とても小さな、ミクロの世界へようこそ。
今、地球に向かって一機の宇宙船が飛来している。
しかし、その宇宙船はあまりにも小さすぎるため、人間の肉眼では捉えられない。
「お、あの子可愛いな」
宇宙船のモニターに、公園で友達と遊ぶ小学生の女の子が映っている。
端正な顔立ちをした女の子だ。
「あの子になりたいなあ」
星人は宇宙船で女の子に近づく。
宇宙船は女の子が口を開けた瞬間、その中に飛び込んだ。
女の子は気づいていない。
星人は宇宙船から降りると、舌の細胞に穴を開けて静脈へと飛び込んだ。
「痛!」
ベロに痛みを感じた女の子は、舌を口から出した。
「どうしたの?」
友人が訊ねる。
「ベロに何かが刺さったみたいで」
友人は女の子の舌を見るが。
「何もないよ。気のせいじゃない?」
「そうかなあ」
女の子も気にすることなく、帰宅時間まで時間を潰し、帰路に就く。
「あー、暑いはずなのに、なんか寒気がするわ」
それは当然の反応である。
異物が体内に入り込んだため、免疫機能が反応しているのだ。
体内に潜り込んだミクロの星人は、急激な体温の上昇で汗だくになっていた。
「暑い。人間の体はなんでこんなにも暑いんだ」
そこへ、免疫細胞が集まってくる。
「なんだ貴様らは?」
免疫細胞は無言を貫いたまま星人に攻撃を仕掛ける。
「痛! やめろ!」
星人は免疫細胞に反撃する。
免疫細胞は次々に撃墜され、死骸になっていく。
一方で女の子はとても辛くなってきたのか意識が朦朧とし始めた。
「帰ら……ないと……」
だが、ついに意識を失って倒れてしまう。
そこへ近くを通りかかった恭子が、女の子に声をかける。
「君、大丈夫?」
しかし、反応がない。
恭子はスマホで救急車を呼ぶと、女の子を救急病院に搬送した。
医師が女の子の体を調べるが、原因の特定に至ることができなかった。
「先生、この子……?」
「点滴で様子を見ましょう」
病室に運び、点滴を刺した。
「君はこの子のお姉さん?」
「いえ、私は通りかかっただけです」
「そうですか」
「ちょっと持ち物を見てみましょうか。親御さんの連絡先がわかるかもしれません」
「そうですな」
医師が女の子の持ち物を調べる。
辛そうにしている女の子。
恭子はX線で女の子を透視する。
特に異常は見られない。
「ちょっとごめんね」
恭子は女の子の口の中を覗き込んだ。
「君?」
医師が気づいて声をかけた。
恭子が視界を拡大すると、舌の上に異物が載っているのが見えた。
(なるほど、そういうことね)
舌に小さな穴が開いているのも見える。
(ここから何者かが入ったってことかしら)
「ああ、すいません」
恭子は女の子から離れる。
(この子の体内に入らないと救えなさそうね)
恭子は病室を出る。
辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、転送装置を取り出した。
装置を起動させ、アストライアの体になると、自身のサイズをミクロレベルまで縮小させ、病室に戻り、女の子の鼻の中に飛び込んだ。
鼻腔内を飛行し、奥へと向かって口内を目指す。
舌の上に着地し、宇宙船を確認する。
一人用だったのか、誰も乗っていない。
アストライアは舌に開いた穴から静脈へ飛び込んだ。
そこら中に白血球の死骸が並んでいる。
「ひどいわね」
アストライアは血流に乗って進んでいく。
変に逆流すると、圧力で血管にダメージを与えかねないからだ。
アストライアは血管内を巡り、動脈に移って脳関門に辿り着く。
そこでは脳関門を突破しようとする星人がいた。
「ちょっとあなた、そこで何してるの?」
「誰だ?」
振り返る星人。
「お前もこの体を乗っ取りにきた口か? だが遅かったな。この体は俺が先に見つけたんだ」
星人は触手でアストライアを絡めとる。
「ふん!」
アストライアを振り回すと、脳関門に当たって破れてしまった。
(細胞が!?)
