主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
この世界が虚構だと気付いたのはいつだっただろうか。
今が現実ではないような、妙な違和感がずっと纏っていて気持ち悪かった。
今思えば、性別が違うからだとかあるのかもしれないけど、そのときはそんなことはわからなかったし。
だけどある日、頭の中に今とは違う記憶が流れてきて。ぐるぐると渦巻いてくるそれと、今までの違和感が重なりあって。
ようやくそういうことだと理解した。
確かに、今まで靄のようにかかっていた、気味の悪さは晴れたけれど。
その次は、この命はそのうち消えてしまうものだと知って。
結局、それが気持ち悪くて外へと走り出した。
別に、死ぬのが怖かったとかじゃないけど。少しばかり、理不尽だったし。前世がどうとか処理できなかったから。
ざーざー、と雨が降りだした。傘も持たずに飛び出していったから、そのままずぶ濡れになる。
なんとなく、それも心地よかった。拭えないこの妙な気分が洗い流されてるような感じがして。
思えば、雨に濡れるのってあんまり嫌いじゃない。泣いててもバレないし。
そのまま、雨に打たれながら公園で座り込んでいた。じっと、空を見上げて。雨がいつまで続くかな、なんて考えているときに。
――ふと、視界を何かが覆った。
「そうやってると、濡れちゃうよ」
傘が、差されていた。目の前の少年が差し出してきたらしい。
「別にいいよ、濡れてても」
「風邪引くでしょ」
「だから、別に――」
「ダメ」
強引に、傘の中に入れられてしまった。なんか、こういう扱いをされるのも新鮮だ。
ふと、顔を上げて少年の方を見た。見覚えのある顔付きをしている。
たまたま、少年もこっちを向いたせいで目が合った。そのまま、顔を覗き込んでくる。
「何かあったの?」
ああ、そのときわかった。こいつ、主人公くんだって。
「僕は如月玲」
それを裏付けるように、少年はそう名乗る。
そっか、主人公くんはこんないい子なんだ。そういえば、そうだっけ。
雨の日に、ずぶ濡れになってる子に傘を差し出すやつなんだったら。
こいつのためなら、死んでやってもいいかな。
「君の名前は?」
「私は――」
◇◇◇
さて、俺がいずれ死ぬこの世界のことなんだけども。
まあ、基本は現代なんだけどね。圧倒的に違うところがある。
それは、魔法があること!
――ある時、この世界に別世界と接続した。強大な異存在の到来と共に、世界中に未知のエネルギーが降り注いだ。
魔力と呼ばれたを浴びた人々は、やがて魔法をつかえるようになり、世界中は変革の時を迎える。
みたいなのが、あの漫画――霊界のセレスティアの出だしの文。
というわけで、元々は普通の世界だったけど、なんか急に変わっちゃって、魔法が使えるようになっちゃったよって話。
要するに、魔法の使える現代日本みたいなもの。
俺たちの行く学校も魔法学校みたいなもので、勉学と共に魔法を学んで!みたいな場所な訳です。魔法はこの世界だと基本スキルだからね。
みんなが魔法を使えるような世界なのでね。
ふと、上を見上げると巨大な水の塊が遥か遠くに見える。ぐるぐると渦巻いていて、見ているだけで圧倒されそう。
……俺が消えるのも、あれ関係だったな。
そういえば、なんで死亡予定なのかって話をまだしてなかったっけ。
別に敵が襲ってきて殺されてしまうわけじゃない。病気だとか呪いだとか、そういうものを受けるわけじゃない。
ただ、エレーナが生け贄にならないと、どうしようもなくなってしまう。
ただそれだけの話だ。
「エレーナどうしたの、上見て」
「ん、あれが見えるから」
「あれ?ああ……神様だ」
――水の神、この世界に降り立った異存在の一つ。
こんなものもいるんだから、現代日本なのにとてもファンタジーを感じる。
……いけないいけない、そうやって変な気持ちに浸ってる場合じゃない。
何せ、今日はストーリーの開始日だよ?
だったらさ、たくさんストーリーの進行があるわけ。じゃあ、それをちゃんと堪能しないと。
ちなみに、どんな内容があるかというと……まずはメインヒロインとの遭遇です!
霊界のセレスティアは、ヒロインが何人かいるけど。そのうちのメインヒロインの子が当然いる。
快活で暴走気味だけど、ただただ眩しいような子。
その子とれーくんが出会うのが今日!
ちなみに、ストーリー上は一応エレーナとも出会うよ。でも、すれ違うだけなんだよな。
こうやって、既に出会ってなかったら。それもやってみてもよかったかな。
「エレーナ、いくよ」
ボーッとしてたからか、そんな俺を連れていこうとして、れーくんが手を伸ばした。
手を握られて――熱が伝わる。男の子のごつごつした手だ……なんて、ベタなことは言わないけど。
こうやって、ちょっと強引なのもれーくんらしい。子供に無理やり引っ張られてるみたい。パパも一緒に行くから、慌てないでね。
そんな気持ちで、れーくんに引っ張られるようにして、学校の中に入っていく。
入学の挨拶だとか、諸々の行事が終わった。残念なことに、俺とれーくんは別クラスらしい。知ってたけどね。
元々、本格的にエレーナがれーくんと出会っていくのはもうちょい先だし。序盤はメインヒロインの子と、話が進んでいくはずだから。
そんなことを考えながら、ずっと教室でボーッと頬杖をついていた。今頃、れーくんは向こうで話しているかな。
というか考えないようにしてたんだけどさ。れーくんって、俺とは最初は出会ってないはずじゃん。
だからさ、原作とはちょっと違う状態でしょ?
仲良くなってるのはほら、最終的にはそれぐらい仲良くなるからいいんです。
んで、その些細な違いがストーリーに影響がでないといいなー。
……わりとこのストーリー容赦ないし。
「ねえ、あれって」
「ああ、リーデルのとこの」
――不意に、声が聞こえたきた。
見渡すともう、教室でグループが出来てしまってる。やばい、出遅れちゃった?
……っていうか、なんか見られてるし。
何人かが、こそこそとこっちを見ながら話してる。
「人形姫だ」
「本当に、人形みたい」
「彼女って何の魔力だっけ」
「土じゃなかった?」
「水の名前をつけられてるのに?可哀想」
ぶしつけな視線をぶつけられて、気持ち悪くなる。
噂話は他所でやってよね。
……っていうか、もう学校の説明とか終わってるしさ。別クラスにいってもいいんだよね。
れーくんのとこ行こ。
エレーナって、あんまり友達いなかったから、まあ今はぼっちでも大丈夫でしょ。
◇◇◇
廊下から、れーくんのクラスを眺める。
あ、れーくんがいた。学校にいるれーくんってだけで、なんか感慨深いかも。
何人かと話してるみたい。その正面に、誰かがいる。
――黒い髪がすらっと伸びていて、深い海みたいな青い瞳の女の子。
ステラ・メーア、霊界のセレスティアのメインヒロイン。
その子が、れーくんの正面までやってきてにこりと微笑んだ。
……きた、きたきた!
ストーリーが始まったって感じがする!
年甲斐もなくはしゃいでしまいそうになる。
れーくん、ステラと何を話すのかな。
やっぱり、原作通りに進んでいくんだったら……あれ。れーくんが立ち上がって早々にステラとの会話を切り上げた。
そして、そのまますたすたと歩いていく。え、メインヒロイン放っておいてどこにいくの。
……その進行方向には俺がいる。
「エレーナ、どうしたの」
なんでこっちに来てるの、君は。