人は1人では生きていけない   作:生足が魅惑のマーメイドです

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1話

 

 

 

 私こと酒寄彩葉には、双子の兄がいる。兄と言っても少し早く生まれてきただけなので、私は和久(かずひさ)と呼びお互いに名前呼びをしている

 

 

 和久のことを簡単に言うならば、何でもそつなくこなし、人間性も能力的にも優れている正に完璧といっていい人間だ

 

 勉強も運動も何でもでき、それをひけらかすことなく当たり前のように振る舞い、むしろ他人に教える余裕があるほどだった

 

 お母さんも和久を1人でも生きられると認めていた

 

 

 私はそんな和久が羨ましかったし、嫉妬していたとも思う。……でも、幼い頃心の内ではずっと

 

 

 

 ───私は和久のことが怖かった

 

 

 

 私たちが6歳の時、お父さんが事故で死んでしまった。私もお兄ちゃんも泣いたし、お母さんも悲しんでいた

 

 その中で和久は涙を流すことなく表情は全く変わらなかった。それどころか私たちを慰める余裕すらあって、お父さんの死を平然と乗り越えていた

 

 小さい私にはそれが分からなくて、なんで悲しくないのかと聞いた

 

 それを聞いた和久は"悲しいけど父さんの分も生きなくちゃいけない"と言った

 

 私は和久のことがもっと分からなくなって怖くなった

 

 今は怖がることなんてないが、幼少期の頃はずっと無意識的に避けるようになってしまった

 

 まだ小さいのにお兄ちゃんと共に東京へ行くとなった時も、私が寂しいと思うことはあれど、和久の心配をすることはなかった

 

 どうせ和久なら大丈夫なのだろうと思った

 

 

 その時以外でもそうだ。私たちは、和久なら何があろうとも、1人になろうとも大丈夫だと思っていた

 

 

 

 ───思ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

「彩葉ー!見てこれかぐやが作ったんだよ!早くご飯食べよっ!」

 

「うわ美味しそう…!」

 

 

 ボロボロのアパートに帰ってきた私は、妙にテンションの高いかぐやに手を引かれて玄関を開けた

 

 すると、テーブルには美味しそうな料理が並べられていた

 

 ほぼ生まれたばかりなのに、私より料理が上手だなんて……恐るべき宇宙人…

 

 

「あのパンケーキも美味しかったけど、かぐやの料理だって負けてないよ!」

 

「うっま…身体が喜びに満ちていく…!」

 

「よっしゃ!」

 

 

 喜ぶかぐやを横目に料理を全て食い終える…ふう、お腹いっぱい

 

 満足気にして腹一杯になったお腹をさすっていると、突然玄関のチャイムが鳴り響いた

 

 

「おい彩葉〜、今日も仕送り持って来たぞ〜」

 

 

 誰かと疑問に思っていたが、生まれてからずっと聞き慣れている声がドア前で聞こえてきた

 

…やばっ、今日和久来るんだった

 

 

「ん?彩葉〜、誰か来てるよ。私が出よっか?」

 

「いや、あんたはちょっと待ってなさい。私が出るから」

 

 

 どうしよう…かぐやのことがバレたら絶対面倒なことになる。いや、和久ならワンチャン大丈夫か?………よし

 

 何通りかの誤魔化し方を考えて、思考をまとめてからドアを開ける

 

 

「ごめん、ちょっと遅くなった」

 

「ん、大丈夫だ。ほら、今日も新鮮な野菜に肉やら色々持ってきたぞ」

 

 

 そう言う和久の手には、ダンボールいっぱいに食品や生活用品などが詰め込まれていた

 

 

「良いって言ってるのに…毎度ありがとうね」

 

「気にすんなって、お前が倒れる方が困るからよ。それより、後ろの子は?」

 

 

 これは想定通り、ここから良い感じに誤魔化していけば何とかなる…!

 

 

「えっと、この子は──」

 

「かぐやのこと?かぐやは月から来たんだ!よろしくね!」

 

「ちょっバカッ!何言っちゃってんの!」

 

「月?ハハッ面白い子だな。俺は彩葉の兄で和久って名前だ。よろしく」

 

「ほえ〜!彩葉の兄!」

 

 

 双子だから兄も妹もないでしょ…!

 

 そんなことを思いつつも、かぐやが口を滑ったせいで焦ったが、和久は冗談だと思ってくれたようだ

 

 

「友だちか?夜ご飯も一緒に食べてるようだし、もしかしてお泊まり会だったかな」

 

「お泊まり?違うよ〜かぐやは彩葉と一緒に暮らしてるんだ!」

 

「んん??」

 

「あっヤバ…!」

 

 

 なんとか誤魔化せると思ったのに、かぐやがまたやらかしてしまった

 

 

「その…いっ、家出してきた子でさ!危なっかしいから面倒見ることにしたの!」

 

「ふーん……気になるっちゃ気になるが、俺は何も言わないさ。でもそういう事情なら仕送り増やそうか?」

 

「…それは大丈夫」

 

 

 疑ってはいるようだけど、納得はしてくれたようだ

 

 

「てか、和久も一人暮らしなのに仕送りとか大丈夫なの?」

 

「いや兄さんから大量に送られてきてんだよ。多分お前の分も含まれてるから、1人じゃ消費しきれねえよ」

 

「はー…おせっかいな兄やなぁ」

 

「別々に暮らしてから増えたんだよね…。あ、そろそろヤチヨのライブ始まんじゃん」

 

「あっほんとだ。ごめん、わざわざ来てくれたのに」

 

「気にすんな、折角チケットが当たったんだから楽しんでこいよ」

 

「ありがと──」

 

「彩葉またどっか行くの!?置いてかないでよ〜!」

 

「うわっ!大人しくしてると思ったら何すんのよ!」

 

 

 皿洗いをしているはずのかぐやが、かなりの速度で突っ込んできた

 うごっ…腰にクリーンヒット…!

