主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
ずきり、と頭が痛む。
あれ、いつの間にか寝てたんだ。あれ、何があったんだっけ。
ああ、そうか。れーくんと遊びにいって、アルトと会ったんだ。で、そのまま二人とも遊ぼうとして強引に連れ回したっけ。
連れ回したっていっても、別に公園の中だから、みてみてーって言いながらアスレチックしてただけだけどね。
みんなも魔法使ったら?って思ってたけど、なんか俺のことを見てて満足したらしい。なんでだよ。
ともかく、そんな感じで一人ではしゃぎまくったら疲れちゃって。アルトに担がれて家まで来たってこと。
れーくんもちょっと来さそうにしてたけど。なんか用事があるとかで来れなかった、ってことだった気がする。
別に、れーくんがついてこなくてもいいんだけど。そんなに俺の家のところ来たかったのかな。
……微妙に恥ずかしいかも。
まあいいや。とりあえず起きるか。
そう思って、ゆっくり体を起こすと。
「随分寝てたね、姉さん」
すぐそばにアルトがいた。俺の顔を覗き込んでから、スッと視線を逸らす。
「おはよ、アルト」
「まだ夕方だよ」
そう言われて窓の方を見るけど。確かに外が真っ赤だ。
そりゃそうか。っていうか。
「アルト、まだいたんだ、ね」
「何、いない方がよかったって?」
むすっとしてるけど、そういうところもかわいいかもね。
いやなんか、アルトってかわいい少年感があるんだよね。少しいじりたくなる。
そんなせいか、つい。アルトの頬をつついた。
すると、びくりとアルトの体が跳ねる。
「な、何?姉さん」
「面白そう、だから」
「不用意に触らないでくれる?姉さんと同じ血が流れてることだって、俺は不満なんだけど」
「それ、まだやるんだ」
じゃあ撫でてやろうかな。そう思って、スーって近づいていくとなんか離れていった。なんで?
「……姉さん、距離感おかしいんだけど」
「そう、かな?」
弟だし、いいかなって思ったんだけど。ダメなんだって。
えっ、でも兄弟とかって結構距離感近くてもいけそうじゃん。いや、姉弟ではあるけどもね。
「あのさ、もしかしてあの男にもやってるの?そういうこと」
「あの男?ああ、れーくんのこと?うーん、れーくんとの、距離感は近い、かも?」
ずっと一緒にいるし。なんかたまに、いじってるときもあるから、そうかもしれない。
「……はあ、姉さんもほどほどにしなよ」
「何、急に」
「あいつのことあんまり好きじゃなかったけど。ちょっと気の毒だなと思っただけ」
「……??」
れーくんが気の毒?
あれかな、こんな俺なんかと一緒にいるのがよくないみたいな。
……確かに、よくないな。れーくんとは、いずれ別れないといけないのに、ずっと一緒にいようとするなんて。
ああ、そうだ。あの公園で遊んだ後、もうれーくんとは離れようとしたんだった。……ちょっと、名残惜しいな。
でもきっと、今までれーくんは助けてくれたから。その記憶があるだけで、頑張れる気がする。
「何、ボーッとしてんの?」
考え込んでしまったせいで、心配そうにアルトが覗き込んできた。やっぱり、悪びれてるだけで、いいやつなんだよねアルト。いいやつっていうと、うーん。本人は嫌がりそうだけど。
「……なんでもない、よ」
「その割には、なんか辛そうな顔してるけど」
そう言われて、思わず目を見開いた。エレーナの表情はとてもわかりにくいから。それがわかるなんて、さすが弟と言うべきか。
……でも、確かに。れーくんともう遊んだりしないって思うと、少しだけ胸が痛いから。
ちょっとだけ、アルトで和らげてもいいかな。
そう思って、ちょっとだけアルトに近づいて。そのままもたれ掛かった。
「……あの、姉さん?」
「……何?」
「何、じゃなくて。距離感の話したばっかりなのに、よくそんなことできるな」
「ちょっとだけ、このままでいい?」
「勝手にしたら?」
お許しが出たので、存分にさせてもらおう。もう少しだけ、体重を乗せていく。
思えば、ずっと疲れていたような気がする。
こんなよくわかんない状況で。自分から辛いことしにいって。そんなときに出会った男の子に、思わず心を許してしまって。
そのうち消えるとわかっているのに、こんなことばっかしてる。
……そろそろ、消える準備とかしないとなあ。れーくんには、最後にはもう少しだけ伝えておきたいこともあるけど。そんなことばっかりしてた未練が残るし。
ステラと仲良くなった時に、俺のせいでそこら辺でわだかまりができると嫌だからね。
……っていうか、そろそろあの二人仲良くなってくれないかな?
