主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
さらさら、と髪が風で揺れていく。この体になってからは、髪の長さに気を配らないといけなくて面倒くさいね。
なぜかちょっと失言したみたいで、ステラが少し変な反応がしちゃったんだけど……誤魔化したしなんとかなると思う。
にしても、星の魔力の圧はすごかったね。全属性を持ち合わせるだけはある。
さすが、メインヒロインちゃん。
「どうしたの、エレーナ」
と、物思いに耽っていると。なぜか隣にいる、れーくんが顔を覗き込んできた。……なんか近いな。
今は昼休みなんだけどね。ステラのせいで周囲の人たちがびびってて、なんかみんな遠ざかってたんだけどね。
そのままなんか、れーくんが会いに来たから。
ぐいぐい、とれーくんを押す。
「な、何エレーナ」
「近いから」
「いつもこんな感じじゃない?」
「……そうだっけ」
言われてみればそうかも。じゃなくてさ、くっつきすぎなんじゃない?
「エレーナは、目を離すとどこかに行きそうだから」
「私、猫とかじゃないんだけど」
「似たようなものでしょ」
「この」
ぽすっ、と胸元を小突くとくすっと、れーくんが笑う。なんかムカつく。
っていうか、そろそろステラと仲良くなってほしいんだけどね。
ちらり、とれーくんを見る。なんか、俺にばっか構っててこいつ、ステラと仲良くなってないんじゃない?
「ん?何?」
視線に気付いたのか、れーくんと目が合った。本当にさ、れーくんは。ちゃんと原作通りに動いてよね。
……ちょっとだけむしゃくしゃしたから、いじってやろ。
「れーくんに見とれてたから」
ぴしり、とれーくんが固まる。面白い。
「……からかってる?」
「うん」
れーくんの眉が下がる。そのまま、ぐりぐりと頭を強引に撫でられた。
「れーくん、何?」
「やり返し」
「なにそれ」
なんか、本当に小動物の扱いじゃない?
……でも、正直ちょっと安心する自分もいる。よくないな、こういうの。メンタルは強く生きていかないと。
「れーくん、触りすぎ」
「……ごめん、忘れてた。さらさらしてたから」
「こら」
なんかカップルみたいでしょ。そうはならないんだから。
俺としては、そろそろウルフレートと会いたくて……ん?
――廊下を横切る、男子が一人見える。金髪で、少し背丈の大きい男子。
ウルフレートじゃん、こんなところにいるの?
ちょっと気になるな、見に行こうかな。一応、ミーツェから聞く予定は入れてるんだけどさ。
よし、見に行こ!
なんか、ステラとかれーくんとか、やたらと近づいてきて、ちょっと離れたかったし。みんな過保護すぎ。
「どうしたの、エレーナ」
「ちょっと、ね」
れーくんの手から抜け出して、廊下の方へに向かう。
「ちょっと、エレーナ?」
と、れーくんがびっくりしてるけど。君はさっさとステラのところに行ってね。
ちょっとだけ、土の魔力で強化しながらウルフレートを追う。
あっちか。ウルフレートは、同じように被害者だし。様子は見ておきたいかなって。
……別に、会ってもなんもないんだけどね。いやさ、冷静に考えるとミーツェから話を聞いてからの方がいいんだけど。
ウルフレートの背中が見える。こいつ、本当に身長高いね。男の子の背中ってやつか。……俺がちっちゃくなったから、こう見ると大きく見えるんだな。
っていうかさ、やっぱり原作キャラに出会ってるわけだから、ちょっと感動。
ミーツェもステラも、れーくんも。みーんな距離近いから、そういう感覚が薄れてる。よくないよね。
ちょっと満足したかな。帰ろ。
と、踵を返そうとしたとき。
「……なんだ?」
不機嫌そうに、ウルフレートが振り向いてきた。やば、見つかっちゃった。
「……なんでも、ないよ?」
「わざわざ追ってきて、か?」
はんっ、とウルフレートが鼻を鳴らす。なんか、強気なんだけど悪いやつじゃないんだよね。
ウルフレートは強力な火の魔力を持っている。代わりに、それだけ力があるのなら責任があると思ってる。
だからこそ、なんかこう気高い貴族ってわけじゃないけど。なんか高圧的な雰囲気になってしまった、みたいな不器用ならやつ。
ほら、魔力だとか異存在だとか色々出てきてファンタジーな世界になってしまったから。現代日本でも、貴族マインドみたいなのもおかしくない変な世界なんです。
……リーデルの家だって、そういう感じだし。この話はやめとこ。
こういう態度も、そういうところから来るって思うとちょっと愛おしさもあるよね。
れーくんみたいに、よしよしはしてやらないけど。だって、パパをやるのはれーくん相手の時だけだからね。
君には親戚のお兄さんみたいな感じで対応したい。おお、大きくなったなー。お菓子いるか?
