主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
エレーナが最近おかしい。
……まあ、前からわりとおかしいかな、と思うところはあったけど。
僕とステラさんを話させようとしたりだとか。上級生のミーツェさんと変に関わったりとかもしてるみたいだし。
……何か、変なこと考えてないといいけど。エレーナはやっぱり、心配になるから。
少し離れてるだけで、たまに泣いてる時とか、胸がきゅっとする。雨だからバレないと思ってた、とか平気で言うし。……あの家のことは、やっぱりエレーナに深い傷を負わせてるんだろうけど、触れられないから考えるのはやめとこう。
っていうか、僕に何かを内緒にしてる気がする。……あと、何かいじってくることも増えた。
さすがに、急に好きだとか言われて動揺してしまうのも許してほしい。
そもそも、エレーナはかわいい女の子で。普段から近くにいるけど、まっすぐ好きって言われたらどうしていいかわからなくなる。
……友達としてってことはわかってるけどね。
「何を考えてるんですか?」
ボーッと考え込んでいると、不意に青い瞳が僕を覗き込んでくる。
ステラ・メーア、このクラスにいる不思議な少女。
彼女が一言話すたびに、クラスの視線が少しだけ集まる。
快活で、かわいらしい見た目と――その秘めた彼女の力のせいだけど。
星の魔力、全属性を操るその力は自然と注目を受ける。
「あっ、わかりました。エレーナさんのことですよね?」
「……何か用?」
「あはは、私に冷たいの如月くんぐらいだからちょっと新鮮かもですね」
楽しそうに、けらけらと笑う。……そりゃあ、君に辛辣な人もなかなかいないだろうけどね。性格も見た目も、なんなら才能すらあるんだから。
「私も、エレーナさんのことを知りたくってですね」
「……なんで?」
「――ひとりぼっちになりたさそうな子を見ると、邪魔したくなるんです」
「それはどういう……」
「なんでもないですよ」
僕の言葉を遮って、いつも通りのにこにことしたステラさんに戻った。さっき一瞬だけ、声色が変わったのはなんだったんだろう。
「エレーナさんの手を、離さないであげてくださいね」
とだけ言って、ステラさんは去っていくし。
そういえば、最近あんまりエレーナと話してない気がする。
久しぶりに、エレーナと遊ぼうかな。まあなんかその…………癒されるし。
◇◇◇
「れーくん、どうした、の?」
小首を傾げて、エレーナがこちらを見た。……変なこと考えてたせいか、少し意識してしまいそうになって。儚げに揺れる瞳に吸い込まれそうになる。
「なんでもないよ」
今日は休日で、やることもないからエレーナと一緒にいるんだけど。最近は少しずつ、エレーナが他の人といることもあるから、なんだか久しぶりな気がしてきた。
別に、そんなこともないのに。
……嫉妬って言われたけど、少し寂しいから違うとも言いにくい。
まあ、一緒にいるって言っても、他に遊ぶ相手も思い付かないから、なんとなく一緒に出掛けてるだけだけど。
にしても、ステラさんもミーツェ先輩も、やたらとエレーナを気にしてる。気持ちはわかるんだけどね。
エレーナは見てて、放っておけなくなるだろうし。……それに、未だに家のこととかで、うなされてるのとか見るから。
「れーくん、ボーッとしてる」
考え込んでいると、ムッと少しだけ頬を膨らませたエレーナが、こつんと肩をぶつけてきた。
「ごめんってば」
「いいけど……」
本人に言ったら怒るだろうけど、懐いてない時の猫みたい。
「にしても、久々だね。エレーナと出掛けるの」
「そう、かな?そうかも、ね。他の人と、遊んだりしない、の?」
他の人と、か。確かにクラスメイトとは、そこそこ話せるぐらいには仲良くなっている気がするけど。遊びに行くほどではないかな。
ああ、でも。最近はステラさんがやけに話しかけてきて、勢いでそのまま一緒に出掛けそうになったんだけどね。
あの人、押しがすごい。
「その雰囲気は、ある感じ?」
「あんまりないよ」
「ふーん……ステラとかも?」
……なんか、エレーナは僕とステラさんをどうにかしたいのかな?
興味津々に、きらきらと瞳を輝かせてるし。まあでも、コイバナに興味あるみたいでかわいいかもしれない。
いや、エレーナはいつでもかわいいけどね。……何考えてるんだ、僕は。
「ステラさんとも、何もないけど」
「間があったけど?」
……こういうところだけは、やけに鋭い。でも、ステラさんは僕に興味があるんじゃなくて。エレーナのことがどうにも気になるみたいだけどね。
「そういうのじゃないよ。ステラさんは、クラスのみんなと仲がいいから」
「ふーん」
もう興味を失ったのか、それ以上追求してくることもなかった。
「そろそろ着く、よ」
「そうだね」
今日向かってるのは公園。でも、ただの公園ってわけじゃなくて、少しだけ特殊な場所。
魔法を少しだけ使ってもいいっていうだけだけどね。
本来、魔法は許可を取って使用することが多くて。いろんな場所で、勝手に使うことが禁止されてる。
危ないしね。
だから、こうやってちょっとだけ使ってもいいですよーって場所がある。
学生は割りと、暇なときにこういうところで魔法を使うこともあるんだとか。
エレーナがちょっと興味あるって言ってたから、ついでに誘ってみたんだけど。思いの外食いついてた。
少しだけ公園に入った時に、ふとエレーナの方を見る。遠くの方をぼんやりと眺めていた。
「どうしたの、エレーナ」
「いや……昔、弟がこんなところで、遊んでたなって」
「弟?」
エレーナから家族の話を聞くのも珍しい。大体は、あまりいい話じゃないから。
――リーデルの人形姫、いつもエレーナがこそこそと言われている話。
魔法名と異なる魔力、人形みたいに綺麗だけど表情も変わらない存在。そんな感じの、陰口を何回も聞かされてきた。
……エレーナだって、好きでそうなったはずないのに。
でも、不思議と弟のことを話すエレーナは、あまり暗い顔をしていない。エレーナの味方だったのかな。
「姉さんと同じ血が入ってると、不快になるとか、言われたんだけどね」
「……っ」
やっぱり、そうじゃない。そんな環境で育ってるんだ。エレーナの弟だって、そうなるか。
「でも、あれを言ってるときの、弟はかわいくて」
「かわいい要素あった???」
「だって、親の言ってることを真に受けて、変なこと言ってるだけだから。ちょっとかわいい」
ふふっ、と少しだけエレーナの頬が緩む。……かわいいなあ、それ。ちょっと嫌だけど。
なんか、その弟くんは好きになれなさそうだ。
――不意に、エレーナの顔が迫ってきた。頭に、何かが触れる。
「よーし、よし、よし」
なんで撫でられるんだろう、僕。たまに、エレーナはこういうことしてくる。びっくりするからやめてほしい。
少しだけ楽しそうだから、まあちょっとぐらいならいいかな。
「れーくん、心配しないで、ね」
「……何が?」
「――私は、大丈夫だから」
まるで消えてしまいそうな声で、急にそんなことを言うものだから。
抱き締めてしまいそうになって、我慢した。……今日は庇護欲に負けないようにしよう。
エレーナには、楽しんでほしいし。急に僕がそんなことをしたら、びっくりしてしまうだろうから。
「れーくん」
「どうしたの?」
「……疲れたからおんぶして」
……急に甘えてくるから、やっぱりきついかもしれない。
話が進むごとに小動物化してるような気がしないでもない