主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
皆様ごきげんよう、エレーナ・マエルストロム・リーデルですわ。
……錯乱して、お嬢様になってしまった。この名前見るたびに、それっぽいなと思ってしまうからつい。
いやその、弟のアルトが来たんだけどね。ちょっといつも通りつんけんしてて、かわいいなあって思ってたんだよ。
そしたらさ……れーくんが。
「エレーナ、帰ろう?こんなところにいると、気分が悪くなる」
なんか、アルトを睨み付けているんだよね。おかしいな、アルトのことは悪く思ってないって話したのに。
なんなら、なでなでしてたのに。見えてないの?
「何、姉さん。まだこんなんと付き合ってんの?」
なんか、アルトもバチバチなんだけど。どうしたの、君たち。
俺を挟んで、二人の視線がぶつかり合ってるんだよね。
「れーくんは、友達だから、ね?」
「あっそ。そりゃあ、不一致の姉さんは新しく友達なんかできるわけないか」
「……アルト、言っていいことと悪いことが、あるよ?」
吐き捨てるようにアルトが言うけど。なんか、無理してるような。
っていうか、ぼっちのメンタルをいじめないでほしいんですけど。こちとら、よわよわメンタルなんだぞ。
パパ怒っちゃう。いやうーん、気分的にはよしよしするパパの気分なんだけど。さすがに、アルトにはお姉さんとして接してあげた方がいいか。
「僕はずっと、エレーナと一緒にいる。エレーナを迫害してる君たち家族とは違ってね」
「ちょっと、れーくん?」
「エレーナ、少なくともこいつは君にひどいことを言ってるでしょ」
「うーん、でもそれは……」
「エレーナのことは、僕が守るから」
……なんか恥ずかしいこと言ってない?
別に、こっちもそんな守られてやるキャラでもないんだけど。
っていうか、なんで俺が今ヒロインみたいな感じになってんだよ。
「……確かに、姉さんのご飯が捨てられたときも。姉さんが叩かれてた時も。姉さんの私物が捨てられたときも。姉さんが、外に放り出された時も。何もしなかった」
一際、低い声でアルトが呟くように言う。じっと、こっちを見ながら。
その様子に、れーくんも息を飲んだ。
「そうだ、俺は姉さんを迫害してる。だから、今日ここで見つけてバカにしに来ただけだ。こんなところで、いちゃついてるやつがいたから」
アルトの視線が鋭くなる。
「アルト」
その様子がやけに苦しそうに見えたから。俺は、静かに声をかけた。
「姉さん、俺は――」
「あんまり人の恥ずかしいこと、言わないで」
めっ、とアルトの額を軽く弾いた。
「ね、姉さん?」
予想外の行動だったのか、アルトが目を丸くしてる。なんなら、れーくんも固まってるし。なんで?
「私の過去のこと、あんまばらさないで。れーくんにたくさん知られると、恥ずかしいから、ね?」
そう、れーくんにそういうことをそんなに知られたくない。
いやなんか、弱ってるときのことってそんなに知られたくないじゃん。
れーくんから心配されるしさ。
それに――アルトだってそのことを引き出してまで卑下しなくていいし。
「れーくんも、あんまりさっきの話。気にしないで、ね?」
「……まあ、うん。わかったよ」
「ほんと?」
「少なくとも、エレーナが言ってるみたいに、弟が悪いやつじゃないってことは。気にくわないけど」
はあ、と軽くれーくんが息を吐いた。張り詰めていた空気が和らいでいる気がする。
え、気にくわないんだ。
アルトのこと、俺はそこそこ気に入ってるのに。
ねえ、アルト。
「……姉さん」
なんかデコピンしたせいか、落ち着いたアルトが、どうしていいかわからないみたいにこちらを見てくる。
「よーし、よし、よし」
「なんで撫でてんの」
「アルトは、かわいい、ね」
「……かわいいってなに?」
「悪ぶってるけどできてないこと、とか?」
「その見透かしてる感じ、うざいんだけど。早く撫でるのやめてもらえる?」
「れーくんだったら、もうちょっと撫でさせてくれるのに」
「は???」
今日で一番低い声が出てる。ちょっと怖い。
「ちょっと、あんたさ」
なんかそのまま、れーくんに突っかかっていくし。
「結局どういう関係なの?姉さんと付き合ってんの?」
「エレーナとは、友達だよ」
「はあ、イカれた距離感で姉さんに近づくのやめてくれる?」
「エレーナを守れないくせに、そんな保護者みたいなこと言われてもね」
「どうせ、姉さんの見た目がいいから近づいてるだけだろ」
「エレーナは見た目じゃなくて中身もかわいいけど」
「……あっそ」
なんか、すごいこと言われてない?気のせい?