原作通り、くっつきそうなところまで見たいんだけど。
ステラの雰囲気も、あんまりれーくんのこと好きそうじゃないしな。……何が原因だろうか。俺かな?
まあいいや。ちゃんと原作通り進めるように、明日から頑張ろ。
ミーツェと協力して。ウルフレートが火の悪魔と接触しないようにしないと。
犠牲になるのは、俺だけでいいから。
「姉さん、重いんだけど」
「このまま、寝ようかな」
「いや、俺帰りたいんだけど。そもそも、寝てる姉さんをなんとかここに送ってきただけだし」
「……届けた後帰ればよかった、んじゃ?」
はあ、と大きくアルトがため息をついた。
「姉さんをそのまま放っておけるわけないだろ」
「いい子すぎ」
「……危機感持ってくれる?そもそもさ」
ぐいっ、と抱き寄せられた。アルトの顔が近くに見える。
「弟だからって、なにもしないとは限らないだろ」
じっと、そのままアルトの視線がこちらを向いた。目が合う。真剣に語り掛けてるんだろうな、とは思うけど。
「アルトは、そんなこと、しないから」
「……実家であんたが虐げられる時、別に無視してたし。なんなら、加担してたんだけど」
「加担させて、ごめんね」
「そうじゃなくて!」
ばん、とそのまま押されるようにして倒れた。
「俺は姉さんを、ずっと傷つけてたのに。なんで平気な顔してんの」
アルトが、見下ろしてる。その顔がやけに辛そうで。
そっと、その顔に手を添えた。
「だって、アルトだって被害者みたいなもの、だから」
「……なにそれ」
「私が、あんなところに生まれてきてしまったから。アルトがそうしないといけない、し」
俺が迫害されてるんだから、そんなところを見てしまえば。味方しないと、どんな目に合うかわかったのじゃないしな。
だから、それはアルトのせいじゃない。後悔してそうだし。
「だから、私は。気にしてない、よ?」
「……気にしろよ。そんなんだから」
「そんなんだから……?」
「なんでもない」
アルトが、私の上から退いた。
にしても、アルトの本音らしきものを初めて聞いたな。家だと、あんまり話すことはなかったし。
なんか、リーデルの家って本当に貴族みたいな感じでさ。子供に英才教育するぞー!みたいな感じで、家庭教師とか割り当てられるからさ。子供同士の交流とかあんまなかったんだよね。
現代日本を舞台にしてる世界観か?これが。
とりあえず、起き上がる。
……っていうか、アルトと仲直りらしきものをしてしまったんだけどこれでいいんだろうか。原作と違うと、問題があると嫌だなあ。
っていうか、れーくんとも離れないとなーって話はすでにしたけども。俺だけだと、なんかそれうまくいかないしさ。
もう、アルトに手伝ってもらったらいいんじゃないか?
え、名案か?
「ねえ、アルト」
「……何?」
小さな声で、アルトが答える。……なんか元気ないけど。さっきの答えで、嫌なこと思ったりしちゃったかな?
まあいいや、本題に入ろ。
「れーくんと、離れようと思ってるんだけど、ね」
「……は?」
「アルトも、手伝ってくれる?」
「いや、待って。姉さんはあいつのこと好きじゃないの?」
「うーん、まあ。友達として、好きだけど」
「……は?」
アルトが固まってしまった。
どうしよ、なんか変なこと言った?
「なんか、あいつのこと可哀想になってきた」
少しだけ時間を置いて、ようやく動き出したアルトが、そう呟く。
「れーくんのこと?」
「離れるって何?」
「うーんと、ちょっと近くにいるとよくないかな、と」
「なんで?」
「その。近くにいると、誰か女の子を好きになっても。ちょっと邪魔かな、とか」
「本気で言ってる?」
本当のことは言えないから、誤魔化すように言うと。アルトがやたらと疑ってくるというか。思ったよりも踏み込んでくる。
「私は、もうあんまりね。れーくんと、一緒にいちゃいけないと、思って」
「……わけわかんないんだけどさ。姉さんのそういうところ、よくないと思う」
「そういうところ?」
「人の気持ちを考えないところ。少なくとも、あんたの愛しのれーくんは、あんたのことが好きだからそういうの、やめてあげたら?」
……えーっと。れーくんが、私のことが好きで?
可哀想だから、やめたら?みたいな話かな。
いやその、友達としては好きだろうけど。
ともかく、アルトは手伝ってはくれないらしい。じゃあ、一人で離れていくしかないかな。
「ほんとは、離れたくないけど」
思わず、本音が少し漏れた。
「……やっぱり」
呆れたように言うアルトの声を、聞こえないことにした。