものを見つけましてね。それで行って来た次第です」
輝須は思った。
(宇宙人相手ならそんなものがあってもおかしくはないか)
輝須は席を立つ。
「どこか行くんですか?」
「妹に会ってきます。事件の依頼とかは適当に受けて処理しといていいですよ」
輝須はそう言って事務所を出て行く。
(妹か。そういや今日が退院日だっけ)
「迎えに行ってやるか」
テレスは事務所の戸締りをして病院に向かった。
病院入り口。
有栖と恭子が出てくる。
「やあ、二人とも」
「お兄ちゃん! 迎えに来てくれたの?」
「ああ」
二人の邪魔をしてはいけない、そう思った恭子は。
「それじゃあ、私は行くね」
「うん、ありがとうね」
恭子は二人の前を離れる。
しばらく歩いていると、輝須がやって来た。
「恭子!」
「兄さん」
「昨日はテレスが世話になったな」
「ん?」
「ああ、話してなかったのか。実はテレスと二人で探偵事務所やっててな。昨日はテレスに事件を調べてもらったんだ」
(ああ。輝須さん、兄さんと同じ事務所なのか」
「いや、こっちも助かったわ」
「それで、恭子に頼みがあるんだけど、宇宙旅行に連れてってもらえないかな? あるんだろう、宇宙船? どうやって手に入れたか知らないけど」
「別に構わないけど、どこに行きたいの?」
「どこでもいいよ。おススメの観光スポットに」
「うーん。じゃあ、惑星ガリバーなんてどうかしら?」
「ガリバー?」
「うん。住んでるのが小人だから、巨人気分が味わえるよ」
「何それ、面白そう」
「それで、いつ行くの?」
「来週の土曜日にでも」
「了解」
予定が決まった。
そして来週の土曜日。
恭子と輝須は宇宙船に乗っていた。
「これが恭子の宇宙船?」
「そうだよ」
輝須は窓から地球を見る。
「本当に丸いんだな」
どこかで見た光景だ。
「出発するけどいい?」
「いいよ」
輝須は思う。
ワープはやはり白い空間に入るのだろうか、と。
恭子は操縦席のパネルを操作する。
アルクビエレ・ドライブ。
瞬間、惑星ガリバーに到着した。
「はや! もう着いたの!?」
「うん。着陸するね」
恭子は宇宙船をガリバーの地上に着陸させる。
宇宙船から降りて歩く二人。
しばらく行くと、小さな街のようなものが見えて来た。
「やけに遠くないか?」
遠くにあるように見えて、実際は小さい街のためとても近かった。
「あ……」
ミニチュアの街が広がっていた。
「すげえ」
輝須はしゃがみ込んだ。
ミニチュアの街の道路をアリサイズの小さな車が走る。
小人たちは突然現れた巨大な人影に大騒ぎしていた。
「巨人だー!」
「観光客だ!」
「写真撮って!」
「サインください!」
恭子が輝須に言う。
「巨人気分はどうお? これ、私は毎日拝んでるのよ」
「……ん?」
輝須の反応が遅れる。
「それは本物だろう」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねえよ」
「それほどでもー」
恭子は照れる。
「褒めてねえわ」
と、ツッコミを入れる輝須。
そんなやりとりに、小人たちは楽しんでいる。
「でもこれちょっと危ねえな。小人になれないかな」
恭子が指を差す。
「あそこ」
その先には等身大のゲートがあり、潜った向こう側に小さな出口がある。
「あれは?」
それは、人間が通ることで体を分解し小さくした状態で再構築をして反対側に出る物質状態変換装置だった。
「小さくなれんの!?」
「観光客用。全員踏み潰したら話にならないわ」
「待って。前例があるのか?」
「さあ?」
恭子はゲートを潜る。
反対側に小さくなった恭子が出てくる。
「ほらほら! 通って大丈夫よ!」
輝須は息を呑んでゲートに駆け出した。
小さくなって反対側に飛び出す。
「うわああああ!」
勢い余ってひっくり返った。
「いてて……!」
腰をさすりながら起き上がる輝須。
そして辺りを見渡すと。
今度は地球上と変わらないサイズ感に感じられた。
「どうお?」
「いや、すげえなSFって」
「メタい」
恭子が突っ込むのも当然だった。
そこへ顎髭を生やした初老の男がやってくる。
「お客人よ、ようこそおいでくださいました。テーマパーク、惑星ガリバーへ!」
「……あ?」
理解の追いつかない輝須。
「私はここの園長、ミニーマ・ガリバン。以後、お見知り置きを」
「テーマパーク?」
「はい。巨人から小さきものや小さきものから見た巨人の感覚が楽しめるアトラクション惑星になっております」
「惑星丸ごと?」
「いえ。ここから少し行った、惑星の反対側には恐ろしい巨人が住んでおります故、等身大でも絶対に近づかないでくださいませ」
嫌な予感しかしない。
「いやいやいやいや! 巨人って俺らよりでかいのか!?」
想像して恐怖で半分泣きながら突っ込む輝須。
そんな輝須を無視して恭子は言った。
「ねえ、その巨人っていつからいるの? 前に来た時はそんな話聞かなかったけど」
「実はですな——」
半月ほど前の話だ。
宇宙の地上げ屋、惑星ジアーゲの連中がこの星を奪い取るため、突然訪れた。
彼らは暴力に物を言わせ、観光客が来ては恐怖に怯えさせるとても迷惑なやつらだった。
「待て待て待て待て! 宇宙にも地上げ屋があんの!?」
「時々、地面師も差し向けて来ますが、なんとか追い返しております。テーマパークとしてはそろそろ限界ですよ。売り上げが減り、運営コストもバカにならないです」