 

 

「おお…元気な子だな。さて、俺は邪魔にならないように帰るとするよ」

 

「あ、うん。またね」

 

「もう帰っちゃうの?また来てね〜!」

 

 

 かぐやが手を振るのを見て、和久は微笑みながら手を振り返して帰っていった

 

 

「さて、それじゃあツクヨミに──」

 

「だからどこ行くの〜!!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

「やっぱり兄さんは派手にやったなぁ…」

 

 

 ヤチヨのライブと重大発表を遠目で見る。そして兄のアバターである帝アキラがそこに乱入したのを見てそんな感想を抱く

 

 重大発表の予告がされた時に予想はしてたけど…あそこまでやるとはねぇ

 

 兄の乱入は予想していたが、それよりも予想外のことが起きて珍しく驚いた

 

 

「まさか帝の前であんな啖呵を切るとは……あれ多分かぐやちゃんかな」

 

 

 "ヤチヨカップで優勝する"か…

 さてさて、あの子は兄を超えられるだろうか

 

 

 気の強そうな子が彩葉の友達になってくれたと嬉しくなっていたら、ふと背後から物音が聞こえた

 

 ここはライブを離れた場所から一望できる穴場だ。ここに来れるのは俺と、案内してくれた人物だけ

 

 つまり────

 

 

「ヤチヨか」

 

「正解!

 なんとヤッチョがはるばる来てあげた〜よっ☆」

 

 

 後ろを振り向けばヤチヨが大袈裟なポーズをとっていた

 

 

「俺は握手券なんてレア物持ってないよ?」

 

「ふっふ〜ん♪ヤッチョはおしゃべりしにきただけなのです〜」

 

「IROが聞いたら卒倒しそうだな…」

 

 

 縁側で座る俺の隣に、ヤチヨも同じように座る

 

 

「ヤッチョのライブどうだった?」

 

「もちろん楽しませてもらったさ。こんな特等席まで用意してもらったんだから、周りの目を気にせずはしゃいじゃったよ」

 

「良かった!用意した甲斐があるもんですな〜☆」

 

「ん?用意?……ここって元々あるやつじゃなくて、俺のために作ってくれたのか?」

 

「アッ……てへっ☆気が緩んで口を滑らせちゃいましたな☆」

 

 

 多分この世で1番可愛いてへぺろを食らったけど、それより気になることがあり何とか耐える

 

 

「可愛く誤魔化してもダメだぞー。……俺、別にライバーやってないし、ヤチヨに特別なこともしてないと思うんだけど?」

 

「………えっとね〜…あっほら!カズって帝の弟じゃん!だから兄の栄光を特等席で見せてあげようと思いまして〜」

 

「…俺が帝の弟だったからってこと?」

 

 

 まさかヤチヨからそんなことを思われていたとは知らなかった。多分今致命傷を負った

 

 

「あっいや、誤解だよ!私はちゃんとカズのこと見てるし!カズだからここに呼んだの!」

 

「…そっか。ごめん、大袈裟に捉えすぎちゃった」

 

「ううん、ヤッチョの方こそごめんなのです…

 あれはその…照れ隠しってやつかな!」

 

「クッ…ハハッ!それ自分で言っちゃう?」

 

 

 少し沈んでいた雰囲気も元に戻ってきた

 

 

「それで結局、なんでわざわざここ作ったの?」

 

「ん〜…貴方は有名なので、顔を隠さずにおしゃべりできるような場所を作りたかったって理由もあるんだけどね。元々ここは、皆んなが眺められるように設計してたのです」

 

「さりげなく俺の個人情報知られてなかった?」

 

「調べなくてもテレビでいっぱい出てたよ?

…コホン、気を取り直しまして。ヤッチョは設計途中で気づいてしまったのです!それはなんと…」

 

「なんと?」

 

「あまりの高さで描画距離を超えてしまい何も見えなくなってしまったのです!」

 

「欠陥すぎない?」

 

 

 ショックを受けたような顔をしているが、設計段階で気付けよとも思う

 

 

「てかツクヨミに描画距離とかあったんだ…」

 

「システムの方は耐えられるんだけど……上限を設定しないとユーザーの方たちが情報量の多さに酔ったり、思考が追いつかなくなっちゃて…」

 

「……もしかして俺はそれに耐えられるからってこと?」

 

「その通り!なんでか分からないけど、カズはヤバいくらい思考速度がズバ抜けているのでここからの景色を一望することができるのです!」

 

 

 へ〜、だからここから色々見えるのか

 

 

「なるほど…ここに俺しかいないのはそんな理由だったのか。……って、もうこんな時間じゃん」

 

「あらら、お眠の時間?」

 

「名残惜しいけどね…今日も楽しかったよ。それじゃ、おやすみ」

 

「さらバ〜イ☆おやすみ〜!」

 

 

 ヤチヨにお別れをしてログアウトする

 

 

 

 

 

「───私も楽しかったよお兄ちゃん」

 

 

 

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