アストライアは焦る。
「壁が崩れたな。バイバイ」
星人はアストライアを放り投げ脳内へ歩く。
アストライアは血管に足をつくと体勢を立て直して後を追った。
「待ちなさい!」
「しつこいなあ! お前を倒してからの方が良さそうだな!」
星人はアストライアに触手を伸ばす。
アストライアは手刀で触手を切り落とした。
「ぐっ!」
苦痛に顔を歪める星人。
「貴様!」
星人がアストライアに向かって駆けった。
アストライアは繰り出される星人の攻撃を華麗にかわしながらカウンターを浴びせて行く。
しかし、アストライアは星人を光線で爆破するわけにはいかなかった。
爆風で女の子の脳細胞を吹っ飛ばしてしまうからだ。
「あなたにお願いがあるんだけど、この体から出ていってもらえないかしら?」
「嫌だね。この体は俺のものにするんだ」
「そう。話を聞く気はないのね」
アストライアは目にも留まらぬ速度で星人に近づくと、怒涛の乱打を浴びせる。
星人は乱打を受けてよろめく。
「であ!」
アストライアは背負い投げで星人を放る。
「ぐわ!」
細胞の壁に叩きつけられ、ダメージを受ける星人。
「くそ!」
星人は体勢を直してアストライアに飛び掛かるが、すんでのところでかわされてしまう。
「は!」
アストライアは組んだ両手で星人をはたき落とす。
「何だ? 何なのだお前は?」
「通りすがりの戦士よ」
「くっそー!」
星人がエネルギー弾を飛ばした。
「……!?」
アストライアはエネルギー弾を弾かず、全身で受け止める。
「きゃあ!」
吹っ飛ばされ、少し先に転がる。
「なぜ避けない?」
「細胞に当たっちゃうでしょ!?」
起き上がりざまに答えるアストライア。
「じゃあこれはどうかな?」
星人は別の方角にエネルギー弾を放つ。
「ダメ!?」
アストライアは細胞を庇うようにエネルギー弾を全身でくらいダメージを受ける。
『アリス、何をしている? そんなやつ光線でとっとと倒してしまわぬか』
「爆発に巻き込んでこの子の脳に損傷を与えたくないわ」
『つまりお前は脳細胞を人質に取られたということか』
「うるさい!」
星人が疑問符を浮かべる。
「一人で喋って頭がおかしくなったのか?」
星人がいくつもの触手を伸ばし、脳細胞に張り巡らせようとする。
「そこで見ていろ。この体が俺のものになる瞬間をな」
「くっ……!」
ボロボロのアストライアはただ立ち尽くすしか他なかった。
(一体どうすれば……)
「ねえ、あなた人間の体が欲しいの?」
「そうだ」
「じゃあ、未熟な子どもの脳より、成熟した大人の脳の方がいいんじゃない? 私があなた好みの体を探してあげるわ。だから一緒にここから出よう?」
『お前、血迷ったか?』
「そんな甘い言葉に誘われてこの体から出た瞬間に何かする気だろう?」
「何もしないわよ。ね?」
「そこまで言うなら信じよう」
星人は触手を戻し、出口へ向かう。
その後をアストライアが追う。
二人は先ほどの舌の穴から外へ飛び出した。
口から体外へ脱出する。
「今だ!」
アストライアがヴァルシアブラストを星人に叩き込むと、その場で小さな爆発を起こして跡形もなく消え去った。
『お前、人を騙して心が傷まないのか?』
「別に特には」
『そうか。だが私はお前が血迷ったのかと思ってヒヤヒヤしたぞ』
アストライアはミクロサイズのまま病室を出ると、等身大になって恭子の姿に戻った。
病室の女の子は落ち着いたのか、徐々に症状が治り始めた。
(私、詐欺師に向いてるかも)
恭子はそう思いながら、病院を後にするのだった。