主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
火の悪魔の眷属が、公園の中を闊歩してる。
人々が逃げ惑っている中、俺は一人で頭を抱えていた。
「エレーナ、大丈夫?」
「うん。れーくんのことで悩んでる」
「何を言ってるの??」
……やっばい。原作イベントだ。
いやね、ワンチャンそうじゃないといいなーぐらいで。そんな気はしてたけどね。
普通に火の悪魔の眷属来てるじゃん、どうしよ。れーくんのイベント潰しちゃった。
ごめん、ステラ。れーくんとはまた別の内容でデートしてね!
……うーん、原作再現がしたいのに原作破壊みたいなことをなってしまうとは。
まあ、とにかく。今回はこれを解決しないといけない。
まず、このストーリーの話なんだけども。せっかくだから一緒に出掛けてたれーくんとステラが、公園で遊んでいると、そこに火の悪魔の眷属が発生してしまうっていうもの。
俺たちは学校でしか魔力の使い方を教わってないから、ここで初めて魔力を使って戦うみたいなイベントなんだよね。
星の魔力を持つステラと、魔力名をつけられてないけど強い魔力を持ってるれーくんが解決する。
火の悪魔の眷属は、普通に火の魔力の塊のような存在。魔力をぶつけて倒すしかないから、警官とか来ても魔力が強くないなら微妙だから、結局俺たちみたいなやつが止めないといけない。
ここら辺、法整備とかされてないだろうから、警官に見つかると面倒くさそうだよね。なんて、言ってる場合もでないか。
「エレーナ、下がってて」
れーくんの目付きが変わる。やっぱり、主人公って感じ。っていうか、守ってくれる感じなの?
原作だと、ステラと一緒に立ち向かってたんだけどね。
そもそも、覚悟決まりすぎでしょ。おかしいな、もうちょっとあわあわしてた気がするんだけど?
でも、ステラも危険だからって感じでそのまま突き進んでいく感じなはずなんだよね。主人公くん、知らないうちに覚醒しちゃってる?
――れーくんの周囲に、水の泡が浮く。もう準備に入ってる。
火の悪魔の眷属は、まあ最初の敵ではあるんだけど。それでも、結構強い。こっちは生身っていうのもあるけど。
……俺もさすがに、メインヒロインちゃんの代わりに頑張るか。れーくんを一人で放っておくのも、気が引けるから。
「れーくん、私も頑張る、よ?」
「……別に、僕たちがなんとかしないといけない義務とかはないんだよ?」
そりゃそうだけど。そもそも、こういうことが起きるのは滅多にないし。だから、対処方法とかも決まってない。
「でも、れーくんはやるんでしょ?」
「だって、このままだとここの人たちが危ないから」
ちらり、と周囲に視線を向けた。火の粉が舞って、すぐにも周囲の木々に燃え移りそうだ。
だから、れーくんはこうやって水の泡を出してすぐに消化できるようにしてるんだ。さすが主人公。
まあ、俺だって実は水の魔力は使えるからなんとかできるんだけど。星の魔力ってことがバレると、非常に問題があるし。
とん、と地面を強く踏み込んだ。すると、土が盛り上がって、ずるずると動いていく。
「れーくん一人で、やらせるわけには、いかないでしょ」
「……本気?」
「本気、だよ。一緒に、頑張ろ」
「そうだね。エレーナと一緒なら、僕も本当は心強いんだけど……」
もー、なんでれーくんは微妙に不満そうなの。守らせてなんかやんないから。そういうのはステラにやって。
……っていうかもう。俺から動くか。れーくんに、ちゃんとやれるってことを見せないと納得できなさそうだし。
土を動かして、火の悪魔の眷属へと向かう。反射的に動いてくるそれが、こっちに向けて炎を飛ばしてきた。
「エレーナ!?」
焦るようなれーくんの声が聞こえた。大丈夫なのに。
魔力は、魔力をぶつけると相殺できる。周囲の土をそれにぶつけると、土が弾け飛ぶ代わりに炎もスッと消えた。
すると、後ろから水の泡がレーザーのようにまっすぐ飛んできて、それが火の悪魔の眷属を襲う。
反射的に、体でそれを弾くけど。火の悪魔の眷属の体を構成している魔力と打ち消しあって、体を削る。
「エレーナ、いきなり突っ込んでいかないで」
「……ごめん。でも、なんとかなると、思ったから」
「なんとかって。あれって、異存在の眷属だよ?」
「うん、わかってる、よ?」