っていうか、またこの二人バチバチじゃん。どうなってんの。
俺としてはですね。アルトとれーくんは仲良くしてほしいんだけど。
れーくんは、主人公だし。アルトもさ、一応原作でもれーくんとの絡みはあるから、先に仲良くなってた方が早いかなって思ったんだけどね。
っていうか。
「アルトは、なんでここにいるの?」
「別に、騒ぎが起きてるから確認しに来ただけ」
原作だとアルトはこの場面では出てこないはず。
何か理由があるのかな?
例えば、そう――
「私に会いに来た?」
俺の家って、ここからわりと近いしね。逆にアルトは、遠くにいるはずだから。そういう用事でもないと来ないかなって。
「はあっ!?」
「……ビンゴ?」
「違うけど?」
そんな過剰反応しなくても。あれ、本当にアルトって俺に会いに来た感じなの?
ちらり、とれーくんの方へと視線を向ける。
「何、エレーナ?」
「うーん、アルトが私に会いに来てそうだから。一緒に遊ぼうかな、って」
「姉さん、勝手に決めるのやめてくれる?」
「ナイスツンデレ」
「姉さん、話聞いてる?」
なんか、だんだんアルトいじるの楽しくなってきたな。れーくんも、アルトも。いじりがいがあっていいね。
……ただ、そう考えるとさ。俺がいなくなった後に、アルトがどうなるかちょっとわからない気持ちもあるよね。少しだけ心苦しいというか。
そんなこと考えてたら、キリがないかもだけど。
「エレーナがいいなら、いいよ」
「だって、アルト」
「……別に一緒に遊びたいわけじゃない。ちょっとだけ、姉さんの様子を見に来ただけだ」
ぷいっ、とアルトがそっぽ向く。素直になれない弟って悪くないね。……一緒に住んでた頃は、ろくに話せないことも多かったし。
「じゃあ、一緒に遊ぼ?」
「はいはい」
観念したように、アルトが軽く頷いた。
「れーくんも、喧嘩しないで、ね?」
「善処するよ」
れーくんは、まだあんまり仲良くなる気なさそうだけど。
◇◇◇
ぱちん、と電気をつける。暗い家に灯りが点った。
「……あるとぉ」
「姉さん、重いんだけど。早く起きて」
「れーくん、は……?」
「嫌々、俺に姉さんを託して帰ったけど」
「さみしぃ……」
「うざいな、今度からはあいつに送ってもらいなよ」
疲れきったエレーナが、アルトに背負われている。
公園ではしゃぎすぎて、そのまま子供みたいにぱたん、と倒れてしまい。れーくんこと、如月玲はエレーナの家に入るのは少しだけ気恥ずかしくて、それをアルトにしぶしぶ託していた。
アルトはエレーナを、ベッドまで運ぶ。すやすや、とすぐにエレーナは寝息を立てていた。
そんなエレーナの髪を、軽く撫でる。
「姉さん、ごめんね」
アルトの声は、エレーナには聞こえてないはずなのに。
「気にしないで、ね」
小さく呟くように、エレーナは寝言で答えた。