主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
ゆっくりと目を開く。朝日が入ってくるのが見えた。
もう、そんな時間かとゆっくりと体を起こす。
さーて、ミーツェと接触できたしそろそろ次の段階に進みたい。
そう、火の悪魔と接触する人の話ね。
ウルフレート・モンス・ウルカニウス。あの学校にいる男子の一人。
この人も、属性が家名みたいなのと引っ付いてるタイプだ。モンス・ウルカニウスで火山とかそんな感じの意味らしいから。
で、このキャラは非常に強力な火の魔力を持っているので、なんだかんだで火の悪魔と共鳴するか何かして、そのまま大惨事!ってなってしまうので、それを止めないといけない。
止めれるの?って話なんだけどね。
原作の流れで言えば、火の悪魔がたまたま日本を通る。そのときに接触し、火の悪魔が活性化。
ただ、完全に活性化する前に引き離してなんとか最悪の事態は回避!
でも、なんとかしないといけないので、水の神に頼って解決!ぐらいの簡単な流れ。
でも、火の悪魔が復活しそうなところで、なんかその手下みたいなモンスターが沸いてきて、結構酷いことになるので、そんないい話でもないんだけどね。
本来、多少の参事は起きてもらわないとストーリー的にも盛り上がらないとか、成長しないとか色々とあると思うんだけどさ。
……この世界に生きてると、あんまり酷いことは起こってほしくないなと思ってるから、なんとかしたいよね。
ウルフレートは、そんなに悪いやつじゃないし。れーくんにも、あんまり無理をしてほしくはないから。
そもそも、ここら辺の出来事って一応偶然だけど。ちょっと悪い大人の企みとかも関係するから、それに巻き込まれる人たちは可哀想だしね。
水の神をよく思わない人たちの、よくわからない話があるだけだから。
よいしょ、と体を起こす。少しだけ、右手が動くのが遅れた。……震えてる。なんか、無意識のうちに怖くなっていたのかも。
でも、こっちの手は――昨日れーくんに握ってもらってた方だし、問題ない。大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせて、なんとか体を起こした。
……うん、動けそう。にしても、ミーツェの前で倒れちゃったのはいいのか悪いのかわかんないな。
ミーツェにはちょっと気に入られたけどさ、なんかメンタル弱いやつみたいで嫌だ。
鍛えたいな、メンタル。エレーナってそんなに弱くなかったし。……いや強すぎか。
だって、あの家庭環境終わってるもんね。何回、消えたいなーって思ったことか。
そのまま、嫌なものが胸のうちに広がりそうで振り払う。いけない、こんなことばっかやってる場合じゃないし。
とりあえず、登校しないと。さっさと、やりたいことを済ませてしまいたい。
……れーくんに依存してるのはわかってるけど、このままだと本当にダメになってしまって、運命を果たすのも難しくなると嫌だから。
準備して外に出ると――
「心配だから、来てしまったわ」
――銀色の髪が揺れているのが目についた。
くすり、と笑ってこちらを見る美少女が一人。
「……なんで、ここにミーツェ先輩、が?」
「先輩だなんて、他人行儀ね」
そうかな???
わりと、距離を詰めた方だと思うんだけど。
……で、なんでここにいるんだよ、ミーツェ。びっくりするだろ。
「あなたの愛しの"れーくん"から、住所を聞いてきたわ」
なんで教えちゃうの、れーくん。……この人は強引に聞いたんだろうけど。
「愛しの、とかじゃないですけど……」
「無自覚ってこと?」
「……なんでそっち方向に」
「そうじゃないと、あの距離感とか空気はおかしいでしょう?」
困ったな、あんまり否定できないかも。れーくんってさ、なんでも受け入れる系主人公だから、わりとぐいぐいいってもそのまま受け止められるんだよね。
そういうのを知ってたからさ、知り合ったばかりの時に、強引に距離を詰めた。ってほどでもないけど、友達よりももう少し深いところまでいけないかな、と思って。
まるで幼馴染みみたいな関係性までいってしまった、という気持ちはある。
「……親友みたいな、ものだから」
「ふうん?」
頬を緩めて、生暖かいような目で見られる。……必死に否定してるように見えるんだろうけどね。
別に好きとかじゃなくて、大切みたいな。
それに――好きになってしまってはいけないから。
ってなんだよ。別にれーくんを好きとかなるわけない。気安く話せる、友達ってだけで。
――不意に、昨日のことを思い出す。好きってからかって言ったときの、れーくんの表情を思い出す。固まってしまったときの、れーくんを。
