主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ! 作:匿名退場予定
縮こまったエレーナが、胸の中にいる。
エレーナに避けられて、気になってしまって。
探していると、知らない男と一緒にいるし。そのまま逃げられそうになったからつい、捕まえてしまった。
そのままの勢いで抱き締めてしまった。
……あれ、僕とんでもないことしてない?
小さくて、すぐに消えてしまいそうなエレーナがここにいる。
このまま、抱き潰せてしまいそうで。
「れー、くん」
消え入りそうなエレーナの声に、ふと我に返って。パッとエレーナを離した。
少しだけ口元をもごもご、と動かして。
「……れーくん」
なにか言いたそうにしながら、瞳を揺らしている。
「…………ごめん、エレーナ」
いや本当に、僕は何をやってるんだ。
エレーナを、急に抱き締めてしまった。まだ、その感覚を残っているような気がする。
「……ともかく、ここから出ていってくれないか?いつまでやってるんだ」
「あっ、ごめん」
◇◇◇
廊下をエレーナと一緒に歩く。少しだけ、エレーナとはいつもよりも距離があるような。それも、仕方ないけど。
教室にいた彼に追い出されてしまった。
「あの、エレーナ」
「何、抱きつき魔」
……普段はあまりわからないエレーナの表情は今はよくわかる。ジト目で睨むように見られてる。
これ、それだけエレーナも意識してくれた、みたいなことなのかな。いやいや、そういうことを考えてる場合でもないし。
「逃げないでくれるんだよね?」
「……えっと、その」
気まずそうに顔を逸らされる。あの時、勢い任せだったけど頷いてくれたし、そういうことにしたいんだけど。
普通に、エレーナと一緒じゃないのは寂しいから。
「ねえ、エレーナ?」
「うぐっ、うん……わかっ、た」
すごい渋々、頷いてくれた。……これ、嫌われてるとかではないんだよね?
嫌われてるなら、抱き締めてこんな反応にはならないはず。
……やっぱり、僕ってエレーナのことが好きなのでは?
今さら、なんだけどね。普段から距離近すぎて感覚がおかしくなっていたけど、勢いで抱き締めしまった今としてはもうそれ以外おかしいし。
でも、エレーナはそういう風に思ってなさそうというか。僕がエレーナのことを大事にしてても、そういうことに気付かないからなあ。
なんなら、ステラさんと仲良くさせようとしてる雰囲気もある。
……そんなに、すぐにくっつきたいとか。そういうつもりはないから、当分はこのままでいいかな。
「れーくん?」
ずっと考え込んでいたせいか、エレーナが僕の顔をじっと見上げるようにして、見つめている。
エレーナの、顔が視界に映る。長い睫と、吸い込まれそうな黒い瞳。綺麗で、思わず目が奪われそうになった。
今までは、そんなにじっと見たこともないし。意識したこともなかったから。
「なんでもないよ」
「ふーん。……あの、変なこと考えないで、ね?」
「変なこと?」
「なんでもない」
誤魔化すように、話を打ち切る。これはもしかして、さっきみたいに急に抱き締めないでってことなのかな。
そう言われると、やってしまいたくなるような。いや、やらないけど。
そういえば、さっきの教室になんでいたんだろう。僕を避けてあそこに行ってたってことだろうけど。
「ねえ、エレーナ」
「何?」
「さっきの人って誰なの?」
「ウルフレート・モンス・ウルカニウス、知ってるでしょ」
確かに、その名前には聞き覚えがあった。
モンス・ウルカニウスといえば、強い火の魔力の持つ家系で、そこの長男だったかな。学校でも、トップクラスの火の魔力の持ち主だったはず。
とはいっても、ステラの方が有名な気がするけど。
あの家系は、そう……リーデルと同じぐらいには厳しいという話を聞いた。
だったら、彼――ウルフレートは。もしかして、エレーナとは、家のことでシンパシーでも感じた、とか。
……もしかして、そっち方向で仲良くなったとかなんだろうか。
でも、わざわざ会いに行った理由がわからない。たまたま、だったらいいけど。理由があるなら――
「れーくん?おーい」
「ごめん、エレーナ。考えごとしてた」
なんか、もやもやしてしまったけど。これって嫉妬、かな?
……自覚してから、よくない方向にずっと進んでる気がする。
深呼吸でもして、息を整えるか。
「ウルフレートとは、友達になった、よ」
そう思ったところに、そんなことを言われてしまったから。びっくりして転けそうになってしまった。
「れ、れーくん?」
「えーっと彼とは友達、なんだよね?」
「う、うん……」
「なんで、友達に?」
「……たまたま?」
そっか、たまたまか。なんだよ、たまたまって。やっぱり、隠してる?
……そもそも、学校に入ってからのエレーナはどこかおかしい。何か、目的があって近づいた、とか?
まあ、いいか。今はそのことを後にしよう。
だって、それよりも。今はエレーナといるこの時間を大事にしたいから。
「エレーナ」
「さっきからどうしたの、れーくん。今日、変だよ?」
「そうだね、エレーナに避けられてたからかなー」
「うっ……悪かった、ってば」
「なんで避けてたの?」
「……一人になりたい、年頃だから」
ああ、やっぱり。エレーナってかわいいな。
でも、これたぶん隠し事をしてるでしょ。教えてくれないのが、ちょっとむかつくから。
「れ、れーくん?」
「逃げないようにね」
少しいたずらで、エレーナの手首を掴んだ。手をそのまま握るのは、少し照れ臭かったから。
「……逃げないって」
「土の魔力使えば、簡単でしょ」
「そう、だけど……」
困ってるエレーナを見ながら、その日は一緒に帰った。
◇◇◇
「それで、やりすぎたって思ってるんですか?」
「うるさいな」
「あはは、如月くんが口悪いのなんか面白いですね」
次の日の教室で、僕は自分の席で項垂れていた。
……さすがに、昨日はやりすぎた。抱き締めた以外にも、最後も手首握ったりして色々とぐいぐい行きすぎた。
エレーナは、急に距離を詰めていってもダメだろうし。
で、そうやって悩んでるところにステラさんがやってきて、僕の話を根掘り葉掘り聞いてきたってこと。
この人も、なぜかエレーナのことが興味あるらしい。
「エレーナさんって、まるで消えそうな儚さをずっと纏ってるじゃないですか」
「そうだね」
「……なんか、エレーナさんって本当に消えようとしてるんじゃないかって雰囲気があってですね」
「……」
少しだけ、わかってしまう。エレーナはどこか、自分がいなくても大丈夫そうとか、考えてる時があって。
それは、自分が消えようとしてるから、そういう風に見てるような気がしたから。
「だからね、そんなエレーナさんを放っておくのはやだなあって思ったんですけど」
「けど?」
「如月くんとエレーナさんの絡みはなんか面白いので」
「あっ、そう……」
なんで、最後にそこに着地するんだよ。
「好きな子のこと、守ってあげてくださいね」
ぱちん、とウインク。ステラさん、そういうことを気軽にしてくるから、勘違いしてる人も多そうだ。
「ねえ、ステラさん!」
「気になることがあって!」
と思っていたら、すごい勢いで話しかけられてる。
「あ、今行きまーす。じゃあね、如月くん」
と言って、去っていく。
確かに、エレーナは消えようとしてるかもしれない。そういうことを、確かめに行くか。
ミーツェさんとかなら、何か知ってるかもしれないし。
なんか、少しずつ落ち着いてきているのでペース上げる可能性がちょっとあります