「なんだ、にやにやして。気味の悪い」
「してない、よ?」
「その喋り方もなんだ。もうちょっとはっきり話したらどうだ」
「ごめん、なんか頑張ってるけど。うまく、話せなくて」
「……それは悪かったな」
ばつが悪そうに目を逸らした。ほら、悪そうにしてるけど、そんな悪いやつじゃないでしょ。
「ちょっと、気になっただけだから、ね」
一応、弁明しておこう。気になったから見に来ただけで、他意はないですよーって。
「……気になった、か?さっきまでいちゃついてたやつが、他の男に鞍替えか?」
なんか、変な誤解をされてる。
「いちゃついてない」
「……??」
え、すごい本気で困られてる。あれで?みたいな目で見るのやめて。
あのね、れーくんはなんか知らないけどああなってしまったというか。俺ととても仲良しになってしまったんです。
なんなら、こっちが撫でてやりたいんだからな。よーし、よしよし。想像上のれーくんを撫でとこ。
っていうか、見られてたのか。通りすがりだから、気にしてないと思ってたのに。
「あと、鞍替えとか。そういうんじゃない、よ?」
「じゃあなんだ?」
「秘密」
まあほら、火の悪魔を目覚めさせて大変なことになっちゃうよ~とかは言えないから。
……すごい微妙な表情をされてしまった。ごめんね。
「あまりそんなことばっかりやってると、勘違いされるぞ」
「……勘違い?」
「こういうことをされると、自分を好いてると思われるということだ」
ははーん、なるほど。つまりは。
「私が君に、好きだと思われてる?」
「そう思われるって話だ」
「思ったの?」
「お前、話を聞いてるのか?」
呆れたように目を伏せられた。だって、そういう話かなって。
「別に、私はウルフレートのこと。嫌いじゃないけど」
結構キャラとしては好きだし。
「……お前、よくあれだけベタベタしてる男がいるのにそんなこと言えるな」
「何の話?」
「無自覚か、貴様」
「あだっ」
額を弾かれてしまった。ちょっと痛い。
そんな俺の態度に、ちょっとだけウルフレートの頬が緩んだ。え、ウルフレートが笑ってる。なにそれ。
「一応聞くが、お前の名前はエレーナ・マエルストロム・リーデルでいいか?」
「そうだよ」
やば、有名人じゃん。……なんか、変な噂のせいで余計に知られてるんだろうな。
「そうか」
とだけ呟いて、こっちに背を向けてきた。
「機会があれば、また」
「うん、またね」
まあ、初邂逅としてはいいんじゃないだろうか。
「ちょっと、何してたのエレーナ」
ウルフレートが去った後、れーくんが追いかけてきた。
「れーくん、なんで慌ててるの」
「急にいなくなるから。見失っちゃうし」
「ちょっと、男子と話してた」
「えっ、大丈夫……?」
きょろきょろ、と俺の全身を見てくる。もう、心配しすぎ。
「れーくん、嫉妬?」
「エレーナ、最近そんなことばっか言うね」
だって、誤魔化すにはちょうどいいし。
にしても、あれがウルフレートか。キャラとしては知ってたけど、ちゃんと話せてよかった。
……だって、人間として知ると絶対に見捨てられなくなるから。
彼は、悪い人じゃないし。俺を腫れ物みたいな扱いにもしなかった。
だから、見捨てちゃダメだ。俺がちゃんと守ってから、犠牲にならないといけない。
たまに、思ってしまう。別に、なんもしなくていいんじゃないかって。他人がひどい目に合ってもいいじゃんって。
それを払拭するためには、やっぱり被害に合う人を見た方がいい。
完全に放っておけば、ウルフレートもひどいことになってしまうから。
れーくん、君が悪いよ。幸せを夢見そうになるから。
なんて、八つ当たりをしながら。教室に戻ることにした。