主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
元々、エレーナはこの公園に興味がありそうだと思ってたんだけど。
「……みてみて、れーくん」
公園にあるアスレチックを、すごい勢いで移動していく。少しだけ、頬が緩んでいるから、たぶん楽しいんだと思う。
……エレーナって、普段はあんまり表情が変わらないから。それを含めて考えると、相当楽しそうに見える。
楽しんでくれてるならよかった。
にしても、軽々とアスレチックを移動していくこの感じ。エレーナが土の魔力だとは聞いてたけど、こんなにも動けるものなんだ。
土の魔力の性質は、普通に土を操ったりする以外にも、身体強化することが出来るっていうのは知ってたけど。
実際に確認してみると、強化の幅はでかいんだな。
でも、同じクラスの土の魔力の子の力をみたけど。あくまで、少しだけ鍛えた人ぐらいのものだった。
エレーナは――
「れーくん、どう?」
「すごいね。別人みたい」
「……私が運動できないって、言われてる?」
「そうじゃないよ。オリンピックの選手みたいに動いてるから」
「そっか」
そう、本当にスポーツとかを極めた人みたいに、普通の人間ではできないような動きをしてる。エレーナは、小柄な女の子でしかないはずなのに。
普段、小さな子みたいな小動物を思わせるようなイメージのエレーナからすると、ちょっとだけ違和感というか。ギャップがすごい。無表情でガンガン進んでいくし。
にしても、この公園はやけに大きなアスレチックがあるな。たぶん、こういう土の魔力の人向けだとは思うけどね。
「……れーくんは、何もしない、の?」
すたっ、と僕の横に着地する。……3メートルぐらいの高さはありそうなところから飛び降りてるけど、普通に無事なんだ。
「こういうことはできるけど」
周囲にぶくぶく、と水の泡が浮いていく。それらがするする、と僕の周囲を回っては消えていく。
「他のこと、とかは?」
「そうだね……じゃあ」
僕の足元から、水が涌き出てくる。僕を持ち上げて、そのまま波のように移動させていく。とはいっても、短距離だけだけど。
「こういうのとかはどう?」
「……すごい、ね」
エレーナの様子を見ると、じっと僕の足元の水を見ていた。……なんか、少しだけ目を輝かせているような。
「エレーナって魔法が好きなの?」
だからつい、思ってることを聞いてみた。だって、学校に入ることとか楽しみにしてるみたいだったし。僕が魔法を使う度に、何か反応してたから。
「……うーんと、好きだけど。れーくんが魔法使ってるのが、見てて、かっこいいなって」
思わず、言葉が詰まる。……なんて言った?かっこいい……?
うまく、咀嚼できない。それって、僕が使ってるから、なのかな?
それとも、こういう風に使ってる魔法がいい、みたいな。いやいや、それだと後者に決まってる。なんで、僕が使ってたらかっこいいになるんだ。
おかしいな、僕が落ち着いてないみたいだ。少し落ち着こう。
そう思って、深く呼吸をしようとしたときに。
「大丈夫?れーくん」
エレーナが覗き込んできた。エレーナの瞳、揺れる髪。ドアップになった顔面が視界に飛び込んできて、体がぴたり、と止まる。
「……エレーナ、近いよ」
「ふーん」
エレーナの目が、スッと細められたような気がした。
「……れーくんってもしかして」
「何?」
「こういう、顔が好き?」
「――」
何、その聞き方は。人を面食いみたいな……いやまあ、エレーナの顔は綺麗というかかわいいとは思うけど。……何に言い訳してるんだろ。
「エレーナって、最近よくそういう感じのこと言うよね」
「そういう感じ?」
「からかってくるでしょ」
「れーくんをからかうの、楽しいから」
この子はいつの間に、悪戯が好きな人になってしまったんだろう。……まあ、いいか。
エレーナはいつだって、何か物憂げな様子の時が多くて。ずっと何かを考えていそうだったから。
きっと、家のこととか。あまり楽しくないことを思い出してるんだろうなと思ってた。
でも、今は楽しそうにしてるし。……表情ではわかりにくいけどね。
だから、エレーナが楽しそうなら、それでいいや。いつも、放っておくとどこかに行ってしまいそうな儚さを纏ってるから。
「ねえ、れーくん」
そうやって考え込んでいると、エレーナの瞳が僕の方をまっすぐ見た。
なんだろうか、と思って聞こうとしたとき――遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。
「エレーナ、聞こえた?」
「……うん」
エレーナの表情が曇る。……何か嫌なことでも思い出したのかな。
「待っててエレーナ、見てくるから」
「いやまあ、その……うん。私も、行く」
エレーナが心配そうだから、確認だけしようと思ったけど。妙に歯切れが悪い返事だ。
心配してる、だけじゃない?
と、考え込んでいると。ぐいっと手を引っ張られた。
「エレーナ?」
無言のまま、エレーナに引っ張られていく。……そんなに気になるのかな?
確かに、何か起こってるのはわかるけど。だって、少し近づくだけで、肌が妙にひりつくから。
これはたぶん、濃い魔力に反応してるだけだとは思うけど。
だから、向こうの方から見えてくるものにも、少しだけ想像がついた。
まず最初に目についたのは炎。まるで、火が意思を持ったみたいに動いている。
こうしたものに、心当たりがある。
この世界にやってきた異存在たち、その手下のような存在――眷属たち。魔力によって構成された生き物のようなもの。
これは、火の悪魔の眷属だと思うけど。……滅多にこんなものは出ないはずなのに、どうして。
眷属は、いるだけでも強い魔力を感じる存在だ。あまり近づきたくはない。
それに、他の眷属に比べて、火の悪魔の眷属は気性が荒い。
火の粉を撒き散らして、ぐるぐると渦巻いた炎が周囲に振り撒かれていく。……近くの木が燃えそうで危ないな。
近くにいる人たちは逃げてるけど。あれをなんとかしないと、ここら辺は危ないし。
そもそも、普通は起こらないことだから、どうしたらいい、とかもよくわからない。……連絡とかした方がいいのか?
いや、でも。このまま放っておけない。例えばそう、水の魔力を持つものなら、あれを消火とかできるかもしれないし。
「うわ……やらかした」
ぽつり、とエレーナの呟く。
「どうしたの、エレーナ」
「……ごめんね、れーくん」
そしてそのまま、項垂れた。何かを本気で後悔してるみたいに。
「エレーナ?」
「れーくんの初デートの機会を奪っちゃったかも」
「……何を言ってるの?」
……あれ、意外とエレーナ余裕がある?
ごうごう、と燃えている火の悪魔の眷属が、向こうの方に佇んでいて。
それがそのまま、こっちに向かってきそうなのに。
エレーナは、よくわからないことで頭を抱えている。
……このまま置いていくわけにもいかないし、僕があれを止めよう。
「れーくん」
「うん」
「今回をノーカンにして、初デートにして、ね」
やっぱり、エレーナはおかしい。そもそも、それはどういう意味?
そういう言い方だと、今回はデートにしてほしくはないみたいな。……エレーナはやっぱりよくわからない。
それは、僕に他の人とデートほしいのか。それとも、別の機会にエレーナを誘えばいいってこと?
……そんなことを考えてる場合でもないな。とりあえず、今のこの状況に集中しよう。
れーくん「エレーナ変だな」
エレーナ「原作イベじゃん、やばいやばい」