主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
「それで、話を聞きたいのだけれど」
ふにふに、と頬をいじられてる。なんで?
放課後、ミーツェに捕まってそのまま連れていかれたんだけど。そのままミーツェの部屋でなんか、抱き締められるような形になってるんだけど。
……なんでこんなことに?
いやね、確かにエレーナはミーツェとそこそこ仲はいいはずなんだけど。ここまで距離感近かったかな。
なんで抱き締められてるんだろ。ペットとかじゃないんですよこっちは。
「あなた、未来が見えるんだとか言ったわよね」
と言いながら、ミーツェはずっと頬をつついてる。そんなに触り心地がいいってこと?
確かに、自分で触ってみたときはなんかすべすべだなーって思ってたけど。
まあいいや、話を進めよ。
とりあえず、火の悪魔の話とか聞かないとね。
……というか、たぶんそれよりも深い話をしないといけなさそう。
つい、エレーナの核心について話をしてしまったから。
「未来がちょっとだけ、わかるけど」
「……それってつまり、そういうことよね?」
とまあ、すごい意味深なことを言われるんだけど。
これもしょうがないんだよね。なんたって、エレーナは特別なキャラなんでね!
っていうのも、エレーナの魔力とちょっと関係する。
今のエレーナは、土の魔力ってことで通してる……というか、土も使えるというのが正しいんだけどね。
ここからは、ちょっとだけ原作のエレーナについて掘り下げることになってしまうな。
「うん、そうです」
「敬語を使わなくてもいいのに」
「ふみゅ」
素っ頓狂な声が出てしまった。急に手で頬を挟まないでほしい。
っていうか、いきなり敬語やめるのはハードル高いって。先輩だしさ。
「……ってことは、あなたは他の魔力も使えるってことよね」
「はい、土だけじゃなくて。水とか風、も」
頬から手を離されたから、ようやく喋れる。
そう、これがエレーナの秘密。エレーナは、なんと他の属性の魔力も使えてしまう。
全属性が使える特別ヒロインだったりするんです、いえい。
つまり、ステラと同じ――星の魔力を使う者。
そんなすごい存在だったりする。
「"星の魔力は、全ての属性を併せ持つ。なぜならそれは、神から与えられた力だから"――なんて仰々しいことが、教科書には書いてあるわ」
頭の上から、ミーツェの声が降ってくる。
「それに、そういうものの中でも、未来が見えるものをこう呼ぶそうよ。救世の乙女ってね」
語りかけてくるようだけど、それにしても声色が悲しげというか。少し暗い雰囲気だ。
まあ、なんというか。その救世の乙女とやらが俺なんだけどもね。俺というか、エレーナか。
この救世の乙女っていうのも、すごい名前がついてるんだけど。
実際は、とてもシンプルな内容でね。これはあくまで、その時期に大活躍する女の子!みたいなもの。
そりゃ、全属性の魔力を使う存在なんだから、活躍ぐらいはしないとね!
「あなたが、そうってことよね」
「そう、だと思います」
メインヒロインと同じ、星の魔力を持っていて。尚且つ、別の役割を持つというとんでもないキャラなんだよね。
うーん、荷が重い。
そんな設定盛り盛りキャラなせいか、裏ヒロインとか言われたりもするんだけど。
不意に、ぎゅっと抱き締められた。柔らかな感触が体を包み込む。
さらり、と頬に垂れるミーツェの髪がこそばゆい。
じんわりと、温かい。
……なんで、強く抱き締められてるんだ?