口元が、少しだけ緩んだ。俺がそう言っただけで、あんなに困るなんて思わなかったからちょっと面白くて。
「もしかして、"れーくん"のことを思い出しているの?」
「……」
「ふふっ、よほど好きなのね?」
「そういうんじゃない、です」
「ふふふ」
なんで撫でられるんだ。ちょっと気恥ずかしくなって、そっぽ向いた。
なんとなく、からかわれるのも癪なので。そのまま、歩き始めるとゆっくりとミーツェもついてくる。
「それで、結局。あなたは、どうして私のところに来たの?」
「……それはその、仲良くなろうと」
「そうかしらね。あなたはおそらく、もうあまり友達を必要としていないのではなくて?」
その言葉を聞いて、ミーツェの方へと顔を向ける。
さっきまでの生暖かいような視線と違って。その目は真剣にこっちに問いかけてきていた。
「……なんで、そう思うんですか?」
「そうねえ……まるで、何かを諦めたような目をしてるから、かしら」
視線が俺から外れて、どこか遠くを見ている。
……諦めてる、か。それはそうなんだけど。
「あなたはきっと、もう誰かと仲良くなるようなことを諦めてるような気がしたの」
「……別に、そんなこと」
「そうね、私の勘だもの。でも……私もかつてはそうだったから」
ああ、自分と重ねているのか。不一致で、周囲からの扱いも酷くなっていて。それでも、実力で跳ね返した。
でも、覆すまでのことはきっと、辛かっただろうから。
……俺のは、そういうのじゃないし。
「だから、あなたが私に近づいてきたのは、きっと何かあると思ったの」
でも、そこまで見抜かれてるのなら仕方ないか。
「……本当はちょっとだけ、目的があって」
「やっぱりそうよね」
「ウルフレート・モンス・ウルカニウスの、ことで」
「んん?」
「彼の同行とか、ちょっと色々、と……」
「待ってくれるかしら?」
首を傾げて、何かを理解しようとしてる。あれ、変なこと言ったっけな。
いやでも、いきなりすぎたか。急にウルフレートのこととか聞いても意味不明だしな。
少し経つとようやく整理できたのか、ミーツェが口を開く。
「……二股ってこと?」
なんでだよ。どう考えたらそうなる。
「そういうんじゃなくて、ちょっと気になることが、あって」
「うんうん、その子が気になるのよね?」
「まあ、そうだけど……」
「ふんふん、うーん?」
なんで混乱してるの?
俺、変なこと言ったかな。
「……えーっと、いつもいる"れーくん"こと、如月玲とは本当に友人で」
「うん?はい」
「本命はそのウルフレートって子?」
やっぱり、変な勘違いをされてる。おかしくない?
ああもう、面倒くさいなあ。
原作のエレーナはどうやって、この状況を説明……というかそっちじゃない方で話せばいいや。
「――火の悪魔の話が、したいんです」
息を飲む音がした。
「……それ、誰かに聞いたの?」
「違い、ます……」
さっきまでとは違う、警戒するような声色。
異存在の話は、基本的には極秘事項だ。国の上層部だとかしか知らない。
でも、この世界はちょっと特殊で。俺のいたリーデルの家だとか、いくつかの強力な魔力を持つ血筋の家は、そこら辺の情報を持っている。
ミーツェだって、一応はそういう家系だし。家に見放されても、実力で返り咲いたミーツェにはある程度共有されてるはず。
「……で、その火の悪魔のことがどうしたのかしら」
「このままだと、あれが復活する、かもしれないから……」
「冗談で言ってるわけではないわよね?」
信用されないのはわかってるけど、もうここまで来たら進むしかない。
「私は、未来がわかるから」
大きく、ミーツェの目が見開かれた。
未来がわかる、それはこの世界において特殊な意味を持つ。
まあ、だからこそ消えてしまうんだけどね。なんちゃって。
れーくん、俺頑張ってこのままイベント進めるからね。
……なんで脳内のれーくんに問いかけてるんだ。
「そう……それをそのまま信じるかは別だけれど。あなたも本気ってことね?」
「はい」
「……じゃあ、本命はやはり如月玲ということに」
「なんで??」
もう、すぐそっちに繋げるんだからさ。
……少しだけ、本当にそうなったときのことを想像する。
たぶん、そうなるときっと楽しくて……そして原作のエレーナには申し訳なくなる。
やっぱり、そうなる可能性はないな。そもそも、中身が男なやつはれーくんもそんな好きじゃないでしょ。知らないけどさ。
「まあいいわ、そっちのことも恋愛のことも聞かせてね」
「……はい」
もう面倒になって、そのまま返事をした。
校舎が見えてきたので、もうミーツェとも朝はお別れだしな。
そういえば、今日はれーくんをまだ見てないのか。なんて、少しだけ新鮮な気持ちで学校の中へと入っていった。