主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
エレーナと、遊んだ日。正直、僕が送っていきたかったんだけど。家族だし、本当に嫌だけどあの弟にエレーナを任せることにした。
……実際、エレーナをおぶっていくのはちょっとだけ躊躇してしまうし。さすがに、接触しすぎるのはちょっとね。
そんなわけで、エレーナは任せたんだけど。あの日はエレーナがやけにはしゃいでいたし、大丈夫なのかは気になるから、少しだけ様子を見ようかな。
という気持ちで、朝にエレーナのところに向かってるんだけど。
「あっ、如月くん?」
たまたま、その途中で鉢合わせたステラさんが、ぶんぶんと手を振ってきた。
「おはよう、ステラさん」
「おはようございます、如月くん」
「……なんでこんなところに?」
記憶が正しければ、ステラさんってこの付近に住んでたわけではなかったような。
「うーんとですねえ、まあ気晴らしですからね?」
困ったように目を伏せてから、それを誤魔化すみたいに軽く笑う。
「……なんかあったりしたの?」
「まあその。困ったことに私って人気者ですからねー」
あはは、と笑うけど。その笑顔の裏には苦労が滲んでる気がする。
人気者、か。確かに、ステラさんは明るいし、星の魔力を持っていて。元は孤児だったのに、メーアの家に才能を見いだされる、なんて注目もされるよね。
「御愁傷様」
「……察してくれるなら、普通助けてくれたりしません?」
「してほしいの?」
「あーあ、如月くんってエレーナさん以外には本当に無頓着ですよね。普通、私が弱さを見せたらみんなコロッと落ちてくれるのに」
「……そっちこそ、本音で話してないよね」
「ばれましたか」
てへ、と舌を出す。たぶん、これはステラさんの強がりみたいなものなんだろう。本当に自分の弱いところは見せたくないから、曖昧な感じでしか言ってくれないんだと思う。
まあ、僕とステラさんはそこまで仲良くないし、そこまで踏み込んだ話をするのも変だけど。
「まあ、普段とは違う道を歩きたかったんです。ちょっと、鬱陶しい人もいますから」
「誰とでも友達になろうとするからじゃない?」
「なんか、如月くん辛辣じゃないですか?」
ムッと、頬を膨らませてる。こういう、ころころ変わる表情もきっと、魅力的なんだろうけど。
僕は、普段あまり変わらない表情の子からちょっとだけ見える感情の方が好きな気がする。
「で、如月くんはエレーナさんの方ですか?」
「……そうだけど」
「わかりやすいですねー、ほんと」
けらけら、と笑う。……僕が、エレーナのことばっか考えてるみたいな感じなのはなんなの?
仕方ないでしょ、エレーナからは目が離せないんだから。
雨の日に弱ってる女の子を、見るたびに辛そうにしてる子を、たまに会ったときにまるで縋るような瞳で見てくるそんな子を放っておける方がおかしい。
にしても、エレーナはまだ出てこないのかな。
と、思ってるときにゆっくりと近づいてくる影が見える。
「……れーくん?」
エレーナがこてん、小首を傾げた。
「おはよう、エレーナ」
「おはようございますっ!」
僕たちが挨拶すると、エレーナが口を開こうとして――それを止めた。その後、ちらちらとこちらを見てから何かを言いたそうにして。
「ごめん、また後で、ね」
と僕の横を通りすぎながら小さく声をかけてきた。
「あれ、どうかしたんですかね?エレーナさん」
「……どうなんだろ」
今まで、話しかけたらなんだかんだ、エレーナはぴょこぴょこ反応してくれたんだけど。今回みたいに、どう反応していいかわからない、みたいなのは初めて見た。
「もしかして、避けられてますか?如月くん」
「……避けられてる?」
そんなことを、エレーナが?