「なんか急にシュールになったな」
「縮小装置の維持費が高いのです。昨今の物価高騰の影響もあって、保険料も増額されました」
「……………………」
「巨大観光客による事故保険もありまして。街を踏んだ場合の補償にくしゃみ被害。転倒特約や地震補償もあります」
もう言葉が出なかった。
「まあ、兄さん転んでたし必要かもね」
冷静なコメントを残す恭子である。
「それより、せっかくのお客さんなんです。入園料の支払いと保険手続きをあちらの受付で済ませてください」
園長はそう言って、受付を指差す。
「任意保険じゃないのか?」
「当日限りの強制保険です」
「はあ……」
ため息を吐く輝須。
「巨大観光客様には転倒特約、足元不注意特約、くしゃみ補償、踏み込み震度補償が付きます。小さくなった方々への被害のものです」
実例としか思えない保険内容だった。
「では、その巨人がいなくなればいいんですよね?」
と、恭子が訊ねる。
「それはそうですが、あんな巨人我々には手も足も及ばなくて」
「私に任せなさい」
「え?」
「私が倒すって言ってんの」
「お気持ちはありがたいですが、無理ってもんですよ」
「無理かどうかはやってみなきゃわからないですよ」
「倒す方法があるんですか?」
「ある。……一つだけ」
輝須が突っ込む。
「お前いま溜めたろ」
「本当に方法が!?」
目を見開くミニーマ園長。
「私たちには巨人に対抗する手段があります」
「なんですって!?」
「目には目を、巨人には巨人を差し向けるんです」
「あ、あなた方は巨人を飼い慣らしているのですか!?」
「え? いや、まあ……」
「もしも、もしも巨人を倒してくれましたら、特別にこのテーマパークの利用をタダにしてもいいです」
「お任せください」
(うわあ、地面師っぽい交渉)
輝須は内心そう思った。
「私、行ってくるから兄さんはここで待ってて」
恭子はそう言って、先ほどのゲートを潜って等身大に戻る。
惑星の裏側へ向かって歩き出す恭子。
歩いて、歩いて、ひたすら歩く。
「あ……」
時空転移装置のことを思い出した恭子は。
「転移すれば早くね?」
と、惑星の裏側へ装置で転移する。
惑星の裏側には半月では到底築けそうにもなさそうな立派な建物がある。
恭子は建物に入り込んだ。
普段から掃除が行き届いているのか、内部は綺麗だった。
床は磨かれた金属。
壁には豪華な装飾。
天井には巨大なシャンデリアのような照明まで吊り下げられている。
「これ地上げ屋のアジト? いや、元々あった建物を占拠した?」
恭子は壁に手を触れた。
埃一つない。
半月前にやって来た連中の拠点にしては妙だった。
その時。
廊下の奥から声が聞こえてくる。
「しかし社長、本当にこの星を買い取れるんですかね?」
「ガハハ! 心配するな!」
「観光客が来なくなれば向こうから頭下げてくる!」
恭子は足を止めた。
柱の陰からそっと顔を出す。
奥にはスーツ姿の宇宙人たち。
そして中央の豪華なソファにふんぞり返る、一際大きな男がいた。
「うん? ネズミが一匹、紛れ込んだようだな」
と、大きな男が言う。
「出てこい。そこにいるのはわかっているぞ」
気づかれてしまった恭子は、観念して柱の影から顔を出した。
「ガキがこんなところに何の用だ? 迷子か? ママならいないぞ」
目の前の大男。
50mくらいはある。
超機械生命体ではない。
巨人族キョダイーン星人か。
「なるほどね。大体わかった」
「何がわかったんだ?」
「あんたたち、地上げ屋でしょ」
「……!」
ケラケラ笑っていた巨人の顔つきが変わる。
「貴様!?」
周囲の部下が狼狽える。
「半月前に来た割に建物が綺麗すぎる。観光客が減れば頭下げるって言ってた。最初から脅して土地を安く買うつもりだったんでしょ」
「貴様、一体何者だ」
巨人の言葉に恭子は言う。
「私は通りすがりの超機械生命体アストライア。覚えておきなさい」
恭子は取り出したスティックのスイッチを押してアストライアに変わる。
「な、何だと!?」
巨人はソファの横の巨大な斧を手に取って立ち上がりアストライアに迫る。
アストライアは振り下ろされた斧を片手で受け止め、反対の拳を巨人の腹部に捩じ込む。
「ぐわっ!」
巨人はくの字に折れ曲がり、その場に崩れた。
「し、社長!?」
「大丈夫ですか!?」
「立ってください!」
足元の小さな部下が巨人の心配をする。
アストライアは伏している巨人に訊く。
「この星から出ていきなさい。それとも、まだ殴られたい?」
しかし巨人はあまりの痛みに気絶していた。
アストライアは足元の三人を見る。
「あんたたち、こいつを連れてさっさとこの星から立ち去ることね」
「は、はい! 言われた通りにします!」
足元の三人は巨人と共に空間転移で逃げ去っていった。
こうしてガリバーの地上げ屋問題が解決した。
アストライアは恭子の姿に戻り、時空転移で先ほどの場所まで戻ると例のゲートを潜った。
「おお、帰って来ましたか」
と、ミニーマ園長。
「して、首尾の方は?」
「奴らは立ち去りましたよ」
「ほ、本当に倒してくれたんですね!?」
「もうこれで怯える必要はありませんよ」
「よかった。本当によかった。あなたは恩人です」
こうして惑星ガリバーの地上げ屋問題は解決した。
宇宙は広い。
そして広いということは、迷惑な連中もいれば、妙なテーマパークも存在するのである。
もっとも。
巨大観光客保険だけは最後までよくわからなかったが。