もう、れーくんってば過保護。そんなんだと、親離れできないよ。パパ、心配しちゃう。
……にしても、これが解決したら一旦れーくんとはちゃんと離れないとなー。ちょっとだけ、名残惜しいけど。
れーくんと遊ぶのも楽しかったし、癒されてたけど。人に頼ってばかりなのもいけないしね。
なんとなく、れーくんと一緒に戦うぞとは思ったものの。まるでヒロインみたいに隣に立って戦うのは、ダメな気がして、そのまま俺は飛び出した。
土の魔力で身体強化して、一気に火の悪魔の眷属のところまでジャンプする。
れーくんの攻撃を受けて、少しだけ緩んでたけど。すぐに立て直して、また炎を飛ばしてくる。
序盤の敵なだけあって、単調だ。だから、わざわざ防御しなくてもは避けられる。うわ、真横を炎が通っていくの微妙に熱いな。
火の悪魔の眷属の足元に、土をボコッと盛り上げさせて、足元を狙う。そして、ぐらついた瞬間に思いっきり魔力を込めてそれをぶつけた。
すると、体に大きな穴が空いて。そのまま、フッと火の悪魔の眷属は姿を消す。
うわ、なんか緩く勝ってしまった。
「……エレーナ、だから無茶なことするのやめてってば」
がし、とれーくんに掴まれて、強引にそっちに顔を向けさせられてしまった。
れーくんの顔面が、視界に入る。こうやって、まじまじとれーくんを見るのもあんまりないや。
「エレーナ、聞いてる」
「は、はひっ」
なんか、変なシチュエーションのせいで、敬語だし噛んでしまった。
よくよく考えると今って異性の顔を間近で見てるんだよな。れーくんって、顔は悪くないし。こうやって、ドアップで見るのも実は得なのでは?
……何言ってんだ、俺。精神的には同性の顔を間近で見ても、何もないだろ。
うーん、今日はどこかおかしくなってる気がする。
「エレーナ、さっきわざわざ攻撃を避けたりしてたけど。下手すると当たってたよ?」
「……なんか、防御せずに、避けられるかなって」
「危ないことはしないで」
「……うん」
本気で心配してくれてるから、下手に茶化せない。でも、これから危ないことをしないって約束も本当はできないから、嘘をつくしかなくて。少しだけ胸が痛む。
「でも、れーくんも。自分を大事して、ね」
だから、やり返すように、そうとだけ返した。
「うん、わかったよ」
なんて君は言うけど。そういう風にはならないんだよ。俺は知ってるから。
パッと、れーくんの手が離れる。
「でも、これってどう対応したらいいのかな」
「……放置?」
「まあ、異存在の眷属を倒しました、とか言えないけど」
実際、ストーリー上だとあんま描写されてないからわかんないんだよね。
と、二人して悩んでいるときに。
「なんだ、こっちからも強い魔力を感じたと思ったのに。いるのは変なカップルだし」
どこかで聞き覚えのある声がした。
思わず、そっちを振り向く。
おいこら、誰がカップルだ。そういうのじゃないぞ。
という、強い意思を込めて発言者を確認した。
俺よりは大きいけど、れーくんに比べると少し小柄な少年がいた。
こっちのことを見定めるように向けてる視線が、不意に定まらなくなっている。
「……姉さん?」
ぽつり、と少年が呟く。目が大きく見開かれている。
「エレーナ、知り合い?」
「うん」
ああそっか。そりゃ見覚えあるはずだ。
「アルト、久しぶり」
「なんでこんなところにいるの?」
「大きくなった、ね?」
「ねえ、話聞いてる?こっちはさ、見るだけで不快なんだよ。この体に流れてる血が、姉さんと同じものが混じってるって、思い出すから」
こっちを見る瞳が、スッと細められる。睨み付けるみたいにして、こっちを見ているけど。本気の侮蔑ではないってことが、なんとなくわかる。
だって、親とは違うから。あの底冷えするような、浴びせられているだけで今すぐ消えないといけないと思わせるような、それとは全然違う。
そう思うと、生意気なだけの弟だから。ちょっとかわいく見えてきた。
アルト・マエルストロム・リーデル。エレーナの弟。
「よーし、よし、よし……」
生意気なだけの、歪んだ親に育てられてしまった、ただのガキ。
「何、撫でてんの」
「かわいい、ね。アルト」
「なんなんだよ、急に」
「まだ、大きくなりそうだもん、ね」
「うざいんだけど」
なんかこの作品、やけにキャラがよく出てくる気がしないでもない