考えてみても、想像できない。妙に、エレーナは距離感が近くて。こっちが近づくよりも向こうから近づいてくることも多いし。
最近は、むしろいじってくるぐらいなのに。
「なんかやらかしました?」
「別に、そんなことないけど」
「昨日なんかあったとか」
「エレーナの弟に会ったかな。あんまり、あいつは好きじゃないな」
「うわ、普通に嫌ってるんですか?もしかして、嫉妬?」
「うるさいな」
急に、目を輝かせてぐいぐいとステラさんが聞いてくる。もう、面倒くさいな。
そんな人のことが気になるの?
っていうか、嫉妬って何?
羨ましいところとか、そんなないけどね。
と、考えているとステラが、困ったように眉を下げた。
「……あー、むしろあれですかね?私のせいかも」
「どういうこと?」
「嫉妬、とかかなって」
……どういうこと?
「エレーナさんが、私が如月くんといるのを見て。妬いちゃったとか?」
「そんな感じでもなかったでしょ。気まずそうなだけだったし」
「言われてみれば確かに。じゃあ、私のせいじゃないですね!如月くんのせいです」
「それもおかしくない?」
なんて言いながら、とりあえず学校に行くことにした。
……なんだけど。
「エレーナ」
「あっ、うっ……うー!」
会ったら、奇声を上げてどっかに行くし。
「エレーナ、ご飯食べる?」
「うわっ、むっ……お腹空いてないしっ」
ご飯を誘っても断られるし。
「エレーナ、一緒に帰らない?」
「わっ、私は……その。ミーツェ先輩のとこ行くから」
「一緒に行ってもいい?」
「ダメ!!」
……これに至っては強く拒否された。
これ、本当に避けられてる?
僕、何かしたかな。……ちょっとだけ、いや普通に傷つくんだけど。
ああでも、エレーナも僕から離れて一人でいたいときもあるのかな。
でも、ミーツェ先輩のところに行くって言ってたし。いや、僕と帰らない言い訳とか?
本当に、僕と一緒にいたくない、とか。そんなことがあるのかな。
僕は、エレーナと一緒にいたいけど。エレーナはそうじゃなかった?
じくじく、と胸が痛む。
まるで、手から砂が溢れ落ちていくみたいに。エレーナが消えてしまいそうに思えて、喪失感が心に穴を空けていく。そんな感覚がする。
……でも、そうと決まったわけでもないし。いや、実際にエレーナは僕を避けてた。
急に、なんでそんなことを。
……ダメだ、考えがまとまらない。
「何してるんですか?如月くん」
「……うわ」
「え、なんですか?その反応」
心配して、僕を覗き込んできたステラさんが、不満そうに眉を下げた。
「あんまり、今会いたくはない人だなと」
「へー。エレーナさんに避けられてそうだから、心配して見に来たのに」
「……僕が避けられてるの見てたの?」
「見てたし、そんな落ち込むことはエレーナさんぐらいのことかなーと」
「なんだ、それ」
まるで、僕がエレーナのことを大好きみたいな。
いや、嫌いではないけど。むしろ、友人としては好きだし。
一緒にいて、落ち着くし。エレーナのことはかわいいとは思うし。離れてると、少し不安になるけど。
いや待って、それだとまるで――
「何を悩んでるんです?」
「……いや、別に」
「ははーん、今自覚しましたね?」
にやにや、と嫌な視線を向けてくる。
「何を?」
そう聞く、僕の喉はひどく渇いていた。
だって、本当はその続きを聞きたくないだろうから。
「――如月くんが、エレーナさんのことを好きなこと」
そう言われて、今日は否定できなかった。今までは、そんなことはないと。友人なだけだと言ってたのに。
友人よりも、大事な関係になれるなら。僕はきっと、そっちを選んでしまう気がするから。
「そう、かもね」
だから、曖昧に返すことしかできなくて。
でも、そんなことは見抜かれてるだろうけど。
「頑張ってくださいね」
からかってくるわけでもなく、真剣にまっすぐ見ながら言ってくるものだから、思わず言葉を詰まらせた。
……僕って、エレーナのことが好きだったのか。
いいや、これは。落ち着いてからまた考えよう。
そう思って、今はその思考を振り払った。