主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
少しだけ息が上がる。土の魔力での身体強化を使ってても、急に走ると体力は減るからね。
なんで走ってるのかって言われると、そう。れーくんを避けてるからなんだけどね。
そろそろ、ステラとかとちゃんと関わってほしいから。そう思って、れーくんを避けるぞー!ってやってたんだけど、思ったよりも難しい。
れーくん、なんか知らないけどすごい話してくるから。……いつもこんなにれーくんと一緒にいたっけ?うん、いたかも。
でも、いつも以上にれーくんが近づいてきているような?
……なんでかな、アルトとのことがなんか関係あったとか。
まあともかく、れーくんを必死に避けてるわけなんですけどね。ちょっとだけ、胸が痛むんだけど。
それよりも、れーくんから避けるにしても俺にはあんま友達とかいないし。逃げる先があんまりないんだよね。
なので。
「おい、貴様。なんでここにいる?」
今、ウルフレートのところに来ている。ストーリー上の被害者同士だからね。なんか、心地いいかもって思ってさ。
ウルフレートはだいたい、校舎の端っこの空いてる教室にいる。人と関わるのも煩いらしくて、一人でいるみたいな話だったかな。
「なんとなく?」
「この前一緒にいた男はどうした?」
「今はその、離れてて」
「……そうか」
興味を失ったのか、ウルフレートは目を伏せる。
せっかくなので、思ったことを聞いてみるか。
「ウルフレートは、友達とか、いないの?」
「なんだ、急に。貴様だっていないんじゃないのな?」
「……まあ、そうかも?」
貴様だって、って言ったよね。やっぱり、ウルフレートもあんまりいないんだな。
原作だと、あんまりそういう踏み込んだ話はなかったからね。なので、ついでに聞いておきました。そう思うと、似たような立場なのかもしれない。
だって、まあ面倒くさい家に生まれていて。そのままストーリーの都合上で消えていくんだから。しかも、異存在絡みだし。
「何をにやついている」
「へ」
そう言われてから、少しだけ頬が緩んでいることに気づいた。意識しても、あんまり表情を動かせないのに珍しい。
シンパシーを感じたせいで、ちょっとだけ嬉しくなってしまったのかも。
「……で、俺に何か用か?」
少しだけ目を丸くしていたけど、ウルフレートの表情は元の険しいものに戻る。
用って言われてもね、別にそんなのないけど。
「他に行くところもなかった、から?」
「本当にそれだけか?」
「そう、だけど」
と言うと、疑うような視線をぶつけられて。別になんも企んでないんだけどな。
あー、でも。ウルフレートの家って権威みたいなのがあるから。そういうのに寄ってくるやつがいるから、その警戒があるんだろうけど。
……そう思うと、エレーナにそういうタイプのがやってくることはなかったな。迫害されてるからってことなのかな。ナイス、迫害ガード。……いいのか悪いのかわかんないな、これ。
「ふん、落ちこぼれみたいな扱いをされてるやつが来たから、何かすり寄ってくるのかと思ったが。何もないのか」
と、吐き捨てるように言ってるけど。どこか視線は優しいというか、憐れみを感じる。同情ぐらいはしてくれる心の優しさがあるよね。
「気になっただけって言ってるんだけど」
「……そういう物言いは無自覚か?」
「無自覚って、何?」
「そういうとこだぞ、貴様。一緒にいた男がかわいそうだ」
「……なんで、れーくんが?」
なんか、俺の話をするときに毎回みんな、れーくんを絡めてくるよね。
まあ、わりと一緒にいるから仕方ないんだけど。
あ、そういえば。ストーリー上だと本来はれーくんがステラと公園デートしてるぐらいの時間軸のはず。
そうなると、エレーナもストーリーには多少出てくるようになって。たまに会う気になる女の子、ぐらいにはなってるはずで。
そうなると、エレーナとしての原作再現もしてみたいよね。って言っても、ちょろっとれーくんに関わるぐらいのシーンばっかなんだけど。
すでにれーくんとは仲良しなせいで、原作再現できないのでは?
ちょっと困るね。
「一人で何を考え込んでいる?」
「ないしょ」
やばい、ちょっと自分の世界に入りすぎた。会話の途中だったから睨まれてるし。
「そっちから近づいてきたくせに、いい度胸だな」
「ごめん、ね」
と謝ると、はんっと鼻を鳴らして顔を背けられた。
いや確かに、言われた通りよくないな。俺から関わりにいったのに。
「そういえば、貴様のせいか?」
「ん、何?」
「最近、俺の周囲を嗅ぎ回ってるやつがいる」
え、そんなことあったの?
そんなイベント、原作にはなかった気がするんだけど。いやそもそも、原作はれーくん視点だからそんなんわからないか。
「ちょうど、貴様と出会った辺りから何かがうろついてる。何を企んでる?」
うーん、俺が会ったぐらいか。じゃあ、ミーツェと色々話した辺りからってことか。ウルフレートの動向が知りたいってさ。
ん?じゃあ、ミーツェはウルフレートのことをそこから調べたはずで。
これってもしかして、ミーツェがやってる?
じゃあ、実質俺のせいなのでは?
「なんかその、ごめんね?」
「……貴様がやってたのか?」
「違うけど」
「じゃあ、なんだ?」
「いや、その……」
俺のせいでミーツェが動いた、とも言いにくい。でも、なんかウルフレートが嫌がってるしな。
どうしよかな。……っていうか、普通にウルフレートと仲良くなって動向を知れば調べてもらわなくていいのでは?
そうなると、ミーツェの協力がなくても……いいわけではないな。この件は根深い問題だから、結局必要か。
そもそもなんだけど。日本は水の神が居座ってるみたいな状態になってて、その恩恵を受けているけど。それが気に入らない!って勢力がいて、そいつらが火の悪魔利用して水の神どっか行かせようぜ!ってしてるからさ。
その勢力がウルフレートを利用して火の悪魔に近づけさせるってことは変わんないから。そっち側の動向はミーツェに聞かないとわからないしなー。
よし、ウルフレートと仲良くなって。ミーツェにウルフレートの監視的なことをやめてもらって、そっち側の監視をしてもらおう。
なんか知らないけど、ミーツェってすごい協力的だから。……無駄に可愛がられてるのもあるんだけど。
それはともかく。
「友達に、なろ?」
遠慮がちに、こてんと首を揺らしてそう言うと、ウルフレートがぴたりと固まる。
「なぜ?」
「ダメ?」
「……ダメではないが、いきなりじゃないか?」
「いきなりだと、友達になれない、の?」
「……」
なんか黙り込んでしまった。え、なんなんだ。友達になってくれるってわけではないの?
れーくん以外だと、友達になれる久々の機会なのに。ステラは、なんかそんな感じじゃないし。ミーツェは親戚のお姉さんみたいな距離感だから。
……そもそも、あんな家に生まれた時点で、そんな積極的に友達作れることもないんだけど。
「家のせいで、あんまり友達いなかった、から」
だからかな。急にその言葉が漏れてしまった。
「……ああもう、わかった。友達でもなんでもなってやる」
「えっ、いいの?」
「好きにしろ」
「やった」
少しだけ、頬が緩む。すると、ウルフレートは大きくため息をついた。
「貴様も大概、たちが悪いな」
なんでそんなことを言われてるんだろ、俺。