「ってことは、あなたは水の魔力だって使えるはずよね?」
「え、はい」
「……あなたは、水の魔法名をつけられて起きながら、わざと土の魔力を使ったってことよね」
「そう、ですけど……」
じくじく、と少しだけ胸が痛んだ。なんとなく、嫌なことを言われそうな気がしたから。
「救世の乙女っていうのは、ちょっとややこしい立ち位置だもの。それを偽るのはいいとは思うけれど」
そう、これはあんまりバラしてもよくないから。原作のエレーナも俺も、ある程度は秘密にする必要があった。
だって――家に利用価値があると思われると、動きにくいから。
「あなたが魔法名とは違う、土の魔力を選んだのは、家族からそういう扱いをされるとわかった上で、ってことよね」
「……」
「答えにくいかしら?」
ああもう、嫌なところに気がつくな。
そうだ、家族から嫌な扱いをされるとわかってこうしてる。
そこら辺の描写は、原作ではあんまりなかったけど。それでも、ろくな扱いを受けてないことだけは知ってたから。
それを知っていながら俺は、原作の通りにした。
結果、やっぱり家族は俺を……これはいいや。また、気分が悪くなるし。
やっぱり、未来がわかってても。ひどい扱いに耐えるのはしんどいから。エレーナは、よくこんな選択肢を選べたと思う。
まあ、リーデルの家はちょっと傲慢気味というか。態度があんまりよくないところだからさ。そこに利用されたりなんかしたら、本来の役割とか果たせないってわかってたんだろうけどね。
本物のエレーナだったら、俺みたいに夢に見たりしないのかもしれないけど。
……なんか、こうして抱き締められてると落ち着くな。
「ミーツェ、先輩」
「……なあに?」
「ありがと、ございます……」
「なにそれ」
ふふ、と耳元で軽く笑う声が聞こえてくる。するり、と抱きしめられる状態からようやく解放された。
「……それよりも、火の悪魔の話をしたくて」
「ああ、そういう話だったわよね」
ようやく本題に入れる。救世の乙女関連って正直どうでもいいし。ミーツェの方へ体を向けると、話し始めた。
「ウルフレートのことと、火の悪魔の話だったわよね。ウルフレートのことは、どれぐらい知っているの?」
「ええと、強力な火の魔力を持ってて。強気だけど、悪くなさそうな人?」
……すごい適当な説明になってしまった。いやその、こういうの下手でさ。つい、ちょっと前にあったウルフレートの印象そのまま言ってしまった。
「まあ、そんな感じではあるけれど。まるで見てきたような言い方ね?」
「昼休みに会った、ので」
「……あなた、手が早いわね」
ミーツェが呆れたように眉を下げた。
言い方どうにかならない?
気になってちょっと確認はしたけども。そういや、デコピンとかしてきたよねあいつ。そんな感じのキャラじゃなかった気がするけど。
もしかして、仲良くなれているのでは。
と、考えている間にミーツェが黙り込んだ。あれ、何か考えてる?
「……要するに、彼が火の悪魔と接触してしまって。大惨事になってしまうってことでいいかしら」
「なんで、わかったんですか?」
え、すごい。ぴったり当ててきたんだけど。
「異存在と同じ属性を持つ、強力な魔力を持つものの話をしていて。それで、あなたは未来が見えるって話でしょう?」
「そう、ですけど……」
「……あなたも、そこそこ大きなものを背負っているのよね」
別に、そこまで大層なものでもないけど。そういえば、原作のエレーナはここら辺の事情まで話したんだろうか。
たぶん、これぐらい踏み込まないとミーツェは協力してくれない気がするし。れーくん視点だから、そこら辺はわからないんだよね。
そういえば、今日はあんまりれーくんと話してないな。ちょっとだけ、れーくんに癒されたい気持ちもある。
なんか、一緒にいるだけでちょっと気持ちがましになるんだよね。空気清浄機みたいな感じ。
「そんなことが起こるなら、私も協力するわ」
「……ありがとう、ございます」
「それ、あなたの友達には言わないの?」
れーくんのことだろうか。
「今は、言わなくてもいい、ので」
そのうち言うけどね。れーくんとべったりだと、やっぱりどうしても動きにくいから。
エレーナはある意味で注目は受けてるけど。れーくんはいい意味で注目されてるから。そんなに視線集めてたら、面倒くさい。
……でも、ずっと離れるのもなんかやだな。
「そう、事情があるならいいわ。それにしても、あなたはウルフレートと会ったそうだけど。気に入ったの?」
「へ?」
「彼の話をしてるとき、少しだけ表情が和らいでいた気がするから」
何、エレーナの表情を読み取れるの?すごいな、ミーツェ。鏡で見てるけど、本人すらよくわからないのに。
にしても、ウルフレートのことか。これは普通に、同情というか。同じ被害者だから、ちょっとだけそういう気持ちになったのかも。
まあ、ウルフレートと関わるのも悪くないけど。個人的には――
「――れーくんと話してる方が、楽しい」
「……そう」
すごい微妙な表情で返されてしまった。あれ、変なこと口走ったっけ?
まあいっか。
とりあえずミーツェの協力も取り付けたし、火の悪魔の件を頑張って解決するぞ。
無意識れーくん大好き型小動物